●週刊チャオ サークル掲示板
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自分の冒険 〜自分ならこう書く〜 冬木野 12/4/26(木) 11:03

お姫様に金棒 第1話 異性の幼馴染み スマッシュ 16/11/29(火) 20:45
お姫様に金棒 第2話 昔の友人 スマッシュ 16/12/1(木) 23:00
お姫様に金棒 第3話 王からの命令 スマッシュ 16/12/1(木) 23:44
お姫様に金棒 第4話 大量虐殺 スマッシュ 16/12/4(日) 19:55
お姫様に金棒 第5話 生き残り スマッシュ 16/12/4(日) 19:56
お姫様に金棒 第6話 再び旅へ スマッシュ 16/12/8(木) 21:28
お姫様に金棒 第7話 仲間 スマッシュ 16/12/8(木) 21:29
お姫様に金棒 第8話 喧嘩 スマッシュ 16/12/14(水) 22:19
お姫様に金棒 第9話 協力 スマッシュ 16/12/14(水) 22:21
お姫様に金棒 第10話 励まし スマッシュ 16/12/14(水) 22:23
お姫様に金棒 第11話 正体 スマッシュ 16/12/14(水) 22:24
お姫様に金棒 第12話 対面 スマッシュ 16/12/14(水) 22:24
お姫様に金棒 最終話 そして スマッシュ 16/12/14(水) 22:25

お姫様に金棒 第1話 異性の幼馴染み
 スマッシュ  - 16/11/29(火) 20:45 -
  
 アイアムお姫様。
 でも二人目の妾の子です。
 父にはたくさんの妾がいます。
 この国の王様は代々武力に長けていて、腕っ節が強かったり、優秀な戦術家であったりしました。
 それで王様は、その王族の血を持つ者をたくさん生まれさせて、国の力を維持するつもりなのです。
 私の体にもしっかりその血が巡っていて、私は日々の訓練が楽しくてたまらなく感じます。
 模擬戦は一対一でもそうでなくても刺激的なスポーツという感じがあって、凄く楽しいのでした。
 本当の戦になったら疲れるばかりで少しも楽しくないのでしょうけれど。
 でも偽物の戦をして、体を思い切り動かすのは快感です。
 その日、稽古が始まるのを待ちきれない私は、自分の部屋で愛用の金棒を持ち素振りをしていました。
 二百ほど振って、ちょっと疲れた頃でした。
 開けていた窓の方から、草の揺らされる音がしました。
 私はその侵入者に声をかけます。
「アシト、いるんでしょ」
 すると私と同い年の少年が姿を見せました。
「流石に鬼姫様は鋭いな」
 私の武器は、外国の童話に出てくる鬼という化け物も使っていて、それで私のあだ名は鬼姫なのでした。
「バレバレなのよ、あなた」
「でも見張りのやつらは気付かなかったぜ」
 それは、嘘です。
 見張りをしていた兵士たちは彼を見つけていて、彼がのろのろとこそこそしている間に、私に彼のことを知らせてくれたのです。
 彼は小さい頃からこんな感じで、城に入ってきていました。
「今日もちゃんと稽古に来て偉いね」
「そうしないと飯くれないからな」
「今日は仔牛を使うそうよ」
「やったぜ!」
 彼はこの城の人たちに愛されています。
 兵士たちにも料理人たちにも、そして国王にも。
 だから毎日のように城に侵入しても咎められないのです。
 そして剣の才能があるので稽古に参加させ、いいご飯を食べさせ、ゆくゆくは騎士にでもしてあげようと大人たちは考えているのでした。
 彼はそういったことをどこまでわかっているのだろうと不思議に思います。
 特別な扱いをされているなんて、少しも思っていないのでは。
 そう疑いたくなるくらい、朗らかに接してくるのでした。

 模擬戦では、木材で作った武器を使います。
 大怪我をしないように、という理由だけではありません。
 稽古の最中に武器が壊れてしまうかもしれないことを考えて、安く作れる木の模造品が使われているのです。
 剣なんて、歯が折れたりこぼれたりして、扱いが面倒なのです。
 でも金棒と比べるとそれらの武器は軽くて、それはちょっとつまらなく思います。
「アシト君、ヘネト。今日は二人でかかってきなさい」
 一人目の妾の産んだ息子、ハニスお兄様が私たちにそう声をかけました。
 傍にいた兵士が、
「お二方のテストですか、ハニス様?」と興味津々に笑いました。
「そう。そんなところだ」
「二人がかりなら、もう勝てちゃうと思いますよ」
 アシトは不敵な笑みを浮かべます。
 なんて自信過剰。
 私は呆れました。
 ハニスお兄様はこの城の兵士や騎士の誰よりも強いのです。
 お兄様の振るう剣は正確に敵を倒し、痺れるほどに美しい。
 それほどの力がお兄様にはあります。
 アシトだってそのことくらいはわかっているはずです。
 でも本当のことを言うと、私も二人がかりならお兄様に勝てるかもと思っていました。
 アシトとハニスお兄様は剣を、私は棍棒を構えます。
 さっき真っ先に興味を示した兵士が審判の役になり、試合開始の合図をします。
 挟み撃ちにしてお兄様の隙を作る。
 そういう狙いで私とアシトは左右に分かれます。
 でも私は直線に近い軌道で、お兄様目がけて走りました。
 弧を描くアシトとは時間差のある攻撃。
 これは、ちゃんとした作戦なのです。
 私の攻撃に気を取られた瞬間に、アシトの剣が突いてくる。
「ふんっ!」
 思い切り振った棍棒をお兄様は身を引いて避けます。
 カウンターを迎撃するためのもう一振り。
 お兄様はそれを見てから、踏み込んできます。
 縦に振った剣を私は棍棒を盾にして受け止めます。
 それを好機と見たアシトが攻撃をしかけます。
 しかしお兄様はそれに素早く対応してみせました。
 剣は跳ね返るボールのように棍棒からとっくに離れており、体はアシトに吸い込まれるようにすっと移動していました。
 アシトの剣を自身の剣で一瞬受け、その僅かな時間のうちにアシトの真横に来ていました。
 そしてひらりと一回転しながら、その勢いのままに剣を振るいますと、お兄様の剣はバシッとアシトの背中を打ちました。
 その素早い反撃を、私はしまったと思いながら見ていました。
 次は私だ。
 お兄様は私を見つめました。
 私は防御のために棍棒を構えます。
 その防御をお兄様はあっさり突破してみせるのでした。
「チャンスだと思った瞬間に隙が出来てしまっては、今のように返り討ちにされてしまうよ。決して気を緩めることなく、冷静に相手を叩かなければいけないよ」
 お兄様は優しく微笑んで、アシトに言いました。
 そしてお兄様は私を見ます。
「アシト君がやられそうになった時に、諦めてしまっていたね」
「はい」
「諦めずに動かなくてはだめだよ。動けば仲間の命が助かるかもしれない。それがだめでも、敵は倒せるかもしれない」
 その日、お兄様は繰り返し私たちの二人を同時に相手にしては、私たちにたくさん助言をしました。
 そんなことは初めてだったので、成人の儀のような、儀式のように感じました。
 たった今、私たちは今までより一段強くなれる時期が来ている。
 そういうことなのかもしれないと、私は稽古に打ち込みました。
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お姫様に金棒 第2話 昔の友人
 スマッシュ  - 16/12/1(木) 23:00 -
  
 城にはチャオがたくさん暮らしています。
 この国にはチャオワールドへの入り口があって、チャオはそこから連れてきています。
 チャオやチャオワールド特有の植物を輸出して外貨を稼いでいたりと、この国はチャオの国として有名なのです。
 そんな国のお姫様に生まれたからには、チャオが転生できるようにたくさん可愛がってあげなくてはなりません。
 昔は、チャオが天使や悪魔を模した姿に成長するところに目を付けて、人の善悪を判断しようとしたものだそうです。
 だけどこの国のチャオ研究の権威、バサク博士の研究によって、チャオは飼い主の性格ではなく飼い主の気分を参照していることがわかりました。
 以来人々の関心は、チャオの大人になった時の姿から、転生へと移りました。
 深く愛されたチャオは死を迎えた時、消えてしまわず卵に戻る。
 そのことが人の愛情を測る術となってしまったのです。
 チャオを転生させられた人は人気者になります。
 その称号を王家は欲するもの。
 だからみんなでチャオを可愛がりまくるのです。
 今日はプールで遊びます。
 新しい水着をしつらえてもらったので、それを早速着けたかったのです。
「ビキニ、超絶似合ってるな」
 なぜかアシトがビーチチェアに寝そべっていました。
 しかもちゃんと水着を着けていました。
「なんでいるの。なんで水着持ってきてるの」
「持ってきたんじゃない。スタツさんが用意してくれたんだ」
 スタツは、この城で働いているメイドです。
 ついさっき私の着替えを手伝ってくれたのもそのスタツです。
「あまりじろじろ見ていると嫌われてしまいますよ」
 スタツが私の背後からアシトに言いました。
 アシトは先ほどから私の水着姿に釘付けになっている様子でした。
「そうは言っても綺麗な女性が水着を着ていたら見てしまうよ」
 アシトが言い訳をしようとするのをスタツは、
「露骨なスケベは最低ですよ。正直ウザいです」と切り捨てました。
「むむ、そうなのか」
「真摯なスケベになるといいですよ。女性はそういう殿方が好きですから」
 この人はこの人でなにを言っているのやら。
 そう呆れつつ私はチャオたちの待っているプールの中に入ります。
「ヘネト様、遊んで!」
 チャオが三匹寄ってきます。
「いいよ。なにして遊ぶ?」
「ボートになって!」
 一匹のチャオがそう言うと、残りの二匹も名案だという感じに目を輝かせました。
 わかったと答えて私はチャオたちを背中に乗せて、平泳ぎをします。
 手足で水をかけば加速し、その後にはゆったり減速する。
 速度の変化に加えて、水面付近で私の体が上下することによって、背中に乗っているチャオたちは大きく揺さぶられます。
 結構楽しいらしく、わいわいとはしゃぐ声が聞こえます。
 お姫様だろうと、チャオには奉仕の心で接さなければなりません。
 母親になったらこんな感じなのでしょうか。
 それから私は、昔飼っていたエクロというチャオのことを思いました。
 エクロは私とアシトにとって、対等な友人でした。
 だから今のように優しく接するようなことはなく、それぞれ身勝手なことを言いながら付き合っていました。
 私はエクロに、空へ連れていってほしいとせがんだことをよく覚えています。
 エクロはチャオですから、飛べました。
 それがとても羨ましかったのです。
 だけどチャオの小さな体と羽では、いくら子供でも人間を空へ連れていくなんてできるわけがありません。
 それでも私は、連れていってと無理を言い続けたのでした。
 エクロはその数ヶ月後、姿を消しました。
 寿命を迎えるような年齢ではなかったため、逃げてしまったのだと城のみんなは予測しました。
 私はそれ以来チャオに優しくするよう心がけています。
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お姫様に金棒 第3話 王からの命令
 スマッシュ  - 16/12/1(木) 23:44 -
  
 私がチャオワールドに行くことを命じられたのは、その次の日のことでした。
 父は私を呼び出しました。
「トルネからの報告によると、チャオワールドで不穏な動きがあるらしい。なんでも、カードが取引されているのだそうだ」
 トルネというのは、一人目の妾の第一子で、ハニスお兄様の実の兄君です。
 チャオワールドにはトルネお兄様や私の母が駐在しています。
 そちらで人とチャオの暮らす町を作り、管理しているのです。
「カード?」
「うむ。紙幣のように価値を持ったものなのか。あるいは隠語なのか。報告に来た兵は詳しいことを把握してはいなかったのだ」
「なんだか、妙ですね」
 あまりにも話が不透明です。
 トルネお兄様がそのような曖昧な情報しかよこしてこないというのも、おかしな話でした。
 父も同じように感じたそうです。
 そして父は、
「そこで、ヘネト。お前に使いを頼みたいのだ。お前にはチャオワールドへ行ってトルネに直接会ってきてほしい。そしてそこでお前が感じたことを私に報告してほしい。もしくは、可能であるなら、そのカードとやらを広めている大本を叩いてほしいのだ」と言いました。
 そして父はチャオキーを私に手渡します。
「はい。お任せください」
 私はチャオキーを握り締めました。
「チャオキーは貴重な品のため、護衛を付けてやることはできない。くれぐれも気を付けてくれ」
「はい」
 信用できる手駒。
 そういう扱いをされているのであれば嬉しいのですが。
 ひょっとしたら全部嘘で、娘にちょっとした冒険をプレゼントするというサプライズなのかもしれません。
 そうだったら嫌だなと思います。

 その夜、私は荷造りに勤しんでいました。
 荷物のことで迷うことは少しもありませんでした。
 なぜなら、武器として持っていく金棒よりも重い荷物などありはしなかったからです。
 持っていきたい物を部屋中からかき集めて、スーツケースを大きくした旅行用の鞄に詰め込みます。
 服を一通り詰め終わった頃に、ドアがノックされました。
「どうぞ」
 私が返事をし終わるのとドアが開くのが同時でした。
 そこにいたのは、やはりアシトでした。
「チャオワールドに行くんだってな」
「誰から聞いたの。まあ、誰からでもいいんだけど」
「俺も行くぞ。お前だけだと迷子になるだろ」
「そんなこと言ったって、チャオキーがなければ」
 アシトは左手に握っていたチャオキーを見せて、にやっとしました。
「どうしてそれを」
「この城は警備が甘いな。宝物庫から取ってきたのさ」
 ああ、と思いました。
 護衛は付けられないと父は言いました。
 だけど彼に同行させるつもりでいたのでしょう。
 まだ正式にはこの城の者ではない彼には、このような形でチャオキーを譲渡するしかありません。
 そして彼は見事に父の思惑通りチャオキーを取ってきたというわけです。
「ついでによさそうな武器を拝借してきたぜ」
 背負っている剣を抜いて私に見せました。
 これも父を始めとする城の者たちの計らいと思うと笑ってしまいそうになりました。
 確かに上等な剣でした。
 質は高く、おそらく普通の剣よりもかなり高価なはずです。
 でも高価なだけで、珍しい品ではありませんでした。
 ここは国王の住まう城です。
 その気になれば、このくらいの品はいくらでも集められるのでした。
 貴重なはずのチャオキーだって、同じことです。
 かき集めた結果、ほぼ全てのチャオキーを王家が握っています。
「手伝おうか」
「いい。もう終わるから」
 私は鞄いっぱいに荷物を詰め込みました。
 それほどまでに持っていきたい物が多かったわけのではなく、単に鞄の余白をなくしたかったのでした。
「今日は星が綺麗だったぞ」
 アシトは私の部屋に入ってきて、窓から再び夜空を見ようとします。
 こんな日には夜空を見たくなるのでしょう。
「星空はいつも綺麗だよ」
 私はそう言いました。
 だけど窓の傍で座り込んだアシトは無言で窓の外を見続けました。
「バルコニー出て見なよ」
 私はドアを開けて、言いました。
 夜の、体を冷やす風が部屋に入ってきます。
「ああ」
 アシトはバルコニーに出ると、手すりを掴んで身を乗り出して空を見ました。
 私もアシトの後ろから星空を見ます。
 彼が綺麗だと言うのもわかります。
 私も小さい頃、綺麗だと感動して母と一緒にずっと見ていました。
 今見ている星空もその星空でした。
 ちゃんと覚えていないけれど、私は年がら年中星を見ていたみたいです。
 季節と共に変化いくはずなのに、いつ見ても知っている星空です。
 そして私は、母と見た星空が美化されていることに気付かされるのです。
 幼い私はきっと目に映るものをその場で美化しながら生きていたのでしょう。
「チャオワールドは景色が素晴らしい所らしいよ」
 アシトを放っておいたら、一時間くらい星を見続けてしまうような気がして、本当にそうなってしまわないよう私は声をかけた。
「そうなのか。流石はチャオの住処だな」
「そんなに必死に星を見てるとすぐに飽きちゃうよ。このくらいでやめておきな」
「わかった」
 アシトは私に従って、部屋の中に戻ります。
「今日はここで寝ていいか?」
「床で寝るならいいよ」
 アシトはカーペットに横たわりました。
 しかし夜風を入れ過ぎたせいでしょう。
「やっぱゲストルームで寝るわ」
 寒そうに背中を丸めて、アシトは部屋を出ていきました。
「ばーか」
 私はそう声をかけ、ベッドに倒れました。
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お姫様に金棒 第4話 大量虐殺
 スマッシュ  - 16/12/4(日) 19:55 -
  
 チャオキーは不思議な力を持った鍵です。
 大木に挿すと、挿したところを中心にして水面に波紋が広がるように穴が開きます。
 その穴の中に入ると、チャオワールドに行けるのです。
 城の庭園に生えている木から、十分な太さの木を探し、私がまずアシトに手本を見せます。
 人が一人通ると穴は閉じてしまうので、荷物を先に通します。
 金棒と鞄を放り込み、そして穴の中へ入ります。
 チャオワールドの森の中に出ました。
 上方を見るとチャオの食べる木の実が成っている。
 三角の実、四角の実、ダークの実にヒーローの実。
 探さなくても様々な木の実が見えて、チャオワールドに来たことを確信します。
 そして私の出てきた木の隣の木から、アシトの荷物が出てきます。
 出口の方には拳ほどの穴しか開きません。
 一方通行ということのようです。
 そこから風船のように膨らみつつ人や物が出てきます。
 その様が面白かったので私はアシトがその小さな穴から出てくるところを観察しました。
 まるで遠近感が誇張されたみたいです。
 顔は普通の大きさ、でも脚の方は鉛筆ほど。
 先に出した右脚だけが太くなり、アシトもチャオワールドに足を着けました。
 そして根菜が引っこ抜かれるみたいにもう片方の脚もこちらに出てきます。
「木の実が凄いな」
「うん」
 この森の中を散策してみたい気持ちに私はなっていました。
 普通森の中というのは様々な動物がいるために危険なのですが、チャオワールドにはチャオの天敵になるような生き物はいないらしいと聞きます。
 安全なら、少しうろついてもいいんじゃないかと思います。
 だけどアシトは早く町に行こうという気のようで、コンパスと地図を確認しています。
「こっちのはずだな」
 アシトは町のある方に見当を付けると、歩き出しました。
 散策は帰りにでもできる。
 そう思って後を付いていきます。
 私たちは、今自分がチャオワールドのどこにいるか、わかっていました。
 チャオワールドと私たちの世界の繋がり方には規則性があるのです。
 私の暮らしていた城からこちらに来ると、この森に着きます。
 この森は私たちがチャオを初めて発見した場所のために、チャオの森と呼ばれています。
 少し歩くと舗装された道に出ました。
 私たちの国の言葉で書かれた、道案内の標識も見つかります。
 ここが間違いなくチャオの森だとわかります。
 そこから標識に従って、町に向かいます。
 私たち人間がチャオワールドに作った一つ目の町で、名前もその通りに一の町です。
 一の町は王国とチャオワールドとの交易の要となっている町で、どちらの世界の物も溢れるほどにある、大きく豊かな町です。
 その一の町が、血に染まっていました。
 道にたくさんの人が切り捨てられて倒れているのが遠くからでも見える異様でした。
 そして町とチャオの森を繋いでいる道に設けられた関には、兵士たちが血で赤くなった槍を持って町の中を見張っています。
 まるで誰一人として逃すまいとしているようでした。
「どうする、やるか?」
 アシトは剣を抜きます。
「話は聞いておきたいから、待って」
 なにが起きているのか少しでも知っておきたいと思いました。
 けれど彼らが町の人たちを虐殺しているのなら、大して話してはくれないのでしょう。
 兵士の一人が私たちに気付きます。
 すると彼らはあからさまに警戒と殺意の眼差しを私たちに向けてきました。
「一体これは何事ですか」
 私は少し離れた所から大声を出して問いかけました。
 櫓に立っていた兵が私たちに矢を射ました。
 その様子は見えていたので、鞄を盾にします。
 矢は刺さらず、折れて落ちます。
 この旅行用の鞄は重い代わりに、とても頑丈です。
 身分の高い者の護衛が持つことを考えられた鞄なのです。
「話は聞けないみたい」
「ああ、そのようだな」
 荷物をその場に放り、身軽になったアシトが駆け出した。
 私は鞄を持ったまま同じく走ります。
 櫓にいる敵が邪魔なので、私は鞄で頭を守りつつ若干斜めにかかっていた梯子を駆け上がります。
 鞄と金棒を二回振り回すと、櫓にいた兵士はみんな片付きました。
 すぐに降りてアシトに加勢します。
 鎧を着込んだ敵には、剣よりも鈍器の方が攻撃しやすいので、ここは私の出番です。
 機敏な動きで翻弄しながらもアシトは注意深く鎧をまとっていない部位を攻撃しようと狙っています。
 一方私は持っている物を敵目がけて思い切り振るだけです。
 当たれば衝撃が相手を気絶させます。
 関にいた兵が全員片付くと、
「とんでもないな、鬼姫様は」とアシトは呆れたように笑いました。
 私は自分が倒した兵士を見ました。
 鎧の胸の所が、がつんとへこんでいました。
 そのへこみようを見て、この人は死んでしまったかもしれないと思いました。
「休んでる暇ないだろ。まだ町の中にこいつらの仲間がいるかもしれない」
 アシトの言う通りでした。
 人を殺してしまう、遊びでない戦いに戸惑ってはいられません。
 助けられる人がいるかもしれない。
 トルネお兄様や母が今まさに命を奪われそうになっているかもしれない。
 私たちは走りました。
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お姫様に金棒 第5話 生き残り
 スマッシュ  - 16/12/4(日) 19:56 -
  
 二匹のチャオが十数人の人を殺したようでした。
 酒場には人の死体が転がっていて、二匹のチャオは鳥が餌をついばむみたいに殺した人の荷物を漁っていました。
 その二匹の姿が、変でした。
 一匹は右腕が剣になっていて、もう一匹の右腕はボウガンでした。
 そして剣のチャオが一枚のカードを見つけます。
「こりゃいいカードだ。岩石だってよ」
 剣のチャオが言いました。
「おい、獲物だ」
 驚愕して酒場の入り口で立ち尽くしていた私たちにボウガンのチャオが気付いたのでした。
「覚悟しな!」
 剣のチャオは獣のように飛びかかってきました。
 私が金棒で剣を受け止めます。
 そしてアシトが横から剣で突き刺そうとします。
 しかしチャオは羽を虫のように激しく使って、その場を離れます。
「危ない危ない」
 剣のチャオは余裕そうに言います。
「剣で突かれたら死んでしまう。普通だったら」
 剣のチャオは左手に持ったカードを見せつけるように前へ突き出しました。
 岩が描かれているカードでした。
 さっき見つけた岩石のカードとやらなのでしょう。
 剣のチャオは、小動物ではないそれをキャプチャしました。
 すると剣のチャオの左腕が変化して、いかにも硬そうでゴツゴツとしている灰色の岩になりました。
「剣じゃ岩は切れないよなあ?」
 剣のチャオはアシトを嘲笑します。
「ボウガンの方、お願いね」
 私は小声で言いました。
 鞄をボウガンのチャオ目がけて思い切り投げます。
 鞄は横回転しながら真っ直ぐ飛んでいきます。
 そして私は剣のチャオの方へ走り、金棒を振りかぶります。
 剣での攻撃を防ぐつもりの動きで、剣のチャオは岩になった腕を頭の前に出します。
 そのミスに気が付いて逃げる時間を与えないように、最大限の力で速く振り下ろします。
 岩は砕けませんでしたが、衝撃を受け止めきれなかった剣のチャオを押し潰すことはできました。
 ボウガンのチャオの方を見ると、私の投げた鞄を避けられず、鞄の下敷きになっていました。
 アシトが念のためとどめを刺します。
「まさかチャオが暴れていたなんてな」
 アシトが鞄を重そうに持ってきます。
 私はそれを受け取り、
「カードも気になるから、生きている人を探そう」と言いました。
「君たち、チャオを倒したのか」
 生きている人でした。
 礼服を着ていている彼は二十代に見えます。
 でも年齢に、そしてこの状況下には似合わない落ち着きようでした。
 物語に出てくる歴戦の名将、というような。
 そんな人、王国にはいません。
「あなたは?」
「俺の名前はトロフ。君たちは危険なようだ。この場で排除させてもらう」
 男はカードを五枚、マジックのように前触れなく取り出しました。
 そのうちの一枚が消えます。
 また体のどこかが岩に変化するのでしょうか。
 私たちは身構えます。
 男の下半身が沸騰した水のようにぶくぶくと気泡を出しながら膨らんでいきます。
 やがて男の下半身は馬車になりました。
 車輪と二頭の馬が出てきたのです。
 男のカードがもう一枚消えて、今度は男の右腕が太く長い槍になります。
 そして男は馬を走らせて突進してきます。
 私たちは左右に分かれて、攻撃を避けます。
 私が移動したのは、槍のある方でした。
 男は突進を避けた私を串刺しにしようと、槍で突いてきます。
 それを鞄で受けますが、大きな槍の質量が響いて私はバランスを崩してしまいます。
 鞄で防げるのでいくら槍で攻撃されても安全ですが、攻撃が続いて体勢が立て直せなくなると防戦一方となって困ります。
 馬に踏み潰されるのも怖いです。
 どうにかして助けてほしいと思った直後。
 アシトが馬車に飛び乗りました。
 剣を振って、男を切ろうとします。
 男の方は馬ごと激しく抵抗して、暴れます。
 私は鞄を置いて立ち上がり、金棒で馬を殴りました。
 馬を両方倒すと、抵抗が弱まりました。
 アシトが剣を男に突き刺します。
 息絶えた男はしおれ、馬車は消え、男もチャオの姿になりました。
「こいつ、チャオだったのか」
 驚いたアシトは、チャオが消えていくのを見続けました。
 そして酒場から出ようとしたら、チャオを連れた男が現れました。
「動くな」
 男は弓を構えて言いました。
 私はその人に見覚えがありました。
「トルネお兄様?」
「む、ヘネトか? そっちはアシト?」
「そうです、ヘネトです。一体これはどうなっているのですか。チャオが人に化けていました」
「まさかヘネト、君はトロフを倒したのか」
 トルネお兄様は弓を下ろしました。
「はい、そんな感じの名前でした」
「よくやった。見事だ。そいつは襲撃してきたやつらの中でも手強くて、取り逃がしてしまったんだ」
「それで、これは一体。カードも。カードをチャオがキャプチャすると、馬車とか武器とかが出てきて」
「カードには、物が封じ込められている。カードになっていれば、チャオはどんな物でもキャプチャできてしまう」
 トルネお兄様は、トロフが落としたカードを見つけると、それらを拾いました。
 そしてその一枚を私たちに見せます。
 カードにはキャンプファイアーが描かれています。
 そしてカードの上部には、過剰な炎、というカードの名前らしきものが書かれてありました。
「たとえばこのカードをキャプチャすればチャオは炎の力を得る。もし人がカードにされてしまえば、チャオが人に化けることもできる」
「そんなカード、今までなかったのに、どうして」
 わからない、とトルネお兄様は言いました。
 突然そのカードはチャオワールドに広まったそうです。
 私たちはトルネお兄様に付いていき、お兄様の兵と共に町の被害を調べました。
 生き残った人は、多くはないようでした。
 チャオたちが取り損ねたカードは回収します。
「お兄様、私のお母様は無事なのでしょうか」
 この被害では覚悟をしなくてはなりません。
「君の母君は」
 トルネお兄様は言いにくそうにしながら、一枚のカードを見せました。
 そのカードには私の母が描かれていました。
 カードの名前は、真実の愛。
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お姫様に金棒 第6話 再び旅へ
 スマッシュ  - 16/12/8(木) 21:28 -
  
「このカードは、君の母君のその一部だ」
「一部?」
「これと同じカードが複数発見されている。しかも、このカードをキャプチャしたチャオは確実に転生ができるという噂がある」
「暴れているチャオたちはそれを血眼になって探しているわけだよ。みんな、転生したいからな」
 トルネお兄様の連れていたチャオが口を開きました。
 そのチャオは足が鳥の足になっていました。
 小動物をキャプチャした時のものよりも随分と大きな足です。
 きっとカードになった、大きな鳥をキャプチャしたのでしょう。
「あなたは?」
「俺はラシユ。転生カードには興味ないんで、トルネの味方をしている。まあ、トルネやこの町の人には世話になってきたからな。その恩返しってわけだ」
「あなたは転生したくはないの?」
 ラシユは、馬鹿にするように笑いました。
「俺はそんなカードがなくたって転生できるくらい幸せだぜ。それが正しいチャオの生き方ってもんだろ」
「なるほどね」
 これだけ自信満々に幸せと言い切れるのは羨ましいことです。
 そしてチャオワールドのチャオの中には、こんなふうに幸せを確信できないチャオがたくさんいるということなのでしょう。
「それにしてもあなた、喋りが達者なのね。城にはあなたほど上手に人の言葉を話せるチャオはいなかったのに」
「それは教育が悪いからだろうよ。チャオは体が小さいから馬鹿だって思うのかもしれないけどな、チャオの頭脳は人間並か、それ以上なんだぜ。吸収力が違うんだ、吸収力が」
「ああ、そうなの」
 口が悪いのも、教育の成果なのでしょうか。
 確かに私はチャオの知能について、認識を改めなければならないようです。
 先ほどのトロフだって、見事に人間の振りをしていました。
 チャオワールドのチャオは、賢く育っています。
「ヘネト。私が集められたのは、これだけだ」
 トルネお兄様は私に二枚カードを渡しました。
 真実の愛のカードです。
 これで、私の手元にある母のカードは三枚になりました。
「母のカードは何枚あるのでしょうか」
「それはわからない」
「そもそも集めれば元に戻るのか? 人をカードに閉じ込められるからって、カードから人が取り出せるとは限らないだろ」
 ラシユの言うことはもっともです。
 でも私は集めるしかないのです。
 そうしなければ、真実の愛のカードはどんどんキャプチャされていってしまい、母を元に戻すことが不可能になってしまいます。
 カードさえ集めておけば、カードから人を取り出す方法はその後で見つければ済む話なのです。
「なんと言われようとも、私は母のカードを集めようと思います」
「なら急ぐんだな。既に何枚かはキャプチャされてるだろうからな。早く集めないと、命も助からないだろうぜ」
 私は頷きます。
「そういうことなら、私とラシユも一緒に行こう」
「え、マジかよ」
 ラシユは嫌そうな顔をしました。
「私も君の母君を助けたい。あの人は誰に対しても常に優しい、心から尊敬できる人だった。それに、カードをキャプチャできるラシユがいれば、敵の武器を利用できるだろう?」
「お願いします」
 私はトルネお兄様の申し出を素直に受けました。
 チャオワールドに暮らしていたトルネお兄様がいないと、これからの旅に不安が生まれます。
 私たちは急がなくてはなりません。
 ラシユも、なんだか頼りになる感じがします。
 こうして私たちは仲間を増やし、次の町へと歩き始めたのでした。
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お姫様に金棒 第7話 仲間
 スマッシュ  - 16/12/8(木) 21:29 -
  
 次の町の名前は、四の町です。
 チャオワールドへの移住を望む人の増加にともなって作られた町です。
 一の町の近くでありながら、珍しいチャオや木の実がない地域なのであまり重要視されていなかったため、町が作られるのが後になったのでした。
「あそこで作った野菜は格別に美味で、思わぬ収穫だったよ」
「城で食ってた野菜よりもですか」
「うん。チャオワールドは土が豊かなのかもしれないね。どこで作っても質が高いのだけれど、あそこは群を抜いていい。チャオの食べる実の成る木が少なかったことと関係あるのかな」
 トルネお兄様とアシトの会話を聞いていると、お兄様が大変な大食漢であったことを私は思い出しました。
 お兄様がチャオワールドに行ってしまわれた時に、作る料理の量が減ってしまったと、料理人たちは冗談半分に寂しがっていました。
 そのことをお兄様に伝えると、
「そうか。チャオワールドで作った食べ物をそっちに送れないのも、私が食べてしまっているせいかもしれないね」とお兄様は笑いました。
 四の町に着くなりお兄様は町の人たちに避難の準備を始めるよう指示を出しました。
 もしチャオたちに襲われてしまったら、この町にいる兵だけでは攻撃を防ぎきれないためです。
 一の町に避難してもらい、一の町の復興を急ぎながら、いざという時はチャオキーを使ってチャオワールドから離れてもらうという計画です。
 町の人たちは戸惑いながらも、安全のために避難をすることに理解を示してくださいました。
 一般の人はチャオキーを持っていません。
 王国がチャオキーを独占し、人の出入りを管理しているからです。
 そのため彼らは自力でチャオワールドから逃げられないのでした。
 そして入念な持ち物検査が始まります。
 カードを一の町に持ち込ませないための検査。
 予想した通り、暴れ出すチャオが現れました。
 お兄様の射る矢は、一撃でチャオを地に射止めます。
 四の町の兵士がその後でとどめを刺します。
 お兄様の弓の腕前のおかげで、こちらに一人の被害者も出さずに検査は終わりました。
 接収した大量のカード。
 その中に、真実の愛のカードはありませんでした。
 それらを奪還するべく、チャオたちが町に襲いかかってくるかもしれない。
 私の不安に、お兄様は言いました。
「襲ってきてくれた方がありがたい。敵の数を減らすチャンスだ」
 どうやらお兄様は、カードを求めて暴れるチャオたちを殲滅するつもりのようです。
 母のカードを集めたい私には、お兄様ほど敵を倒したいという意思はありませんでした。
 だから戦いを避けられればそれはそれでいいと思いました。
 けれどチャオたちは四の町を襲いました。
 お兄様の作戦によって、そうせざるを得なくなったのです。
 日が沈んだ後、チャオたちに襲撃させるためにお兄様は一枚のカードをラシユに渡しました。
 それはキャンプファイアーの描かれた、過剰な炎のカードでした。
「これでいくのか。なるほどな」
 ラシユは面白がって、笑みを浮かべます。
 そして興奮した様子で、カードをキャプチャしました。
「ようく見てろ。これがカードの力、チャオの真の力だ」
 そう言ったラシユの体が炎に包まれました。
 そして火の玉が噴水のように周囲へ飛んでいきます。
 それらが四の町の家に火を付けます。
 あっという間に、大火事となりました。
 燃える木の弾ける音と共に夜の黒が取り払われていきます。
 その大規模の炎は、祭りを思い起こさせました。
 人がいないのに祭りがひとりでに行われているみたいで、恐ろしくなりました。
 燃えている建物の中には接収したカードの置き場にしている家もあります。
 それで、カードが燃えては困るチャオたちが、身を潜めていた森から飛び出してきました。
「カードを死守しろ!」
 攻めてきたチャオたちは口々にそう叫び合います。
 しかし町に入れば、お兄様の矢とラシユの炎に命を奪われます。
「燃えてしまえ!」
 ラシユは火の矢と化して、燃えながら町を駆け巡ります。
 そして家にもチャオにも火を放ちます。
 炎をぶつけられたチャオからは、ジュウウと蒸発する音が出ます。
 チャオの体は、炎をぶつけられた所が消えて、そこから全身が絶命したことによって消滅してしまいます。
 二人の攻撃を逃れても、カードを手に入れたいチャオたちは燃えている家の中に入っていってしまいます。
 きっと助からないでしょう。
 町も残りそうにありません。
 そのくらい火は町を激しく照らしていました。
 住民たちは数時間前に、四の町の兵士に連れられて、一の町に向かって移動を始めていました。
 空っぽになった町は、チャオたちの根城となってしまうかもしれませんでした。
 それを燃やして、チャオたちをあぶり出すことに利用するのは、利口なやり方なのだと思います。
 だけど四の町の人々の帰る場所が消えてしまいます。
 それをしたのが私たちということに悲しさを覚えます。
 家々を燃やす火の勢いがさらに増して、お兄様が町から出るように言いました。
 町を脱出すると、お兄様は動物を閉じ込めたカードを何枚かキャプチャさせて、ラシユの体の炎を消します。
 振り返ると、町全体が燃えていました。
 町からいくら離れても、町の火に照らされているように感じました。
 チャオワールドの夜を全てあの炎が食らってしまっているみたいでした。
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お姫様に金棒 第8話 喧嘩
 スマッシュ  - 16/12/14(水) 22:19 -
  
 一の町と三の町に挟まれた位置に二の町はあります。
 この二の町は、平和なように見えました。
 一の町では既に虐殺が行われていて、四の町は休む間もなく避難の指示を出して燃やしてしまいました。
 お兄様もここでは四の町のようなことをするつもりはないようでした。
 ようやく一息つけることに私は安堵します。
 お兄様はまず宿を取りました。
 王国から観光で訪れる王家や貴族のための、最高級の部屋です。
 その部屋は使用人も寝泊まりすることも考慮してかなりの広さがありました。
 宿の最上階が丸々私たちの部屋でした。
 宿屋の者が備品などについて、部屋中を歩き回って案内をします。
 それが終わって、宿の者が部屋から出て行くと、
「どうして燃やしたんだ」とアシトがお兄様に言いました。
「なぜって、それは説明したはずだよ。悪しきチャオたちに町を利用させないため」
「利用されてもいいから、町を残したってよかったんじゃないのかって言っているんだ。あの町の人たちは、帰る場所を失ってしまったんだぞ」
「残したら、守ることなんてできない。不可能だよ」
 疲れを感じさせる声でお兄様は言いました。
 一方でアシトは激しく食ってかかります。
「そんなのわからないだろ」
「無理なんだよ。君はカードを使ったチャオの恐ろしさをわかっていない」
「そのくらいわかってる!」
 お兄様はうんざりした様子で目を瞑ります。
 そして、情報収集に行くと言って出て行ってしまいました。
 アシトは怒ったまま部屋の出入り口のドアをじっと睨んでいましたが、何分かすると、
「俺も出かけてくる。少し一人にしてくれ」と感情を抑えながらも乱暴な感じに言って、部屋から出て行きました。
 部屋には私とラシユが残されました。
「すまん」
 ベッドの上でラシユは私に頭を下げました。
 頭の大きいチャオが頭を下げると、前転しようとしているようにも見えます。
「謝らないでいいよ。あなたはお兄様の指示でやったんだし、ああしなきゃやっぱりチャオが住み着いてしまってだめなんだと思う」
 ショックを受けた心以外は、お兄様のしたことの正しさを理解できていました。
 そんな私の代わりに激情のままに振る舞ってくれた、なんて都合よく解釈して、アシトに感謝いるのでした。
「あの炎、凄かったものね」
 私はラシユの頭を撫でます。
 ラシユは嬉しそうに目を細めます。
 町を一つ消したって、この子はチャオなのです。
 問題があるのは、謎ばかりのカード。
 その正体を知らなければならないと私は思いました。
「色々あったから疲れたでしょ。寝よっか」
 私はベッドに入ります。
 そしてあっという間に眠りに落ちるのでした。

 目が覚めても、二人は帰ってきていませんでした。
 外は暗くなり始めています。
「起きたか」
 ラシユはカードを裏にして並べていました。
「なにしてんの」
「暇だから、透視能力がないか調べてた」
「それで、どうだったの」
「さっぱりだった」
 そうだろうなと思いました。
 暇なので私もやらせてもらいました。
 私にも透視能力はありませんでした。
 けれどラシユに教えてもらって、ラシユの持っているカードの効果を勉強できました。
 過剰な炎のような、強力で危険なカードがたくさんありました。
 大雨の日の川が描かれた、激流。
 複数人で使うような大型のクロスボウ。
 噴火する火山の描かれた、マグマ。
「なんでこんな危険なカードがあるのかしら」
「カードは自然に湧いてくる物じゃない。誰かがカード化したんだろ」
「マグマも?」
「ああ」
「狂ってるね」
 そうだな、とラシユは頷いた。
「それにしても帰ってくるの遅いね」
「帰ってくる気なかったりしてな」
 ラシユは意地悪く笑いました。
「え、困るよ」
「なら探しに行くか?」
「行きたいけど、いいのかな」
「なにが」
「少し一人にしてくれって言ってたじゃん。少し待った方がいいんじゃないの」
「もう十分に待っただろ。寝てたし」
 ラシユに呆れられました。
「あ、もういいのね。じゃあ行こうか」
 私はラシユを抱きかかえました。
 情報収集と言えば、酒場です。
 私が読んできた物語には、そういうシーンが度々ありました。
 お前実は馬鹿なのな、とラシユが言うので軽くげんこつをします。
 酒場にはチャオの客もいて、チャオ用の高い椅子の席も見られました。
 私は早速バーテンダーに話しかけます。
「こんにちは。私、王女のヘネトです。トルネお兄様と、アシトっていう剣を背負った男の子探してるんですけど、来てませんか」
 バーテンダーは目をむいて、私を見ました。
 そして小声で、
「本当にヘネト様ではありませんか。大きくなられましたね」と私に言いました。
「はい」
「お探しのお二方はいらっしゃっていませんよ」
「そうですか。ありがとう。もう一つお尋ねをしてもよろしい?」
「ええ、いくらでもお伺いいたします」
 私は周りの人やチャオにも聞こえるように、ちょっと大きな声で言いました。
「このカード、真実の愛を集めています。なにか知りませんか」
 するとすぐ横でジュースを飲んでいた少年が、
「知ってますよ」と言いました。
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お姫様に金棒 第9話 協力
 スマッシュ  - 16/12/14(水) 22:21 -
  
 少年は私にカードを見せました。
 確かに、真実の愛のカードでした。
「姫様のカードは白いですね」
 少年にそう言われて気が付きました。
 彼のカードは灰色でした。
「本当。どうして違うのかしら」
「姫様は、このカードがどのように作られているのか、ご存じですか」
 知らないと答えると、少年は自分の身分を明かしました。
「私はカードの開発者の一人、ロクオです」
「天才少年なのね」
「まあ、そういうことです」
 ロクオによると、カードの研究が始まったのは一年前のことだそうです。
「空から、チャオの守護神であるカオスを黒く染めたようなものが降りてきたんです。私たちはそれを陰と名付けました。その陰には、チャオのように周りのものを飲み込む力がありました。しかしチャオと違って、なんでも飲み込んでしまう。人であろうとも。そうして陰は成長し、眷属を生み出します。だから人間とチャオ、そしてカオスは陰と戦いました。私たちは戦いに勝利しました。そして、陰の細胞を手にしたのです。私たちが研究をしたのはそれです」
「じゃあこのカードは」
「はい。その陰の一部、と言えます」
 それって物凄く危険な物なのでは。
 私がそう思うことを先読みしていたロクオが言いました。
「白いカードについては安心してください。カードの形にする際に、陰を無力化しています。百年後はわかりませんが、少なくとも十年は無害です。そういうふうに安全性を高めるのも、研究のうちでしたから」
「あなたの灰色のカードはどうなの」
「こちらは、白に比べると、はっきり危険です。研究中に作られた試作品なのです。キャプチャしたチャオが意思を陰に乗っ取られる可能性があります」
 灰色のカードは研究中に作られた。
 それはつまり、私の母はカードを作る実験に使われたということなのではないのでしょうか。
 そう聞くとロクオは頷きました。
「実験には、戦闘後に残った陰の一部の他に、陰の細胞を持つ者が使われました。陰の眷属と、そして陰からの攻撃を受けて感染した人間やチャオです。あなたのお母様も、陰に感染していました」
 母を複数のカードに分割したのは、母の感染を食い止めるためだったのだと、ロクオは言いました。
 カードの形にしておくことで、既に陰に侵されている部分も悪化させずに保存できるかもしれない。
 そしていつか感染した者たちを解放する術が見つかるかもしれない。
 そういう考えだったのだとロクオは説明しました。
「それで母は?」
「感染を止めることができず、陰の僕となってしまいました。そのまま研究所から脱走されてしまって。申し訳ありません」
 ロクオは頭を深く下げました。
「ではこのカードを集めても、母を元に戻すことはできないのですね」
「はい。おそらくもうあなたのお母様は、完全に陰の一部と化してしまっています」
「そう」
 私の旅は終わった。
 そのような感じがしました。
 もう助からないのなら、せめて私が母を殺すべきなのでしょうか。
 でもそんな気が起こらないくらい、もう帰ってしまいたいと強く思っていました。
 とにかくお兄様とアシトを見つけなくてはなりません。
「ねえ、トルネお兄様と、剣を持った男の人、知らない? はぐれてしまったの」
「わかりません。でも一緒に探しましょう。トルネ様にはお世話になりましたから、そのお礼がしたいのです」
「うん。よろしく」
 私たちは二人を探しました。
 しかし騒動が起きたらしく、騒がしくなります。
 化け物が出た、という声が聞こえました。
「行ってみよう」
 私たちは化け物から逃げてきた人たちの言う方へ走りました。
 すぐにその化け物は見つかりました。
 人よりも二回りは大きくなった、黒いチャオでした。
 そしてそのチャオと、アシトが戦っていました。
「あれはまずいです」とロクオが言いました。
「感染がかなり進んでいます」
 アシトは苦戦しているようでした。
 明らかにパワーで負けていて、剣による攻撃も相手の攻撃を避けながらではいまいち効果がないようです。
「敵の攻撃は絶対に避けてください! 当たればあなたも感染してしまう!」
 ロクオはカードを黒いチャオへ投げました。
 黒いチャオはそれをキャプチャしました。
 すると黒いチャオの右手が鉄球に変化しました。
 重さで右手が持ち上がらなくなります。
 そして左手には矢が刺さります。
 お兄様の射た矢でした。
「今のうちに離れるんだ!」
 アシトは私たちの方へ駆けます。
 黒いチャオは鉄球になって右手をなんとか持ち上げて、力任せに振り回し始めました。
 大振りで避けやすそうではありましたが、破壊力が増したことは明らかです。
 どうすればいいのか聞こうとしたら、ロクオはもう一枚カードを投げました。
 黒いチャオは懲りずにまたそれをキャプチャしました。
 そして黒いチャオの体は爆発して、粉々になりました。
「すげえな」とアシトは言いました。
「アシト君、大丈夫か。攻撃はくらっていないよな?」
「なんとか。あんたたちが助けてくれたからな」
 それはよかった、とお兄様はほっとして笑いました。
「これからは、あんなのとも戦わないといけないんだな」
「そう。元凶を滅ばさない限り、この戦いは終わらないんだ」
「なら、早く終わらせないとな。俺たちで」
 アシトは、にやっと笑います。
 そして私たちは宿に戻るのでした。
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お姫様に金棒 第10話 励まし
 スマッシュ  - 16/12/14(水) 22:23 -
  
 母が助からないという話に私は少なからずショックを受けていました。
 それがとどめだったのだと思います。
 私はこの旅を続ける自信を失っていました。
 たくさんの人の死んでしまった一の町。
 火に消えてしまった四の町。
 そしてアシトとトルネお兄様が衝突して。
 母も助からないそうです。
 私は、このチャオワールドで起こること全てに流されているだけでした。
 こんな旅に出ずに、城で誰も死ぬことのない稽古をして遊んでいられたら。
 あるいは母のカードを見つけても構わず城に戻ってチャオワールドの異常を知らせていれば。
 そんなことを考えながら、私はやはり流されるままにお兄様の提案に従って三の町に向かっていました。
 三の町は二の町からそこそこ離れた所にあって、途中に一泊するための野営地が用意されています。
 私たちはその野営地にあるログハウスに泊まることになりました。
 ログハウスの管理人が、屋根に上がって見る夜空は美しいと教えてくれました。
「一緒に行こうぜ」
 アシトに誘われて、私は屋根に上りました。
 チャオワールドの星空は、私の知らない空でした。
 月と同じくらいの大きさの星が三つありました。
 赤い星が一つと、青い星が二つでした。
 そして月よりも一回り大きい黄色っぽい土色の星が一つ。
 その他の星も強く輝いています。
 城に来る宝石商がたくさんの宝石を使ったアクセサリーを、美しい星空のよう、とよく言っていたのですが、この星空はそんな宝石のアクセサリーのような星空でした。
 あまりにも星が大きいために、夜なのに外が明るくて、アシトの表情もよくわかります。
 アシトは妙に優しそうな顔をしていました。
「チャオガーデンの星空っていいよな」とアシトが言いました。
「うん。こんなに綺麗だったんだね」
「まるで今日初めて見たみたいな感想だな」
 今日初めて見た、と私は答えます。
 本当かよ、とアシトは驚きました。
「ほら、あの時とか見てないのか。四の町から離れる時、夜ずっと歩いたろ。夜なのに凄く明るくてさ。なんでだろうと思って空を見たら、こんな感じで空が凄かったんだ」
「私、全然見なかった。明るいのは、四の町が燃えているからだと思った」
「そうか。そうだったか」
 アシトも私も互いの顔を見ていました。
 星を見てしまうと、大事な話から目を逸らしてしましそうに感じるのでした。
「母さんのこと、残念だったな」
「うん」
「お前がこんなに落ち込んでるところ、見たことなかったから心配した」
「だろうね」
 アシトの言うとおり、こんなに落ち込んだことは今までありません。
 だから、私さえ自分のことを心配してしまうくらいでした。
「カード集めるの、やめない方がいいぞ」
 アシトは心配していることを表情に丸出しにして言いました。
 私が城に帰ることを望んでいるくらいに、沈んだ気持ちでいることを彼は感じ取っていたみたいでした。
「お前の母さんのカードは、他の誰でもなくお前が持っているべきだよ。特に転生するために使わせちゃいけない」
「カードがなくても転生できるのが、チャオの正しい生き方」
 ラシユの言っていたことでした。
 そのとおりだとアシトは頷きます。
「お前が受け取るべき愛だ。それを他のやつに譲っちゃいけない」
「そうなのかもね」
 簡単に転生したいと思っているようなチャオたちに、母のカードは渡したくない。
 素直にそう思えました。
 そのためにもう一度戦おうと思いました。
 私はチャオワールドの月を見上げました。
 その月に黒い穴が開いています。
 よく見ればそれは羽の生えた生き物で、こちらに向かって飛んできているようでした。
「なにか来る」
 私はアシトに知らせ、部屋に戻ります。
 私は金棒を持って屋上へ、アシトにはお兄様とラシユを呼びに行ってもらいます。
 羽の生えた黒い生き物は屋上に降り立っていて、私を待っていました。
「久しぶりね、ヘネト」
 その顔の形には見覚えがありました。
 母でした。
 母の体は灰色一色に染まり、手足は人間のものではなくなっていました。
 両腕は鳥の足になり、下半身はたくさんの爬虫類の尾が生えているという具合でした。
「私、あなたと一緒になりに来たのよ」と母は言いました。
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お姫様に金棒 第11話 正体
 スマッシュ  - 16/12/14(水) 22:24 -
  
「私はあなたと一緒にはなりません」
 金棒を構えます。
「そう、残念」
 母は表情を変えません。
 変わらない、のかもしれません。
「でもあなたが持っている私の欠片、それは返してもらうわね」
 母の下半身の尾が一本伸びてきます。
 相性が悪いと思いました。
 金棒を振り回しても、絡みつかれ奪われかねないと思ったのです。
 そこにアシトが来ました。
 彼は鮮やかに伸びてきた尾を切り落としました。
 母は顔色を変えず、尾を今度は何本も伸ばしてきます。
 さらに母の手にはカード。
 チャオも取り込んでいたのでしょう。
 キャプチャすると、何本かの尾の先端が鉄球に変化しました。
 母は尾を足のように使ってジャンプすると、鉄球で私たちに殴りかかりました。
 そして着地すると鳥の足となっている両腕で逆立ちをして、こつこつと前進しながら鉄球を振り回します。
 アシトも私も後退して避けるしかありませんでした。
「鉄球、打ち返してくれよ」
「こんな時に冗談言わないでよ」
「本気だっての」
 本気なのかよ、と思いました。
 でも丁度鉄球の尾が一本だけ向かってきていました。
 それを冗談半分で、思い切り金棒で打ちました。
 すると鉄球は母の方へ低く飛び、顔面にぶつかりました。
 勢いそのままに鉄球は母の後方へ行き、母はバランスを崩して倒れ、屋上に上がってきたお兄様とラシユにぶつかりそうになります。
「危ねえな!」
 ラシユが母に向かって叫びます。
 危ないことをしたのは私でしたが。
 母は跳ね起きるように羽ばたきました。
 そして空に逃れようとしたのを、お兄様が射ます。
 矢が次々と翼に刺さり、母は落ちます。
 母が立ち上がると、体から翼が外れました。
 さらにカードをキャプチャして、両腕が剣に変わります。
 お兄様は距離を取りながら、休むことなく射続けます。
 母は尾で矢を受けますが、いくつかは背中に刺さりました。
 矢は貫通して、胸から矢の先端が出ています。
 その負傷に少しも動きを制限される様子なく、母は私に向かってきます。
 そんなにもカードが欲しいのか。
 だとすれば、私が囮に徹すればいいということです。
「私から離れた方がいいよ」
 アシトにそう教えます。
 しかしアシトは私から離れないで、
「なんでだよ」と聞いてきました。
「私の持ってるカード狙ってる!」
「ああ、あれか。真実の愛」
「そう!」
 母は伸ばした尾で屋根の端を掴み、手繰るようにして大きく左右に動きながら接近してきます。
 アシトはその尾を一本切断しながら、母とすれ違います。
 別の尾はお兄様によって射止められ、母の動きが一瞬鈍ります。
 また別の尾を伸ばそうとしますが、それをアシトが切ります。
 母はアシトに目を向けました。
 彼を排除しないと、思うように動けないと思ったみたいでした。
 鉄球の尾がゆっくり動き出しました。
 しかしラシユがとどめを刺すために飛んできていました。
 ラシユはカードを二枚キャプチャします。
 するとマグマが母に向かって噴射されます。
 母はマグマの激しい流れに押されて、屋根から落ちました。
 ラシユはしばらく噴射を続けました。
 それでも母の体はまだ残っていました。
 胴体と頭だけになり、身動きは取れないようでした。
 ラシユに水を出してもらって地面を冷やし、私は屋根から飛び降りました。
 残ったそれを叩き潰すためです。
 着地すると、まだ冷え切っていない地面が熱く、驚かされます。
 マグマというのはとてつもなく高温であったようです。
「ヘネト」
 母は、自分の体の損傷が少しもないかのような、ごく普通の穏やかな声を出しました。
「私よりも深く陰に染まってしまったチャオがいます。その子は陰と同一の存在となりつつあります。私のようにその子のことも助けてあげてください。その子はあなたもよく知っているチャオです。昔逃げ出してしまった、エクロです」
 私は金棒を振り下ろし、母を潰しました。
 最期の言葉が、自分を取り戻した母の言葉だったのか、陰の僕として私を陰に誘うための罠なのか、私には判別できませんでした。
 それでも、かつて私の親友だったエクロが陰になってしまっているのなら、私の手で陰を滅ぼしたいと思いました。
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お姫様に金棒 第12話 対面
 スマッシュ  - 16/12/14(水) 22:24 -
  
 エクロのことをアシトに話すことは、不思議とできませんでした。
 彼もエクロと遊んでいました。
 だから陰がエクロであることを彼も知っておいた方がいいと思うのです。
 私はアシトが傷つかないように、このことを言わないのでしょうか。
 違うような気がします。
 私はこの戦いの大切な意味を、自分だけのものにしたいのだと思います。
 結局私は彼にこのことを話さないまま、私たちは陰の拠点に到達しました。
 陰の拠点は、三の町の近くの山の森の中にありました。
 川の水が集まり出来ている湖。
 チャオたちの住処になっていたという場所に、陰はいました。
 黒くなったエクロと、同じく真っ黒な湖。
 それが陰でした。
「待っていたよ」
 エクロは言いました。
「君たちのような優秀な者が来るのを。私の血肉となる者。特に人間のそれが欲しかった。素晴らしい頭脳を持っていたバサクのように」
 バサク博士。
 チャオ研究の権威です。
 彼の頭脳が、陰に利用されてしまったのでしょうか。
「さあ、私にその体を捧げるがいい」
 その声はエクロからではなく、黒い湖から聞こえました。
 しかしお兄様はそんなことに構わず、エクロを射ました。
 矢に貫かれてエクロは湖に落ちます。
 その湖が、蛙の形に変化していきます。
 さらに蛙の頭頂部から、カオスの上半身のような、人に近い形のものが生えてきます。
 そしてその腕が肥大化しました。
 お兄様がまず矢を射ました。
 しかし矢は弾かれてしまいました。
 それだけ体が硬化しているのでした。
 何本か矢を射ましたが、同じ結果に終わります。
「これは辛いな」
 お兄様が言いました。
 これではアシトの剣も通用しないかもしれません。
 陰は大きな腕を振り回して、周りの木をなぎ倒します。
 そうして自分の動きやすい場を作っているようです。
「これは私の出番ですね」
 得意になります。
 この戦いは私のためにあったのだと感じました。
「ラシユはなにかいいカードありますか」
「効きそうなのは、このくらいだな」
 ラシユが見せたカードは、二枚でした。
 一枚は、巨大なクロスボウ。
 もう一枚は城の門や壁を破る時に使われる、これまた巨大な槌でした。
「その二枚であいつの動きを止めて。私が倒します」
「ならそこの木に縫い付けよう」
 お兄様が、一際太く育っている木を指しました。
「じゃあまずはそこに動かすぞ」
 アシトがラシユを抱えて、走り出しました。
 そして自身と陰と大木とを直線で結べる所に素早く移動します。
 陰は、蛙の方の口から舌を伸ばしました。
 蠅叩きのようにアシトを打とうとします。
 アシトは跳んでそれを避けて、ラシユを投げました。
 ラシユは力強く羽ばたいて加速すると、カードをキャプチャします。
 右腕から槌が飛び出すように生えました。
 打撃を受けて陰は大木の方に飛ばされます。
 今度はお兄様の番でした。
 もう一枚のカードをキャプチャして右腕が大きなクロスボウになったラシユに駆け寄ります。
 ラシユの右腕には既に太い矢がセットされていました。
 お兄様はラシユの右腕を僅かに動かして、狙いをより正確にすると、矢を射出しました。 放たれた矢は、蛙の上の人型の胴体に当たりました。
 そして大木に縫い付けられます。
 私は蛙の上に飛び移りました。
 金棒を振り、私は人型の陰の胴体を金棒の先端と大木ですり潰します。
 人型の胴体がちぎれます。
 続いて蛙の陰の脳天を叩きます。
 亀裂が入り、さらに叩くと穴が開きました。
 その穴の周りを叩いて、どんどん穴を広げます。
 そうしていくうちに蛙の体は粉々に砕けました。
 とんだ重労働でした。
 そして残りの、人型の陰も砕いてしまいます。
 終わる頃には、金棒を降り続けたせいで両腕も両手も酷く痛くなっていました。
 もう二度と、戦いたくないと思いました。
 砕いた人型の陰の中に、チャオがいました。
 エクロでした。
 なにか言ってはくれないだろうか。
 そう期待しましたが、エクロは既に息絶えていて、静かに消滅しました。
引用なし
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お姫様に金棒 最終話 そして
 スマッシュ  - 16/12/14(水) 22:25 -
  
 酷使したために両腕に力がすっかり入らなくなってしまった私は、荷物をアシトに持たせて、手ぶらでチャオの森への道を歩いていました。
 私の重い荷物をアシトは苦しそうに運ぶので、歩みはとてもゆっくりでした。
 どうせ急ぐ用事はありません。
 のびのびと旅を楽しむことにします。
 チャオワールドの植物は、玩具のように面白い形をしているものが多く見られました。
 四角い実、ハートの実、ワイングラスの実、白鳥の実。
 まるで形でチャオを楽しませ、食べてもらおうとしているみたいです。
 森を歩けば、今度こそ楽しい祭りの中にいるようでした。
 腕の調子は日に日によくなりましたが、荷物はアシトに任せたままにします。
 いかなる荷物も手元からなくなって、身軽な私は夜も散歩に出かけました。
 星の光は、森の中にも届きます。
 地図を見て、私はチャオの住処になっているらしい池を訪ねました。
 夜だからチャオは寝ているかもしれないと思いましたが、まだ起きているチャオもいました。
 静かに、あまり音を立てずに池を泳ぐチャオたちは、ムードというものを理解しているようです。
 持ってきた荷物の中には水着もありました。
 私は上に着ていた服を脱ぐと、池に入りました。
 そして泳いでいるチャオに話しかけます。
「こんばんは」
 チャオは泳ぐのをやめて、私を見てくれました。
 そのチャオの体はツヤツヤとしていて、色は白でした。
 さらに白一色ではなく、色の付いた模様が付いています。
 そんなニュートラルヒコウチャオでした。
「あなた、珍しい色をしているのね」
 城にはチャオワールドから連れてきた様々な色のチャオが暮らしていましたが、このような特徴を持ったチャオはいませんでした。
「素敵でしょう」とそのチャオは笑いました。
「うん、素敵」
「あなた、チャオを飼いたいなら、私を飼ってもいいよ。初めに私を見つけた人に飼われようって考えてたの、私」
「人に飼われたことないの」
 それにしては人の言葉を喋るのが上手です。
 そのことを尋ねてみると、人に飼われているチャオがこの池に遊びに来た時に習ったのだと、このチャオは答えました。
「で、どうするの。飼うの?」
「城にはチャオたくさんいるし、増えても問題ないから、そうしようかな」
「城って、あなたお姫様?」
 驚いたらしく、頭上の球体が感嘆符に変わります。
「まあね」と自慢するように私は言いました。
「ならいい暮らしができそう」
 嬉しそうな顔をしました。
「ところで、あなたのお名前は? 私はヘネト」
「私はファスタ。よろしく」

 私はファスタを連れて城に帰りましたが、両腕が完璧に癒えるとすぐチャオワールドに戻りました。
 ファスタも、あとアシトも一緒です。
 もっと城の贅沢な暮らしをしたかったとファスタは言いましたが、聞かずに引っ張ってきました。
 アシトはいつも通り、勝手に来ました。
 私はチャオガーデンで人とチャオの暮らしを元に戻したいと思うようになっていました。
 壊れた町や自然を直すことは勿論のこととして、私は旅をしてカードを一枚残らずこの世から消すつもりでした。
 手始めに、私は母のカードを燃やしてしまうことにしました。
「いいのかよ」
 アシトは私に聞きました。
 私たちは火を強く大きくするために乾いた木材を積んでいました。
 キャンプファイアーをするのです。
 カードを破棄すれば報酬が出るイベントを開催したら、カードを捨てる人がたくさん現れるだろうという考えです。
「今燃やさなくたって、当分は害がない。そう天才少年は言ってるんだろ?」
「いいの、燃やして」と私は答えました。
 真実の愛のカードは母の体の一部を使って作られたカードです。
 もしも母の愛がここに宿っているのなら、早く解放してあげたいと思うのです。
 あんな冒険をした私は、母の愛に甘えなくても生きていけるはずです。
 そしてチャオたちも、私の愛で転生させてあげられるはずです。
「休んでないで働きなさい」
 積み上げた木材の上で休憩しているファスタに私は大声で言いました。
 チャオは飛べるので、チャオたちには高く積み上げるのを手伝ってもらっているのでした。
「疲れた」と大きな声でファスタは言います。
「いいから、がんばろうよ。がんばったら、そんだけ綺麗なキャンプファイアーになるからさ」
「なんでお姫様とそのペットが働くんだろう」
 ファスタはそう愚痴を言いながらも、作業に戻りました。
 チャオワールドの明るい夜でするキャンプファイアー。
 その美しさを想像しながら、私はまだ木材が足りないことを確かめると、木を切り倒すために斧を持つのでした。
引用なし
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