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第1章 4話 カオシング現象
 スマッシュ  - 16/12/31(土) 23:47 -
  
 夜。
 屋敷を占拠しているチャオたちへの攻撃が始まった。
「リトルネード!」
 大男のチャオが回転しながら飛び、屋敷に突っ込んだ。
 屋敷の壁を破壊し、なおも回転したまま中に入っていく。
 続いて飛べるチャオが二匹、開いた穴から入った。
 小さな竜巻のように激しく回転している大男のチャオは、驚いて体を硬くしたチャオたちをなぎ倒した。
 続いて侵入したチャオが、大男のチャオから逃げようとするチャオを探し、追う。
「このまま一気に三階をクリアする!」
 回転している大男のチャオは周囲を見渡していて、チャオを見つけるセンサーとなっていた。
 三階のチャオは瞬く間に、殲滅された。
 大男のチャオは潜んでいるチャオがいないか警戒し、二匹のチャオは階段を見張る。
 一方で屋敷の外では、一階から突撃するチャオたちがドアを破壊していた。
「私たちの出る幕はないかもね」
 リリカはレッシに言った。
 上から突入したチャオは階段を降り、二階にいるチャオも蹴散らしていった。
 上階から一階に逃れてきたチャオも含めて、一階は混戦になった。
 しかし屋敷の外へ逃げるチャオは一匹たりともいなかった。
 逃げようとするチャオがいない、ということはないだろう。
 中では突入したチャオによる容赦ない虐殺が行われているに違いない。
 リリカの言うとおりに、彼らのチャオの出番はなさそうだった。
 しかしそのままでは終わらなかった。
 屋敷の明かり、街灯の明かり、周辺の照明全てが消えた。
 そして一秒遅れて、ガラスの割れる音がそこかしこでした。
「なんだ!?」
 リーダー役をしていた大男が叫んだ。
「これは」
 とリリカはわかったように呟く。
「ああ」
 レッシも“なに”が起きたのか、察していた。
「これは……カオシング現象だ」
 カオシング現象は、疑似エメラルドが制御不能になった時に引き起こす予測不能の怪現象である。
 それであるという証拠が、レッシたちの目に映り始める。
「なんだ……あの光は」
 屋敷から光る液体が流れていた。
 弱い光ではあったが、しかし確かに水自体が光っていた。
「なにが起きてるかわかる!?」
 リリカは飛んでいる自分たちのチャオに呼びかけた。
 ゲートとウォールは屋敷に近付き、中で起きていることを確認する。
 ダークチャオの方、ゲートがリリカのところへ戻ってきた。
「電球から光る水が出てきてる! 光が液体になったんだ!」
 それを聞いて、はっとしたレッシは近くの街灯を見た。
 そこでもゲートが言ったことと同じことが起きていた。
 光る水が湧き水のように漏れている。
「カオシング現象が起きてるってことは、まずいな」
 レッシは気付いた。
 気付いて、気付くのが遅かったと危機感を覚えた。
 カオシング現象が起きているなら、疑似エメラルドは暴走状態にあるということだ。
 その持ち主はおそらく、屋敷を占拠したチーム、バードのリーダーのチャオだろう。
 そのチャオは暴走した疑似エメラルドから発生する無限の力を得て、手に負えないほどパワーアップしているかもしれない。
「どうする。突っ込むか、退くか」
 レッシはリリカに聞いた。
「様子、見てきて」
 リリカはゲートに命じた。
 ゲートはまずウォールの方へ飛んでいった。
「状況を見て決めよう」
「ああ」
 最悪でも自分たちのチャオが助かればいい。
 そう二人は判断していた。
 ゲートからリリカの命令を聞いたウォールは、即座にリリカのところへ戻った。
「相手は、ちょっと強くなってる程度。苦戦しているけど、大丈夫そう。加勢しておく?」「そうだね。それならサポートしてあげて」
 レッシもラジカルに指示を出す。
「ラジカル、お前も行こう。とどめをもらっちまえ」
「おう」
 ラジカルが屋敷に向かい走った、その時だ。
 屋敷が弾けるように壊れた。
 そして屋敷のあったところの地下から、昇降機に乗ってロボットがせり上がってきていた。
 巨大な両腕のある、人間の上半身をかたどったロボットで、その大きな両手で接地している。
「やばいぞ、戻れ!」
 レッシは叫んだ。
 ロボットは大きな手の指で疑似エメラルドをつまんだ。
 頭部にあるコクピットが開き、中にいた男がロボットから疑似エメラルドを受け取った。
「あいつは!」
 レッシにはその男が誰だかすぐにわかった。
 なにか企んでいると疑っていたからだ。
 男は今回の殲滅作戦の依頼者、ヒドゥン・ベースであった。
「気付いてしまったのか」
 レッシの声が聞こえて、ヒドゥンはレッシの方を見た。
「君たちが彼らを刺激してくれたおかげで、新しい研究データを得ることができた。ありがとう。この疑似エメラルドは元々私の物だから、回収させてもらう」
「逃げよう」
 小声でリリカがレッシに言った。
 そうするつもりだった。
 ヒドゥンとお喋りなどしていたら、口封じに殺されかねない。
「そして君たちにはもう一つの研究データを提供してもらう」
 ヒドゥンは疑似エメラルドをロボットにセットした。
 ロボットは強く輝いた。
 その輝きに照らされ、光る液体が凍った。
 レッシたちの体も動かなくなり、意識を失って倒れた。

引用なし
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