●週刊チャオ サークル掲示板
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自分の冒険 〜自分ならこう書く〜 冬木野 12/4/26(木) 11:03

ピュアストーリー 第一話 魔法の世界 スマッシュ 13/11/17(日) 0:41
ピュアストーリー 第二話 過去へ伸ばす手 スマッシュ 13/11/17(日) 0:46
ピュアストーリー 第三話 平和の使者 スマッシュ 13/11/23(土) 0:00
ピュアストーリー 第四話 怪人 スマッシュ 13/11/23(土) 0:00
ピュアストーリー 第五話 嫌だ スマッシュ 13/11/30(土) 0:00
ピュアストーリー 第六話 真実を知る者 スマッシュ 13/11/30(土) 0:00
ピュアストーリー 第七話 人を殺すのはよくない スマッシュ 13/12/7(土) 0:00
ピュアストーリー 第八話 賢者ブレイク スマッシュ 13/12/7(土) 0:00
ピュアストーリー 第九話 異文化 スマッシュ 13/12/7(土) 23:03
ピュアストーリー 第十話 敵 スマッシュ 13/12/14(土) 0:00
ピュアストーリー 第十一話 世界革命 スマッシュ 13/12/14(土) 0:02
ピュアストーリー 第十二話 母星 スマッシュ 13/12/14(土) 0:03
ピュアストーリー 最終話 新たな世界 スマッシュ 13/12/14(土) 0:05

ピュアストーリー 第一話 魔法の世界
 スマッシュ  - 13/11/17(日) 0:41 -
  
 子供達が公園で走っている。〇五八町の公園は憩いの場として有名であった。敷地が広く、綺麗な池がある。それに加えてチャオの餌の実がなる木が生えていて、人間も遊べるチャオガーデンといった風情であった。野良チャオの多くがこの公園で暮らしている。その野良チャオ目当てに公園に来る者も多かった。特に人気なのが野良チャオのリーダーであるカオスチャオだった。カオスチャオの名前はホープであったが、様々な知識を持っていたため先生とかご隠居とかいうあだ名を付けられていた。
「先生、先生」
 そう大声で呼びながらカオスチャオのことを探す子供達がいた。男二人女二人のグループで、彼らは歳が同じだったため幼い頃から一緒に遊んでいた。彼らは今年で十歳になる。そして後ろ髪を一本の三つ編みにした少女はダークチャオを抱えていた。
「ここにいるぞ」
 カオスチャオがそう言い、少年たちに手を振った。それに気付いて四人はカオスチャオの所へ走った。
 世界革命があった四十年前からチャオは人と喋れるようになった。世界革命というのはブレイクという賢者がこの世界を魔法が使える世界に変えてエネルギー問題を解決した偉業のことである。それ以来人々は必要なエネルギーを魔法によって賄っている。チャオが話すようになったのはこの世の法則を変えた余波だと言われている。世界革命を境に記憶の一部を失ったと言う人が大勢いた。しかし人類の繁栄の代償と思えばどうということはない、と記憶を失った人々は言った。チャオともお話できるようになって幸せ。それが世界革命を体験した人たちの大半が共有していた考えであった。そして若者たちにとってはその幸せが普通のことであった。
「どうした。アックスが病気にでもなったか」
「元気だよ」と三つ編みの少女に抱えられているチャオが言った。
「先生に聞きたいことがあるんだ」
 三つ編みの少女が元気よく言った。スピアという名の活発な少女であった。
「カオスチャオってどうやったらなれんの」と日焼けした少年が割り込んで言った。
「クー、言わないでよ」
 クーというのはあだ名で、クレイモアという名前だった。
「いいじゃん。俺だって知りたいんだもん」
「まあまあ。それでスピアもそれを聞きに来たのかな?」
 スピアは頷いた。スピアとクレイモアの後ろでもう一人の少女がホープの目をじっと見ていた。そしてもう一人の少年はその少女のことを気にかけている様子であった。
「サイス、元気か?」とホープは声をかけた。
「うん。元気」
「そうか。そりゃよかった。で、カオスチャオの話だったな。元々カオスチャオは普通の人には育てられないチャオだった。二回転生させる必要があるんだが、まあこれは人によっては簡単にできる。最近はチャオとコミュニケーション取れるし、実際アックスは一回転生してるものな。問題はキャプチャだ。カオスチャオになるには色々なものをキャプチャしないとならんのだが、それに必要なものが普通の人には手に入らなかった。しかしそれも大昔の話だ。今はもうカオスチャオの素というカプセルが売っている。ちょっと高いけど、まあ一生チャオと一緒に過ごせると思えば高くはないらしい。とにかくそれを二回目の転生した後、大人になる前にキャプチャさせるんだ。そうしてノーマルチャオに進化させればカオスチャオになる。ちなみにカプセルにはノーマルチャオへの進化を促す作用もある」
「じゃあとにかくそのカプセルをキャプチャさせればいいんだね」
「そういうことだね。でも高いからいい子にしてないと買ってもらえないぞ」
「わかった。お手伝いする」
 話が一段落したところでサイスを見ていた少年が、
「俺も教えてほしいことがあるんだけど」と言った。鋭い目つきであった。
「何かな」
「魔法の使い方知りたい」
 ホープは溜め息をついた。大笑いしては可哀想だと思って堪えたら溜め息になった。
「それは無理な話だよ。教えたら俺が捕まっちゃう」
 そう言ってホープは遠くにいる人物を指さした。その人物は魔法使いであった。専門の学校で魔法について学び、魔法を使う資格を得ている。魔法は人を殺す凶器になり得るものであったから通常生活に必要な魔法以外は使ってはいけないことになっている。私的に資格を持っていない者に特殊な魔法の使い方を教えるのも当然禁止されているのであった。そういったルールが破られた場合、魔法使いが警察と協力して対処することになっている。そして魔法使いは平和を守る者としてそこかしこで雇われているのだった。
「チャオでも捕まるの?」
「捕まるさ。特に俺なんて野良だしな。自己責任ってやつだ。人間と違って殺処分かもしれん」
 チャオにはまだ人権がなかった。そのため人に飼われているチャオが問題を起こせば飼い主が責任を問われることになる。野良チャオの場合は捕獲されることになるのだが、人を殺したチャオというのはまだいない。どうなるかは不明であった。
「大丈夫。ばれないよ」と少年は言った。
「ばれるって」
「俺も知りたいな」とクレイモアが言った。スピアとサイスは賛成する風でも反対する風でもなく、成り行きに任せるつもりであるようだった。
「こらこら。そもそもなハルバード、お前どうして魔法を使いたいんだ」
「だって魔法が使えたら悪いやつと戦えるだろ」
「まあ、そうだなあ」
 こんなことになるなら魔法が使えることを教えなければよかったとホープは思った。凄い秘密を教えることで幼い子供の涙を止めることができる。だからと魔法を使ったのは軽率だったらしい。
「でもそれならちゃんと学校で魔法の勉強しないと駄目だ。そうじゃないとお前が悪いやつになっちゃうからな。で、魔法使いになったら俺のことも守ってくれよ」
「教えてくれたっていいのに。ケチ」
 クレイモアも、そうだそうだ、と言って賛同した。
「資格ないけど護身用の魔法を習って使ってる人って結構いるって新聞に書いてあったぞ。特に体を強くする魔法を使ってる人はたくさんいるって。疲れにくくなるから」
「よく新聞読んでるなお前」とホープは呆れた。「皆がやってるからいいってわけでもないだろ」
「やめようよ。いけないことはよくないよ。先生も困ってるし」
 そう言ってスピアがホープを助けた。ハルバードとクレイモアは不服な顔をしながらも諦めた。
「さっさと遊ぼうぜ」と退屈していたアックスが言った。

 日が落ちて子供達はそれぞれの家に帰るが、サイスはハルバードの家に来ていた。サイスの親は遅くにならないと帰ってこない。ハルバードの家もそうであったが、ハルバードは家の鍵を持たされていた。ハルバードの両親はまだ帰ってきていなかった。二人はリビングのソファに座った。リビングにはテーブルとソファの他にはテレビとラジオと新聞しか置かれていない。物の少ない家であった。父と母の部屋にはベッドと机があるが、机の上には紙とペンと辞書しか置いてない。余分な物、生活に潤いを与える物というのはハルバードの部屋にしかなかった。
 ハルバードは両親が何の仕事をしているのか知らない。ただ二人一緒に働いているらしいことはわかっていた。そして二人はテレビでニュースを見ている時に「世界革命はまだ終わっていない」と言うことがあった。「一日でも早く幸福な世界に変えなくてはならない」と二人は互いに言い聞かせ合っていた。
 ハルバードとサイスは、早く帰ってこないかな、とそれぞれのタイミングで呟いた。数ヶ月前からサイスはハルバードの家で夕飯を食べる生活をしていた。サイスの父は遅くまで仕事をしていた。母は仕事があるわけではないのだがどこかへ行ってしまって家に帰ってこない日の方が多かった。ハルバードが暇そうにしていると、
「ねえ、魔法の使い方、知りたいの」とサイスが言った。
「うん。知りたい」
 ハルバードは悪いやつを魔法で倒したかった。悪いやつというのはサイスの両親のことであった。以前ハルバードはサイスの体にあざがあるのを見つけた。あざはいつも服で隠れる所にあった。それがふとした拍子に見えたのだった。以来ハルバードはサイスのことを気にして、ふとした拍子が来てはあざがあることを確認していた。ハルバードにとってサイスは大事な異性であった。そのサイスが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「じゃあ教えてあげる」
 サイスはそう言って両手を器の形にした。そしてその器の上に火が起こる。火の魔法だ。しかし火はどんどん多くなっていく。サイスの顔と同じくらいの大きさの炎になった。
「これが炎の魔法だよ」とサイスは言った。炎の大きさを見れば資格を持たない者が使ってはいけないものであることは明白であった。
「どうして使えるの」
「私ね、おじいちゃんがブレイクなんだって」
「ブレイクって賢者の?」
「うん。賢者ブレイク」
 世界を魔法の世界に変えたブレイクは魔法の扱いも非常に上手かったため、賢者と呼ばれていた。しかしそう呼ばれるようになってすぐに姿を消したとされていた。
「それでお母さんが魔法の才能があるんだから今のうちから覚えておきなさいって教えてくれたの」
 サイスは言い終えると炎を消した。もっと見せてほしいとハルバードは思ったが、昼に聞いたホープの捕まるという言葉に怯えて口に出さなかった。
「魔法、教えてあげる」とサイスは言った。「でさ、魔法の学校に一緒に行こう」
 ハルバードは頷いた。
「うん。一緒に魔法使いになろう」
 がちゃ、と鍵の開く音がした。ハルバードの両親が帰ってきたのである。
「今のは秘密だからね」
 サイスは小声で言ってから、おかえりなさい、と玄関の方を向いて声を出した。ハルバードの父はリビングに入って二人の顔を見るなり、
「何かあったのか?」とにこやかな顔で聞いた。二人はどきりとした。父の勘は鋭いようだとハルバードは思っていた。しかしあくまで勘であって根拠があるわけではないらしい。
「ううん。ないよ」と嘘をつくだけで誤魔化すことができた。
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ピュアストーリー 第二話 過去へ伸ばす手
 スマッシュ  - 13/11/17(日) 0:46 -
  
 サイスがハルバードに炎の魔法を見せてから十二年が経った。約束の通りに二人は同じ学校で魔法を学んでいた。既に二人は魔法を使う資格を取り、後は卒業するだけという段階にあった。
 ハルバードは両親が死亡したためクレイモアの家で暮らしていた。両親が死亡したのは十四歳の時で、二人は同じ日に死亡した。ハルバードの両親は活動家であった。二人は魔法を自由に使えるようにするべきだと主張していた。世界革命はまだ終わっておらず、そのために世界は不幸なままである。そして幸福になるためには全ての人が魔法を制限なく使えるようになって悪しき人間を打ち倒す社会を作らなくてはならない。そうして全人類が悪を叩く剣を持って初めて本当の幸福は訪れる。二人はそのように信じ、時には魔法で人を殺すこともしていたらしい。そして魔法使い同士の戦闘の末に二人は死亡したのであった。クレイモアの家で暮らすようになってから、クレイモアの母に聞いてハルバードはそのことを初めて知った。ハルバードは人殺しの子供と言えたが、クレイモアの両親はハルバードを可愛がっていた。ハルバードの両親が亡くなる前にクレイモアの家でも亡くなった人がいた。クレイモアの弟であった。学校でクラスメイトに殺されてしまったのであった。ハルバードはいなくなった一人を埋めるために引き取られたのだった。
 サイスは一人暮らしをしていた。実家には帰っていないから両親がどうしているか不明であった。スピアの家ではアックスが無事ダークカオスチャオに進化した。そしてアックスはある日突然どこかへ行ってしまった。旅に出る、と非常に整った字で書かれたメモが置いてあったらしい。アックスは頭がよかったから本当に旅に出たのだろうとスピアは思ったようだ。公園で野良チャオのリーダーをしていたホープも同時期にいなくなってしまった。そしてスピアは最近旅に出た。きっとアックスを探すためだろうとサイスはハルバードに言った。

 学食で昼食を取って、ハルバードとサイスは学校から出た。ハルバードもサイスも華やかな若者に成長していた。ハルバードは体を鍛えた成果で細いながらもがっちりとした体格になっていた。サイスは長い髪の毛を結ったり結わなかったりしていた。今日は結っていなかった。そして白い眼鏡をかけていた。眼鏡をかけなくても日常生活に支障はなかったが、戦闘の中では見えていないことが命取りになると思い眼鏡を作ったのだった。
 校門を出たところで男が話しかけてきた。二人より少し年上に見える青年であった。
「ハルバードとサイスだね?」
「そうですけど」
 ハルバードは警戒して体を緊張させた。魔法を使えるようになった。体も鍛えている。今ならサイスを守れると自負していた。そして守るつもりでサイスより半歩前に出た。身体能力を強化する魔法を使う。青年が口を開いた。
「久しぶりだな。俺だよ。ホープ。公園でよく遊んだ」
「ホープって」
 ハルバードは聞いたことのある名前だと思ったが誰だったか思い出せなかった。サイスが、
「先生?」と驚きの声を上げた。
「そう。大きくなったな、お前ら」
「先生って、え、でも先生はチャオだったんじゃ」
「人間に化ける魔法だよ。凄いだろ」とホープは笑った。そして真顔になる。「ハルバード、今からある人に会ってほしい」
「ある人?」
「市長だ。君に依頼があるんだ」
 世界革命の後、町の形が大きく変わった。地図の上では同じ大きさの町が無数に並んでいて、その姿は蜂の巣に近かった。町の名前が数字になったのはどれも同じ形をしているからであった。そして市もまた同じようにほぼ同じ形のものが並んでいて、やはり数字で呼ばれていた。ハルバードが住んでいるのは二市であった。しかし町の番号だけでどこに住んでいるのか伝わるので、市の番号は日常生活の中であまり必要とされていなかった。
「市長が俺に何を?」
「君は魔法使い同士の戦闘訓練で非常に優秀な成績を収めていたそうじゃないか。その腕を見込んで、だそうだ」
「はあ」
「とにかく話を聞いてやってくれ」
 そう言ってホープはハルバードを車に乗せた。ハルバードは免許を持っているのかとホープに聞いた。チャオが持てるわけない、とホープは言って車を走らせる。運転は至って普通で、むしろ安全運転を心がけているのがわかった。あまりスピードを出さずに車は走った。

 市役所の五階にある市長室にホープが案内した。中に入るとテレビで見たことのある白髪交じりの男が立ちあがって、
「ようこそ、君がハルバード君だね」と言った。
「はい」
 ハルバードは市長と向かい合うようにしてソファに腰かける。ホープは二人から少し離れたところで床に座った。あぐらをかいて座っているのがチャオらしいとハルバードは思った。
「早速だが君はカオスエメラルドという宝石のことを知っているだろうか」
「何ですか、それ」
「カオスエメラルドという宝石はこの世界に七つあり、全てが揃うと奇跡が起こるらしい。五十年前、賢者ブレイクが世界を変えたのもカオスエメラルドを七つ集めて奇跡を起こしたからだ」
「そんな物がこの世にあるんですか」
「驚くのも無理はない。私も先生から聞くまでそんな石が存在しているだなんて知らなかったのだからね」
 市長は苦笑いして、ホープの方を見た。ホープの手には黄色の宝石が乗せてあった。市長は、おそらくカオスエメラルドのことを知っている者は非常に少ないだろう、と言った。
「五十年前、人々は記憶の一部を失った。それは人によって失った記憶が異なると思われているが、実際には少し違ったようだ。全人類が失った記憶がある。そしてそれに関する記録さえもなくなっている。そんな喪失がこの世界では起きていたんだ」
「だがそれは本当に全ての人間の記憶を消すに至らなかった」とホープが引き継いで言った。「消えたはずの記憶を持ったままの人間、あるいはチャオがいた。そして俺はカオスエメラルドの記憶を偶然失わなかったというわけだ」
 ハルバードは非常に厄介なものに巻き込まれたのだと悟った。ホープは市長からの依頼があると言って連れてきた。世界革命によって人々の記憶から消えた奇跡の力を持つカオスエメラルドが関係するのである。残りの六つを、どこにあるかわからないが探せとでも言われるのだろうか、などとハルバードは考えていた。
「そのカオスエメラルドを狙っている集団がいる。彼らはカオスエメラルドを立て続けに奪った。偶然とは考えにくい。彼らは殺人も躊躇わない。カオスエメラルドにそれだけの価値があるとわかっているのだろう。彼らは世界を変えるつもりだ。五十年前賢者ブレイクがしたように。彼らは自分たちを英雄と呼び、争いのない世界を作ると主張しているようなのだが、それが本当にいいことだとは信じ難い。君には彼らを倒してほしい」
「私にできることなのでしょうか」
 人殺しを平気でする連中だ。しかもカオスエメラルドの強奪に成功している。そのような者たちと戦えるだけの実力があるのだろうか。ハルバードには実戦経験がなかった。だから自分の実力を過信しないように努めてきた。その冷静さが彼に自信のない発言をさせたのだった。
「ああ、いや、すまない。無理に戦えと言うつもりはないんだ。私たちは優秀な魔法使いには一通り声をかけるつもりでいる。しかしどうかカオスエメラルドの回収には協力してほしい。カオスエメラルドはまだ四つある。せめてその四つは守り抜かなければならない。回収の際、彼らと遭遇しないとは言い切れないから、実力のある者でないとこの役目は務まらない」
「まあカオスエメラルドの回収であれば、お金がちゃんともらえるなら、いいですけど」
「勿論情報も給料も出すよ。世界のための仕事だ。危険もある。私たちは君を全力でサポートする」
 ハルバードは結局この仕事を引き受けた。かなりの額をもらえることになったからだ。カオスエメラルドを手に入れればボーナスも出る。それにもう一つ理由があった。もし自分が七つのカオスエメラルドを全て集めれば自分の望みを叶えられる。ハルバードは過去を変えたいと思った。世界を変えるなんて大袈裟なことをするつもりはない。ただサイスの両親をもっとまともな人間に変えることができたら、サイスは幸せに暮らすことができたはずだという思いがあった。彼女のことを守りたいと思った。それが死ぬかもしれない旅に身を投じるほどの理由に足り得るかどうか、ハルバードにはわからなかった。それでも行こうと思った。彼女に何もしてやれなかった過去を消すために。昔の自分の弱さを今の自分の強さで上書きするために。

 市役所を出ると、サイスがいた。
「や」と言って彼女は手を軽く挙げる。
「あれ、どうして」
「タクシー乗ってきた。気になったから。何の話だったの?」
 これから学校は休むことになる。サイスには教えておいた方がいいと思って、ハルバードは市長から受けた依頼のことを話した。話を聞いてサイスは、
「私も行く」と言った。
「え」
 嬉しいものの不安もあった。当然ながらサイスが死なないとは限らないのだ。
「だってもしかしたら死んじゃうかもしれないんでしょ。そんな旅に一人で行かせるなんてできないよ。私強いから二人で戦えばきっと大丈夫だよ」
 ハルバードは、自分がサイスの死を心配しているようにサイスは自分の死の可能性を見ているのだと気付いた。彼女は本当に強い。魔法の才能は学校で一番だった。断ろうにも合理的な理由はない。それにサイスと一緒に旅ができると思うと心が躍った。
「うん。わかった。よろしく頼むよ」
「やった。よろしくね」
 一度家に戻って旅の準備をすることになった。持っていく服を最小限に抑えたらリュックサック一つで十分だった。仕事に必要な金として既に現金を受け取っていた。来月からは口座に振り込まれることになっている。とにかく金があるのでどうにかなると思われた。市長から受け取った片手で扱える剣をコートに隠し、クレイモアの母に挨拶した。
「仕事で出かけることになったのでしばらく帰ってきません。もしかしたら帰ってこれなくなるかもしれません。今までありがとうございました」
「そんな急な。明日ってわけにはいかないの」
「人の命が関わる問題だから。なるべく急ぎたいんです。クレイモアとお父さんによろしく伝えておいてください」
 ハルバードは足早に去って会話を終わらせ、家を出た。人の命はどうでもよかった。早くサイスと合流したいと思っていた。
 二人はバスに乗って南の方にある〇八三町へ向かった。〇八三町は町のほとんどの建物が店舗であった。裏通りに入ると盗撮のためのカメラを売る店などがある。闇市の名残のある一帯には英雄と名乗る集団に協力的な者が集まっている。そして彼らはカオスエメラルドを手にして、英雄と名乗る集団に渡す予定でいるらしい。市役所でホープからそう聞いたのであった。
「とりあえず今日は泊まる場所を探そう」
 ハルバードはそう提案した。大通りには高いビルの店舗が建っている。そこから離れていくほど商売の雰囲気はなくなっていく。十分ほど歩いてビジネスホテルを見つけた。あそこだ、とハルバードが指さすと、後ろからクラクションを鳴らされた。そして、
「おおい、ハルバード、サイス」と呼びかける声がした。振り向くと、クレイモアが車から顔を出して手を振っていた。
「クレイモア」と二人は驚いて叫ぶ。「どうしてここに」
「お前が旅に出るっておふくろから聞いて、バス乗るのが見えたから、追っかけてきたんだ」
 クレイモアは二人を後部座席に乗せる。ホテルに向かって車をゆっくり走らせる。
「途中でバス見失ってやばいと思ったけど、どうにか会えてよかったよ」とクレイモアは一度笑ってから、
「なあ、俺も一緒に行かせてくれないか」と言った。
「駄目だ」
 ハルバードは即答した。クレイモアは戦えない。魔法を使う資格を持っていないのだ。足手まといになるし、その上サイスと一緒にいるのを邪魔されたくなかった。
「頼むよ。俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ」
「なんだよ、それ」
「俺は賢者ブレイクに会って話がしたいんだ」
 ハルバードはサイスの方を見た。サイスもハルバードを見た。賢者ブレイクはサイスの祖父だ。そのことを話したのだろうかと思って見たのであったが、互いに同じことをしたからどちらも話していないのだとすぐにわかった。そしてクレイモアは、
「過去のことを知りたいんだ」とサイスとは全く関係のないことを言った。「何かがおかしい気がするんだ。もしかしたらブレイクしか知らない何かがあるのかもしれない」
「どうしてそう思うんだ」
 そう聞かないわけにはいかなかった。ついさっき市役所で普通の人は知らない記憶について聞いたばかりであったからである。
「大した根拠はない。ただ昔じいちゃんが変なことを言ってたんだ。世界革命が起こる前は恐ろしい世界だったって。でも最近それは変だって思ったんだ。エネルギー問題はあったけど、まだ生活に困るような段階ではなかったんだろ?それなのに恐ろしい世界って言うのは変じゃないか。そうだろ?」
「ああ、確かにそうかもな」
「五十年以上前、世界は何か酷い問題に直面してたんじゃないかと俺は思うんだ。そのことを世界革命の後、皆忘れてしまった。記憶が失われたんだ。もしそれを知っている人間がいたら、賢者ブレイクなんじゃないかって思うんだ」
「なるほどな」
「やらなきゃいけないって、どうして?」
 今度はサイスが聞いた。車はもうホテルの駐車場に止められていたが、三人は車内で話していた。
「俺は知りたいんだよ。真実が。でも俺の周りにはその真実がなかった。だから見つけたいんだ。嫌だと言っても付いていくからな。俺も今日はここに泊まる」
 クレイモアはそう言って車から降りた。ハルバードはサイスに、
「大変なことになったな」と言ってから降りた。
 ホテルのロビーは狭かった。入ってすぐの所に受付がある。そしてエレベーターの傍に自動販売機が一台だけ設置されていた。紙コップと飲み物が出てくるタイプのものであった。ハルバードがコーヒーを買った。トリプルの部屋があったのでその部屋に泊まることになった。部屋に入ってすぐにハルバードはクレイモアを追い出そうとした。
「少しくらい休ませてくれよ」
「知るか。大事な話があるんだ。出てけ。ついでに飯買ってこい」
「わかったよ。服とか買わないといけないしな。いっそ一度家に戻るかな」
 ベッドに腰掛けたばかりであったが、ぶつぶつ言いながらクレイモアは立ち上がる。そして出ていく際に、
「しばらく帰ってこないから安心しろよ」とからかうように言った。
 ドアが閉まってハルバードは溜め息をついた。
「さて、どうするか。このままだとあいつ本当に付いてくるぞ」
「別にブレイクに会いに行くわけじゃないのにね」
 サイスはブレイクのことをおじいちゃんとは呼ばない。会ったことがないために繋がりを感じていないのであった。
「死ぬかもしれないって所に連れていくわけにはいかないよな」
「やっぱりそれかな。死ぬかもしれないから帰ってって」
「それでも付いてくって言ったら?」
「どうすんだろ」
 サイスは首を傾げた。そのまま何も言わない。
「殴って気絶でもさせるか」
 ハルバードはそう言って拳を振り下ろす動作を見せた。
「あ、それいいかも」とサイスも真似をした。
「実際それしかないかもな」
 またハルバードが拳を振り下ろす。二人はしばらく発言するごとに拳を振り下ろしていた。

 翌朝ハルバードはコンビニで買ったサンドイッチを食べながら、
「あのさ、クレイモア。これから魔法の戦闘になるかもしれない。危ないから付いてこない方がいい。死ぬかもしれない」と話した。
「俺も行くよ」
 さらりと言うので、話を聞いていなかったのではないかとハルバードは思い、
「だから、死ぬかもしれないんだって」と言った。
「お前たち何しようとしてるんだ?」
「何って」
 自分たちの仕事についてクレイモアにどこまで話していいのだろうか。クレイモアを同行させないつもりでいるハルバードは全て隠していたい気分であった。しかしサイスが、
「カオスエメラルドっていう凄い宝石を集めなきゃいけないの」とあっさり話してしまう。
「凄い力を持った宝石でな。悪いやつに狙われてて、俺たちが回収しないと世界が危ないんだ」
 ハルバードは秘密にすることを諦めた。話して、戦えない人間が一緒にいるべきでないことをわからせようと思った。
「その悪いやつっていうのが、人殺しも躊躇わないって集団なんだ。だから殺し合いになるかもしれない。そうなった時俺たちはお前を守って戦う余裕はない」
「だから付いてくるなと?」
「そういうことだ」
「わかった。行くよ」とクレイモアは真顔で言った。
「ギャグだよな?」
 クレイモアはにやりとした。
「本気だよ」
 ハルバードはしかめっ面になる。どうして行こうという気になるのか理解できない。やはり気絶させるしかないのだろうかと思った。
「先生がどっか行って、アックスも旅に出て、スピアまでどこか行っちまっただろ。そんでもってお前たちは死ぬかもしれない旅をすると言う。俺は知りたい。知らないまま過ごすのは落ち着かないみたいなんだ」
「だからってお前」
「死なないように気を付ける。危ない所ではお前らから離れて行動するし、いざ戦闘になったらすぐ逃げる」
 ハルバードはサイスに目をやった。サイスも困った顔をしていた。
「本気なら仕方ないのかな」
 そうサイスが言うと、ハルバードもそうかもしれないという気持ちになった。

 中古の品を売っているという店に三人は入った。扱っている品は様々で、結婚指輪と思われる物や刃物、古いラジオなど統一感がない。盗品やゴミから拾った物であろうとハルバードは思った。クレイモアを店の出入り口のすぐ傍に待機させ、ハルバードはカウンターにいる店主に話しかける。
「なあ、最近英雄って名乗ってるやつらが活躍してるらしいって噂聞いたんだけど、知ってる?」
 体の細い店主は迷惑そうな顔をした。
「聞いたことあるな」
「そいつらが狙ってる宝石、カオスエメラルドって言うらしいんだけど、知らない?ここら辺にあるって話を聞いたんだけど」
 手掛かりがないのでこうやって話しかけて探ろうと、昨日ハルバードとサイスと二人になった時に決めていた。店主はハルバードとサイスを睨んだ。それで関係者だとわかった。サイスが右手を店主に向けようとする。魔法で威嚇するつもりであった。しかしそれより先に店主の動いた。薄い端末を手に取り、カウンターを飛び越えた。そして逃げながら端末を操作する。店主は店から出て行った。その後にクレイモアも逃げる。ハルバードとサイスはカウンターの中を調べる。その奥にある部屋にも、ドアを魔法で吹き飛ばして入る。カオスエメラルドは見当たらなかった。店から出ると数人に囲まれていた。彼らは出てきた二人を狙って魔法の弾丸を撃った。それを二人はバリアを展開して防いだ。防いでなければ頭や胸に当たっていたようだった。ハルバードは道の真ん中で倒れているクレイモアを見つけた。逃げているところを見つかったのだろう。頭が破損しているのが見えて、既に死んでいることがわかった。ショックを受けたが冷静なままであった。クレイモアの死が一つの状況としてすんなりと頭の中に入った。生きて帰るには殺すしかないと思った。そして何が何でもカオスエメラルドを手に入れる、と決意する。サイスはまだクレイモアを見つけていなかったが、ハルバードと同じことを考えていた。
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ピュアストーリー 第三話 平和の使者
 スマッシュ  - 13/11/23(土) 0:00 -
  
 ドクターフラッシュと名乗る科学者がいた。彼は五十年前からカオスエメラルドという宝石に魅了されている青年であった。ソニックやテイルスといったヒーローたちが活用した宝石。それには物凄い力が宿っているらしい。彼は新しいカオスエメラルドの使い方を研究したかった。エネルギー問題を解決できるかもしれなかった。それ以外の、将来を不安にさせる数々の問題も、カオスエメラルドならば解決できるかもしれない。青年はそう思っていた。世界革命の日、彼はカオスエメラルドの記憶を手放さなかった。誰もそのような宝石があると思っていない世界になってしまったが、彼は一人でカオスエメラルドを探すことに決めた。そして彼は一つの宝石を手に入れた。それはカオスエメラルドではなく、カオスエメラルドにあと数歩届かなかった宝石であった。その八つ目のカオスエメラルドになり損なった宝石が彼の新しい願望になった。彼は今もなおカオスエメラルドを人工的に作り出す研究を続けている。

 ハルバードたちが旅立つ二週間前に、カオスエメラルドを集めてきてほしい、とドクターフラッシュは石のような表情の青年に言った。青年はブレイクと名乗っていた。偽名に偉人の名前を使うふてぶてしい青年が元々集団の創始者であった。フラッシュはその集団に後から参加したのだが、年長者であったために集団のトップのような立ち位置にされてしまった。ブレイクと名乗る青年もフラッシュに権限を持たせようとしていた。彼自身は鉄砲玉であろうとしていた。今回も彼自ら旅に出るようだった。
 ブレイクは三七五町のマンションに住んでいた。築二年の新しいマンションが彼らの集団の拠点だった。三七五町付近で暮らしていた仲間はなるべくこのマンションに住ませるようにしていた。旅支度を終え、玄関のドアを開けると若い女が立っていた。ブレイクにとっては幼馴染のような家族のような女であった。
「私も行かせて」
「無茶だ」
 女はスピアという名前であった。彼女は顔を歪めていて、泣く手前といった表情だった。
「一人でどっか行かないで。心配でたまらなくなるから」
「大丈夫だ。俺は頑丈だから」
「それでも心配なものは心配なの」
「君は脆い。戦いになったら死んでしまう」
「大丈夫」
 スピアは懐からヒーローチャオの頭の上にある輪っかを取り出した。輪っかは僅かに光を発している。それを突き付け、睨む。
「博士からもらってきた。これがあれば戦える」
 その輪っかはエンジェルエメラルドと呼ばれている物であった。ヒーローカオスチャオを輪っかだけ残るように殺して作られる。カオスエメラルドになるための何か。それをカオスチャオは持っていて、頭上にある球体や輪っかはカオスエメラルドに近い物になっていく。他にも魔法使いの死体から心臓を取り出すと、心臓の一部がとても小さなカオスエメラルドになっている。フラッシュはそういった事実を知り、カオスエメラルドには及ばないものの大きな力を持った宝石ならば量産できると考えた。チャオが二回目の転生を迎える十二年後にはエンジェルエメラルドの大量生産が可能になる見込みである。スピアの持っているエンジェルエメラルドは二回以上転生したチャオをさらって作った物の一つであった。ヒーローカオスチャオに進化させたのは、球体よりも輪の方がかさばらないからであった。
「駄目って言っても付いていく」
「わかったよ。好きにしてくれ」
 ブレイクは強く反発することができなかった。昔からそうだった。スピアがこうすると決めたら彼には動かすことはできなかった。旅の準備をするためにスピアは自分の部屋に戻る。スピアもこのマンションに住んでいた。逃げないようにブレイクも部屋の中に入れられた。スピアは着替えをあまり入れず、小さなリュックサックだけで旅立つことにした。可愛げのない女だとスピアは思った。思春期には喧嘩の腕を磨いてばかりいた。可愛く振る舞うことよりも戦うことの方が大事だと自分を納得させて、荷物は増やさなかった。

 カオスエメラルドの発見は容易であった。カオスエメラルドは共鳴するらしいとドクターフラッシュは言っていた。カオスエメラルドが近くにあるとエンジェルエメラルドの光がいつもより強くなった。それだけではなくブレイクも直感的にカオスエメラルドことがわかった。勘にしては気まぐれな感じはなく、エンジェルリングが光を強めれば直感の訴えも強くなった。スピアは何も感じておらず、ブレイクの反応を不思議がっていた。
 一つ目のカオスエメラルドは民家にあった。玄関のドアを突き破って中に入った。家の中には主婦と思われる女性がいた。スピアは剣で脅し、宝石の在り処を聞きだした。剣は刺突用の細い剣であった。ブレイクも剣を持っていた。こちらも片手で扱う剣であったが、主に切ったり叩いたりといった使い方をする物であった。女性は抵抗することなくカオスエメラルドをスピアに渡した。殺すつもりはなかったのでそのまま帰ろうとしたが、ブレイクが十五歳くらいに見える少年の胸に剣を突き刺していた。少年はバットを持っていた。おそらく背後から襲って倒そうと思ったのだろう。服が斜めに切られて破れていたので、一度切ってから剣を突き刺したことがわかった。退散してからスピアは、
「殺さなくてもよかったのに」と言った。子供が相手なのだから手加減する余裕はあったはずだと彼女は思ったのだった。
「すまない」
 ブレイクは俯いた。彼自身殺したいと思ってやったのではなかった。しかし殺さなかったらスピアが危険な目に遭うかもしれないと考えると殺した方がいいと思った。その考えはスピアに叱られても変わらなかった。しかしスピアはそれを望んでいない。だからブレイクは俯くしかなかった。

 ドクターフラッシュの研究はカオスエメラルドを七つ集めなくても進めることができた。集められればよりいいというだけであった。しかしブレイクとスピアは七つ集めるつもりでいた。カオスエメラルドを七つ集めれば奇跡が起こる。その奇跡に用があった。カオスエメラルドの一つは大魔法という魔法使いの結社が持っていることをブレイクは知っていた。カオスエメラルドの力を知った賢者の会は、所属している魔法使いの中で最も強い魔法使いに賢者という称号を与え、その証としてカオスエメラルドを持たすらしい。その賢者から奪うのが一番難しいだろうと思われた。二人の旅は賢者を倒すために他のカオスエメラルドを集めて力を蓄える旅であった。
 二つ目のカオスエメラルドは殺さなければ手に入れられなかった。カオスエメラルドを神の石と称して崇めている宗教団体が相手であった。ブレイクたちのように襲ってくる者を撃退するために魔法使いを三人雇っていた。さらにその魔法使いから魔法を習っていた者たちが戦いに加わった。彼らが使うのは弾丸の魔法だ。一発撃つだけなら子供でもできる魔法である。まさに素人連中は一発撃つだけであった。次の弾を作り出すのに時間がかかる。一度に何発も撃つのは魔法使いだけだ。しかし素人の弾でも当たれば大怪我をする。頭や心臓に当たらなくても死んでしまうかもしれない。先に動いたのはブレイクだった。魔法使いに向かって突進する。何発か弾が当たったが、ブレイクは止まらずに魔法使いの頭を剣で叩いた。切る、というようなすっきりした攻撃ではなかった。剣は頭の途中で止まっていた。それを引き抜くのにブレイクは苦労した。そして首に剣を突き刺した。その間もブレイクは何発か弾をくらった。彼の言葉通り、彼は頑丈だった。肉体を魔法で強化していたため傷は浅かった。エンジェルエメラルドが魔法の力を強化していた。それを見てスピアが人を殺す決意をした。殺さなければ殺されるのだから仕方ないと思った。スピアは学校で魔法の勉強をしていない。弾を一発撃つのがやっとの集団と同じ素人であったがエンジェルエメラルドが彼女に力を与えた。魔力の燃費の悪い不細工な弾丸をいくらでも撃つことができた。肉体を強化して素早く動き回って弾を回避した。やがて連射に耐えられなくなった魔法使いを一人倒した。ブレイクももう一人の魔法使いを倒していた。
 全ての人を殺して、スピアは自分の心が乱れていないことを不思議に感じた。人を殺す時にはもっと大きな心の動きがあるものだと思っていた。死体を見ると気分が悪くなったが見ないようにするといつも通りの自分になった。ブレイクがカオスエメラルドを手にして戻ってくる。
「さあ帰ろう」
「うん」
 後からじわじわと苦しくなるのかもしれないとスピアは思ったが、人を殺した記憶は何事もなく過去の記憶となっていった。人を殺すのはなるべく避けるべきだという考えも変わらなかった。

 ブレイクとスピアは手に入れたカオスエメラルドをフラッシュに渡し、拠点のマンションで生活していた。ハルバードたちが旅に出た頃にブレイクたちもカオスエメラルドの情報を入手した。今度は奪う必要はなく受け取ればいいだけであったからブレイクはほっとした。〇八三町に向かってブレイクとスピアは北上した。
「今回みたいに奪う必要なく全部集まればいいんだけどな」と電車の中でブレイクは言った。
「そうだね」
 〇八三町に着くと騒動が起きていた。買い物客が走って逃げていた。流れに逆らって裏通りに行くと、人の死体があった。
「クレイモアだ」とスピアが言った。
「まさか」
「でも、たぶんクレイモアだと思う」
 顔の一部が破損していたし、数年間顔を見ていなかったから確証はなかった。スピアは死体の持ち物を物色した。財布の中に保険証が入っていた。それをブレイクに見せた。やはりクレイモアの死体であった。
「とりあえず今はカオスエメラルドを」とブレイクは言った。
「うん」
 大量殺人であった。死体が目印となって、殺人犯の足取りがわかった。店の中を物色して回っているようだった。ドアが魔法で破されていた。
「やっぱりカオスエメラルドが狙いか」
「だよね、これ」
 店の中を探すのはやめて、死体を追うことにする。するとハルバードとサイスが建物の中から出てきたところを見つけた。
「サイス」とスピアは叫んでいた。「それにハルバード」
「スピア。どうしてここに」
 カオスエメラルドを奪おうとしている犯人が幼馴染であるとわかって、腑に落ちる。きっとハルバードがやり始めたのだろうとスピアは思った。驚いているサイスにスピアは剣を向けた。
「今すぐ帰って」
「待ってくれ。俺たちは」
「カオスエメラルドは渡せない」
 スピアがそう言うと、ハルバードは剣を構えた。幼馴染を殺すわけにはいかなかった。
「やめて。帰って。二人は今まで通りに暮らしていればいいから」
「そういうわけにはいかない」
「嫌でも帰ってもらう」
 殺さない、と決意してスピアは一歩前に進んだ。殺さなかったために殺されてしまうということがあるかもしれないが、それでも殺すのは嫌だと思った。幼馴染を不幸な出来事から救うためにスピアはカオスエメラルドを集めていた。
 ハルバードが駆ける。とても速くて、肉体を魔法で強化しているのがわかる。スピアは一歩だけ助走して跳ねた。そしてハルバードの顔面を蹴り飛ばした。綺麗に当たってハルバードは地面を転げた。サイスが一発弾を撃った。スピアは足元に向かって飛んできたその弾を片足を上げるだけの動作で避け、素早くサイスに近付いて首元に剣を突き付けた。
「魔法の腕は二人の方がいいかもしれないけどさ、実戦では私の方が強いんだよ」
 エンジェルエメラルドの力は大きいが、それだけで生まれた差ではなかった。ハルバードよりも戦いに慣れているのだった。素の身体能力も優れている。だからこその圧勝であった。
「帰って。お願いだから」
「わかった。私たちの負け」
 サイスが両手を上げた。ハルバードも剣をしまった。スピアは二人から離れる。
「ありがとう」と微笑んで言った。「大丈夫。二人が幸せになる世界を作るから。だから待ってて」
 スピアとブレイクは走ってその場から去った。そしてカオスエメラルドを受け取ることになっていた模型店に行った。模型店の店主は無事だった。襲撃してきたのはあの二人だけだったらしい。そして店内にはもう一人男がいた。真っ黒な服を着た美青年であった。その青年が、
「あんたがブレイクか」と言う。
「君は?」
「俺はレジスト。魔法が得意だからカオスエメラルドを守っていた」
「そうか、ありがとう」
 カオスエメラルドはレジストが持っていた。それをブレイクは受け取る。
「なあ、俺も連れていってくれないか。平和な世界を作るんだろ。俺にも手伝わせてくれ」
「構わないが、死ぬかもしれないぞ」
「それでいい。平和な世界が欲しいんだ。それって人を殺さないで済む世界だろ」
「ああ。そうだ」
「俺、つい魔法で人を殺してしまうんだ。自分がそういうことをしてしまう人間だってことに、耐えられない。だから俺は平和のために戦いたい」
 レジストの告白は二人の心に届かなかった。つい人を殺してしまうという悩みが理解できない。しかしレジストが強い気持ちを持っていることだけはわかった。ブレイクは、
「よろしく頼む」と言った。
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ピュアストーリー 第四話 怪人
 スマッシュ  - 13/11/23(土) 0:00 -
  
 ブレイクはクレイモアの死体に近寄ると、ズボンのポケットの中の財布を抜き取った。肩にかけていたバッグもはぎ取って、財布とカオスエメラルドをその中にしまった。
「そういうのあんまよくないんじゃないか」とレジストが言った。
「幼馴染なんだ」
 ブレイクは衣服も脱がそうとしたが、
「それはちょっと」と言ってスピアが止めた。
「そうか」
「服まで取ったらただの泥棒だもんな」
 レジストは顔だけ出して大通りの様子をうかがった。生きている人間はいなかった。大通りの死体は略奪者と思われて殺された人たちであった。
「誰もいないな」
「早く逃げた方がいい。GUNのやつらが来るかもしれない」
 ブレイクはクレイモアのバッグを肩にかけた。
 GUNはテロなどの大規模な出来事に対応するためにあった。異星人が侵攻してきた時には彼らが戦うことに決まっているという話で有名な組織であった。銃を使う隊員もいるが、魔法使いが主になっていた。今回は公共の場で人が死に過ぎた。その情報が伝われば彼らが出動するかもしれない。戦闘になってもカオスエメラルドの力があれば大丈夫だと思われるが、人殺しとして世間に顔を知られるのは避けたいとブレイクは思った。人を殺しているのは事実だが、自分たちの行いはあくまで賢者ブレイクの世界革命のような善行であると思っていた。それに今回に限ってはブレイクもスピアも人を殺していない。
 三人は裏通りから狭い路地を通って隣町まで歩いた。そしてバスに乗って駅まで移動し、電車で拠点のある三七五町まで戻った。GUNとは遭遇しなかった。もしかしたら出動しなかったのかもしれない、とブレイクは思った。

 ドクターフラッシュの研究室にブレイクがカオスエメラルドを届けに行くと、
「ブレイクか。一体何が起きたんだ」とフラッシュはブレイクたちが入ってくるなり言った。動揺している様子であった。「襲われたのか。それともお前たちがやったのか。カオスエメラルドはどうなった」
「カオスエメラルドは回収しました」
 ブレイクはクレイモアのバッグからカオスエメラルドを取り出し、フラッシュに渡した。
「俺たちからカオスエメラルドを奪おうとする二人組にやられたようです」
「そうか。そんな連中が出てきたか」
 フラッシュは鼻で笑う。エンジェルリングを作っている彼からすれば魔法使いであろうと脅威ではない。彼の関心はすぐにカオスエメラルドの方に向いた。受け取った青いカオスエメラルドを人差し指で撫でる。
「これで三つ目か。まさか三つも集めてきてくれるとは思わなかった」
「七つ、全て集めるつもりです」
「それは心強いな。よろしく頼むよ」
 フラッシュは壁にカオスエメラルドをはめた。カオスエメラルドを固定するホルダーが作ってあった。正六角形の頂点とその中心にカオスエメラルドをはめるようになっている。カチリ、と音がした。
「ところで博士、カオスエメラルドの力でやりたいことがあります」
「何かな」
「死者を蘇らせたいのです。可能でしょうか」
「さあどうだろうね。やってみなきゃわからんね」
 準備が必要だとフラッシュは言った。蘇ったはいいものの映画に出てくるゾンビのように誰彼構わず襲ってくるといったことが起こらないとも限らない。フラッシュはホルダーからカオスエメラルドを一つ外した。強く押し込むと外れる仕組みになっていた。そしてそれをブレイクに渡す。
「ゾンビだったらすぐ殺すんだ」
「わかりました」
 ブレイクはホルダーにはめられた二つのカオスエメラルドの前に立った。カオスエメラルドとの接続を念じる。するとカオスエメラルドは光り出し、ブレイクはカオスエメラルドと繋がったことを体内で感じた。体の中に活力が流れてくるのだった。そしてクレイモアが生き返る鮮明な光景を想像して、その体内の力を走らせた。カオスエメラルドの強い光が部屋を覆った。室内に一人の男が加わっていた。全裸で倒れていた。
「クレイモアだ」とスピアが言った。
 フラッシュが慌てて羽織っていた白衣を裸の男にかけた。それから咳払いして、
「どうやら成功らしいな」と言う。
 クレイモアを目を開けて、ゆっくりと体を起こした。フラッシュと目が合い、数十秒間フラッシュのことを見つめていた。そして次はブレイクを見た。やはり数十秒ブレイクのことをじっと見ていた。同じようにスピアやレジストも見た。
「なるほど」とクレイモアは呟いた。「大きくなったな、アックス」
 ブレイクを見てクレイモアは言った。スピアは目を見開いた。ブレイクもスピアほどではなかったが驚いた様子を見せた。
「どうしてわかったの」
「記憶だ。記憶が見えたみたいだ」
 探るようにゆっくりとクレイモアは喋った。
「魔法なんだろうか。探ろうと思えば思うほど記憶が手に入る。アックス、お前は先生と旅をしている途中で先生から人に化ける魔法を教わった。そうなんだろ?」
「ああ」
「やっぱりこれは記憶なのか」
 そう言ってクレイモアはフラッシュの方を見た。
「ソニックとかテイルスとかいう、人間とは違う生き物がカオスエメラルドを使って世界を救った。そんな歴史があったっていうのは本当なのか」と聞いた。
「五十年前までは皆そう教わったよ。今ではもうそんな事実があったのかわからないがね。それより君は本当に人の記憶が読めるのかな」
「たぶん。でも俺、これまでそんな魔法を使ったことなかった」
「そもそも本当に魔法なのだろうか」とフラッシュは難しい顔をして言う。「そんな魔法聞いたことないのだが、君たちは?」
「そんな魔法はないはずだ。習ったことも使われたこともない」
 即座にレジストが言った。
「新しい魔法ということだろう。他の誰も使ったことのない魔法を使うやつが一人、うちにいる」
「治癒の魔法か」とクレイモアが言った。アックスの記憶を読んだのだった。
「勝手に記憶を読まれるのは、ちょっと抵抗があるな」
「すまん。しかし新しい魔法か。死んだのにカオスエメラルドで蘇って、これはそのおまけなのか?」
 フラッシュがその意見に同意した。
「確か魔法で瞬間移動はできなかったな。しかし五十年前には、カオスエメラルドを作って行う瞬間移動が知られていた。さっき出てきたソニックが使った技らしいのだが」
 そう説明してからフラッシュは、記憶を読むやつがいると話し辛いな、と言って頭を掻いた。
「まあとにかく、カオスエメラルドの影響で今までできなかったことができるようになった、と思えば納得できそうじゃないか。それに魔法にはまだ発展の余地があるだろう」
「カオスコントロールか」
 クレイモアは瞬間移動に興味を持ったようだった。そして口には出さなかったがアックスも同様であった。瞬間移動ができればカオスエメラルドの回収が楽になる。特に逃げる際に追われる心配がないのは大きな利点だった。突然どこからともなく現れてカオスエメラルドを奪って姿を消し、どこに逃げたか知ることもできない。そのような者を相手にするのは大変なはずだ。世界中をしらみつぶしに探すわけにもいかないだろう。カオスエメラルドは、今は研究のために使われているが、これからはカオスエメラルドの回収のために使われるべきなのかもしれないとアックスは思った。

 四つ目のカオスエメラルドの情報が入らないまま一週間が過ぎた。スピアは暇を持て余していた。アックスはドクターフラッシュと瞬間移動の実験をしていた。カオスエメラルドを使って行う瞬間移動はカオスコントロールと呼ばれるらしい。クレイモアは拠点として使われているマンションに住むことになったが、ほとんど外に出ていないようだった。何度か様子を見るために部屋の中に入れてもらったが、ずっとパソコンで文書を作っていた。真実を記録にする、とクレイモアは言っていた。スピアにはすることがなかった。
 スピアは自分の部屋で剣を握っていた。前に踏み込み突き刺す動作を何度も繰り返す。なるべく遠くまで踏み込む練習をしたり、寸止めする練習をしたりしていた。ハルバードとサイスの姿を剣の先に見ていた。二人と戦うことになるとは思っていなかった。殺したくなかった。実際に殺さず退けた。ハルバードには殺意があったのだろうか。そのことをスピアは気にしていた。彼は自分のことを敵と見て、戦う意志を見せた。その中に殺したくないという気持ちはあったのだろうか。
 気になることはたくさんあった。二人もまたカオスエメラルドを狙っていた。彼らは何のためにカオスエメラルドを手に入れようとしたのだろう。もしも世界を平和にするために集めているのであったなら、二人を仲間にしてもいいのかもしれない。クレイモアも仲間になった。昔のように集まれたらいいと思う。一方でそれでは台無しだとも思った。彼らのために世界を平和にするのである。サイスは家族から虐待を受けていたようだった。ハルバードとクレイモアは家族が殺されてしまった。不幸なことが身近にいくらでもある世の中だ。自分や友人がこれ以上不幸に巻き込まれないために世界を変えなくてはならない。そしてその戦いに身を投じるのは不幸を体験したことのない自分が相応しい。そのようにスピアは考えていた。既に不幸を経験した友人を過酷な戦いに参加させたくないのである。
 ふとアックスのことを思い出した。アックスもまた不幸を経験したチャオであったのだ。スピアはアックスの飼い主というわけではなかった。アックスは元々スピアの従弟が飼っていたチャオだった。スピアはよくアックスと遊ぶために従弟の家に行った。ある日その従弟が通り魔に殺されたのである。スピアは従弟が死んだことに悲しみを感じなかった。飼い主を亡くしたアックスのことを可哀想だと思っていた。それでスピアはアックスを引き取った。そういった経緯で幼馴染のようでもあり家族のようでもある関係となったのである。アックスはカオスチャオだから随分頑丈なようである。人なら死んでしまう怪我にも耐えられる。その上アックスは積極的に動いてくれる。そのためについアックスに頼ってしまったが、もっと自分が頑張るべきだったのではないかとスピアは思った。チャオにだって感情はある。人を殺すのは辛いだろう。少しでも負担を軽くしてあげたいと思った。
 決意をしようとスピアは思った。次の戦いの時に人を殺す決意をすることにした。ハルバードやサイスは殺さない。カオスエメラルドの力で蘇らせることはできるようだったが、それはしてはいけないことのように感じられた。
 呼吸が乱れ、額から汗が流れる。しかしスピアが繰り返す突きの動作には疲れが全く表れていなかった。ずっと同じリズムで黙々と練習していた。自分が感じている疲労を手足は感じていないのではないかとスピアは思った。そう思った矢先、前に踏み込んだ瞬間バランスを崩してよろめいた。足に力が入らなかったのだ。スピアはソファに腰を下ろした。ふう、と一息ついた途端に大粒の汗が流れて顎から落ちた。立ち上がって洗面所へタオルを取りに行く。一度座ってしまったためか足を動かすとだるさがあった。タオルで汗を拭いながら戻り、ソファに倒れ込んだ。そしてぐしゃぐしゃと顔面を拭いた。スピアは横になったまま雑に上半身の汗を拭いて、汗が治まると眠りに落ちた。

 目覚めたのは、ドアポストに何か入れられた音がしたからだった。新聞は取っていない。スピアは玄関に行って、入れられた物を確認した。大きな封筒であった。中には紙が数十枚入っている。一枚を出してみると、世界革命によって失われた歴史の記憶について、というタイトルが書いてある。封筒をテーブルの上に置き、ソファにもたれて内容を読むと、書いたのがクレイモアであることがわかってきた。他人の記憶から仕入れた情報をパソコンでまとめ、印刷して形にしたようである。
 スピアは歴史の授業に興味がなくてよく居眠りをしていたが、このクレイモアが作った資料に書かれている歴史には引き込まれた。何百年も前にソニックという青いハリネズミがいたこと。ソニックはその名の通り音速で走ったこと。カオスエメラルドの力を借りて世界を救ったこと。おおよそ現実の出来事とは思えないことだが、世界革命の前には歴史の授業で習うことであったらしい。こんな授業なら聞いたのにな、とスピアは思った。
 ソニックとカオスの戦いについては詳しく書かれていた。おそらくドクターフラッシュはそのことについて詳しかったのだろう。カオスというのはチャオの守護神であり、ある時暴走して大災害を起こしたようだ。その時カオスはカオスエメラルドの力を利用して自らの姿を変化させたようだ。カオスエメラルドが増えるごとに大きくなり、最終的には町一つを水没させたようだ。そのカオスはチャオの突然変異体と考えられていたらしい。カオスの姿を描いた鉛筆画が挿入されていた。チャオを人型の化け物にアレンジした姿だ。ライトカオスチャオに似ている。そう思った瞬間カオスチャオという名称の由来がこの化け物であることに気が付いた。誰もがどうしてカオスなのかわからないままカオスチャオと呼んでいた。スピアは、へええ、と感嘆の声を上げていた。
 カオスの資料の次はドクターフラッシュの研究についての資料であった。カオスエメラルドの研究について書かれてあった。フラッシュはカオスチャオをカオスに変化させることができれば、よりカオスエメラルドに近い宝石が手に入ると考えているらしい。あるいは人間の心臓がカオスエメラルドになることを期待していると書いてある。魔法を使ううちに人間の心臓は少しずつ宝石になっていく。魔法使いの死体から心臓を取り出すと、一部が直径約五ミリの宝石に変化している。その宝石もエンジェルエメラルドと同じように使うことができるが、小さ過ぎるために力が弱い。心臓が丸ごと宝石化すれば、カオスエメラルドと同等の力を持った石になるのではないかとフラッシュは考えているようだ。
 そして最後の一枚は印刷物ではなく、賢者ブレイクに会って真実を手に入れる、とマジックで書かれてあった。

 スピアはドクターフラッシュの研究室に駆け込んだ。研究室にはフラッシュとレジストがいた。そして数秒経ってアックスが突然現れた。瞬間移動の実験中のようだった。
「クレイモア知らない?」
 マンションの部屋にはいないようであった。フラッシュが、
「どっか行ってしまったよ」と言った。「カオスエメラルドを一個無理矢理取って、カオスコントロールをした」
 ホルダーを見ると、カオスエメラルドが一個しかなかった。アックスが一個持っていて、この研究室にあるのはそれで全てのようだった。
「そう」
「どうやらあいつの魔法はカオスエメラルドのサポートがないと上手くいかないらしい」
「へえ」
 スピアは壁にもたれて座り、息を整えながらクレイモアのことを考えた。彼が何をしようとしているのかなんとなく予想できる気がした。世界革命によって人々から失われた記憶を賢者ブレイクは持っていると思ったのだろう。それで賢者ブレイクに会ってその記憶を手に入れるつもりなのではないか。もし手に入れたらまたパソコンに向かうのだろう。クレイモアがタイピングしている姿を鮮明に想像できて、スピアはほっとした。きっとまた会えると感じたのだった。
「それで、アックスは何してたの?」
「カオスコントロールの実験」
「どんな感じ?」
「カオスエメラルド一個だと限界があるようだ。二人以上が遠くに飛ぶのは難しい。しばらくは今まで通り電車で移動だな」
「ふうん。世の中甘くないんだ」
 それだけ交通費を節約するのは難しいってことなのだろう、とスピアは思った。アックスはフラッシュを見た。険しい顔をして、
「ところで博士。カオスコントロールの最中に何か変なものを見たような気がするのですが」と言った。
「変なもの?なんだそりゃ」
「景色です。移動先とは全く違う景色でした。広い、とても広いチャオガーデンのような場所でした。一面緑で、遠くに砂漠が見える。そんな場所、ありますか。そういえば木の数が少なかった気がします」
「どうだろうな。私はあまり地理に詳しくない。どこに何があるのかもよくわからん。それで、その景色がカオスコントロールすると見えるのか?」
「一度だけ見えました」
「一度だけ。毎回見えるわけじゃないということか?」
「はい」
 フラッシュは目を瞑り額に手を当て考え込む。しばらくするとそのままの状態で首を振って、
「わからんな。何かのエラーなのだろうか」と小さな声で言った。
「カオスエメラルドの力の代償ということはないですか」とアックスが言った。
「代償とは?」
「世界革命で記憶が失われたのは、世界を救う代償であったと噂されています。それで俺もイメージした場所とは違う場所に飛びそうになったのでは」
「ああ。そういうことか。しかし代償があるなんて五十年前には言われていなかった。迷信じゃないのか」
「しかしそれでは説明がつかない」
「代償じゃないと私も思うよ」
 スピアが口を挟んだ。クレイモアもあの紙では代償について触れていなかった。本当に五十年前には知られていなかったのだろうとスピアは言った。
「代償があるなら、ソニックってやつが代償で酷いことになってたんじゃないかな。代償なしに世界を変えられちゃうってなると、ちょっと都合よすぎって思わなくもないけどさ」
「とにかく現状ではわからないということだ。また変なものを見ることがあったら報告してくれ」
 フラッシュがそう言って、話が終わったような雰囲気になった。アックスは納得のいかない様子であったが何も言わなかった。

 次の日の朝にカオスエメラルドの情報が入った。一六五町に住む富豪が持っているらしい。アックスたちはフラッシュに一六五町に向かうように言われ、駅に向かった。スピアは、仲間が一人増えていることが気になっていた。まだ成人していないように見える男がアックスと一緒にいるのだった。
「あのさ、その子誰なの」
「ああ。こいつはブロウ。元々俺たちのチャオガーデンでチャオの飼育をしていたんだ」
 ブロウは、よろしく、と言った。チャオガーデンには将来エンジェルエメラルドとなるチャオがたくさん飼われていた。その全てのチャオをブロウは育てていた。
「よろしく。で、どうしてチャオの飼育をしている子が一緒に来るの」
「こいつの魔法も特殊なんだ。負傷した体を治すことができる。回復魔法だ」
「そうなの?」
「まあ」
 ブロウはおどおどしながら頷いた。そして彼はアックスに、
「あの、これから殺し合いに行くんですよね。負傷した人全員助けなきゃいけないんですよね」と聞いた。
「全員助ける必要はない。俺たちだけでいい」
「あ、そうなんですか」
 ブロウは俯いた。アックスは、自分たちだけでは不満なのかもしれない、とブロウの心の内を考え、
「負傷したチャオがいたらそいつらも助けていい。こっちのガーデンで面倒を見よう」と言った。
「はい」
 それでも俯いたままであった。戦いそのものが嫌なのかもしれない。しかしそうであってもアックスは連れて行くのをやめるつもりはなかった。これからの戦いでスピアやハルバードやサイスが死んでしまわないよう彼の能力が欲しかった。死んでも生き返らせることはできるのだが、スピアが感じたようにアックスもまたクレイモアの様子に違和感を持っていた。生き返ると同時に得た能力のために彼の人生が大きく変化してしまったように感じられた。

 一六五町には確かにカオスエメラルドがあるようだった。アックスはアンテナのような直感を頼りにカオスエメラルドのある方へスピアたちを導いた。しかしその途中の路地で数十人の人間に挟まれた。その集団の半分が銃を持っていて、アックスたちに向けていた。もう半分はおそらく魔法使いで、そちらの方が手ごわい相手だろうと想像できたが、威圧する力は銃の方が上であった。凶器を向けられているのが明らかにわかるためだった。
「大人しくしろ」と銃を持った男の一人が大声で言った。「我々はGUNだ」
「行くよ」
 スピアはそう言うなり、GUNの兵士たちに向かって駆け出した。左右に大きく動き、高く飛び上がり、銃弾を避ける。そして右手の剣で一人の喉を貫き、左手から銃弾の魔法を放って別の一人の頭を吹き飛ばした。躊躇いを捨てて、スピアは相手を殺すように動いた。
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ピュアストーリー 第五話 嫌だ
 スマッシュ  - 13/11/30(土) 0:00 -
  
 人を殺すというのは恐ろしいことだとハルバードは感じていた。クレイモアが死んだことによる影響もあって、とんでもない罪を犯したという意識があった。そしてその罪の意識がサイスを救いたいという思いを強くしているようであった。人を何人殺してでもサイスを幸せにしようという前向きな暗さを持った。そうなると人を殺した罪で捕まるわけにはいかない。ハルバードは〇八三町から離れることに必死になっていた。
 既に〇八三町の外に出たようだった。商店の気配のない、山の見える道を歩いていた。車道は狭く車一台分の幅しかない道であった。道の脇に生えている木の枝が車道の上まで伸びていた。自然の緑が落ち着きを周囲に与えているようで、ぼんやりと緑を見ていたハルバードも警戒を解いていいかもしれないと思い始めていた。
「あんたたち、ハルバードとサイスだな」
 背後から声がして、ハルバードの目から緑が消えた。振り返ると茶色のスーツを着た背の高い男が立っていた。サイスが男の顔に狙いを定めていた。男は両手を上げた。
「俺は敵じゃない」
「じゃあ何者だ」
「お前たちの仲間だ。先生の命令で動いているシュートという。情報屋兼盗人といったところだ」
「なんだそりゃ」
 ハルバードが首を傾げた。その反応を見てシュートは笑う。笑いながら、
「まあ想像しにくいかもな」と言った。
「先生って?」とサイスが聞いた。サイスはまだ警戒を解いていなかった。
「ホープってカオスチャオ。お前たちも知ってるだろ」
「どうしよう」
 サイスはハルバードに尋ねる。ハルバードも、どうしよう、と呟いた。仲間かもしれないと思うものの信じ切ることができず、いっそ殺してしまおうかと考えていた。
「情報屋兼盗人っていうの、詳しく知りたいんだけど」
 知ったところで疑いが晴れるとも思えなかったのだが、彼がどういうことをしているのか聞きたいという気持ちが強かった。
「そうだな、まず情報を仕入れたり情報を売ったりする。情報屋だからな。で、時には情報を基にして盗みを働く、というわけだ。有益な情報を持っていても実行する力を持っていない者から依頼を受けることもある。初めてやる連中と組んで、レクチャーする見返りに分け前を多くもらうなんてこともしている。とにかくそうやって金儲けをしているというわけだ」
 シュートは淡々と語ったが、サイスはどこか誇らしげにしているように感じて、
「殺した方がいいんじゃないかな」とハルバードに言った。
「流石に死刑にはできないんじゃないか」
「おいおい。仲間だって言ってるだろ。先生の命令で動いてるって。殺すとかないだろ」
「先生の命令って、具体的にはどういう命令なんだ?」
「カオスエメラルドだ。先生はよっぽどそいつを他人の手に渡したくないみたいだな。先生は情報を買ったり売ったりすることはあったが、盗みを依頼してきたのは初めてだ。そしてつい昨日ハルバードとサイスというやつらと合流しろって命令が出た。それで俺はお前たちの前にいる」
「だってさ」
 そうサイスが言った。ハルバードは、うん、とだけ答えた。やはり二人はシュートのことを信用しようという気分にはなれなかった。先生に電話しようにも電話番号を知らない。ハルバードは困った挙句、
「とりあえず情報屋兼盗人っていうのは信頼できるんじゃないかな」と言った。
「まあ、仲間だっていうのよりかはね」
「なら仲間になってもらおう。彼は盗みを働く力を持っていない人に力を貸してくれるそうだし」
「信じられないならそういうことでいいさ」とシュートが言った。「いい加減、腕が疲れてきたんだがな」
 サイスは腕を下した。シュートも両手を下げ、肩が凝ったため首を回した。ごりごり、と音が鳴った。
「そうだな。じゃあお前たちにこれを渡しておこう」
 シュートはそう言って懐からヒーローチャオの頭上に浮かんでいる輪のような物体を二つ出した。それを一つずつ二人に渡す。
「これは相手方が作った物で、カオスエメラルドの代わりのようなものらしい。と言ってもカオスエメラルドほど強力でもないみたいだがな。それを使えば大量の魔力を引き出せるようになるそうだ。素人でも魔法使い顔負けの魔法を撃てるって噂だ」
「それ本当?」とサイスが聞く。
「試してみればわかるさ」
 そう言われてサイスは魔法を使ってみた。物を浮かす魔法である。三人の足が大地から離れる。
「本当だ」
 サイスは興奮気味に言い、魔法の力を弱めていった。以前は人を一人浮かすことができれば上出来であった。今は簡単に三人を持ち上げることができる。ハルバードも興奮していたが、すぐに冷めた。この輪を持っていたからスピアは強かったのだと気付いたのであった。今の自分たちなら戦えるかもしれないが、このような輪の存在を知らない多くの人々は太刀打ちできないだろう。そのことがどうしてだか恐ろしく感じられた。そう感じる理由がすぐには浮かばなかった。大勢の人が殺されるところを考えても怖くない。守ろうという気持ちも生まれてこない。自分がそう思っていることを認識すると、スピアがいるから不安なのだとわかった。恐ろしい連中の中にスピアはいる。その現実は拒絶したいものだった。
「どうしたの」
 サイスに言われて、黙って考え過ぎていたことに気付く。
「なんでもないよ」
 ハルバードはシュートを見て、
「これありがとう。使わせてもらうよ」と言った。とにかくこれが無ければ何もできない。スピアとぶつかることさえも。そうハルバードは思った。

 ハルバードとサイスはホテルの中で一日のほとんどを過ごしていた。シュートを仲間にした日は、警察に見つからないように大人しくしていようという考えからホテルの中にいたのだが、夜中に情報を集めてきたシュートが、
「警察は犯人について、若い男女の二人組ってところは把握しているみたいだ。他に目撃者がいれば、もっと詳しいことまで知られてしまうかもな」と言ったので移動の時以外はホテルの中で過ごすことにしたのだった。二日に一度は隣の町に行くために外に出た。
 ホテルでは大抵ツインの部屋でハルバードとサイスが一緒になった。互いに異性であることを意識してしまう。それでも信用し切れていないシュートと一緒になるよりかはいいとハルバードは思っていた。サイスも似たようなことを思っていて、一緒の部屋ならハルバードを守ることができると安心していた。シュートがずっとホテルの中にいるのは暇だろうと配慮して渡してきたトランプでポーカーをして遊んでみたり、テレビでワイドショーや再放送のドラマを見たりして過ごしていた。そのように暮らしているうちに、常に並んで座っているようになっていた。
 事件を起こしてから三日目の昼、二人はワイドショーを見ていた。自分たちの起こした殺人事件のことには触れられず、全く違う場所で起きた殺人事件について報道していた。こうして次から次へと奇怪な事件を見つけてはそれに注目するのだとハルバードは改めて知った。自分にも記憶から抜けていった無数の事件がある。きっと自分たちの起こした事件も大半の人は忘れていくのだ。もしかしたら既に忘れているかもしれない。
「こうしていると昔を思い出すな。ソファに二人で座って、俺の親が帰ってくるのを待ってた」
「そういえば昔と一緒だ。あいつが帰ってこないとご飯食べられない」
 食事はシュートが買ってくる。朝に一日分の食べ物を渡されるから待っているという感じはなかった。それでも彼がいなければ生きていけないような気にさせられて、子供の頃を思い出してしまうのだった。
「俺たちあの頃から変わってないのかな」
「どうだろう。変わってるって思いたいけど」
「スピアは変わってしまったのかな」
 サイスは考え込んでしまった。
「あ、変な意味じゃなくてさ。ただ何もかも悪い方に進んでいるような気がしてさ」
「うん。わかる。変われないし変わっちゃうんだよね。スピアとも戦わなきゃいけないのかな。嫌だなあ」
 そう言ってサイスは仰向けに寝転がった。嫌だ嫌だ、と繰り返し言った。
「嫌だよなあ」
 ハルバードも溜め息をついて同じことを言った。するともう、嫌だ、と気持ちで頭の中がいっぱいになる。スピアと戦わなくてもいい世界になってほしいと思ってしまう。カオスエメラルドの力でそういう世界に変えることができれば。しかしそのカオスエメラルドを奪い合って戦っているのである。嫌だ、とハルバードは思った。
「そういえば警察の情報をどうして手に入れられるんだろう」と仰向けのままサイスが言う。
「どうしてだろうな。明日聞いてみるか」
 サイスは体を転がしてうつ伏せになると、這うように動いてベッドを横断した。そして部屋に備わっているラジオの電源を入れた。最近のヒットソングが流れ出す。愛の歌だ。最近は愛の歌がよくヒットする。殺人事件の被害者は年に数百万人。人口は増えもしなければ減りもしないといった具合であったが、殺人事件があまりにも多いために人類に危機が訪れているように人々は感じていた。結婚し子供を産んで温かい家庭の中でずっと暮らす。そのような夢を歌にしたものが人々の心を潤すのだった。ワイドショーはスポーツの話題になっていた。

 英雄と名乗る集団はカオスエメラルドを少なくとも三つ所持している。カオスエメラルドは全て集めるつもりであったし、ホープからも彼らを倒すようにと言われていたので、彼らの拠点を見つけてそこを叩くことをハルバードたちは目標とした。シュートは拠点の情報もカオスエメラルドの情報も入手できないでいたものの、それ以外の情報はよく入手してきた。特にハルバードとサイスが起こした殺人事件についてはよく調べているようであった。
「どうも人物像がはっきりしないらしい。どの情報が信頼できるのかよくわからない状態らしくてな、そもそも本当に二人だったのかなんて意見も出ているみたいだな」
「どうしてそんな風になってるんだ?」
「逃がさないように気を付けたからじゃないかな」
 徹底的に殺すよう努めたのはサイスであった。彼女は機関銃のように弾丸の魔法を撃ち続けることができた。それでもって逃げようとした敵を漏らさず撃ったのであった。
「お前たち、スピアって子と戦ったんだろ。で、そっちも男と女の二人組だったんだろ。ならそいつらを見たってやつらもいて混乱してるんじゃないか」
「ところでさ、どうして警察の情報が手に入るんだ?」
 聞かれてシュートはにやりとした。単純な話さ、と得意そうな顔で言う。
「漏らすやつがいるのさ。警察やGUNの中に」
「どうして漏らすの」とサイスが聞く。
「金が欲しいやつ。普通の人間が知らないことを話したがるやつ。色々いる。今回は情報を求めて漏らすタイプもいたよ」
 シュートはそこで間を置いて、二人が興味を持っていることを表情を見て確かめた。そしてまた語り出す。
「お前たちをどうしても捕まえたいやつが情報を求めて金や情報を出す。そうしてスピード解決って筋書きなんだろうが、上手くいかなきゃ漏らした情報が犯人に伝わってしまうこともある。まさに今回はそのパターンだな」
「じゃあもう安心なのかな」
「気を抜くなよ。ある日突然有力な情報がってこともある」
 そう言った翌日にシュートは有力な情報を手に入れてきた。カオスエメラルドについての情報であった。一六五町にカオスエメラルドがあるらしい。そこに住んでいる富豪が持っているらしいとシュートは言った。三人は一六五町に向かった。その途中の電車でシュートが、
「盗むのは俺に任せてくれ。問題は英雄とか名乗っている連中も情報を手に入れて来ているかもしれないってことだ。その時はお前たちに戦ってもらうことになる」と言った。
「わかった」
「着いたらいつも通りお前らはホテルで待機していてくれ。ただいつでも出てこれるように準備はしておいてくれ」

 一六五町はゆったりとした住宅街で、家と家の間隔が広かった。それだけそれぞれの敷地が広いということのようだった。一六五町に住む富豪がカオスエメラルドを持っていると言っても、富豪が住んでいそうな大きな家というのはいくつもあった。プールが設けられている。大きな木が一本植えられていて、その木が庭の王に見える。そういった光景を見る度に三人はげんなりとした。
 一六五町に着いた日、シュートはカオスエメラルドを奪ってこなかった。それでもどこの家にカオスエメラルドがあるのか突き止めてきた。
「それと気になる情報がある。GUNが動いているって噂だ。一般の魔法使いの協力も得て、カオスエメラルドを奪おうとしている連中を叩こうとしているみたいだ」
「それって、ここでってことか?」
「ああ。だから俺たちはやつらが戦闘を開始したところで、どさくさに紛れてカオスエメラルドを奪いに行きたいと思うんだが」
「火事場泥棒だね」とサイスが言った。シュートは頷いた。

 よく晴れた日であった。空の青がずっと遠くまで続いている。所々に浮かんでいる小さな白い雲は青色のおまけのようだった。あまりにも綺麗な青だったためずっと見ているとこれから起こる惨劇の光景まで見えてきそうであった。敵は魔法を強化する輪を持っている。きっと多くの人が死ぬだろう。未来の出来事が事実として空を見ているハルバードに染み込んできた。
 騒動が起きたという情報をシュートは知り合いの情報屋から電話で入手して、
「行くぞ」と二人に呼びかけた。
 ハルバードは、ああ、と答えて駆け出した。快晴であった。不安に貫かれながら走った。
 カオスエメラルドを持っているという富豪の家の周囲に着くと、死体がいくつも転がっていた。死体をよく見ると魔法の弾丸で撃ち抜かれて体の一部が吹き飛んでいるものと、刃物の痕があるだけで綺麗に体が残っているものがある。刃物にやられた方の人はまだ生きているのではないかと思うくらいであった。ハルバードは一人の肩をゆすりながら声をかけてみた。しかし既に息絶えていた。
「家の中かな」とハルバードは死体が寝そべっている庭を見た。
「まだいるといいんだがな」
 シュートはそう言って敷地の中に入る。走りながらハルバードとサイスの方に振り返り、
「早く来い」と言った。
 戦うことのできるハルバードとサイスを前にして三人は邸宅の中に入った。ドアは壊されていた。上半身と下半身に分かれたドアが倒れている。その壊れたドアを踏んで三人は中に入った。すると奥の部屋から出てきた四人組と玄関ホールで鉢合わせした。その四人の中にはスピアもいた。
「帰ってなかったんだ」とスピアが言った。
「カオスエメラルドを集めなきゃいけないんだ。ここにあるって聞いたから来た」
 ハルバードがそう言うと、スピアは剣を構えた。
「もう一度言うよ。帰って大人しくしていて。カオスエメラルドは私たちが手に入れる。そして世界を変えてみせる」
 シュートは階段に向かって走り出した。スピアの言葉からカオスエメラルドをまだ入手していないことが見えたのだった。男がシュートを追おうとした。〇八三町でスピアと一緒にいた青年だった。しかし青年の数歩先の床を無数の弾丸が削った。サイスが弾丸の魔法を機関銃のように連射したのだった。
「二人は下がってて」
 スピアは自分の後ろにいる二人の男にそう言った。そしてハルバードとサイスにはっきりと敵意を向けた。剣を握る手や脚に力が入っていくのがわかった。サイスに妨害された青年も剣を構え、スピアと並んだ。スピアと青年が動きそうだと直感した瞬間にハルバードは弾丸の魔法を十発同時に発射した。前に出なければ当たらないように撃ったのだが、直感した通りに青年が大きく前に動き出していた。彼は瞬時にスピアの盾になるように横に動いた。脚に何発か当たるが、弾は貫通しなかった。そのまま前進しようとするのでサイスが腹部に大きな弾を一発撃ち込んだ。やはり貫通しなかったが青年は衝撃で後ろに吹き飛び倒れた。青年は意地でも戦うといった風に鈍くも力強い動作で起き上がり、剣を構えた。
「無理しないで」
 スピアが前に出る。それに対応してハルバードも前進した。スピアがハルバードに飛び掛かった。ハルバードは魔法で水を撃ち出した。水流を顔に当てて前を見えなくしたところで横に動いて攻撃を避ける。さらに自分の方を見た瞬間に再び水流を浴びせた。スピアは顔を逸らそうとするばかりで動こうとしなかった。ハルバードはスピアの肩を蹴り飛ばした。殺傷力の高い銃弾の魔法を何発か撃ち込む覚悟でいたが、そうする必要がないくらい実力に差があることをハルバードは実感した。スピアたちが使っている輪を自分たちも持っている。そうして対等になってみれば魔法の扱いが上手い方が有利なのだ。
「見つかったぞ」とシュートが戻ってくる。
「私たちの負けか」
 スピアはシュートの持っているカオスエメラルドを睨んだ。髪の毛は濡れていくつかの細いまとまりになっていた。その先端から水滴が落ちていた。
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ピュアストーリー 第六話 真実を知る者
 スマッシュ  - 13/11/30(土) 0:00 -
  
 情報はあらゆる場所にあった。本の中、人の脳、大地。クレイモアの魔法はそれらから情報を引き出すことができた。とりわけ得意なのは人の記憶を入手することである。本に書かれたものを魔法によって頭に入れても、言葉の用い方が違うために理解することが難しい。自分なりの言葉で翻訳しなければ役に立たないのである。そして大地に刻まれた情報は人間の利用する情報とは異なるのでクレイモアには読解ができなかった。地層を見ても知識がなければ何を意味しているのかわからない。それと同じようなものであった。そういうわけで最も簡単に利用することができるのは人間の記憶であった。
 クレイモアは人々の記憶を集めながら旅をしていた。人の多い所を歩いて記憶をある程度集めたらカオスコントロールで別の場所に行く。そうやって一日にいくつかの町を歩いた。欲しい情報は五十年前に失われたはずの記憶と賢者ブレイクが今どこにいるのかという情報だ。それ以外の情報は破棄する。カオスエメラルドの力を借りれば記憶を捨てるということも簡単に行うことができた。捨てた記憶は数日前の夢のように何も思い出せなくなる。
 老人たちの記憶にはカオスエメラルドの情報が時折見られた。カオスエメラルドについては、噂のような情報を持っている若者もいたが、老人たちが持っていたのは学校で習ったような知識としての情報であった。ドクターフラッシュが持っていた情報と同じような記憶であったが、ドクターフラッシュの記憶が最も鮮明なものであった。それでも町中ですれ違った老人たちの記憶はドクターフラッシュの記憶におかしな点はないのだと裏付ける情報となった。
 賢者ブレイクがどこにいるのか。その点に関しての情報はあまり見つからなかった。賢者ブレイクは人前に姿を出てこないということで有名である。世界革命を起こした際に世界が変わったことを人々に伝えたのだが、しばらくすると姿を消してしまった。まだ生きているのかさえわからない。世界革命から五十年経っている。若くても七十歳前後。死んでいてもおかしくない年齢である。人々は身近にいる不気味な老人のことを、もしかしたら賢者ブレイクなのではないか、と面白半分に噂しているようだった。恐ろしげな風貌のホームレスがその噂の対象になる傾向があった。

 多くの人が失った情報は世界からも失われていた。例えばカオスエメラルドに関する本はどこにもない。それでも覚えている人間が稀に見つかる。
 ソニックというハリネズミのことを覚えている人間は比較的多かった。カオスエメラルドのことを覚えている人間の二倍くらいいた。そして中にはソニックと一緒にいたキツネのことを覚えている者もいた。名前はテイルスなのかマイルスなのかはっきりとしない。人によって記憶している名前が異なっていた。しかし誰もソニックが何年前に活躍したのか知らなかった。大昔にソニックが活躍して世界を救ったという出来事自体は常識に近い知識であるようだった。歴史上の有名人といった具合で、学校でも教えられていたようだ。しかし教育の場でもそれがいつの出来事なのかはっきりとは語られなかったようである。本当にあった出来事なのか怪しいとクレイモアは感じた。スペースコロニーアークという物が登場する事件があったと人々は教えられたらしいのだが、そのようなスペースコロニーは見つかっていない。
 もう一つ不思議なのは五十年前にエネルギー問題とは別の問題に不安を抱えていたようなイメージが老人たちの記憶の中に見つかることだ。不安だったという印象が残っている人がいくらか見つかった。クレイモアの祖父がそうであったように、彼らは身の危険を感じている風の強い不安を当時抱えていた。世界革命はそもそもエネルギー問題を解決するためのものだったのだろうか、とクレイモアは思った。その強い不安を解消するためのものだったのではないか。エネルギー問題の解決は、チャオが人の言葉を話すことができるようになったのと同じで、副産物だったのではないか。では当時の人々が直面した問題は一体何だったのか。なぜその記憶が失われたのか。

 クレイモアは賢者ブレイクを見つけた。賢者ブレイクかもしれないと噂されている老人をしらみつぶしに確認したのだった。賢者ブレイクはここ最近墓地に出没するようになった老人であった。平らな敷地に墓が整列している。老人は墓地の奥の墓の前にいた。新しく出来たばかりの墓で、それより奥にはまだ墓石がない。無数の十字架の奥にいるその老人の記憶には世界革命以前の情報が鮮明に残っていた。彼は墓の前にあぐらをかいて、じっと座っていた。クレイモアは彼の記憶を読むのに五分ほど夢中になっていた。老人がクレイモアに気付いて、振り向いた。白い髪は短く、髭は剃ってある。頼りなさそうな顔の老人であった。
「あんたが賢者ブレイクなのか」とクレイモアは言った。
「人違いだ」
「あんたの記憶がそう言っている」
「記憶?」
「俺の魔法は、人の記憶が読める」
 老人はクレイモアの目を凝視した。クレイモアは老人の記憶に心を奪われていて、ややぼんやりしながら老人を見ていた。
「確かに私がブレイクだ」と老人は言った。
「この記憶は本物なのか?」
 クレイモアは混乱していた。魔法で記憶を読んでいるのだから、意図的に作った記憶であればそうとわかる。相手に尋ねなくても記憶が教えてくれるのに聞いてしまった。
「ああ。事実だ」
「それじゃあ異文化ウイルスとかいうやつは今も世界中で広まっているのか」
「だろうな。でなければこんなに人殺しは起きないだろう」
 異文化ウイルス。老人の記憶によると、それは実際のウイルスとは異なるもので、流行り病のように広まりやすい異文化のことであるらしい。その異文化に感染した者は殺人行為への抵抗が薄れてしまう。例えば犯罪者は殺しても構わないと考えるようになる。その異文化ウイルスはこの世界とは異なる所から送られてきていて、その発信源は敵と呼ばれていた。敵は異文化ウイルスによって攻撃をしかけてきたのである。そしてその攻撃によって今もなお一年に起きる殺人事件の数は増加している。
「じゃあ俺たちはその敵と戦争中ってことになる。しかも今の俺たちは無抵抗にやられている状態だ」
「そうだ」
「そしてあんたは人々の記憶からその異文化ウイルスのことを消し去った」
「そうだ」
 クレイモアは言葉を失っていた。不満を感じているものの、老人の記憶を手に入れているために老人の気持ちがよく理解できていて何も言うことができなかった。老人は墓に向き直った。
「私にとっては戦争なんてどうでもよかった。武器や兵器で戦っているわけじゃない。現実に起きているかどうかわからない戦争だ」
 不思議なことに老人がそう喋ると、自然と言葉が出てきた。
「俺たちにとってはどうでもよくない。俺の弟は学校で殺された。俺の友人も両親を殺された。その友人の両親はたくさん人を殺していた。自分の身の周りにいる人間が殺されていたり、誰かを殺しているという人間はとても多い」
 事実を客観的に語っているだけのような語調であった。詳細を思い出すことはできないが、人々の記憶を見る中で殺人事件に関する記憶を持っている者が多かったことを記憶していた。自身の弟が殺された記憶もそのデータの一部分として埋もれつつあるようであった。
「どうせ負ける戦いだろうさ。この国では普通米を食わない。その文化を私たちは変えることはできない。一方で敵によってその文化が変えられることはあり得る。一方的だ。戦うどころか守ることさえできないのだから」
「それでも人々は真実を知らなければならない。人間は真実を摂取して生きなければならない。それにあんたの望みはもう叶えられた」
「そうだな。ソフィアはもう死んだ。私の戦いは終わった。君たちはもう私の敵ではない」
 老人が背を向けたまま言った。クレイモアは、
「これからは俺たちの戦いだ」と言い、立ち去ろうとした。しかしその途端にひらめいた。
「あんた、カオスエメラルドにならないか」
「何?」
 老人の記憶によれば、世界革命の際ブレイクは魔法の扱いのセンスには才能とでも言うべき先天的な個体差が出るように仕組んだらしい。そしてブレイクと彼の恋人のソフィアは誰よりも優れた才能を持っているように設定した。それならば二人の心臓は他の誰よりもカオスエメラルドに近付いているということになるとクレイモアは思ったのだった。
「あんたの心臓はもしかしたらカオスエメラルドに近い物になっているかもしれない」
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ピュアストーリー 第七話 人を殺すのはよくない
 スマッシュ  - 13/12/7(土) 0:00 -
  
 カオスエメラルドを手に入れたハルバードたちが屋敷から脱出すると、一人の女が屋敷に向かって走っているところに出くわした。
「あなたたちは?」
 女は右手をかざしながら言う。
「俺たちは英雄って名乗っているやつらと敵対している。俺たちはやつらと互角に戦える。だからカオスエメラルドがここにある。見逃してくれるなら、あんたとは戦わない」
 ハルバードがそう言うと女は手を下した。戦っても勝ち目はないからそうするのが当たり前だろうとハルバードは思った。通り過ぎようとすると女が、
「あいつらと戦うの?」と言った。
「それはつまり?」
「戦って倒すつもりでいるの?」
「俺たちはカオスエメラルドを集めなくちゃならない。だからいつかは戦ってカオスエメラルドを手に入れる」
「それなら私も連れて行って」
 女はペネトレイトと名乗った。彼女は一般の魔法使いとして今回の戦いに参加していたらしい。目的は彼らの野望を阻止することだと語った。彼女は元々彼らの仲間だった。しかし彼らの目的である世界平和を達成するためにカオスエメラルドの力で全人類をチャオに変えるつもりであると知って彼女は敵意を抱くようになったのだった。
「チャオは人間みたいに仲間を殺さないって。だけどだからって人をチャオにするなんてあり得ない」
 ペネトレイトは非常識だと怒っていたが、ハルバードには理解できる気がした。世界革命以降チャオは人の言葉を話すようになった。ホープやアックスとは人と話すように会話していた。人間をダンゴムシに変えると言われればペネトレイトのように怒るかもしれないが、チャオに変えられても問題はあまりないように思われた。転生があるものの寿命が短いという心配はあるかもしれない。そのように思ったがハルバードは口に出さなかった。

 ホテルには男二人女二人という分け方で泊まることになった。ハルバードはベッドに乱暴に倒れた。シュートのことを信用しようという気になっていたのでシュートと一緒の部屋になることに抵抗はなかったが、サイスと引き離されたようにも思えた。シュートは部屋に入ってすぐに携帯電話のバッテリーの充電を始めただけでテレビもラジオも付けなかった。替えのバッテリーを携帯電話に入れる。
「カオスエメラルドはお前に渡しておこう」
 そう言ってシュートはハルバードが寝転がるベッドの枕元にカオスエメラルドを置いた。ハルバードはそれを手に取って眺めた。赤いカオスエメラルド。シュートは洗面台に行ってコップに水をくみ、自分のベッドに腰掛けた。
「人間がチャオに変えられるって、どう思う」
「わからん。カオスチャオになれるなら歓迎かもな」
「不死身だからか?」
「ああ。先生は一体何歳なんだろうな。世界革命より前から生きているのは確かみたいだが」
「そういえば聞いたことなかった。百超えているって噂、聞いたことはあったけど」
 シュートは水を一気に飲み干した。そして立ち上がった。
「本当にチャオになれば殺し合うこともなくなるのかという疑問もある。それに殺し合わなくなったとしても、代償がないとも限らないわけだ」
 そう言って洗面台にコップを戻す。
「代償って、記憶を無くすとか?」
「それ以外にもあるかもな。例えば、そうだな、チャオになったらもう文明が発展しないかもしれない」
 シュートは出掛けてくると言って、部屋の鍵を持って出て行った。カオスエメラルドは整った形をしていて、歪な所はどこもない。綺麗ではあったものの見ていて飽きる形でもあった。ベッドの上に投げ出して、テレビを見ることにした。戦いの後にしては疲れはなかった。短時間の戦闘だったしこちらは無傷で全く苦戦しなかったからかもしれない。こんなにも簡単なものだったのだなと思いながらニュースを見る。ニュースでは俳優の訃報が流れていた。九十代の俳優だったためハルバードはよく知らなかった。病気で亡くなったらしい。

 翌朝ハルバードたちの部屋に四人で集まった。朝食を兼ねた会議である。朝食はシュートがコンビニで買ってきたサンドイッチとトマトジュースであった。トマトジュースはあまり好きでなかったがサイスは渋々と飲む。そして同じく嫌っている様子のペネトレイトに飲むように促した。
「とりあえずペネトレイト、君の能力を知りたいな」とシュートが言った。
「私が得意なのはバリア。防御専門だと思って」
「本当は大口径の射撃の魔法も得意なんだけど、あんまり使いたくないんだって」とサイスが補足した。既に彼女と魔法の話をしていたらしい。
「大口径っていうのは?」とシュートが聞いた。
「普通の射撃の魔法が拳銃なら、ペネトレイトが得意なのはライフルみたいな。狙撃できるし威力もあるんだ。でも弾が大きい分作るのに時間かかるし、魔力を上手く節約して作るのも大変なんだよ。だけどさ、見せてもらったんだけど、凄かった。完璧だったよ。普通は連射できないんだけど、やろうと思えば何発か一気に撃てるんじゃないかな、あれなら」
 サイスは興奮気味に話した。ハルバードもサイスの気持ちがいくらかわかる気がした。一発だけ狙撃に使うという場合以外に実用性がほとんどない魔法だ。その魔法についてサイスが興奮気味に話すということは随分優れた使い手なのだろうと予想できた。門外漢のシュートが落ち着いた様子で、
「まあでも使うつもりはないんだろ」と言った。「それならバリアとやらで俺を守ってもらうことにしよう」
 シュートはカツサンドにかぶり付き、トマトジュースで流し込む。
「カオスエメラルドの情報が入った」とシュートは言った。「五六二町にあるみたいだ」

 四人は快速列車に乗って南下して五六二町に向かった。五六二町に着いてまずシュートが情報収集をすることになった。スピードが命だとシュートは言った。敵より先にカオスエメラルドの在り処を調べて手に入れなくてはならない。三人はホテルで待機となった。いつ外出することになってもいいように寝ようかと考えているとハルバードは考えた。隣のサイスたちが泊まっている部屋のドアの閉まる音が二度聞こえた。なんだろうと思っているとサイスからメールが届いた。カオスエメラルドを探しに行ってくる、と書いてあった。慌てて電話を掛ける。すぐに繋がった。
「どうしたんだ一体」
「ペネトレイトと喧嘩した」
 無愛想に言った。
「どういうこと」
「ペネトレイトが人を殺すのはよくないなんて馬鹿なこと言うから、殺さなきゃ手に入らないって言った。で、ペネトレイトがそれなら誰も殺さずに手に入れてみせるって言って出てったから、私も先に手に入れようと思った」
「そんな無茶な。シュートが情報を入手してくれるのを待った方がいい」
「やだ。それにこの輪っか、カオスエメラルドが近くにあると反応するから、私の方が有利だもん。それじゃ」
 サイスはそう言って通話を終了した。ハルバードは全員がばらばらに行動するのはよくないと思い、二人を探しに行くことにした。

 アックスたちもカオスエメラルドがあるという情報を入手して五六二町に来ていた。そして喧嘩によって三つのグループに分かれていた。レジストが、また殺すのか、と言ったのが発端であった。
「俺はもう殺すのは嫌なんだ。どうして人を殺さなきゃならないんだ」
「殺さなきゃカオスエメラルドは手に入らない。世界を変えることはできない」とスピアは言った。
 二人はどこかに行ってしまって、アックスとブロウが残された。
「どうしましょう」とブロウが言った。
「探すしかない」
 二人でスピアとレジストを探していると、不審な少女を見つけた。部屋着といった薄着にぼろいサンダルを履いている。そしてバッグなどは持っていない。そんな格好でぼうっと道端に座っていた。家出かな、とブロウは言った。するとアックスはその少女に近寄って、
「君、家出?」と言った。
 少女は話し掛けられたことに驚いた様子でしばらく固まっていたが、こくりと頷いた。
「家に帰る気がないなら俺たちと一緒に世界を変えないか」
 そう言ってアックスは懐からカオスエメラルドを取り出して少女に見せた。ハルバードたちがカオスエメラルドを手に入れてしまったので、彼らに対抗するために一つ持ち出したのだった。
「これ、カオスエメラルド?」
「そうだ」
「じゃあ今いっぱい人殺してるっていう?」
「そうだ。今なら君に凄い魔法をあげるよ」
「凄い魔法?何それ?」
 アックスは微笑んだ。
「人を探す魔法。そしてその人の所へ瞬間移動する魔法。世界で君にしか使えない魔法だ」
 ブロウが驚愕する。少女は笑った。
「それ本当?」
「本当だ。もし君が本当にその力を望むなら」
 少女は俯いて悩み出した。
「やめるべきだ」とブロウが言った。
「彼女が決めることだよ」
 アックスはそう言って少女をじっと見つめる。やがて少女は真剣な顔を二人に見せて、
「やってみたいかも。やってみたいです」と言った。

 レジストはショッピングモールで人を殺してしまっていた。レジストは他人の命を軽く見る傾向があり、つい人を殺してしまうのであった。人を殺したくないと思うのは、殺人は倫理上よくないと冷静に考えている間だけであった。つい人を殺ししまうのに殺したくないと思っているからストレスは溜まる。それでも人を殺したくないと思うことで自分はまだ真っ当な人間であるように感じられた。
 女性が二人死んでいる。二人は友人で一緒に買い物をしていたのだろう。そして笑っているところをレジストに殺された。レジストは人殺しである自分のことを笑っているように感じたのだった。片方は頭の上部が、もう片方は顎の辺りが銃弾の魔法によって砕けて吹き飛んでいた。どうして俺に人殺しをさせるんだ、とレジストは二つの死体に怒りを抱いて睨んでいた。そこにペネトレイトが通り掛かった。
「レジスト、何をやってるの」
 そうペネトレイトはきつい声で言った。二人は知り合いであった。魔法を学ぶ学校で一緒だった。ペネトレイトの方が優秀だった。レジストはペネトレイトのことも殺そうと思った。銃弾の魔法を彼女の眉間目掛けて撃った。しかしペネトレイトはそれをバリアで受け止めた。レジストは学校時代を思い出した。彼女はただバリアを展開するだけでなく、相手が攻撃してくるポイントにだけバリアを張って魔力を節約するのが得意だった。バリアを張っていない所を狙おうとして、どこにバリアがないのか予想しようとした。ペネトレイトが大口径の銃弾の魔法をレジストの足に撃った。踏みしめていた地面がえぐれた。
「大人しくしなさい。そして自首しなさい」
 見下す目であった。屈辱と同時に勝てないという諦めも抱いた。そこにペネトレイトの脇から彼女に突進してくる女が現れた。スピアだった。彼女の剣がバリアに突き立てられる。そしてスピアは肩をぶつけようとタックルする。これもバリアで防がれ、さらに剣を振るもののバリアが受け止める。ペネトレイトが撃った大口径の銃弾の魔法は当たらなかった。スピアは頭目掛けて肘打ちをし、バリアで防がれたのを感じてすぐに脚に蹴りを入れた。これは当たった。
 アックスたちが瞬間移動してきた。それによって数の差を意識して、ペネトレイトは不利だと感じた。逃げようとするが、スピアがそれを許さない。回り込むように動き、タックルしてくる。
「そこまでだよ、スピア」と遠くから誰かが叫んだ。サイスだった。
「そこまでだ」とさらに誰かが叫んだ。男の子だった。携帯電話を取り出して、
「たぶん見つけました。ショッピングモールです」と言う。
 彼は魔法使いになりたくて非合法的に魔法を習っている少年であった。シュートが情報屋の紹介で知り合い、ハルバードが彼に協力してもらおうと決めたのだった。
「大丈夫ですか、治します」
 レジストが怪我をしているのを見つけてブロウが治療の魔法を使った。撃ち抜かれてぐちゃぐちゃになったはずの足が復元する。
「ここはひとまず退こう」とアックスが言い、家出してきた少女に瞬間移動の魔法を使わせた。
「ありがとう、助かった」とペネトレイトはサイスに言う。
「うん。いいよ。怪我はない?」
「大丈夫みたい」
「それはよかった」
「あいつら、怪我を治す魔法を使えるみたいだね」
 吹き飛ばした足先の血肉がまだ残っていた。それを見ながらペネトレイトは言った。
「もっとちゃんと見たかったね。そうすれば真似できそうだったのに」
「できるの、そんなの」
 ペネトレイトは目を丸くした。サイスは頷いた。
「魔法なんてそんなもんだよ」
 連絡を受けたハルバードとシュートが走ってきた。
「あんたと一緒で頼もしいよ」とペネトレイトは笑った。

「ありがとう、助かった」とレジストはスピアに言った。「これからは足並みを揃えていくことにする」
「そう。ありがとね」
「それにしてもどうしてその子は死んでしまったんだ?」
 レジストは少女に視線をやった。二度目の瞬間移動を終えると少女は息を引き取っていた。外から見て異常はないが心臓が動いていなかった。
「代償でしょうか」とブロウが言った。
「魔法の代償なんて、そんなのあるの」
「彼女が作ったのかもな」とアックスが言う。三人はアックスに視線を集中させ、説明を求めた。
「奇跡には代償があると言われている。世界革命のために記憶が失われた、と。そのように彼女も自分の魔法には代償があると思ってしまったのかもしれない。そして魔法はその代償を実現させた」
「勿体ないね」とスピアが言った。
「そうだな。代償なんて考えずに好きなだけ魔法を使えばよかったんだ」

 カオスエメラルドは翌日ハルバードたちが見つけた。カオスエメラルドは二つあった。
「これで俺たちが持っているのが三つ。先生が持っているのが一つ。敵が持っているのが三つということになる」とシュートが言った。
「じゃあ敵の本拠地を見つけてくれ。それで七つ揃う」
「ああ、任せてくれ」
 シュートが昼夜問わず情報収集をしている中、ハルバードは悩んでいた。一応自分がリーダーということになっている。サイスと二人だった時に主導権を握っていた。その名残である。しかし自分はリーダーに足る存在なのだろうか。シュートもペネトレイトも頼りにしたいと思う一方で、自分には彼らをまとめて一つのチームとする力がないのではないかと思われた。ハルバード自身不思議であったが、サイスとペネトレイトの喧嘩が尾を引いていた。
「大丈夫?」とサイスが言った。シュートがいない間一人で退屈だろうと思ってハルバードの泊まる部屋にやって来たのだった。
「わからない」
 ハルバードは素直に答えた。
「本当に俺がリーダーで、二人を率いていていいのかな」
「何が不安?」
「あの二人をきちんとまとめて、一つのチームとしてやっていく、そういうことをしていく自信がないのかもしれない。たぶんだけど」
「大丈夫だよ。まとまらなくてもいいよ」とサイスは少しだけ考えて言った。「最悪二人で頑張ればいいじゃん」
「二人で、か」
 甘い誘惑だ。二人になってしまってもいいと割り切ってしまえばシュートとペネトレイトのことを考えなくてよくなる。ハルバードが揺れていることを理解して、
「二人で一緒に世界を変えようよ」と言い、サイスはさらに背中を押そうとした。「カオスエメラルドわざわざ七つ集めるのってそうするためでしょ。私も一緒に奇跡を起こしたい」
 やがてハルバードは決心した。サイスと二人だけになってもいい、と。

 明け方にシュートは帰ってきた。そしてシュートはハルバードに言った。
「喜べ。本拠地の場所がわかった。それと敵のリーダー格の正体も」
「リーダーの情報もか。凄いな」
「本拠地は三七五町にある。それで敵のリーダーはカオスチャオらしい。魔法で人に化けてブレイクと名乗っているが、本当の名前はアックスというらしい」
「アックスだって」
「知っているのか?」
 ハルバードは言うべきかどうか迷ったが、
「俺とサイスの友達だ」と告白する。そしてシュートに、
「このことはサイスには秘密にしておいてくれないか」と頼んだ。
 シュートは了解した。もうスピアが敵だとわかっているのだから、アックスもそうだったと知ってもショックは少ないだろう。そうわかっていても秘密にしておきたかった。自分が伝えるべきことだと思った。そして伝える覚悟がまだできていなかった。ハルバードの要求通りにシュートはアックスの話をしなかった。
 サイスに伝えられないまま三七五町に着いた。
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ピュアストーリー 第八話 賢者ブレイク
 スマッシュ  - 13/12/7(土) 0:00 -
  
 ハルバードたちは既に三つカオスエメラルドを入手してしまった。クレイモアが帰ってきてカオスエメラルドを返却したのでアックスたちも三つ所有していることになる。アックスは最後のカオスエメラルドをハルバードたちより先に手に入れるために、賢者の称号を手に入れた魔法使いを探していた。クレイモアがその役目を引き受け、アックスたちは拠点のマンションで待機することになった。
 アックスは自信を失っていた。人を殺すのはよくないというレジストの言葉が心の中に残っていた。やはり人を殺すことはよくないことだったのか、とアックスは後悔していた。人間に化ける前は誰かを殺そうという考えを持ったことなどなかった。人間に化けてからもしばらくはそのような考えは生まれなかった。殺さなければならないかもしれない、と思うようになったのはカオスエメラルドを集めることを決意してからだ。アックスは他者を殺めることなど考えてこなかったチャオだったから、人殺しというのがどれだけ罪深いものなのか今でもよくわかっていなかった。
「どうしたの」と部屋を訪ねていたスピアが言った。ソファに座ってうなだれているアックスと向かい合うように立っていた。
「人を殺すことはよくないことだったのか?」
「そんなこと考えない方がいいよ。考えると辛くなる」
「確かに辛い」
「仕方ないよ。殺さないと奪えなかったかもしれないし、こっちが殺されていたかもしれない」
「本当にそうなのか?」
 スピアは、そうだよ、とあっさり言った。アックスは驚いた。カオスエメラルドを奪いに民家に行った時に、殺さなくてもよかったのに、とスピアが言ったことを思い出していた。そのことを彼女は忘れているのだろうかとアックスは思った。あるいは人間の目線で見るとそのような結論に行くのが当たり前なのかもしれない。
「それに最後の一個を手に入れて、ハルバードたちが持っているやつも奪えば、それでもうおしまいなんだから。こんなタイミングで迷ってちゃ駄目でしょ」
「そうだな」
「ありがとね、アックス。アックスのおかげでここまで来れたよ。一緒に最後までやり遂げよう」
 アックスは顔を上げて、
「そうだな。やり遂げよう」とスピアに言った。

 深夜にクレイモアがアックスの部屋を訪ねた。
「賢者のいる場所がわかったぞ」とクレイモアは言った。
「どこだ」
「三七五町だ」
「ここじゃないか」
 クレイモアは頷いた。
「そうだ。ここだ」
「それで三七五町のどこだ」
「このマンションだ」
 アックスは黙した。クレイモアは至って真面目な風に喋っていたが、からかわれたような気がした。
「そうか」と小さな声で言う。
「賢者はホープというカオスチャオのようだ」
 アックスはクレイモアを睨むように見た。その目が、本当か、と言っていた。クレイモアは目を逸らさなかった。
「ここに引っ越してきたのはつい最近のようだ。奪いに行く時には俺も呼んでくれ。大事な用がある」
 そう言ってクレイモアは踵を返す。言うべきことを言い終え帰ろうとする彼に、
「待ってくれ。賢者が先生だということ、スピアには言うな」とアックスは言った。
「わかった」
 クレイモアは振り向かずに答え、そのまま出て行った。

 三七五町に来たハルバードたちは敵が潜伏しているらしいマンションを訪れた。そこで丁度三階の部屋に入るアックスたちの姿を見た。
「あれがあいつらの拠点ってわけだな」とハルバードが言った。
 シュートは自分の持っている情報と違うことに戸惑ったが、黙ってハルバードたちに付いていった。アックスたちが入った部屋のドアは鍵の部分が破壊されていた。不審に思いながら部屋に入ると、リビングには人間の姿をしたホープがいた。ホープはカオスエメラルドを四つ手にしていた。
「先生、これは一体」
「君たちまで来たのか。凄いタイミングだな」
 ハルバードとサイスは、敵の拠点であるはずのマンションにホープがいることに驚いていたからシュートとペネトレイトの行動に気付けなかった。二人は沈黙の中突然動き出して、ハルバードとサイスが持っていた三つのカオスエメラルドを奪い、ホープの後ろに隠れた。
「どういうことだ、今のは」とハルバードがホープの後ろの二人に言った。答えたのはホープだった。
「君こそどういうつもりだったのかな、ハルバード。七つのカオスエメラルドがあれば世界を変えられるとか、そういう邪なことは考えていなかったかな」
 咄嗟に誤魔化す言葉も見つからず、ハルバードは返答できなかった。
「今の世界は世界革命のおかげでおおむね平和だ。それを自分勝手な願い事で壊されては困る。カオスエメラルドは悪用されないよう管理されなくてはならない」
「世界革命のおかげで平和というのは少し間違っている」
 口を挟んだのはクレイモアだった。彼が発言して初めてハルバードとサイスはクレイモアがいることに気が付いた。彼の死体を確認していた二人はホープを見た時以上に驚いていた。しかし二人の驚愕をよそに会話は進められていく。
「あなたは異文化ウイルスというものを知っているか」
「なんだそれは」
「世界革命によって失われた記憶だ。むしろ世界革命のために平和へ進むことさえできなくなったという考え方もできる」
 クレイモアはホープに向けて封筒を投げた。
「それに真実が書いてある」
「もらっておくよ」
 ホープはそう言って、カオスエメラルドの力を使って瞬間移動した。三人が消えてしばらくの間があった後サイスが、
「どうして生きてるの」とクレイモアに言った。
「アックスにカオスエメラルドの力で蘇らされたんだ」
 サイスの眉が寄る。ハルバードがもう隠すことはできないと判断して、
「敵のリーダー格の、ブレイクって名乗っていたやつがアックスだったんだ」と教えた。そしてアックスが小さく手を挙げた。
 サイスは戸惑った。幼い頃よく遊んでいたメンバーが集まっていた。それなのに和やかな雰囲気ではないのである。
「でも、そうか、生き返っていたのか。教えてくれなかったのは、やっぱり言えなかったからなのか」
 ハルバードがそう言うと、いや、とクレイモアは返した。
「別にそのように強制されてはいなかった。ただ俺は知りたいことがあったんだ」
「賢者ブレイクのことか?」
「そうだ。俺は生き返ってから、カオスエメラルドを使って人の記憶を見ることができるようになった。その魔法を使って賢者ブレイクを探していた」
「見つかったの?」とサイスが言った。自分の祖父のことは幼い頃からずっと気になっていた。
「ああ。賢者ブレイクは世界革命によって失われたはずの記憶を持っていた。記憶が消えたのは奇跡の代償ではなかった。彼が意図的に人々の記憶を消したんだ」
「そうだったんだ」
 まるで賢者ブレイクが悪人であるかのようにサイスには聞こえた。彼の子供であるとされる母も優しい人ではなかった。母は生まれてすぐに乳児院に預けられ、両親の顔も見ることなく児童福祉施設で育った。サイスは母から賢者ブレイクは子供を捨てる人間だと聞かされてきたのだった。そしてクレイモアの話によって自分の血筋への嫌悪感が掘り起こされてサイスは顔をしかめた。
「世界革命は世界を救うためのものではなかったんだ。だからこそ君たちは選ばなくてはならない。カオスエメラルドを追い続けるのか、ここでやめるのか」
「選べって言われても」
 スピアがそう困惑を口にした。四人が全員似た気持ちであった。選択肢など頭になかった。
「真実を知れば選ぶしかなくなる。そして俺が真実を教えよう。五十年前の真実を」
 そう言ってクレイモアは先ほどホープに投げた封筒と同じ物を四人に渡した。
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ピュアストーリー 第九話 異文化
 スマッシュ  - 13/12/7(土) 23:03 -
  
 殺人事件が多発していた。無差別に多くの人が殺される事件も度々発生した。そういった事件はテロだと噂されることもあった。ブレイクはそのような事件を起こす人間を殺してやりたいと思っていた。罪のない人々は死ぬべきではない。そういった人たちを殺そうとする人間こそ死ぬべきだ。そう幼馴染と話すこともあった。ブレイクはある日ヒーローズという団体に保護された。
 ブレイクはヒーローズのトップであるベックという整った顔立ちの中年の男から自身が異文化感染者であることを教えられた。しかしブレイクは異文化感染者というのがどういうものなのか知らなかった。説明を求めるとベックは、殺人を助長する文化である、と言った。
「その文化はどうやらこの星の者が作った文化ではないようだ。異星人、あるいは別の世界の者、とにかく敵と呼ぶべき存在が我々に送ってきた文化の形をしたウイルスなのだ。そのウイルスは人々の中に入り込み、人々の文化として根付く。敵は我々に殺し合いをさせることで攻撃を行っているのだ。我々はいずれその敵と戦わなくてはならない。が、問題はそれだけではない」
 ベックは、我々には人間の敵がいる、と言った。力強い声であった。別の世界の敵よりも重要視しているのが伝わってきた。
「異文化ウイルスのことを察知したのは我々だけではない。しかし中には異文化感染者を殺すべきだと考えている者もいる。そうすれば異文化が広まることもなくなると、ありもしない未来を語っている。しかし彼らは行動に出た。報道されている殺人事件の中には彼らが異文化感染者を排除しようとしたものも含まれている。先日の二十名の死傷者を出したテロ事件もまた彼らによるものだ。我々は君を彼らから守るために保護したのだ。そして君には我々に協力してほしい。彼らのような間違った正義を振りかざす者たちを打ち倒し、人々の英雄となるための活動をしてほしいのだ」
 ブレイクはまともに発言することもなく話の流れるままにヒーローズの戦闘員として働くことになった。戦闘員はブレイクの他にも大勢いた。異文化感染者を駆除しようとしているホワイトフレイムという組織の人間を殺害することが任務であり、ブレイクはそのための訓練を受けた。
 ブレイクと同時期に戦闘員として加入した女がいた。真っ直ぐ伸びた金髪の美しい十八歳の少女だった。ソフィアという名前であった。共に訓練を重ねていくうちに仲間意識が強くなり、互いに互いがホワイトフレイムの魔の手から守るべき存在となった。やがて一人前の戦闘員として活動することになったが、その頃には息の合ったコンビになっていた。ばらばらに活動することはなかった。相手のことが自分に欠かせない存在であるように感じられて、二人は恋人として付き合うことになった。しかしその一年後にソフィアは殺されてしまった。十人の戦闘員が参加する比較的大きめの作戦の途中であった。

 ブレイクはベックに呼び出された。ソフィアが死んでから二ヶ月が過ぎていた。パートナーを失い、大して親しくない者と組むようになった。そしてほとんど話したことのないような人間と一緒に行動してもなんとか任務を達成できてしまうことに拍子抜けしていた。
「ホワイトフレイムはカオスエメラルドを集めている。それを許すわけにはいかない。カオスエメラルドを集め、かつホワイトフレイムを叩いて戦いを終わらせてほしい」とベックは言った。そして欲しいと思う人材を連れて行っていいと付け足した。
 ブレイクは一人で行こうと思った。戦いが終わると信じられなかった。それよりも早く殺されてソフィアの所に行きたかった。
「ブレイク、待って」
 呼び止められて振り向くと、幼馴染のミヤビがいた。彼女は戦闘員ではなかった。しかし盗みなどの犯罪行為によって組織を支える構成員であった。
「カオスエメラルド集め、私も手伝うよ。心配だし」
「聞いていたのか」
「まあね」
 付いてこられるのは面倒だとブレイクは思った。途中で死ぬつもりの旅だ。そこで、
「俺は死ぬつもりだ」と言った。
「それ本気で言ってるの」
「ああ」
「本当に本気で言ってる?」
 ブレイクは答えられなくなった。死ぬだけなら自殺という手もあった。そのことをわかっていながらまだ生きている。今生きているという事実が重荷であった。ソフィアの死にさほど心が動いていないのではないかと思われた。ソフィアは大切な存在であるはずだ。そのためにブレイクは死にたいと思うようにしている。自分が本当に死にたいと思っているのか、彼にはわからなかった。
「とにかく付いていくからね」とミヤビは言った。

 カオスエメラルドを入手するために寄った町で騒ぎが起きていた。ホワイトフレイムが何かした可能性もあると考えてブレイクとミヤビは騒ぎの中心となっている場所に向かった。大通りを曲がってすぐの裏通りで無差別に人が殺されていた。ブレイクたちが駆け付けるまでに数分かかったが、銃声が鳴り続いていた。路上にカオスエメラルドが落ちていた。
「カオスエメラルドだ」とブレイクが言う。
 ホワイトフレイムがカオスエメラルドを狙って人を殺した。そのように考えられた。懐に隠していたピストルを握り、ブレイクは裏通りに出る。そこでは突撃銃を持った男が乱射していた。ブレイクは素早く男の頭を撃ち抜いた。男は倒れ、銃は止まった。念のために数発頭と心臓に撃ち込んだ。その間にミヤビがカオスエメラルドを回収した。
「酷いね」とミヤビが周囲を見て言った。人が数十人倒れていた。そのうち何人かはまだ息があるようだった。
「助かったよ」
 負傷した様子のない女が近寄ってきてそう言った。ブレイクには見覚えがあった。ヒーローズの戦闘員の一人であるヘレンだ。活躍していたブレイクとソフィアのことを敵視していた。特にソフィアに対してライバル意識を持っていたようだった。ソフィアが死んだ作戦の時、彼女もソフィアの近くにいた。
 ヒーローズの人間はもう一人いた。そちらは男だった。アヴァンという名前である。彼もまた戦闘員であった。
「流石だな、ブレイク。君の腕がいいって話は本当だったようだ」
 そう言って握手を求めた。ブレイクがそれに応じると、
「本当は俺が先制攻撃を仕掛けて殺すはずだったんだ。だけど勘付かれてしまって、身動きが取れなくなってしまったんだ。君が来なかったら死んでいたかもしれない。ありがとう」とアヴァンは話して笑った。
「そうか、大変だったな」
「お前も大変な仕事をやってるって聞いたぞ」
「まあな。カオスエメラルドを集めている」
「まじかよそれ。そういえばさっきのやつがカオスエメラルドをよこせとかわめいていたな」
 ミヤビが、回収したよ、と言ってアヴァンにカオスエメラルドを見せた。
「ああ、無事だったのか。そうだ、俺たちも仲間に入れてくれ」
「正気?」とヘレンが言った。不愉快そうな顔をしている。「私は嫌なんだけど」
「いいじゃんか。仲間は一人でも多い方がいいだろ」
 ブレイクもヘレンと同じでお断りだという気持ちであった。それなのにミヤビが強引に、そうしよう、と言ってしまった。特にヘレンと一緒になるのは嫌だった。彼女はソフィアの近くにいた。それなのにライバル視するあまりソフィアのことをサポートしなかったせいでソフィアは死んだ。そういう風に考えたことがブレイクにはあった。

「カオスエメラルドってどんなことができるんだろうな」
 旅の途中で不意にアヴァンがそう言った。
「七つ揃えば凄いことができるんだよな。一つでもかなりのことができるって聞いた。カオスコントロールとかソニックはしたらしいし。他にも何かできるんじゃないのか」
「何かって何」
 そうヘレンが言う。
「ええと、なんだろうな。何も食わなくても腹が膨れるとか」
「くだらない」
「そう言うなよな」
「試してみよう」とブレイクが言った。
「本気でお腹を?」
 ヘレンにそう聞かれてブレイクは笑った。
「そんなわけないだろ」
 ブレイクはソフィアを蘇らせようと考えたのだった。カオスエメラルドを強く握り、ソフィアに生き返ってほしいと願う。するとカオスエメラルドは発光し始める。ブレイクはがむしゃらに願った。ソフィアと一緒に何がしたいか頭の中に描き、そして彼女が死んでしまったことを拒絶する気持ちをカオスエメラルドに訴えた。果たしてソフィアが四人の前に現れた。裸であったためにブレイクは自分の羽織っていたコートを渡した。
 ソフィアを蘇らそうとしたとは思っていなかった三人は驚いていた。ヘレンが目をむいていた。失ってしまった者がそこにいる。ブレイクは何も言わずにソフィアを見つめていた。見つめ合ったまま氷になろうとしているような沈黙であった。何十秒という間を味わって、ソフィアが口を開いた。
「私、生き返ったんだね」
「ああ」とブレイクは頷いた。「そうだ」
「そうだよね。そうなんだよね」
 ソフィアは空を見た。何かを喪失した顔だった。
「私は一度死んだんだ」
 ソフィアの呟きを聞いて、ブレイクは彼女に近寄って手を取った。
「そのことは忘れてしまっていいんだ。もう一度やり直そう。今度こそ俺は君を守る」
「駄目だよ。私はもう死んだの。ちゃんとそのことを覚えてる。死人とはお喋りできないんだよ。だから夢から覚めないと」
 そう言ってソフィアはブレイクの懐から銃を取った。
「やめるんだ」
 自殺を止めるために銃を持った手首を握ろうとしたがソフィアはそれを避けてブレイクから離れた。
「ごめんね。二回も死ぬところを見なきゃいけないなんて辛いよね」
 謝りながらもソフィアの手は躊躇いなく動き、自分のこめかみを撃ち抜いた。
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ピュアストーリー 第十話 敵
 スマッシュ  - 13/12/14(土) 0:00 -
  
 生き返ったのにソフィアは自殺してしまった。生き返ることへの拒絶を見せられて四人の間に気まずい空気が流れていた。ヘレンが低く唸っていて、酷く不機嫌であるようだった。
「とにかくカオスエメラルドを七つ集めよう」とブレイクは言った。三人はそれに従うしかなかった。
 しかしソフィアの自殺によるショックが解消されることはなかった。二つ目のカオスエメラルドを求めて寄った町でミヤビが、
「そもそもヘレンがちゃんと助けていればソフィアは助かったんだ」と言ってしまった。
「何が言いたいわけ?」
 ヘレンも冷静な状態ではなかったから、喧嘩をするつもりで食って掛かる。
「あんたのせいでソフィアは死んだって言いたいの。馬鹿みたいにプライド高いからソフィアのサポートしなかったんでしょ」
「どうしてあんたがそのことを言うわけ?あんたはソフィアの彼氏じゃないでしょ。それともソフィアがいないと困るの?大好きな人を諦める口実だから?」
「そんなんじゃない」
 二人は怒鳴り合い、やってられないと言ってどこかへ行ってしまった。止めるのに失敗してブレイクとアヴァンが取り残されてしまった。
「どうすんだ」とアヴァンが言った。
「探すしかないだろ」
 ブレイクは溜め息をついた。ソフィアの死に動揺しているのはブレイクも同じである。自分だって取り乱したいと二人を恨む気持ちが起こった。それを封じて、ミヤビを探すことに決める。彼女は戦闘員ではないから単独行動をさせておくわけにはいかないのだった。

 助けてくれ、と叫ぶ少年の声をブレイクたちは聞いた。声のした方に行くと少年が銃を持った男に追われていた。アヴァンは男の手にある銃を見た瞬間に素早く自分の銃に手を伸ばした。そして狙いを定める時間もなく発砲し、男の頭を撃ち抜いてみせた。
「大丈夫か」とブレイクが少年に声を掛けた。
「え、ああ、うん」
 アヴァンは殺した男の所持品を確認する。銃に白い炎のシールが貼られてあった。ホワイトフレイムの一員ということをアピールしたかったのかもしれない。アヴァンはそのことをブレイクに報告した。
「俺、命狙われるようなことしてないはずだぞ」と少年は言った。
「今のご時世理由もないのに狙われるものだ。俺も数年前に狙われた。だから俺はこうして無差別殺人をしようとしている連中と戦っているんだ」
「なんかゲームみたいな話だ、それ」
「そんなこともあるさ。こんなご時世だ」
 少年はそれでいくらか納得したようだった。冷静な風を装いながら、
「もし本当に戦っていると言うなら、俺も戦ってみるのも悪くないかもしれない」と言った。
「戦いではないけれど、人探しに協力してくれないか?」
 そう言うと少年は、わかった、と言った。

 不安なことは実現してしまうものなのか、ミヤビはホワイトフレイムの戦闘員に襲われていた。戦闘員は五人いた。
「助けないと」と少年が言った。
 アヴァンが既に発砲していた。戦闘員が一人倒れる。それでも残りの二人がミヤビを狙っていた。ミヤビは足を撃たれたのか必死に立とうとしているだけであり、逃げられないでいる。少年は走った。そしてミヤビを肩に掴まらせて逃げようとした。その途中で少年が撃たれた。それでも歩き続けて物陰にミヤビを隠したところで倒れた。アヴァンの銃弾は敵に当たらず、弾が無くなった。
「駄目だ」とアヴァンが言った。「もう集中できない」
「何を言っている」
 ブレイクは一人の足を撃ち、そして倒れたところに何発か撃ち込む。その横でアヴァンが新しい弾倉を装填することもせずに、
「俺は最初だけなんだ。最初だけは誰よりも上手くやる自信がある。だけどその後は全然集中できない。きっと最初に集中し過ぎているんだと思う」などと言っている。
 まだ生きている三人がミヤビの隠れた付近を撃ちながら迫ってくる。ブレイクたちもまた狙われている。とにかく全員殺さなければと焦る。ブレイクは一人を確実に殺そうと何発か撃ち、目的を達成したが一人を殺すのに酷く時間が掛かっているような気がした。弾切れを意識しながらも次の一人に銃を向けたが、残りの二人は次々と倒れてしまった。彼らの背後にヘレンがいた。
「後ろからだと殺しやすいって知ってた?」
 ヘレンは余裕たっぷりに歩きながら言った。そしてミヤビを助け起こす。
「ありがとう」
「ま、死なれても困るしね」
「でもこの子死んじゃった」
 ミヤビは倒れている少年を見た。自分たちよりも若い。
「仕方なかった」とアヴァンが言った。「それに彼のおかげで君は助かったんだし」
 ブレイクは自分が少年の代わりに動けばよかったのではないのかと思った。
「とにかくもう単独行動はしないこと」とヘレンはミヤビに言った。「そうすれば守ってあげる」
「うん。そうするよ」
 五人組はカオスエメラルドを探すためによこされたのかもしれない。ブレイクたちはホワイトフレイムと遭遇することなくカオスエメラルドを発見することができた。

 ブレイクは先日のことで自信を失っていた。ソフィア以外の人間と組むこと自体が彼にとっては気に食わないことであった。その上に喧嘩などのトラブルが発生するとなると面倒で嫌になる。死んでしまった少年のことも頭から離れない。やはり自分が死ねばよかったと思うのである。ソフィアが死んで間もない時に自殺を考えたように、自分の死を考えればよかった。そうすれば楽になれたのだ。
「悩んでいる、という顔をしている」
 夜に飲み物を買うためホテルの廊下を歩いていると、缶コーヒーを持ったヘレンが話しかけてきた。
「ソフィアを諦めるつもり?」
「生き返らせても死んでしまう。それにこれはソフィアを生き返らせるための旅じゃない」
「なら殺してあげようか」
 ブレイクは頷くことができなかった。自殺することも少年の代わりに死ぬことも頭の中で考えているだけなのだった。
「要するにそういうことでしょ。悩むまでもない。あんたはそういう男なんだ」
 ヘレンは缶を開けてコーヒーを飲む。確かにそうだとブレイクは思った。結局自分はソフィアを生き返らせるためにカオスエメラルドを集めるしかない。
「私もソフィアを生き返らせてもらわないと困るから。そしたら今度はあんたも一緒に負かしてあげる」
「今度って、ソフィアに勝ったこともないだろ」
「今はもう勝てるはずよ」
 まるで本当にそう信じているかのように言うのでブレイクは笑った。とにかく生き返らせなさい、とヘレンは言う。励まされているらしい。ブレイクは缶コーヒーを買うことにした。

 七つあるカオスエメラルドのうち四つは既にホワイトフレイムが所持しているらしい。その情報をベックから受け取って、ブレイクたちはまだどちらの手にも渡っていない最後の一つのカオスエメラルドを入手しようとした。そのカオスエメラルドがあるという町に着くと、大量虐殺が行われている最中だった。
「酷いな」と言いながらアヴァンは背後から襲おうとしてきた男を撃った。「たくさんいる気がする」
 彼の言った通り、武装した人間を殺しながら進まなければならなかった。彼らは根こそぎ探すといった様子で民家にも侵入していた。道を歩いていると見慣れた女が立っていた。ソフィアだった。
「来ちゃったんだ」とソフィアは言った。
「どうして君がここに」
「また生き返らせられたんだ」
「自殺しなかったんだ」
 ヘレンが嫌みのように言った。ソフィアは悲しそうな顔をする。そしてブレイクに向けて、
「死ぬわけにはいかなかったから」と言う。
「それはどういうこと」
「殺さないと、殺さないといけないの。死ぬ前に殺すべき人たちを殺さないと。そうしないといけないって思うから」
 様子が変だとブレイクは思った。
「何を殺さないといけないんだ」
「わからない。でも敵を殺さないと駄目だって思う。そうしないうちは死ぬわけにはいかないって気がして。でも敵が誰だかわからない」
 そしてソフィアは、死にたい、と言った。
「もう何もわからない。死にたい。でも死ねない。ねえブレイク、私を殺して。殺して」
 ブレイクは殺すことにした。今のソフィアはおかしくなってしまっている。
「わかった。でもその前に教えてくれ。君を蘇らせたのは誰だ」
「サクラ」とソフィアは小さな声で言った。「サクラっていう名前のチャオ」
 サクラというチャオをブレイクは知っていた。幼い頃ミヤビとサクラというチャオと一緒に遊んでいた。そのサクラだ。
「何、なんて言ったの」とブレイクの後方でミヤビが言った。
「でももうチャオじゃないのかも。カオスになりつつあるみたい」
「そうか」
「それと大事なことがわかったよ。異文化ウイルスがどこから来るのか。カオスエメラルドだよ。私、生き返る時に感じた。カオスエメラルドの力と一緒に、私の中で乱暴な何かが入ってくるの。あれが異文化ウイルスなんだと思う。敵は奇跡からやって来るの」
 ソフィアは持っていた突撃銃をブレイクに向けた。
「これで私の知っていることは全部。さあ殺して」
 ブレイクは言われた通りにソフィアの頭を撃った。脳の半分が吹き飛ぶ。しかしソフィアは立っていた。肉が素早く増えて顔が元通りになっていく。カオスエメラルドの力でこのような体にされてしまったらしい。ブレイクは手持ちの弾を全て撃ってでも殺そうというつもりで引き金を引いた。頭が形を失い、胸がぼろぼろになってようやくソフィアの肉体は停止した。彼女の体内からカオスエメラルドが出てきた。このために体が再生していたようだ。
「酷い」とミヤビが言った。
「倒そう」
 ホワイトフレイムを倒すという命令で旅をしてきたが、ブレイクはようやくそれが自分の使命であると思えるようになった。サクラはどこかでソフィアが自分の恋人であることを知ったのだろうとブレイクは推測した。だからソフィアは蘇った。またサクラが蘇らせるかもしれない。次はもっと酷い身体にソフィアを宿らせるかもしれない。それだけはさせないつもりであった。この町にあるはずのカオスエメラルドは既に奪われてしまったらしい。ホワイトフレイムの戦闘員たちが引き上げていくのが見えた。ブレイクはソフィアの持っていた突撃銃を抱えた。

 ホワイトフレイムの拠点にブレイクたちは来た。相手がサクラであることを、ミヤビに伝えた方がいいのかブレイクは迷った。しかし言うことはできなかった。大事なことであるからこそ口に出すことが億劫であった。ミヤビがどのような反応を見せるのか想像するだけでも疲れた。結果よくないことだと思いつつも黙っていた。
 何人も相手にしながら拠点の中を進んでいく。不思議とブレイクたちは負傷しなかった。どのようにすれば相手を効率よく殺せるのかブレイクにはわかった。それは直感的なものであるのに、まるでガイドが表示されていてそれを目で見ているかのようにはっきりと感じられるものであった。敵がどこにいて、どうすれば一発の弾で死ぬのか、全てわかるような気がした。まるで自分が敵を殺す機械になったようだった。
「なんか調子いいな。集中力が切れない」とアヴァンが言った。
 またソフィアが現れるのではないかという不安を抱いていたがそのようなことはなく、一メートルくらいの大きさのカオスチャオに遭遇した。ピンク色の大きなカオスチャオは四人を見つめた。カオスチャオの右腕には四つのカオスエメラルドがはめ込まれていた。
「久し振りだね、ミヤビ、ブレイク」とそのチャオは言った。
「随分とチャオらしくなくなったな」
 ブレイクは突撃銃をサクラに向けた。チャオの体はゼリーに喩えられることがあったが、サクラの体はそれよりも水流に近くなっているような透明感があった。
「そうだね。僕は大きくなった。それに喋るようにもなったし、強くなった。人間の上に立っている」
「それに死人を蘇らせた」
「全部カオスエメラルドの力によるものさ。僕はカオスエメラルドによって変わった。力を得て、真実を知り、そして戦争を終わらせるためにここにいる」
「戦争というのは」
「勿論、この星と別の世界の間で起きている戦争のことだ」
 敵の攻撃は異文化ウイルスの散布によって行われる。異文化感染者は敵の駒である。そのために異文化感染者を駆除しなければならないとサクラは主張した。ブレイクはそれを聞いて、もうどうにもならないだろうと思った。サクラもまた異文化ウイルスに感染しているように思われたからだ。ソフィアが言うにはカオスエメラルドを通して異文化ウイルスはこの星にやって来るらしい。それならばサクラがその影響を受けていないわけがない。
「残念だけどそれは手遅れだ。君ももう感染している」
「敵の手駒にそう言われて信じるほど僕はいい子じゃない」
 サクラの拒絶によって話す空気ではなくなった。ブレイクは躊躇うことなく引き金を引いた。無数の弾丸がサクラの体を貫くが、ダメージを受けている様子はない。ブレイクは射撃をやめ、突撃銃を捨てた。そしてカオスエメラルドを三つ取り出した。かつてソニックはカオスエメラルドを使って攻撃を行ったと聞いたことがあった。
「カオスブラスト」とブレイクは叫んだ。すると轟音が響いた。そしてその轟音が見えない鉄槌であったかのようにサクラの体のほとんどが削られていた。残っていた部位もただの桃色の液体になってしまう。カオスエメラルドが四つ転がった。カオスエメラルドより小さな石も一つ転がっていた。
「勝ったんだよね、これ」
 ヘレンがほうけたような声で言った。ブレイクが、ああ、と答える。そして四つのカオスエメラルドを拾って、
「これで全部のカオスエメラルドが揃った」と言って三人に見せた。それでも三人はどこかぼんやりとしているようだった。
 ブレイクはソフィアを蘇らせたいと思っていた。そのためには起こさなくてはならない奇跡がいくつかあった。死んだ記憶を持ったままでは自殺してしまう。異文化ウイルスというものが存在していたら、感染者であるソフィアはまた標的にされるかもしれない。そして念のためにもし襲われることがあっても彼女の命を守る力が欲しいとブレイクは思った。それは武器を持っていなくても他人を殺せるような力がいいと思った。七つカオスエメラルドがあれば世界を変えることができるかもしれない。ソフィアが生きていられる世界に変えてしまうことにした。

 ソフィアはブレイクが意図した通りに自分が死んだことを忘れた状態で蘇った。異文化ウイルスを消すことはできなかった。理由は不明であったが記憶と同じようにはいかないようであった。そこでブレイクは異文化ウイルスに関する記憶を人々から奪うことにした。そうして人々は記憶を失い、ソフィアが生きていける世界が完成した。異文化ウイルスは存在し続けている。ブレイクもソフィアも重度の感染者であったから、敵と思った人物を殺してしまう可能性があった。そのため二人はなるべく人に会わない生活をするように心がけた。子供が生まれたが、我が子でさえ殺してしまうかもしれなかったため手放すことにした。
 全ての生物は小さなカオスエメラルドのような機能を持った。カオスエメラルドを持っていなくても小さな奇跡なら起こすことができるようになった。それが魔法であった。世界革命によって敵との戦争に不利になったかもしれなかった。それでもブレイクはソフィアが隣にいればいいと思った。ソフィアは人を殺すことなく、また殺されることなく、病によって死んだ。七十年も生きれば十分と言えた。だからブレイクは再びソフィアを生き返らせようとは考えなかった。
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ピュアストーリー 第十一話 世界革命
 スマッシュ  - 13/12/14(土) 0:02 -
  
 ハルバードとサイスはチャオガーデンに立ち寄った。エンジェルリングを量産するためにチャオが飼われているガーデンである。クレイモアが手に入れた賢者ブレイクの過去について知った後アックスたちが人類をチャオに変えることで争いを無くそうとしていたことを聞いたため、チャオの姿を見たくなったのだった。
 チャオガーデンには一足早くブロウが来ていた。ブロウはヒーローチャオに囲まれていた。チャオたちは口々に撫でてと言っていた。
「君は」
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
 ハルバードたちはブロウから離れた所に腰掛けてチャオたちを眺めた。確かにチャオには争いをするというイメージがない。しかし誰が先に撫でてもらうかで少しもめているようにも見えた。暴力というものを知らないのか、自分が先だと主張するばかりではあったがそれを見ていてハルバードは何事も都合よくいかないのだという気分になった。もし人類がチャオに変わっても殺し合うのではないか。サクラというチャオが異文化の影響を強く受けていたらしいことも暗い気持ちを後押しした。少なくとも過去を変えればどうにかなると思っていた自分たちは甘かったのである。過去を変えても異文化ウイルスがあるから悲劇が生まれやすくなっており、結局サイスは不幸な目に遭うかもしれない。そもそも異文化ウイルスがなかったとしても過去を変えればそれで明るい未来が保障されるわけではないのだ。そのことにハルバードは気が付いたのだった。
「幸せになるなら、とことん幸せにならないと意味がない」
 次々と撫でられて頭の上の輪をハートに変形させるチャオたちをぼんやりと眺めながらハルバードは呟いた。
「子供の旅だったんだな、結局は」
「ねえ、これからどうするの」
 クレイモアはカオスエメラルドを追い続けるのかやめるのか選べと言った。ハルバードがどうするつもりなのか、サイスは知りたかった。ハルバードと行動を共にするつもりであった。
「わからない。でも戦争を終わらせて平和にできるのなら、そうしたい」
 異文化ウイルスを消すことはできなかったらしい。もしかしたらこの星は既に敗れているのかもしれなかった。

 ハルバードはアックスの部屋に、サイスはスピアの部屋に泊まることになった。翌日朝から外出していたアックスが、
「賢者ブレイクが来たぞ」とハルバードに言った。
「ブレイクが、どうして?」
「自分の心臓を差し出しに来たようだ」
 心臓がカオスエメラルドに近い物体になることを知らないハルバードにはただならぬことに聞こえた。アックスから説明を受けて理解はしたが、それでも心臓を差し出すことを平然と受け止めることはできなかった。
「それって死ぬってことじゃないのか」
「かもしれない。だがカオスエメラルドに近くなっている部分だけを取り除いて、そこにエンジェルリングを代わりとして入れれば大丈夫だとドクターは考えているようだ」
 大丈夫と言われてもハルバードは不安に感じた。エンジェルリングが臓器の代わりになるという印象がなかった。
「手術はもう始まっているのか?」
「まだだと思う」
「なら会って話をしたい。案内してくれ」
 サイスを祖父に会わせてやらねばならないとハルバードは思ったのだった。スピアの部屋に寄って、サイスを連れ出す。スピアも付いてきて、四人で研究室に向かった。賢者ブレイクはベッドに拘束されていた。
「この人が賢者ブレイクだ」とアックスが言う。
「これ、無理矢理捕まえたのか?」
 体がベルトで固定されていて、腕も足も動かせないようになっていた。
「私が頼んだんだ」と拘束されている老人が言った。「不意に人を殺さなければならないと思ってしまう。こうしておいた方が安心できるんだ」
「異文化ウイルスの影響ですか」
「彼から聞いたのか。そうだ。異文化ウイルスによって私は人を殺める兵士として最適化されてしまったみたいだ」
 ハルバードはサイスの背中を優しく叩いた。サイスが一歩前に出る。
「おじいちゃん?」
 恐る恐る尋ねた。老人はサイスを見た。
「君は?」
「サイスっていいます。たぶんあなたの孫です。お母さんが自分の親は賢者ブレイクだって言ってたから」
 サイスは自分の母の名前を告げた。そして母が親の顔を見たことがないと言っていたことなどを話した。
「確かに君は私の孫かもしれない」
「はい」
「そうか。孫が生まれていたのか。ソフィアに見せてやりたかった」
 ソフィアは、とブレイクは何かを言いかけたが、続きを言うのをやめてしまった。そしてサイスに向けて、
「すまなかった。一緒にいるわけにはいかなかったんだ。私たちは自分の子供でさえ殺してしまうかもしれなかった。子供はわがままなものだ。そこが愛らしいはずなのに、私たちはそれを鬱陶しいと思ってしまうかもしれなかった。私たちは敵と思った人間を殺してしまう」と言った。
 サイスは黙っていた。目の前にいる老人を恨む気持ちがあった。彼の言い分を聞いていてその気持ちが表に出てきそうになった。我慢し飲み込んだのは言ってしまったら自分の気持ちが軽くなってしまいそうな気がしたからだった。言えば少しだけ楽になってしまう。それは嫌だった。
「そう」
 それだけ言ってサイスは話を打ち切り後ろに下がった。もういいよ、とハルバードに小声で言った。ハルバードは頷いた。ハルバードは間を作らないために素早く、
「聞きたいことがあります。どうして異文化ウイルスを消すことができないのでしょうか」と質問をした。
 賢者ブレイクは数秒答えを考え、そしてゆっくり話した。
「おそらく文化は消すことはできないのだろう。消えることがあっても、それは無くなるわけではない。新しい文化がその上に重なって上書きされていくのだ。そうしてようやく変化は訪れる」
「そうなんですか」
「おそらくな」
 他に質問することはなく四人は研究室を出た。

 翌日、ハルバードはカオスエメラルドを手に入れる旅に出るとサイスに告げた。
「世界革命はまだ終わっていないんだ」
 一人で行こうとも考えていたのだが、サイスならば何も言わずに付いてきてくれるだろうと思うと、頼りたくなってしまったのだった。案の定サイスは、
「わかった。私も行く」と言った。
 二人は研究室に向かった。カオスエメラルドを一つも持っていないため戦力に不安があった。ドクターフラッシュに賢者ブレイクの心臓から取り出した宝石を貸してほしいと頼みに訪れたのである。手術は成功したらしい。賢者ブレイクはまだ生きていて、安静にさせているとフラッシュは説明した。フラッシュは賢者ブレイクの心臓から取り出した宝石を二人に見せた。握り拳よりもいくらか小さい宝石であった。心臓の半分ほどが変化していた、とフラッシュは言った。
「驚異的な大きさではあるが、賢者ブレイクの心臓でもまだカオスエメラルドには届かない。新しいカオスエメラルドになるにはもっと奇跡を起こさなくてはならないみたいだ。君たちのことはアックスとスピアから聞いた。彼らより君たちの方が魔法使いとしては優秀だということもね。それに昨日の話が本当ならそちらのお嬢さんは賢者ブレイクの孫娘ということになる。私としては君たちこそがカオスエメラルドを生み出す者であると思いたいのだよ」
 そう言ってフラッシュは賢者ブレイクから取り出した宝石と、もう一つ似たような大きさの宝石を二人に渡した。
「こちらは私が発見した宝石だ。やはりこれもカオスエメラルドになれなかった物だ。おそらくサクラというカオスになりつつあったチャオのものだろう。持っていくといい」
「ありがとうございます」
 二人は宝石をそれぞれ一つずつ受け取った。フラッシュは冗談を言うように、
「いいさ。私にとっては君たちこそが希望だ。心臓の宝石を育ててくれよ」と笑いながら言った。
「はい」

 カオスエメラルドを奪うためにはGUNの施設を襲わなければならない。どうやって情報を集めればいいのか、シュートに頼り切りだった二人にはわからず、クレイモアに相談した。するとクレイモアは自分がやると言い、一晩で調べてきた。
「カオスエメラルドは七つを同じ所に置いておくとGUNの内部の人間が悪用しようとした時危険なので、別々の場所に保管することになったらしい。おそらく小さい基地から狙うのがいいだろう。だから五八四町の基地が最初のターゲットだ」
「わかった。ありがとう」
 そう言ってハルバードとサイスが去ろうと背中を見せると、
「カオスエメラルドがないから人の記憶を読むことができん。今回調べるのに掛かった費用は払ってもらうからな」とクレイモアは言った。
 五八四町に向かう電車の中でハルバードは、お願いがある、と言った。真剣な眼差しでサイスのことを見つめていた。
「人を殺さないようにしてほしい。できれば誰も殺したくない。だから急所を外すように攻撃してくれ」
「無茶だね」
 サイスは困った顔をした。
「そんなことしたら殺されちゃうかもしれないのに、それでもそうしたいんだよね」
 質問ではなく確認をするようにサイスは言う。ハルバードは頷いた。
「それが未来のためだから」
「わかった。いいよ。頑張ってみる。それにそっちの方がやりがいあるかも」
 サイスは右手を開いたり閉じたりした。その右手の動作をハルバードに見せながら、
「この前、傷を治す魔法を使ってた人がいたでしょ。その魔法、パクってみた。だから怪我したら教えてね」と言う。
「凄いな。その魔法俺にも使い方教えてよ」
「うん、いいよ」
 サイスは自分の手の甲に魔法で切り傷を作り、そしてそれを魔法で治してみせる。痕も残らず傷は塞がる。そしてハルバードの手の甲でも同じことをする。そうして実演をしながらサイスはハルバードに魔法の使い方を教えた。

 二人はGUNの基地に侵入した。人を殺さないように努めることにした一方で、機械などについては特に決めておらず、むしろ破壊するのも厭わないといった風であった。鉄扉を破壊して基地の内部に二人は入った。
 人を殺さないように戦うことは思いの外簡単だった。異文化ウイルスの影響で効率のよい殺し方が見えるようになっていた。相手の動きが予測できるようであったし急所を狙って射撃することもできそうだった。だからその研ぎ澄まされた感覚を利用して急所を外すように努めればよかった。意図的に腕や脚を狙うようにする。後は体が動くままに戦えばよかった。もしかしたら即死しないだけで結果的には殺してしまうことになるかもしれなかったが、ハルバードはそれでも上手く戦えていると思った。
 二つの宝石の力はエンジェルリングの力よりも強かった。そのためにGUNの魔法使いが何人来ても二人は圧倒することができた。しかし殺さないようにすると決めた瞬間からわかっていたことが起きた。背後から負傷させた魔法使いに狙撃されたのだった。その弾丸はハルバードの左腕をえぐった。このようなことが起こるとわかっていたためハルバードはサイスの後ろを走っていた。走りながら魔法で腕を治す。後ろの魔法使いに攻撃する必要はない。脚を撃っているので追いかけることはできない。背後からの反撃が来たことをハルバードは嬉しく思った。相手がまだ生きているとわかる。サイスが心配しないように声を押し殺そうとするが、魔法によって作られた弾丸が体を射抜けば堪えることは難しい。治療の魔法によって怪我はすぐに軽いものになるが、弾丸を食らった瞬間の痛みがいつまでも頭の中に残って思考を乱した。
「大丈夫?」
 サイスが振り向いて聞いてくる。ハルバードが壁となっていたために彼女は無傷であった。
「ああ、大丈夫」
 ハルバードを助けているのは治療の魔法だけではない。魔法によって体は強化されている。特に頭や心臓の辺りは守りを固めているので死ぬ心配はなかった。だから大丈夫なのである。たとえ撃たれた苦痛が心をぼろぼろにしても、体に傷が無ければ大丈夫と言い張ることができる。それに苦痛が育むものもあるとハルバードは思っていた。
 基地の中心部でペネトレイトがハルバードたちを待っていた。ペネトレイトはカオスエメラルドを持っていた。
「カオスエメラルドは渡さない」
 ペネトレイトは大口径の弾丸の魔法を足元に撃った。一秒に三発というペースで腕をもぎ取りかねない大きな弾丸を撃つのを二人は走って避ける。サイスが弾丸の魔法を連射して応戦するが全てバリアによって防がれた。カオスエメラルドを持っているペネトレイトのバリアを突き破ることは難しい。射撃のためにバリアに穴が出来るはずである。そのサイズがどれほどの大きさかわからないが、そこを狙うしかないとハルバードは思った。ハルバードは走る速度を遅くした。そしてペネトレイトが手を狙って射撃する瞬間にハルバードもペネトレイトの手を狙って射撃した。ペネトレイトの右手に穴が開いた。そしてハルバードの右手が弾けた。ハルバードは痛みのあまり絶叫し、膝を付く。そして倒れる。ペネトレイトも痛みによって錯乱していた。そこにサイスが突進し、魔力が供給されず薄くなったバリアを叩き壊してカオスエメラルドを奪った。その勢いのままハルバードに駆け寄って、右手を治そうと魔法を使う。無くなってしまった右手を元に戻さなければならなかったので時間が掛かる。
「逃がしてたまるものか」
 理性を少しだけ取り戻したペネトレイトは懐からリモコンのような物を取り出した。自爆スイッチかもしれないとハルバードは思った。ペネトレイトはバリアの魔法を使えば運がよければ助かるかもしれない。カオスエメラルドの力で瞬間移動して逃げるべきだ。そう思ってハルバードはサイスからカオスエメラルドを奪い、カオスエメラルドに意識を集中させた。二つの宝石もある。二人を基地の外に移動させるくらいならできるはずだと信じた。
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ピュアストーリー 第十二話 母星
 スマッシュ  - 13/12/14(土) 0:03 -
  
 カオスエメラルドの強い光によって視界が塞がれていた。しかし途中で草原が見えた気がした。光が消えてみるとハルバードは知らない場所に立っていた。途中で見えた草原にいることだけはわかった。木があちこちに生えているがそれぞれが距離を取っていて、誰かが植えたものであることがわかった。それもチャオが食べる木の実がなる木しかない。どうやらチャオガーデンのようだ。それにしては広すぎるとハルバードは思ったが、しかしチャオが何匹もいた。はるか遠くに町と砂漠が見える。ここは高原であるようだ。
「ここはどこだ」とハルバードは呟いた。
 カオスコントロールで移動できる距離には限界があると聞かされていた。しかし五八四町の近くに高原や砂漠などないはずだ。周りには町が無数にあるだけだ。五八四町もハルバードが育った〇五八町もそういう場所なのであった。
 とにかく誰かに尋ねなければどうしようもない。ハルバードは木の周辺に集まっているチャオたちに声を掛けた。
「あの、すみません。ここって一体どこなんですか」
 チャオたちはハルバードの方を向いた。しかし返事は来なかった。首を傾げるだけだ。一匹が立ち上がり、手を挙げた。
「チャオ」とそのチャオは言った。
「あの、ここはどこですか」
「チャオ?」
 首を傾げた。頭上の球体がクエスチョンマークになる。言葉を話せないようだ。生まれたばかりのチャオが話せないということならあり得ることだが、オトナチャオが話せないとなると異常である。十数匹いるチャオの誰も話すことができないようである。
「どういうことだこれは」
 頭を抱える。悪い夢を見ているとしか考えられなかった。とにかく周りに町などがないか調べる必要があった。しかし疲労のため歩く気になれなかった。少し休むことにする。魔力を節約するために傷を完全に治さず、かすり傷程度まで治ったら魔法を使うのをやめていた。それらの傷を魔法で完全に治した。それからハルバードは寝転がって目を閉じた。

 体を揺すられて起こされた。ハルバードが目を開けると老人がいた。
「おお、目が覚めたか」
 人の言葉だ。チャオと話すことができなかったことを思い出し、ハルバードは勢いよく起き上がった。
「すみません、ここはどこなんですか。気が付いたらここにいて。チャオも喋らないし」
「そりゃあチャオは話さないだろう。ここは見ての通りチャオガーデンだ」
「え、チャオは話さないって」
「チャオは喋れないだろうよ。大丈夫か?」
 ハルバードはまた混乱した。世界革命によってチャオは話すようになった。ここは過去の世界なのだろうか。カオスエメラルドの力によって過去に飛ばされてしまった。そういうことがあるのだろうか。ハルバードは懐にカオスエメラルドがあることに気付き、取り出した。
「その石」と老人が反応した。
「カオスエメラルドです」
「カオスエメラルド」
 老人は酷く驚いたようだった。駆けるような早口で、
「それは本当なのか。それが本当にカオスエメラルドなのか」と聞いてくる。
「そうですけど」
「なるほど。そういうことか」
 老人は、なるほど、と何度か呟きながら落ち着きを取り戻す。そしてハルバードに柔和な表情を見せ、
「向こうではチャオが話すようになったんだね」と言った。
 ハルバードには向こうというのがどういうものを指しているのかわからなかった。理解できていないことを老人は悟った。
「そうか。知らないのか。ここは人類が生まれた星だよ。そして君たちはこの星を捨て、新しい世界に旅立ったんだ」

 今ハルバードがいるのはハルバードたちが住んでいる星とは別の星である、と老人は言った。そしてこの星が人類の元々の住処であったらしい。老人はこの星で伝えられている歴史についてハルバードに語った。
 この星にはソニックというヒーローがいた。彼はカオスの暴走など世界が危機に陥った時に世界を救ってくれた。彼はカオスエメラルドの力を利用することがあった。ソニックが活躍している頃、カオスエメラルドは無償で力を与えてくれた。しかしソニックがいなくなった数千年後、カオスエメラルドは世界を傷付けるようになった。力を引き出せば引き出す程、世界から何かが消えた。木々であったりチャオであったり人であったりした。カオスエメラルドの大きな力に頼って生活をしていたため、このままではこの星を滅ぼすことになってしまうと言われていた。そこで移民計画が立ち上がった。カオスエメラルドの力に頼らなくても生きていくことができるような資源に溢れた星に移住しようという計画であった。そして移民のために七つのカオスエメラルドの力が使われることになった。そして移民の後にカオスエメラルドは新しい世界に封印されることが決定された。多くの人間が新しい世界へ行き、いくらかの人間がこの星に残った。最初のうちは互いに連絡を取り合っていた。しかし連絡は途絶えた。そして数百年経って、カオスエメラルドによる被害が再び起こるようになった。それが戦争の始まりだった、と老人は言った。
「私たちは向こうの世界に行くことができない。戦争と言っても一方的に攻撃されているだけだ。しかしカオスエメラルドによる被害があるということは、カオスエメラルドの力によって二つの世界は繋がっていると考えた者がいた。カオスエメラルドが力を使うために自然や人を燃料にするなら、その燃料に毒を仕込めば攻撃できると思い付いたわけだ。そして殺人に関する文化を向こう側に輸出する作戦が実行された」
「それ、俺たちの世界では異文化ウイルスって呼ばれています。別の世界にいる敵からの攻撃だって」
「だがな、文化は機械のように工場で作れるわけじゃない。文化は人の中に芽生えるものだ。殺人文化もまずこの星の人々の間に根付く必要があった。相手に大損害を与えるだけの兵器を作った代わりに私たち自身がその兵器に苦しめられることになったというわけだ」
 この星の人類は滅びはしなかったものの数を減らした。移民せずに残った人類が元々少なく、そこからさらに殺し合いによって減ってしまった。今では人間よりチャオの方が多いのではないかと言われているようだ。そちらの世界はどうなっている、と老人はハルバードに聞いた。ハルバードは世界の現状を話した。殺人が増えているがまだ致命的ではない。そう聞いた老人は溜め息をついた。
「そうか。私たちは負けたのだな。自分たちで殺し合ってでも攻撃して、馬鹿馬鹿しい」
「そんな負けただなんて。こっちではこのままだと負けてしまうっていう風に見られていますよ」
「こちらの負けだよ。カオスエメラルドの影響でこの星は近いうちに滅ぶかもしれない。そんな風に言われているんだよ。大きな砂漠が見えるだろう。君たちがカオスエメラルドを使えば使うほど、あの砂漠は大きくなるんだ。やがてこの星全体が砂漠になるだろう。そして砂漠さえなくなるのかもしれない」
 ハルバードの胸に罪悪感が訪れた。人を殺すことに抵抗がなくなっていたハルバードであったが、星を滅ぼすことは大きな罪であると認識できた。魔法の力はカオスエメラルドの力と同じ力である。きっと人々が生活の中で魔法を使っているだけでこの星は傷付いていくのだ。ハルバードは俯いて話を聞いていた。言い訳をする気も起きなかった。何を言ってもこの老人に許されることはないように思われた。しかし老人はハルバードを責めようという気がないのか穏やかに、
「君たちには生き延びてほしい」と言った。「この星にはもう人は一万人もいない。カオスエメラルドの力にも対抗し得る強力な文化のために、そこまで減ってようやく落ち着いた。私たちに将来というものはないのだろうね」
 この星の人類が生き延びることがあったとしても繁栄することはないだろう、と老人は言った。だからこそ繁栄し得るハルバードたちの世界の人々には生きてほしいのだと訴えられてハルバードは大変な荷物を背負わされたような気がした。あくまでハルバードたちの世界にいる人類全員への頼みであるのだが、それをハルバード一人が背負わなくてはならないように感じてしまったのであった。冷静さを取り戻して重たい荷物を下す。これはあくまで人類の問題。その一方でハルバードの心は熱くなってもいた。人類やサイスのためにやろうとしていたこと。それをやり遂げてみせるという気持ちが強固なものになっていた。
「繁栄してみせます」とハルバードは言った。
 サイスが一緒でなくてよかった。そうハルバードは思った。彼女が何かを決心しては困る。自分は彼女を守りたい。それは好きだからというだけではなかった。自身の野望のためには誰かを守るという行為が必要なのであった。

 行く時が来た。人の言葉を話さないチャオと別れ、自分たちの世界の戦いに立ち向かわなければならない。
「それじゃあな」とハルバードはチャオたちに言った。チャオたちは言葉の意味もわかっていないようで首を傾げていた。
 ハルバードはカオスエメラルドを光らせた。その光を老人とチャオたちが見ていた。ハルバードはカオスエメラルドの力で自分の世界に向かって移動する。星の姿が見えた。言葉を話さないチャオの星。人類が生まれた星。母星の姿であった。母星はまだ青くて丸い星だった。しかし大地は砂漠化しているのがよくわかった。そして自分の起こそうとしている奇跡によって砂漠化はさらに大きく進行するのかもしれない。そうハルバードは思った。しかし自分たちを生んだ母星に何もしてやることはできない。自分たちが前に進めば母星は傷付く。そしてハルバードは前に進もうとしている。だから何も言うことはできない。前に進む自分を見て、よくできましたと母星に住むチャオが笑ってくれる。そんな実現しそうにない幻想を抱きながらハルバードは自分の星へ戻っていく。来るはずのない称賛でも諦めはしない。それだけを母星に誓った。
 やがて自分たちの星が見えてきた。母星を傷付けながら人々は生きている。優しい人間になどなれないとハルバードは思った。そしてその星の人間の一人として、魔法使いとして、再びその地に足を着けた。そして再び旅が始まった。
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ピュアストーリー 最終話 新たな世界
 スマッシュ  - 13/12/14(土) 0:05 -
  
 強い光から解放されると、隣にサイスがいた。どうやら酷く心配していたらしい。サイスは力の抜けた声で、
「よかったあ」と言った。
「心配かけたみたいだね」
「だっていないんだもん。そりゃ心配するよ。私だけ逃がしたのかな、とか」
「ごめん。ちょっと別の場所に飛ばされちゃったんだ」
 サイスは怪我とか大丈夫などと一通り質問して無事であることを確認し、再び安堵した。五八四町の基地は爆発しなかったことをハルバードはサイスから聞いた。
「自爆するわけじゃなかったんなら、別にカオスコントロールしなくてもよかったのかもな」
「でもどっちにしろやばいことになってたと思うよ」
 二人は三七五町に戻った。クレイモアに他のカオスエメラルドの在り処を教えてもらわなくてはならない。カオスエメラルドがあればクレイモアは他人の記憶を覗けるようになる。カオスエメラルドの在り処を徹底的に調べてもらうつもりであった。
 クレイモアはやはり自分の部屋で原稿を書いていた。賢者ブレイクのことも異文化ウイルスのことも全て文字に起こすつもりであるようだ。もしかしたらその真実を公表する予定なのかもしれない。放っておくとずっとキーボードを打ち続けていそうであったから頼みごとをすることに抵抗はなく、むしろクレイモアにとっていいことであるように思うことができた。ハルバードはクレイモアにカオスエメラルドを渡した。
「これを使ってカオスエメラルドの在り処を調べてほしい」
「わかった」
 クレイモアはそう言って早速情報を集めに外に出た。五八四町のGUNの基地にカオスエメラルドがあると調べてきた時もそうであったが、クレイモアは原稿を書くことに必死になっている割にはそれを何よりも優先しているわけではないようだった。もしかしたら自分たちのことを優先してくれているのかもしれないと考えると気分がよくなった。ハルバードは既に印刷されている原稿を手に取ってみた。賢者ブレイクがどのような人生を送ってきたか書いているようである。ハルバードが手に取った紙は世界革命の後のことについて書かれた文章の一部だった。そこには恋人のソフィアのことばかりが書かれてある。どうやら賢者ブレイクは世界革命の後はソフィアばかりを見て過ごしていたようだった。単に愛していたからというだけではないらしい。ソフィアのために自分がしたことを思っては、彼女に執着せずにはいられなくなったのだ。ブレイクは一日中ソフィアの隣にいるような日々を過ごした。幸いなことに、ブレイクにとってソフィアはそうするに足る人物であったようだ。

「ようやく帰ってきたか」
 アックスの部屋に帰ると部屋の主がそう言った。
「ただいま」
 青年の姿のアックスに未だ慣れない。かつてこの友はダークチャオだった。その頃のやんちゃに見える外見とは似ても似つかない。そのために言動もやけに大人っぽく見える。しかし実際にはチャオの頃から劇的に変化したわけではないのだと寝食を共にしているうちにハルバードは気付いた。昔からハルバードたちの中では大人っぽいところがあった。
「君とサイスがカオスエメラルドを探しに行ったと聞いて、俺たちはどうしようかとスピアと話し合った」
 アックスはハルバードをじっと見つめていた。ハルバードは視線の強さに目を逸らす。敵であった頃の名残で攻撃されているように感じられて緊張する。しかし続けてアックスが言ったのはハルバードの仲間になるという言葉だった。
「俺たちも君と一緒にカオスエメラルドを集めることにした。君たちが死なないように俺たちも戦う。きっとスピアも今頃サイスに同じことを話しているだろう」
「そうか」
「俺はカオスチャオだから簡単には死なない。君たちを守ることもできるはずだ」
 それは厄介な話だとハルバードは思った。盾は自分の役目だ。スピアが加わるのはいいが、アックスが仲間になるのは競争相手が増えることを意味しているらしい。アックスのように死ににくい身体が欲しくなった。
「仲間になるのはいい。だけど人を殺さないように努めるのが条件だ。たとえ反撃される危険があったとしても殺してはいけない」
「わかった。任せておけ」
 アックスは自分が盾になるつもりだ。そうはさせないとハルバードは思い、すぐに外に出て研究室へ向かった。そこでドクターフラッシュに、自分の心臓にエンジェルリングを入れてくれと懇願した。
「本気で言っているのかい」
「本気です」
「できないことはないけどね」
 そうは言うもののフラッシュは乗り気でない様子だ。手術は大仕事である。時間も人も必要だ。
「そもそもどうして心臓に入れたいんだね。普通に持っていればいいだろう」
「エンジェルリングは心臓の代わりになる。エンジェルリングは人の心臓よりよっぽど頑丈だから、エンジェルリングを心臓として使っていれば、その人間はそう簡単には死ななくなるんじゃないですか」
「確かにそういうこともあるかもしれない。君は不死身になりたいのかな」
「死にたくないわけじゃありません。今はただ普通なら死んでいる状態でも生きていられる力が欲しいだけです」
 まあいいだろう、とフラッシュは言った。この手術によってハルバードの心臓のカオスエメラルド化が促されるかもしれない、と彼は呟いた。そういう言い訳でもって手術を行う決心をしたのだった。

 クレイモアは翌日の昼に有力な情報を持ってアックスの部屋を訪れた。
「カオスエメラルドは一か所に集められることになった」とクレイモアは言った。「お前たちがカオスエメラルドを奪ったから、これ以上は渡すまいと六つを一か所に集中させることにしたみたいだ」
「当然守るのは先生というわけだ」
 そうアックスが言うとクレイモアは頷いた。
「そういう情報は無いが、その可能性はあるだろうな。六つ集めれば守ることができると思っているからには」
「六対一では分が悪いな。せめて四対三くらいにはしたい。輸送しようとしているところを襲って奪うってわけにはいかないだろうか」
「最も安全な輸送方法はカオスコントロールによる瞬間移動だ。きっと先生がそうやって回収するのだろう。実際具体的な計画について情報が入ってこなかった」
「もう既に回収し終わっているということもあるわけか」
 二人が話すのを聞いていたハルバードは、つまり不利だということだ、と認識した。しかし不利でも行くことに変わりはない。
「それで、どこに集められるんだ?」とハルバードは言った。
「GUNの研究施設らしい。元々一つはそこにあったようだ。六つ集めて守りながら研究を進めようというつもりみたいだ」
「それならとにかく行こう。攻めれば、相手が対応を間違えてくれるかもしれない。ミスしてくれればこちらにもチャンスはある」

 研究施設は非常に広かった。様々な研究をしているようである。軍事に関係のある研究をしているとも限らない、とクレイモアが言った。民間の研究に資金や施設を提供しているらしい。やはり壁を破壊して侵入する。相手にしてみれば襲撃してくることはわかりきったことである。すぐに魔法使いが数十人駆けつけた。
「この前より早いね」とサイスが言う。
「いいか。なるべく殺さないようにしてくれ」
 ハルバードが三人に念を押す。しかし殺さないようにするというのは大変なことだ。この前襲撃した基地でももしかしたら死人が出ているかもしれない。完璧に人殺しをしなくて済むわけではないはずだ。おそらく人を殺してしまうだろう。それでもこれが答えでいいとハルバードは思った。たとえ無駄な行為だとしても、殺人を回避しようと努める。それがやるべきことだ。エンジェルリングさえ持たない魔法使いたちは相手にならない。ハルバードは仲間を守るべく三人の動きに注意を払った。三人の中でスピアの動きが最も洗練されているように見えた。魔法の扱いにおいては素人同然なため剣で攻撃している。刺突専用の細い剣で脚や肩を刺して無力化していく。一人一人倒していく様が丁寧な仕事に見えたのだった。対してサイスは魔法の弾丸を何発か同時に撃つこともある。心臓は避けても腹部に当たったり、外れたりしていた。
 仲間が増えてもハルバードが殿を務めて後ろの敵の攻撃を受けることに変わりはない。盾のライバルであるアックスには先頭に立ってもらった。苦労することもなく四人はホープを見つけた。ホープは人間の姿をしていなかった。しかしチャオの姿をしているとも言えなかった。チャオにしては大きかった。脚もある。腕にはカオスエメラルドがはめ込まれている。左右三つずつだ。これがカオスになりかけているチャオなのだろう、とハルバードは思った。賢者ブレイクが戦ったサクラというチャオもこのような状態になっていたのだろう。
「やあ、よく来たね」
 ホープは四人を敵と見ていないようであった。あまりにも緊張のない声だった。
「カオスエメラルド、返してくれるかな」
 一方でハルバードは非常に緊張していた。気を抜いたら次の瞬間には死んでいるかもしれない。
「それはできません」
「どうしてそんなに奇跡を私物化したがる。この世界は変わらなくていい」
「異文化ウイルスに蝕まれていても?」
「乗り越えるさ。奇跡の力には頼らない。そもそもカオスエメラルドの力でも消すことはできなかったそうじゃないか」
 ハルバードは、自分のしようとしていることを説明すれば納得してもらえるだろうか、と考えた。もし納得してもらえて戦闘を回避できるのなら話すべきだ。とにかく話してみようと思った。
「文化を上書きします。異文化ウイルスの影響を強く受けると、どうすれば人を殺せるのか、よくわかるようになる。それを逆手に取れば、殺さないように頑張ることもできる。だからそうやって死を回避する文化をカオスエメラルドを利用して広めようと思っています。傷を治す魔法も一緒に広めます」
「そうやって理由を付けて、カオスエメラルドを奪おうとする。残念だよ。君たちは世界の敵だ」
「下がって」
 ハルバードは三人に指示し、自分はそれとは反対に前に出た。バリアを展開する。ホープの右手から出た光線が魔法の壁を削っていく。やがて光線はバリアに穴を開けた。穴を通って襲い掛かる光線を避けようとしたもののハルバードは右腕を失った。光線によって関節の辺りが削られて腕が落ちたのだった。絶叫する。激痛と対面しながらも自分を殺そうとしているホープの攻撃から逃れなければならない。それに腕も治す必要がある。少しでも治療に魔力を回すためにバリアを狭めようとするが集中できなかった。サイスが射撃した。撃ったのは男性の腕くらいの太さがある魔法の弾丸だった。ハルバードがバリアで攻撃を防いでいた間に作り上げたのだった。音速で飛んでくるそれをホープはバリアで防ごうとしたが間に合わず弾丸は薄いバリアを貫いてホープの胸部をもいだ。
「逃げて」
 サイスはハルバードに向けて叫んだ。ハルバードは千切れた腕を回収して、治療の魔法で削られた部分だけを治して右腕を元に戻した。激痛の余韻がまだ脳を揺さぶっていたが右腕は正常に動いた。ホープは液体のように形を失い、そしてばらばらになったものを一つに集めている。その液体の中にカオスエメラルドがあった。カオスエメラルド目掛けて魔法の弾丸を撃ち、ホープの体内から弾き出そうとした。しかしホープは手放さなかった。ハルバードは駆けた。無理矢理もぎ取ろうと思ったのだ。ホープは元の形に戻りつつあった。ハルバードは右腕にあるカオスエメラルドの一つを掴んだ。しかし体内から引っ張り出せないままホープの体は元通りになる。そして左手をハルバードに向けた。今度は絶叫しようにも声が出なかった。腹部が破損し、上半身と下半身が分離した。しかしハルバードはカオスエメラルドを奪っていた。上半身が床に落ちる前に瞬間移動をした。同時に治療も行い、ホープから五メートル離れた所に傷が完治した状態で現れた。
「勝てる」
 そう呟き、今度は叫んだ。
「勝てるぞ」
 三人に向けて言ったつもりだったのだが、歓喜の叫びのようにも聞こえた。冷静な状態ではなかった。傷は治せても激痛の衝撃で頭痛があった。いくら治療したところで、この頭痛によって死ぬのではないかとハルバードは思った。既にまともにものを考えられる状態ではないのである。これ以上耐えられる気がしない。しかし耐えるしかない。ホープの放つ光線をバリアで受け止める。
「くらえ」
 バリアの陰からサイスが顔を出し、再び大きな弾を撃った。ホープはバリアを五枚作りそれを防ぐ。しかし弾丸は先ほどのよりいくらか小さく作られていて、バリアを二枚突き破る程度の力しか持っていなかった。ハルバードが再びカオスエメラルドを奪おうと前進している。自分のことを頑丈だと思っているアックスも前に出た。それに続いてスピアまでホープのカオスエメラルドを狙って走り出した。ホープは三人のうち自分により近いハルバードとアックスを狙った。三つカオスエメラルドがある左腕でハルバードを、右腕でアックスを狙って光線を撃つ。ハルバードはアックスの前にバリアを張った。ハルバードは回避しようと努めたが左脚を失った。意識は手放さなかったが立つことができなくなって倒れる。スピアはホープの横に回っていた。左腕から光線を出して迎撃するがスピアはそれを横に跳ねて避けた。広範囲に攻撃されていたら避けられなかったであろう。しかし現実には攻撃を避けたのだ。スピアはそのまま素早くホープに密着し、左腕を切った。切断するための剣ではなかったため実際には強引にえぐった形になった。腕はハルバードの目の前まで飛んだ。スピアは即座にホープから離れた。
「ぎいいいい」
 ハルバードは左脚の治療もせず狂ったようにわめきながらカオスエメラルドをもぎ取った。そしてアックスが残りの二つを奪うためにホープに接近する。ホープは右腕をアックスに向ける。六つから二つに減ったとはいえ、カオスエメラルドを複数持っている以上その攻撃の威力は高い。アックスの代わりに攻撃を受けるためハルバードはカオスコントロールによって瞬間移動した。ハルバードの腹部がホープの右手と密着していた。そして右手から放たれた光線をバリアではなく魔力で強化した腹部で受け止めた。既に頭が限界を迎えていた。攻撃を受けている腹部の痛みよりも頭痛の方が激しかった。どうすれば目の前にいる敵を倒せるか、ハルバードにはわかっていた。賢者ブレイクと同じようにカオスブラストという攻撃をすればいい。しかしそれでは敵を殺してしまう。どうすれば殺さずに済むのか考える余力はなかった。だから盾となって攻撃を受け続けること以外ハルバードは何もできなかった。サイスが慌てて銃弾を撃つ。バリアを張るためにホープの攻撃が止まってハルバードは倒れた。そしてアックスとスピアがカオスエメラルドを一つずつ奪い取った。ホープの姿はただのカオスチャオに戻った。ハルバードは意識を失っていた。アックスたちはホープを置き去りにしてひとまず拠点に戻ることに決めた。

 サイスは治療の魔法でハルバードの体を一通り治したがハルバードは二日ほど目を覚まさなかった。そして目を覚ましてもすぐに頭痛を訴え、うめき声を上げ続けた。痛みのために眠ることも難しいという状態であった。痛みのために苦しみ、疲れてなんとか眠る。そういった日々をさらに二日過ごした。もう戦いが終わっていることが支えであった。頭痛がなんとか我慢できるくらいになるとカオスエメラルドの話になった。
「七つ集まった。で、どうする」とアックスが言う。
「勿論奇跡を起こすさ。そのために戦ったんだ」
「人を殺さない文化って言ってたよね。でもどうやってその文化を作るの」
 サイスがそう質問するとハルバードは精一杯笑みを作った。
「もうあるはずだ。俺の中に」
「殺さないようにするって、そのために」
「そう。でも最初にそれをやったのはスピアだ。俺とサイスを殺さないでくれた。そして皆が手伝ってくれた」
 ハルバードは今ならば奇跡が起こると信じた。自分の行いに恥ずかしいところはないと思えた。これから七つのカオスエメラルドの力を使う。母星のことを思い出さずにはいられない。それでも奇跡を起こすことをハルバードは躊躇わなかった。七つのカオスエメラルドとハルバードが共鳴していた。
引用なし
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