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自分の冒険 〜自分ならこう書く〜 冬木野 12/4/26(木) 11:03

神様の祈り 最終話 祈りの果て ダーク 13/11/19(火) 18:15

神様の祈り 最終話 祈りの果て
 ダーク  - 13/11/19(火) 18:15 -
  
 昔々、この地上には神様がいました。
 神様はずっとチャオの幸せを祈っていました。
 ですが神の子たちはチャオがもうどこにもいないことをわかっていました。
 神様と神の子たちは向かい合います。
 その光景を、あの空を飛べなかった神の子が見ていました。
 そして、その子は遂に決心をするのでした……。


 シャウドはチャオが次の生物へと進化した時代に目を覚ます。次の生物とは人間、つまり次の生物へと進化した時代とは今のことだ。そして、ルルが言った“今日中にわかる”という言葉。間違いないだろう。シャウドはこの世界にいる。僕が人間としてそれを受け入れようが受け入れまいが、それは事実なのだ。そしてシャウドはこの時代でチャオのためになる何かをしている。
 ルルは大抵のことを把握している。シャウドとすでに接触している可能性だって高い。シャウドの状況を把握できるような状況にあるのなら、接触しない理由がない。二人が接触していると仮定すると、今度はシャウドがルルの行動を把握しているかということも問題になってくる。ルルは大量殺人を犯している。シャウドはそれを知った上で、止めないでいるのだろうか。あるいは、知らずにルルと接触しているのだろうか。もし前者であるのなら二人は共謀関係にあり、大量殺人はチャオのために行われているのではないか。大量殺人とチャオ、何が繋がるのだろう。
 まさか、と思った。一つだけ、チャオにまつわるワードで思い当たるものがあった。転生だ。人間をチャオに転生させようとしているのだ。でも、それはいくらなんでも難し過ぎる話だ。いくら人間がチャオの進化形だとしても、人間は死んでしまえば終わりだし、仮に転生したとしてもチャオに転生する保証はない。これがシャウドの意図である可能性は低いか。
 それでも僕はこの可能性を捨て切れなかった。もしも僕がシャウドの立場だったとして、チャオのために何ができるだろう。人間の技術力を信じて、自らの体を差し出してチャオを増やすか。いや、封印されてまでこの時代に訪れ、そこにいる生物にすべてを託すことはしないだろう。そもそも人間を信頼することはしない。言うならば人間は、この世におけるチャオの立場を奪ったとも言える存在だからだ。人間を犠牲にするのはあるいは妥当と言えるのかもしれない。
 朝ご飯を食べたあと、僕は自分の部屋に全員を呼び出してルルが話したことと、僕が考えて辿りついた可能性について話した。我ながら、かなり突拍子のない話だったと思う。それでも、みんなは真剣に聞いてくれた。ジョン隊長と兵士たちだけが、半信半疑といった様子だった。それが逆に、神の子たちが持つ記憶の残骸を裏付けたように思えた。
「その話を鵜呑みにすることはできないが、どちらにしても私たちがすべきことは同じだ。犯人を捕まえよう」
「そうだな。仮にチャオのために何かをするとしても、まずは捕まえなきゃ始まらない」
 二人の隊長が結論づけた。今まではこの二人の判断が僕たちの行動を決めてきた。その判断に納得していたから、僕たちもただ従うだけで良かった。でも今回は納得できなかった。というよりは、捕まえるという言葉に現実味が感じられなかった。話はそんなに簡単なものなのだろうか。時代を越えてある種の使命を果たしに来たシャウドとルルを相手に、捕まえるか捕まえられないかという楽観的な選択肢を設定して良いのだろうか。違う。きっと実際は殺すか、殺されるかの戦いになる。こんなに楽観的なのは、二人が僕の話を軽視して、敵の覚悟を見誤っているからだ。でも僕は何も言えなかった。人間としての僕が、自らの話の不合理を理解している上に、まだどこかでこの二人の隊長が、いざ実戦となれば最善の行動を取れると思い込んでいるからだ。結局何も言えないまま、旅館を出発することになった。
 旅館を出発してからすぐに、マッスレが話しかけてきた。
「さっきの隊長さんのお話、どう思う?」
「正直なところ、捕まえるのは無理だと思う」
「俺もそう思う。シャウドがどんな奴なのか、はっきりとは覚えていないけど、すごい奴だってことだけはなんとなくわかるんだ」
 僕もマッスレも同じことを感じていた。シャウドという名前を思い浮かべると、連想するのは畏怖にも似た尊敬だった。やはりルルが話したとおり、僕たちは神の子としての記憶を持っている。きっとエイリオもナイリオも、ソニップも同じことを感じている。ソニップがあんなことを言ったのは、ジョンさんや兵士たちが最善の行動を選択できると信じているからだ。僕たちの後ろを歩く、エイリオとナイリオも何かを話している。先に、二人の話を聞こう。
「どうしたの?」
 僕が尋ねると、ナイリオがあっけらかんと答えた。
「ナイチュ、元気になったね、って話をしてた」
 想像していた答えと違って、僕は面を食らってしまった。エイリオが少し驚いたような顔をしていた。きっと僕に話すつもりのない話だったのだろう。聞いてはいけない話を聞いてしまったようで、僕は何も答えられなくなってしまった。
「元気なかったでしょ? でも元気になったみたいだから、安心したってエイリオが言ってた」
「恥ずかしいからもうやめてよ」
 エイリオが冗談めかすように笑顔を見せる。
「エイリオも元気なかったんだよ。ナイチュが心配だったみたい。とにかく、二人が元気になって良かったよ」
 僕も恥ずかしかった。エイリオが恥ずかしそうにしているのを見ると尚更だった。ナイリオは小悪魔的なところがあるようだ。でも、ナイリオもなんだかんだで僕たちのことを気にかけているのだ。それは素直に嬉しかった。
 それにしても、僕が元気になったというのは改めて考えるとそうだった。昨日と比べると、断然気分が良い方向へ向いている。今僕が感じているのは、神の子たちの共感であり、昨日のような悩みではないからだ。共感に溺れている場合ではないが、自分が神の子であるという確信が僕には必要だった。そうだ、僕の元気になったのは、あのルルの「ナイチュは神の子だから」という言葉があったからだ。僕は神の子でありたい。
 神の子でありたいのなら、僕が今しようとしていることはなんなのだ。シャウドやルルを殺して人間の世界を肯定するのは、自らが神の子であることを否定することではないか。僕が求めていることと、今僕がしようとしていることは一致しない。そして、今も着実に足は前に進んでいる。終着点は僕たちに近づき続けている。僕は決断をしなければいけない。人間の世界とチャオの世界。果たして、どちらが僕にとっての正しい世界なのだろう。
 空が晴れている。涼しくなってきた時期だが、今日は日差しが暖かい。こんな日は、あの場所で空を飛ぼうとするのが気持ちよかった。本当に空を飛べるような気になるのも、こんな日だった。町の舗装された道を歩く感覚がリアルだった。昨日とは違う、朝の鳥が歌っていた。この歌うように鳴く鳥はなんという種類の鳥なんだろう。電線を見上げると鳥が二匹離れてとまっていた。歌っていたのはこの鳥のようだ。群れで電線にとまる鳥よりも可愛らしく見える。僕は鳥に憧れているわけではないが、もし空を飛べたらこんな鳥と一緒に飛んでみるのも悪くなさそうだ。
 辺りは静かだった。エンペラシティの人たちも、どこかの避難場所に集められているのだろうか。田んぼは稲刈りが済んでいるので、人がいないのも自然な光景に見える。たくさんの切られた稲の根元が寂しそうに開いていた。昨日の霧で目立たなかった山の紅葉もやっと顔を見せたというのに、どこか物足りなさそうだった。至って自然の光景なのにこんなことを感じるのは、僕が人間がいる光景を求めているからかもしれない。
 旅館の女将のことをふと思い出した。もし住民がどこかに避難しているのであれば、女将は何故旅館にいるのだろう。旅館の女将として、客をいつでも迎えたいという精神がそうさせたのだろうか。確か、女将は一人しかいなかった。本当であれば他にも従業員がいて、あまり綺麗じゃなかった庭の手入れもできていた。僕たちの知らないところで、そんなドラマがあったのかもしれない。でも、それは僕の勝手な妄想だ。ソニップは迷わずあの旅館に案内したし、兵士もたくさん配備されていた。あの旅館に誰か残っていてくれと、公的な依頼があったと考えるほうが自然だ。
 山に近づいてきた。山にはトンネルが貫通している。トンネルをくぐった先には、ムーンシティがある。そこではルルと、おそらくはシャウドも待っている。二人の問いかけに、僕は何も答えを出せないままここまで来てしまった。きっと、この先で僕は何もできない。みんなは、もう覚悟が決まっているのだろうか。ソニップとマッスレが真剣な表情をしている。ああ、なんてたくましい人たちなんだ。二人は迷わず戦って、空を飛べない僕をも肯定してくれるのだろう。ナイリオも子供ながらに真剣な表情をしている。もしかしたら戦おうとしているのかもしれない。エイリオも、真剣な表情だ。何でそんな顔をしていられるのだろう。悲劇な人間を演じるようでこんなことは考えたくないが、みんなはチャオだった頃にできたことが今もできるから迷わずにこの世界を肯定できて、僕だけが空を飛べずにいるから未だ迷いの中にいるのだろうか。それは、きっと正解だ。でも、だからと言ってチャオの世界を選んでいいのだろうか。
 トンネルに入った。どうせこの辺りは車も通らないから、とソニップが言って、ぞろぞろと車道を歩く。トンネルに橙色の照明が等間隔で設置されている。間隔は広く、照明同士の中間地点辺りはそこそこに暗かった。そんな光と影が交互に続き、ムーンシティへと僕たちを導いていた。
 誰も喋らなかった。音がトンネルの中で必要以上に響くからだ。もし音が出てしまったら、緊張が爆発して違うものへと形を変えてしまいそうだった。今は緊張しているのが一番良いのだと、全員が理解していた。車道を歩く地味な足音だけが聞こえていた。
 山は大きく、出口はまだ見えなかった。半分は歩いたというところだろうか。そういえば、エンペラシティとムーンシティの境はこの山の山頂であった。つまり、おおよそトンネルの中間地点を越えればもうそこはムーンシティなのだ。そうか、もうムーンシティに入っているかもしれないのか、と思った。その時、落ち着いた低い女の声がトンネルに響いた。
「待ってたよ」
 ルルが、トンネルの壁にもたれていた。ルルがいたところは丁度影になっていたのと、黒いマントとフードのせいで声が聞こえるまではまったく存在に気づかなかった。そして、ルルの声が聞こえてからすぐに、前を歩いていたジョン隊長とスモリエさんがうめき声をあげて倒れた。すぐに後ろを歩いていたカーネルさんとゾランさんとメッツさんが大きな銃をルルに向けた。だが、その瞬間に僕たちの足元を黒い影が駆けていった。兵士の三人もそれに気づいたが、その瞬間にはもう首を斬られていた。兵士がやられたのはわかったが、それ以外のことは何もわからなかった。すべてが速すぎた。
 そしてすぐに、倒れた兵士の中にシャウドが立っていることを理解した。そこに立っているのがチャオであり、シャウドであることは当然のことのように理解できた。小さな黒い体に、いくつか入った赤いライン。懐かしい姿だった。シャウドは血がついた刃の長いナイフを両手で構えていた。シャウドはナイフの先を下げ、僕たちの顔をゆっくりと見た。サンホールで初めてルルと対面したときよりも明確にチャオであった頃の雰囲気を感じた。シャウドも昔のことを考えているのだろうか。そのままどれくらいかの時間が流れた。シャウドが口を開いた。
「長かった。神の子たちがこうして集まるのを、僕はずっと待ちわびていた」
 誰も答えなかった。シャウドにはまだ言うことがあるはずだからだ。そして、シャウドはもう一度口を開いた。
「僕はカオスに代わり神となり、殺人と転生をもってチャオの世界を取り戻す。神の子たちよ、僕と共にチャオの世界を取り戻そう」
 僕の予想は当たっていた。だって、シャウドにはそれしかないんだから。僕はやはり何も答えられなかった。
 ソニップがシャウドの前に立った。そして、僕の前では初めて背負っていた剣を取った。剣は二本だった。ソニップが二本の剣の先を、シャウドに向けた。
「それが答えか。ならば責めて僕の手で、本来の姿を取り戻してやろう」
 シャウドもナイフを構えた。一瞬、シャウドが僕の方を見た。僕はどきりとしたが、ソニップがすぐさまシャウドに斬りかかった。ソニップの動きは速かったが、シャウドの動きはもっと速く後ろに飛びのいた。そして、速さよりもその距離が尋常ではなかった。勢いをつけたようにも見えず、且つ後ろ向きに十メートル近くは飛んだ。シャウドは、まず人間の常識がチャオに通じないことを証明して見せたのだった。それに、シャウドは影になっているところにいるとかなり見えづらい。ソニップがシャウドに勝つのは、絶望的なのではないか。
 一方、マッスレはルルと向かい合っていた。一度見た光景だ。サンホールではマッスレが圧倒していたが、油断はできない。それに、ルルの手にはシャウドが持っているナイフと同じナイフが握られている。ナイフを持ったルルは、素手のマッスレよりも間違いなく有利だ。そう思ったとき、ルルはそのナイフを捨てた。ルルは何を考えているのだ。
「肉弾戦じゃお前は俺には勝てない。この前わかっただろう。お前が思ってるほど性別の壁は薄くない」
「私は女じゃない。マッスレとも対等に戦える。私はチャオだから」
 ルルがマッスレに殴りかかった。マッスレはルルの腕をつかんでルルの動きを止める。やはり、力はマッスレの方が上だ。ルルがすかさず蹴りを放つが、マッスレはもう片方の手で足をつかみ、そのまま投げ飛ばした。ルルは受身を取るが、ダメージはあるように見えた。こちらはマッスレが勝つだろう。
 振り返ると、ソニップは思っていたよりも一方的な戦いにはなっていなかった。シャウドのナイフを避けたり剣で弾いたりと、ソニップは予想以上の実力者だった。とにかくシャウドとソニップは前後左右に素早く動いていた。それでもやはりシャウドは体が小さいということもあり、ソニップの剣を簡単に避けているように見えた。それに加え、蹴りを入れる余裕さえもあった。別々に動く二本の剣をかわして蹴りを入れる姿は、やはり普通ではなかった。
 時間と共に、どちらの戦いも形勢が傾いていった。ソニップとルルの表情は、体力もダメージも限界に近づいていることを表していた。僕は焦っていた。戦いが続くのが怖かった。終わりが迫ってきていることを、嫌でも感じさせられた。誰にも死んでほしくなかった。
 はっとした。僕は、ようやく自分の答えに気づいた。人間の世界と、チャオの世界。どちらを選ぶか、なんて問題ではなかったのだ。僕は誰にも死んでほしくないのだ。その瞬間、僕はシャウドを大声で呼んでいた。トンネルに響き渡った声が、全員の動きを止め、視線を集めた。ソニップが疲れきって膝をつく。僕はソニップの横を通って、シャウドの前に立った。
「僕は誰にも死んでほしくない。だから、シャウドも僕たちと一緒に生きよう。それが僕の答えだよ」
 シャウドは僕を見上げていた。手に光るナイフがたまらなく怖かった。でもここで言わなければ、僕は生きる意味をずっと見出せなくなってしまいそうだった。緊張の中、遂にシャウドが答えた。
「この世界でナイチュは空を飛べない。だが、チャオの世界では空を飛べる。つまりナイチュが空を飛べるというのは、チャオの世界の象徴でもあるのだ。チャオの世界にはナイチュが必要だ。空を飛べずに悩んでいたナイチュが、空を飛べるようになった世界を僕は望んでいる。空を飛べないままの、こんな世界ではなくてだ」
「それでも、僕は誰にも死んでほしくない」
 シャウドが僕を突き飛ばした。仰向けになった僕の胸に、シャウドが乗った。重くはなかったが、ナイフが目の前に突きつけられていた。
「ナイチュ、すまない」
 シャウドがゆっくりとナイフを振り上げた。死ぬ、と思った。だがその時、誰かが駆けてくる音が聞こえた。シャウドが飛びのいて、そのあとに空を切る足が見えた。起き上がると、ナイリオが傍にいた。今の蹴りはナイリオのものだったのだ。
「私も、みんなに死んでほしくない」
 ナイリオが言い放った。その肯定が心強かった。ようやく僕は、みんなと対等になれた気がした。
 シャウドが影の中からこちらを見ていた。それに気づいたのも一瞬、隙を突いたルルが一人残されたエイリオの方へ走った。無意識のうちに、僕もエイリオの方に駆け出していた。エイリオは体が強張って動けないでいる。僕が守らなくてはいけないのだ。ルルよりも先に、僕はエイリオを抱えて飛びのいた。ルルの腕は空を切ったが、ルルはすぐさま僕たちに追撃を加えようとした。
「僕は僕だ!」
 無意識に僕は叫んでいた。ルルも動きを止めた。そうだ、僕は僕なのだ。
「僕はチャオであろうと人間であろうと、空を飛ぼうとしている! みんなも同じだ! そんな僕たちが生きようとして何が悪い!」
 僕の中にあるすべてのものを吐き出したようだった。息が切れて苦しかった。でも僕は空気よりも、潤いを感じたのだった。
 ルルは動揺していた。ゆっくりと僕たちに近づくが、腕を振れずにいる。そんな様子だった。
「ルル、終わりだ」
 影の中から響いたシャウドの低い声がルルの動きを止めた。ルルはまだ納得のいかない顔をしていた。
「チャオたちはまだここに生きていた、僕たちにもうできることはない」
「でも、シャウドが望んでたのはそんな世界じゃない!」
 シャウドはその場に座ったように見えた。よくシャウドの姿が見えなかった。だが、様子がおかしいのはわかった。ルルがはっとして、シャウドのもとへ駆け寄った。僕たちも何が起こったのかわからないまま、ゆっくりと近づいた。そして、シャウドの傍まで近づいたときに何が起こったのかを理解した。シャウドが、桃色の繭に包まれていた。
 ルルは泣きじゃくったのを発端に、僕たちの目からも涙が零れた。ずっとチャオたち、そして神の子たちを支えてきたチャオのリーダー、シャウドの死を僕たちは理解してしまった。誰も死んでほしくない、というみんなの気持ちがこんな形で裏切られるとは誰も思っていなかった。
「ルル、みんな、僕のわがままに付き合わせてすまなかった」
 そんなことを言われても、僕たちに返せる言葉はなかった。シャウドは結局僕たちのために封印され、殺人まで犯し、チャオたちを救おうとしてくれたのだ。そして最後には自分がしてきた行動をすべて捨ててまで僕たちのことを認めてくれたのだ。
 感謝の言葉を言いたい気持ちがあった。でも、いざ最後となると、ただ悲しくて「ありがとう」なんて感情にまで浮かんでこない言葉は言えないのだった。
「僕が僕として生まれ変わったとき、また会おう」
 シャウドはそういうと繭に完全に包まれ、繭がぱらぱらと剥がれると消えてしまっていた。いなくなってから、何も言えなかった後悔が浮かんできた。もうシャウドとは会えないのだ。シャウドが生まれ変わる頃には、僕たちはとっくに死んでいるだろう。僕たちにできることは、チャオがいたという事実と、シャウドがチャオのためにすべてを捧げたということを覚えていることだけだった。それは、やるせないことだった。
 僕たちはそんなやるせない現実を選んだのだった。誰かが死んだらもう二度と会えないことも、空を飛ぼうとしても飛べないことも、チャオに戻りたくても戻れないことも、すべて含んだこの現実に生きるのだ。生きたくて、誰にも死んでほしくないからだ。
 それでも、僕は今後ずっと空を飛ぼうとして生きていよう。例え結果が伴わなくても、空を飛びたいから飛ぼうとするというのは決して間違いではないし、それが僕だからだ。今だけはシャウドという神様の祈りがどこにも届かなかったことに涙を捧げ、僕はこの世界を生きていこうと思う。
引用なし
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