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No.4
 冬木野  - 11/8/8(月) 6:22 -
  
 ミスティさんの後を追って戻ってきた事務所は、気のせいか静かに感じた。
 唯一騒ぐカズマやヤイバ、それを叱るヒカル。普段うるさくしているのはその三人くらいなものなのに、その声が無くなるだけで痛いほど静かになる。
 寂しいっていうんだっけ、こういうのは。
「おじゃましまーす……あれ」
 事務所に上がりこんだミスティさんが、はたと足を止めた。
「リムさん、いないね」
「ほんとだ」
 二人の言うとおり、受付には誰もいない。リムさんも捜索を手伝っているんだろうか。
 気に留めるのも程々に、二人は先に階段を上がっていった。私も後を追おうとして、やはり気になった無人の受付をまじまじと眺めていた。
 ……とは言っても、いくら眺めたって特におかしな事なんて何もないんだけど。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 遅れて入ってきた所長室では、既に一同が神妙な顔付きでミスティさんの持ってきた書類と睨めっこをしていたところだった。ヒカルやハルミちゃんはともかくとして、問題児二人が真面目そうな顔をしているのはとても珍しい。
 どうせ誰も気付きはしないのだが、なんとなく足音を殺すように移動して来客用ソファの端に腰掛けた。隣のヒカルが持っている書類を覗き見ると、件のフロウル・ミルについての個人情報が纏められていた。やはり私達の予想通り、事件に圧力を掛けたのは裏の世界の人だったわけだ。
「……って、あれ?」
「ん?」
 私とヒカルが疑問の声を漏らしたのは大体同じ頃だった。
「ねえ、この人の顔おかしくない?」
「え、どれ?」
 そのまた隣に座っていたカズマが書類を覗き込み、同じように声をあげた。
「ほんとだ、顔が違う」
 ここに警視のフロウル・ミルの顔写真は無いが、それでも顔が微妙に違うことがわかる。特徴が薄いのは変わらないのだが、目元や口元など細部に確かな違和感を感じる。
「変装してたのかしら」
 その線が濃いだろう。とうっても名前を変えないで顔だけ変える意味はわからないけど。
「組織に入ったのは設立直後間もない頃。少なくとも計画名が“BATTLE A-LIFE”だった頃までは存在が確認されているけど、それ以降の消息は不明。お父さんはなんの情報も持ってなかったわ」
「確か“BATTLE A-LIFE”計画が潰れたのはずっと前の事だよな? 少なくとも未咲ちゃんの事故が起こるよりは」
「じゃあ、フロウルって人が警察になったのは計画が潰れた後……ってことでいいんですよね?」
「何やってたのかしら、警察なんか入って」
「内通者じゃないかな」
「どことの?」
「さあ?」
 一同の会話は、一旦そこで止まった。


 フロウル・ミル。かつて“BATTLE A-LIFE”計画に参加した経歴を持ち、不審なタイミングで警察から消えた人物。
 確かにこれは有力な手掛かりだ。だけど、この存在が浮かび上がったことについて何がわかるのかと言うと、正直言ってそれほど大した事はわからない。未咲の件はこの人物によって隠蔽された、という事くらいだ。
 でも、実行犯というわけではない。今の段階では、この人物が事件を隠したという事実しかわからない。実行犯との関連だってわからない。もちろんそんなの探し出して吐かせてしまえばいいんだけど、それができれば苦労はしない。多分、今も変装してどこかにいるんだろう。
 そもそも未咲の事件を隠蔽するにあたってのメリットは? 未咲との関係は? 彼は組織で、警察でいったい何をしていたのか? 一つの事実が判明したのに、新たな謎がまた浮上してしまう。これじゃ泥沼だ。フロウル・ミルという人物像を根本的に把握していないのだから当たり前ではあるのだが……しかし、誰がフロウル・ミルを知っていると言うのだろうか。関係がありそうな人物なんて、少なくとも私の知る限り誰も……。

 いや、落ち着くんだ私。もう少し単純に考えてみよう。
 確かに私はフロウル・ミルと関わりのある人物なんて知らない。だけど今回の事件を調べるうちに浮上したフロウル・ミルという人物は、逆に言えば誰かと関係していなければ筋が通らない。つまり、なんらかの形で未咲と繋がりがあると、少々強引にでもそう考えてしまえばいい。予想が外れることにはこの際目を瞑るんだ。
 さて、フロウル・ミルが未咲を知った機会として妥当なタイミングは?

「……わかった。けど……」
 可能性は思いついた。そこまではいい。
 でも、どうすればいいんだろう?
 ここまで思考を巡らせておいてなんだか、所詮私は死人だ。生者と語らう口が無い。私が真実に一歩近付いたとしても、みんなが何もわからなければ意味がない。
 なんてもどかしいんだ。折角の突破口なのに、状況は何も進展しないなんて。どんな方法でもいいから、みんなと会話ができればいいのに。せめて誰かが私と同じ可能性に気付いてくれれば――。


「ヒカル?」
 ひたすらに頭を悩ませていた私を、カズマの怪訝な声が引き戻した。
「――――え?」
 呼ばれたヒカルが、やや遅れてその声にピクリと反応した。どこかおかしなヒカルに、私も怪訝な視線を向ける。見るとヒカルは、さっき手にしていた資料をいつの間にやら床に落としてぼーっとしている。
「どうしたの?」
「ううん、別に……なんでも……」
 ……なんでもなさそうには見えない。なんというか、さっきまでとは顔色が違う。目線も心なしか揺らいでいるような気がする。
「ヒカル、どうかしたの? 大丈夫?」
「アンジュさん」
「えっ?」
 その場の、私を含めた全員がヒカルの言葉に耳を引かれた。その中でも一番驚いたのは――私かもしれない。
「ヤイバ、あんたアンジュさんの連絡先持ってるわよね?」
「あ、はい。お持ちでござんす」
「フロウルのことを知ってるか聞いてみて」
「アンジュさんに? なにゆえ?」
「いいから。とにかく聞いてみて」
 釈然としないながらも、ヤイバは言われた通りケータイを取り出した。場がどことなく不思議な空気に包まれ、他の全員は口を閉ざした。

「もしもし、アンジュさん? オレっす、ヤイバです。……ええ、まあそんなところです。ちょっと聞きたい事があるんすけど、フロウルって人に心当たりはないすか? フロウル・ミルっていう……え? ええ……ええ……良かったんすか? 探偵としてよろしくないんじゃ……はあ……そうすか。すみませんわざわざ。それじゃ、あとで。よろしくお願いします」

 実に意味深な電話内容だった、と言えよう。通話を切ったヤイバは、なんとも言えないといった感じの顔をしていた。
「知ってるってさ」
「ほんとに!?」
 その場のほとんどがまさかと腰を浮かした。でも、電話をするように促したヒカルだけは確信めいた表情をするでもなく、ただ複雑な面持ちをしていた。
「なんかタイムリー過ぎてオレも驚きなんだけどさ。フロウル・ミルって人、未咲に依頼を頼んだことがあるんだってよ。明確にいつだったかは覚えてないらしいけど」
 なるほど、さっきヤイバの言っていた「探偵としてよろしくない」とは、クライアントの守秘義務に反するのではという意味だったわけだ。
 しかし――驚いた。別の意味で。
 フロウル・ミルは一度でも探偵事務所に足を運んだことがあるのではないか。実は私の気付いた可能性というのはズバリその事だった。それが一番自然に未咲と関連ができると、そう思ったわけだ。
 まあ、ちょっと考えれば誰でも気付いた可能性だろうけど……同じようなタイミングで、ヒカルも同じ可能性に気付くとは思わなかった。まさにタイムリーというやつだ。

 それなのに。
「ヒカル、いいトコに気付いたねー。さっすが」
「あ……うん。まあね」
 ヒカルはただ愛想笑いを返した。そう、愛想笑いだ。
 そもそもヒカルはついさっき資料と落としたにも関わらず、まるで意識を手放していたかのようにそれに気付かなかった。考え込んでいた、というのとは訳が違う。今も同じだ。考えが纏まっていないように見える。
 どうしてヒカルは、そんなに釈然としない顔をしてるんだか。


____


 その後の事を簡単に説明しよう。
 アンジュさんにフロウル・ミルの件について確認を取るべく、メールで必要な情報を送った(この時アンジュさんのアドレスを手に入れたヤイバはご満悦だった)。
 だが、やはりと言うべきかアンジュさんは、同封された二つの顔写真について「この顔は見た事がない」と返事をしてきた。念の為、彼がなんの依頼をしにきたかも聞いてみたが、なんてことはないただの猫探しだった。
 ひょっとしてフロウル・ミルは関係ないんじゃないかとか、同姓同名の別人じゃないのかという疑惑がみんなの脳裏に浮かぶが、何はともあれまた情報があれば是非連絡してほしいと締めくくり、一同は解散した。

 まだ、大きな手がかりは見つからない。
引用なし
パスワード
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小説事務所 「Continue?」 冬木野 11/8/8(月) 5:57
キャラクタープロファイル 冬木野 11/8/8(月) 6:02
No.1 冬木野 11/8/8(月) 6:06
No.2 冬木野 11/8/8(月) 6:11
No.3 冬木野 11/8/8(月) 6:17
No.4 冬木野 11/8/8(月) 6:22
No.5 冬木野 11/8/8(月) 6:26
No.6 冬木野 11/8/8(月) 6:33
No.7 冬木野 11/8/8(月) 6:39
No.8 冬木野 11/8/8(月) 6:50
No.9 冬木野 11/8/8(月) 6:56
おまけ「探偵少女のステータス」 冬木野 11/8/8(月) 7:14
後書きは一作品につき一個って相場が決まってんのよ 冬木野 11/8/8(月) 7:47

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