●週刊チャオ サークル掲示板
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No.10
 冬木野  - 11/10/4(火) 15:43 -
  
 今回の私はどうもおかしい。
 ターミナルの時もそうだったが、どうも省みるっていう事をしない。後に起きるであろう問題というものを考慮せず、できると踏んだら見切り発車だ。本当に元探偵だったのか自分でも疑ってしまう。
 どこからこんな馬鹿馬鹿しいほどの余裕が出てくるんだろうと考え、真っ先に思いついたのは自分が不死身になったからという答えだった。
 何故か軽く受け止めていた、不死身になったという事実。
 当然、最初は僅かだが戸惑った。人間に戻って少しの頃のことだが、試しに指先をわざと切ってみたことがある。傷はあっという間に塞がり、自分が普通の人間ではないことがわかった。
 フロウルの話は本当だった。ひょっとしたら私がチャオから人間に戻った時に、ただの人間に戻っているんじゃないかと思っていたけど、私は不死身のままだった。ひょっとすると、眠っていた時と同じように成長もしないし、衰えもしないんじゃないかとも思った。
 ぞっとしたのは束の間だった。利便性で言えばこいつは大きなメリットだ。特に悩まず、そんな答え一つを出してすぐにこの問題から目を逸らした。
 だから本当に悩んだのは、これが最初だ。
 不死身になったせいで、自分を律する事ができていないのだから。


「……おい、どうした?」
「あ、いえ」
 所長の声で、私は現実に引っ張り戻された。
 その後、ミキを含めた私達三人はGUNの警備隊に殺人未遂として人工チャオ達を引き渡した。当然ちゃんと着替えてから。制服は残り一着だった。
「最後の一仕事だ」
 植物園をあとにした私は、所長の言うそれに付き合うべく二人についていくことにした。
「仕事って、ひょっとしてフロウルの手伝いとかですか?」
「知ってるのか?」
「全然」
 フロウルとは話こそしたが、今やっていることについては全く触れていなかったし。
「……知らねえって、お前ここに何しに来たんだ?」
「何しにって、フロウルを探しに来てたんですよ」
「ふーん。なんだな、あいつも目立ちたがりになったもんだ」
「目立ちたがり?」
「少なくとも事務所ん中じゃ、あいつを知ってるのは俺だけだったもんだ。今じゃ名前だけならみんな知ってんだろ?」
「まあ、そうですけど。……あの、どういう経緯で知り合ったんですか?」
 ふと気になったことを問いかけてみる。特に話し難い事というわけでもなく、所長は気軽に、簡潔に話してくれた。
「別に、義兄経由で知り合っただけだよ」
「シャドウさんですか」
「ああ。あいつの裏組織のガサ入れに付き合ってたらしい。それでなんとなく知り合って、そんだけ」
「そんだけ?」
「おう、それ以上のことはなーんも」
「よくそれで協力関係になんかなりましたね?」
「ま、仮になんか厄介事が起きても問題無いしな」
 欠伸交じりの台詞は、しかし所長が言うから説得力があった。いつかに見た“魔法使い”としての所長の背景があるからだろう。軍隊の一個中隊相手は云々というフロウルの言葉を思い出す。
「で、こっちも一つ聞きたいことがあるんだがよ」
「なんですか?」
 何を聞かれるんだろうなと所長の言葉を待つ。所長はすぐには切り出さず、言葉を捜すように余所見をしながら歩く。
「――お前、死なないのか?」
「え?」
 死なない……って、なんだろう。私が不死身かどうかっていう話か?
「お前が撃たれてるとこは見てた。頭や胸も撃たれてたろ」
「ええ、まあ、そうですけど」
「死なないのか?」
「……はい。死んでませんね」
「そうか」
 もっと深く掘り下げられるかと思ったが、所長はそこで言葉を区切った。こちらから何か切り出すべきかと悩んだが、何を話せばいいものかわからない。結局所長がまた口を開く側に。
「お前が不死身だってこと、誰が知ってる?」
「え……と、所長達の他にはシャドウさんと、あとはフロウルくらいです。多分」
「そうか。ちゃんと隠しとけよ。事務所の奴にも、保護者にもだ」
「わかってますよ。言い触らしたって意味ないじゃないですか」
「そういう問題じゃねえよ」
 じゃあどういう問題だろう、と思っても所長はまた言葉を止めてしまう。会話が続かないなと嘆きながら車の流れを眺める。
 この辺りは道路端に停めてある車の数が比較的多い。テーマパーク近くを歩く客層を狙った売店が多いせいだろう。見ると、客入りの多い飲食店やお土産店の姿が目立つ。改めて停められた車の中を見ると、退屈そうに友人達を待つ人の姿が見える。どの車もそんな感じだ。
 そんな中、一台の車が目に付いた。見た目は普通の乗用車だ。最近の車らしい、違いがわからない平凡な車だ。だからそれに気付いたのは偶然なのだろうが。
 その車の運転手と、目が合った気がしたのだ。視線はすぐに外したが、相手が何者なのか意外なくらいすぐに気付いた。植物園に来る前に撒いた追っ手だ。私が出てくるのを待ってたのか。なんにしても厄介だ。何が目的か知らないが、見つけたからには向こうも私を追ってくるだろう。どうにかして手を打たないといけない。
「あの、所長――」
 ここは一つ手を貸してもらおうと思ったが、所長は私の言葉を手で遮った。懐から無線機を取り出し、誰かと連絡を取り始める。
「どうした……ああ? なんでターミナル近くが張られてんだよ、こっちで誘き寄せたはずだ。そんなに人員使ってるってのか向こうは。窮鼠ぉ? 知るかよそんなの。やったのはユリだろが」
 おいなんか私の悪口してねーかおい。
「うっせーないいから出しちまえよ。……面倒くせーな、そんなのテメェでどうにかしろよ使えねえ奴だな。……あ? 今なんつった保父か? 保父って言ったか死なす」
 何がどうなってるのかさっぱりわからないが、少なくともこの場ではらはらしてるのは私だけだ。表情ごと直立不動なミキがちょっと羨ましい。というか保父ってなんの話だ?
「ああもうわーったよ行けばいいんだろ行けば。ゆっくり行くからせいぜい頑張れ」
 ぶっきらぼうに通信を切って、舌打ちしながら「行くぞ」と足を速めた。
「あの、どうしたんですか?」
「使えねぇクソ兄貴が追い掛け回されてんだ」
「え、何に?」
「裏組織の奴だよ」
「そんなのシャドウさんならどうとでも」
「車で運んでる奴がいるんだ。それに派手な真似はできない。フロウルが噛んでる件だからGUNに勘付かれると厄介なんだ」
「あ、その」
 必要なことを捲し立ててさっさと行こうとする二人に慌てて声をかける。
「すみません、ちょっと野暮用があって私」
「好きにしろ」
 どうやら私は必要ないらしく、さっさと行ってしまった。ま、当たり前か。
 私が所長達についていけない理由はもちろん、車道の方で私に熱烈な視線を飛ばしてくる誰かさんがたのお相手だ。所長達のやっていることがなんなのかは正直よくわからないが、追われているとかどうの言っていた。そんなところに私が行ってみろ、有り難味の無い追っ手の三割り増しセール開催だ。
 一番手っ取り早い手は、ここから最も近い植物園のGUN警備隊を通信で呼び出して、この場にいるであろう不審者達を捕まえてもらうことだろう。だけど私はカチューシャ型無線機に手を伸ばしかけたところで体が硬直してしまう。車道と歩道を繋ぐ階段から集団が上がってきていたのだ。ちょっと目を離して所長と話していた隙に距離を詰められてる。
 咄嗟に私は逃げだした。GUNに救援を呼びかねたという致命的なミスを犯して。今からでも追いかければ所長達がいるかと思ったからだ。でも、歩道の角を曲がった先にいたのは所長達ではなく見知らぬ男の集団だった。まずい、挟み撃ちだ。
 ここで混乱した私は、恐らく最も選んではいけない選択をした。周囲に民間人も沢山いるんだからこの場で抵抗すればまだマシだったかもしれないのに、あろうことか歩道を飛び降りて、車道とは反対側のビル群に向かってしまったからだ。
「おい、なんだあれ」
「人が飛び降りたぞ!」
 後ろから聞こえる全ての声を振り切って、私は路地裏に逃げ込んでしまう。お前本当に自分の身第一が信条の職業してたのかよと自問自答するくらい馬鹿げた真似をした。民間人が身の安全の為に逃げるなら人の通りが多い場所だ。こういったとこに逃げ込むのは後ろ暗い人間のすることだろ。
 そんな自分の失態に舌打ちし、私はすぐに足を止めた。もう待ち構えられてる。あの歩道からこっちに逃げることが読まれてたっていうのか? どうして、と思って昨日の私の行いを振り返って後悔した。ターミナルの一件、あの段階でかなり手の内を晒していた。やっぱりターミナルの外にも、民間人に紛れた組織の人間がいたのだ。これくらいすると踏んで追いかけてきたんだ。
 後ずさりして、すぐに追っ手にぶち当たった。そいつは私の頭を掴み、壁に打ち付けて押さえる。
「動くんじゃねえ」
 もう一人の男が、私の右手を壁に押さえつけた。もう片方の手にはナイフを握っている。
 刺される。そう思った頃にはとっくに手遅れだった。
「あぐっ……」
 痛みは、想像していたものとは全く別のものだった。激痛は撃たれた時のように一瞬で、その時と違うのはいつまでたっても気持ち悪い悪寒が続いていることだった。瞼が重くなる。
 ナイフはすぐに抜かれた。悪寒もそれと一緒に消え、右手の傷はみるみるうちに塞がる。
「間違いありません」
「やはり」
 間違いないって、私が不死身だってことか? 昨日の追いかけっこで弾丸を貰ったところまで見られてる。所長にちゃんと隠しとけって言われた矢先にこれかよ。
「これで連中を黙らせられる」
 連中? 連中って誰だ。そんな私の疑問には当然彼らは答えず、かわりにスタンガンを取り出した。
 やられる。
 目を固く閉じたその時、路地裏に強風が吹き抜けた。突然台風が直撃でもしたのかと思った。その場にいる全員が怯み、私を押さえていた男も手を離した。
 何があったんだろうと振り返ろうとした時、唐突に誰かに体を抱えられた。
「大丈夫?」
「み、ミスティさんっ?」
 ボード型のギアに乗ったミスティさんが私に向けて眩しいくらいのウィンクを見せた。しかもこれ、どさくさに紛れてお姫様抱っこじゃないかよ!
「え、な、なんで?」
「話はあとあと」
 半ば混乱している私をしっかりと抱き抱え、ギアをUターンし一気にスピードをあげ、表へ大脱出。あまりの勢いに振り落とされそうになり、私は構わずミスティさんの首の後ろに腕を回した。この状態、尋常じゃなく怖い。なんでこんな状況でそんな涼しい顔してるんだよこの人は。
「ミスティ、来たよ」
 背中に背負われたフウライボウさんが、後方から私達を追う車を一台確認した。準備が良すぎる。私が植物園にいる間に頭数揃えてたのか。
「かもしれないね」
 前方で待ち構えるもう一台の車を見て、ミスティさんが目を細める。
「それにしたって数が多過ぎる」
「まあなんてったってユリちゃん可愛いし」
「茶化さないでくださいよ!」
「えー? ほんとのことなのに」
 軽口を言いながら、待ち伏せていた車や一般車両を縫うように避けていく。事故が少ないことで売りの交通分離帯は混迷を極め、一般車両はハンドルを切って道路脇に逃げる。追っ手の車がこれを好機と見てスピードを上げるが、ミスティさんはそれ以上のスピードを出して軽々と振り切る。
 と、ここで思わぬ事態になった。
 もうしばらく続くかと思われたこのチェイスに、突然の乱入者が現れた。それはチャオの一団で、猛スピードで走る車に対して横から体当たりをかましたのだ。驚くことに車は質量の法則を忘れたかのようにガードレールまですっ飛び、後続はみな急ブレーキを踏んで止まってしまった。
「あららー、こんな時に敵対勢力が鉢合わせだ」
「敵対勢力?」
「うん。多分HUMANとCHAOだね。さっさとずらかろう」
 とうとう銃声と悲鳴が轟き始めた道路から、私達はぐんぐんと遠ざかっていった。
引用なし
パスワード
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小説事務所 「Misfortune Chain」 冬木野 11/10/4(火) 5:33
キャラクタープロファイル 冬木野 11/10/4(火) 5:44
No.1 冬木野 11/10/4(火) 5:53
No.2 冬木野 11/10/4(火) 5:59
No.3 冬木野 11/10/4(火) 14:54
No.4 冬木野 11/10/4(火) 15:00
No.5 冬木野 11/10/4(火) 15:13
No.6 冬木野 11/10/4(火) 15:24
No.7 冬木野 11/10/4(火) 15:29
No.8 冬木野 11/10/4(火) 15:34
No.9 冬木野 11/10/4(火) 15:39
No.10 冬木野 11/10/4(火) 15:43
No.11 冬木野 11/10/4(火) 15:48
No.12 冬木野 11/10/4(火) 15:51
No.13 冬木野 11/10/4(火) 15:56
新しい小説事務所 ドキュメント 冬木野 11/10/4(火) 16:03
「あ、でも後書きがないんだっけ……」 冬木野 11/10/4(火) 16:27

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