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週刊チャオ鍛錬室 ろっど 11/4/23(土) 4:16

ヘヴンポップ・クリエイト だーく 18/9/27(木) 0:13

ヘヴンポップ・クリエイト
 だーく  - 18/9/27(木) 0:13 -
  
 真織はカーペンターズの"Top Of The World"を口笛を吹いていたと思ったら、
「口笛みたいな夢を見たいな」
 そんなことを言った。
 突然そんなことを言うような彼女が僕は好きで、そんなことを言えない僕が嫌いだった。
 きっと彼女の言うことは僕にはわからないんだろうな、と思いながらも彼女と話を続けたくて、
「それって寝る方の夢?」と聞くけど、
「どっちでもいいの」と言われて、やっぱりわからなかった。彼女はサビを口笛で吹ききった。高音が掠れた、あんまり上手じゃない口笛だ。
「あのお」と彼女は続けた。
「誰が吹いても大体同じで、声ほど我が強くないっていうか」
 彼女はいつも思いついたことを口に出しては、その後で赤くなって言い訳するように説明する。僕は説明を聞いても全然しっくりこないことの方が多くて、今日も彼女の言いたいことをわかってあげられないんだろうな、と思うんだけど、諦めきれなくて悲しい。
「なのに、自分勝手? っていうのかな。口笛でどもることってないでしょ? 勝手に進んでいくみたいな。でも、確かに自分が吹いてる」
 もしかしたら彼女の言っていることはすごくそのままの言葉で、何も考えずに聞いたらすんと飲み込めてしまうようなことなのかもしれないけど、席替えをしたばかりの高揚感で乱れた教室の光景みたいに、僕は正しく飲み込めないのだった。
 できない返事の代わりに"I Need To Be In Love"を吹くと、真織も合わせて口笛を吹いた。ユニゾンと呼べないくらいに真織の勝手な口笛と僕の恋にまみれた口笛の間には決定的な差があるように思えた。真織は僕の顔を見ながら口笛を吹くけど、僕は真織が口笛を吹いてるときにうっすら浮かぶ首筋の魅力にしか目が行かなくて、それが悟られないようにするのに必死だった。
 サビを吹き終えたところで、
「喋るのとそんな変わらないかも」
 と僕は言った。
「うーん、それは勇気が口笛上手いからだね」
「そうなの?」
「そうなの」
 確かに僕の口笛は高音も掠れないし、細くてよく響く。真織の口笛は高音も掠れるし、たまに裏返ったような音を出す。真織は喋っているときもよく声が裏返るし、真織の口笛こそ喋っているのに近い気がする。
 真織のチャオのポップが、真織のベッドにもたれかかってあぐらをかいている僕のお腹に抱きついてくる。真織の家に初めて来て真織の部屋に入ったときは、まさかチャオがいるなんて思っていなかったから、扉の前まで迎えに来ているポップにすごく驚いたが、その驚いた僕を見てポップもすごく驚いていた。その光景を見て真織は大爆笑をした。笑っている真織を見て、ポップも嬉しそうに真織の足元で跳ねていた。僕だけが苦笑いで取り残されて、ああ、やっぱりヒーローチャオなんだ、とすごく冷静に思ったことが強く印象に残っている。
 夏が終わって涼しくなり始めた時期だったけど、今日は少し暑かった。エアコンはもう今年の夏の役目は終えたみたいでまったく動く気配はないし、窓も最近涼しくなってきたからという言い訳をするみたいに閉じていた。僕はお腹の辺りが少し汗で湿ってきたから、ポップを少しだけずらしてその部分を乾かそうとしたけど、ポップが不満そうな顔をしたので元の位置に戻した。僕は長袖Tシャツの袖を捲ってささやかな抵抗を示したけど、ポップはエアコンや窓と同じくらい頑固だった。
「勇気はどんな夢みたいの?」と真織が言う。
 口笛みたいな、と同じ類の言葉を僕は言えないから正直に、
「アニメみたいな」と言った。「あるいは」
「あるいは?」
「漫画みたいな」
「特撮みたいな、は?」
「あるいは、ね」
 僕はすごいスピードで飛び、地面を殴った衝撃で相手をひっくり返し、腕を突き出した勢いで山をえぐりたい。移動手段に電車が必要ないだとか、重いものも苦もなく持てるだとか、どんな仕事にも引っ張りだことか、そういうのじゃなくて、ただその能力を見せびらかしたい。その行為が僕のステータスとなって、他の人の認識に刷り込まれていくのがゴール。それが決定的に僕を良い方向へと変えてくれそうな気がする。
 でもそんなことができないことはわかっている。すごく残念だけど、僕は空を飛ぶどころか、絶対的にエアコンもつけることができないし、絶対的に窓を開けることもできないし、絶対的にポップをどかすこともできない。お腹の汗のぬるさが夢との隔絶を叫んでいて、現実はベッドに座って僕を見下ろす真織を受け入れていた。
 真織が急に立ち上がった。
「それなら、面白いの見せてあげる。ポップ、ぎゅーして」
 真織がそう言うと、ポップは僕の胸にしがみついて、顔を横に振った。キャプチャの動作だ。
 すると真織は東側の窓を開けて、ポップを手招いた。ポップはふわふわと真織の方へ飛んでいって、窓枠に立った。ポップが窓枠に着いたのを確認すると、今度はベッド側、北側の窓を開けた。
「よーい、どん!」
 と真織が叫ぶと、ポップが窓からすごいスピードで飛び立った。「ええ」と僕は声をあげていた。
 十秒くらいすると、北側の窓枠にポップが着地した。数えて待つ十秒間と同じ、本当の十秒間のようだった。
「世界一周」
 と真織は笑った。
「嘘だろ?」と驚いてみせると、
「うん、ホントは家一周」といたずらな笑顔を見せた。
 僕も諦めて笑う。
 窓枠からベッドに降りてきたポップを、真織が無邪気に抱きしめると、ポップも真織の首にしがみついて、顔を横に振った。
 真織とポップは口笛のユニゾンをしたと思ったら、ポップはふざけてベッドを殴って、ダチョウ倶楽部みたいに真織が跳ねる遊びを始めた。真織が跳ねる瞬間、口笛が裏返って間抜けな音を出すのがまた面白くて、二人ははしゃいでいた。口笛みたいな夢も、アニメみたいな夢も、もしかしたら同じようなものかもしれないと思って、僕は真織に告白しようと思った。
引用なし
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