●週刊チャオ サークル掲示板
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04 好きってことにしときなよ
 スマッシュ  - 12/12/16(日) 0:30 -
  
 日本のGUNが起こしたクーデターは対象が日本だけであったため鎮圧される可能性があった。GUN全体として見れば、地球上にある国の一つがGUNの一部によって占拠されたに過ぎなかった。しかしこのクーデターはそのものの質ではなく、それによって人々にもたらされた技術によって成功を収めた。調整チャオ、CHAO-S、カオスコントロール、チャオウォーカー、サイボーグ、遺伝子操作。中には倫理的な問題を抱える技術もあったが、それを無視して実用化にこぎつけたことにより、日本に住む人々の生活の質は頭一つ抜けたものになると予想された。さらにカオスコントロールによる奇襲が行われる瞬間は映像として残されており、それがヒーローの再来を予期させるものとして扱われたことも大きく、宇宙人の襲来のようなものを危惧する人々から支持を集めることに成功したのであった。結果として、強い非難はあっても、制裁はなかった。

 CHAO-Sが浸透して、チャオを連れて歩く人が見られるようになった。学校での利用も推奨されたために教室にチャオが何十匹もいる光景が当たり前になりつつあった。それに合わせて転校生の雪奈もクラスに馴染んできた。優はまだ調整チャオを買っていない。由美が机の上に置いたチャオの体を撫でているのを睨んでいる。それに気付いた由美が、
「不満そう」と言う。
「心読まないでって言ってるでしょ」
「顔見れば誰だってわかる。調整チャオ、面白くないんでしょ」
「なんか生きてないみたいなんだもん。撫でられても反応しないし」
 由美のチャオは全く表情を変えずにいる。優は彼女のチャオが表情を変えたところを見たことがなかった。それどころか自分の意思でうろつくことさえせずにじっと座っているのである。
「なんて言うかさ、チャオの形をした機械みたいなんだよね」
「だってさ」
 由美が後ろを振り返って言う。雪奈が優たちを見ていた。どう繕えばいいだろう、と優は焦って考えなければならなかったが、
「私もそう思います」と雪奈が言うので、目を丸くした。そう言う雪奈もチャオを連れてきていた。
「機械みたい、というのは正解です。あくまでCHAO-Sのための端末として使いたいので、より機械に近い方がいいとされ、現在のように虚ろなチャオとして調整されているんです。それって今までペットとか家族とか友達としてチャオを見てきた人にとっては、面白くないことだと思います」
 優は驚いていた。ビデオでCHAO-Sについて解説していた人である。当然CHAO-Sが素晴らしいものであると信じているのだと優は思っていたのである。
「庭瀬さんがそんなこと言うなんて思わなかった」
「私にもチャオの親友がいますから」
 つまり彼女も今の調整チャオは嫌いということか。
 優は雪奈と友達になれそうな気がした。それで、
「庭瀬さんもチャオ飼ってるの」と会話を広げることにした。
「飼ってはいません。いつも近くにいたんです」
 近くにいたとはどういうことだろう、と優は数秒考える。あまり聞かないフレーズだった。
「ええと、そのチャオ、野良ってこと?」と言う。野良のチャオというのは犬や猫と違ってほとんど聞かないものだったので、あまり自信はなかったのだが、それ以外に候補が思いつかなかった。
「まあ、そんな感じです」
「珍しいね、野良チャオって」
「彼は自由奔放なチャオなんです。すぐどこかに行っちゃいます」
 一度会ってみたいな、と優は言おうとしたが雪奈が「ところで」とやや強引に話題を変えた。
「ところで末森さんはチャオガーデンでよく遊ぶと聞きました。私も一緒に行っていいですか?」
「ああ、うん。いいけど」
 そのことを知っているのは優の思いつく限り由美だけだった。いつの間に親しくなっていたのだろう、と由美の方を見る。由美は穏やかな笑みを浮かべていた。

 放課後、帰ろうとした三人は「天才トリオになったか」という声を聞いた。
「やっぱそうなるよなあ。そんな気がしてたわ」とお調子者のクラスメイトが話しかけてくる。
 雪奈は体育のバレーで大活躍したのだった。部活でバレーをやっている人と違って技術的に優れているわけではなく、ただ優れた身体能力を活かすのみであったが、それでも他の運動部の者より動けていた。さらに髪が白くて目立つことも手伝ってか、このクラスで三人目の天才だとその授業のうちに女子たちが言うようになり、次の休み時間には男子にもその話が伝わっているのであった。ビデオでCHAO-Sの解説を任されるくらいだから頭もいいはずだ、と誰も雪奈が優や由美と同等であることを疑わなかったし、事実そうであった。
「そのうちまたうちのクラスに天才が増えそうで怖いわ」とそのクラスメイトは笑った。そして、
「ああ、そうだ。また噂レベルなんだけどさ、学校周辺ってCHAO-Sの通信がスムーズみたいなんだわ。遠くから来てるやつが学校と家とじゃ速度が全然違うとか言っててな。庭瀬さん、何かわかる?」と雪奈に聞く。
「通信速度を上げようっていう試みはGUNで行われているみたいです。その実験か何かの影響がここ周辺で出ている、ということがあるのかもしれません。学校だから通信速度が上がるということは考えにくいので」
「そうなんだ。ありがと」
 優は自分が普通の人間に近付いているような気がした。

 ガーデンの施設に預けていたマルを優は受け取る。
「ほら、マルって言うんだ」
「マル」
 雪奈がマルを撫でると、マルは喜んで頭上に浮かんでいる球体をハート型に変形させた。それを見て雪奈の口元がほころぶ。
「可愛い」
「でしょ」
 そう言いながらチャオガーデンに入る。入るなり、雪奈は一匹のチャオを見つけて、そちらに駆け出した。頭上に浮いているものが天使の輪だったのでヒーローチャオだろうと優は思ったが、見たことのない姿をしているチャオだった。
「キキョウ、どうしてここに」
「知ってるの?」
「あ、うん。この子はキキョウ、私の親友です」
 そう紹介されたチャオは右足を引き、そして右手を胸に当ててお辞儀をした。
「面白いことするね、この子」
「そういう子なので。でもどうしてこんな所に」
 雪奈が触れると、キキョウはその手を掴んで頬ずりをする。
「よくうろつく子なの」
「そうなんですけど、まさかこんな所まで来るとは思ってませんでした」
 キキョウは遊んでほしいとねだるように両手をぶんぶん振る。
「媚びまくり」と由美が呟くと、キキョウはすぐにあかんべえをして返した。
「私こいつ嫌い」
「まあまあ。でも不思議なチャオだね」
 マルよりも行動がユニークだと優は思った。一緒に遊ばせようと、傍にマルを下ろす。するとキキョウはマルを人間がするのと同じように撫で始めた。すぐにマルの球体がハート型になる。さらには木の実を運んできて、マルにあげたりもする。キキョウの所作はどこか人間じみていて、優はつい人へ話しかけるように言葉をかけそうになる。
「キキョウって不思議だね」
 そう雪奈に言うと、キキョウも優の方を向いた。
「なんか人間みたいだ」
「そうですね。年の功なんでしょうね」
 キキョウはそれを聞いて胸を張る。キキョウには話している内容がわかっているのではないか、と優は感じた。マルはこんな的確に反応を見せたりはしない。
「年の功って」
「カオスチャオは不死身らしいです。もしかしたら私たちよりも長生きなのかもしれません」
「え、カオスチャオなの」
 噂には聞いたことがあった。不死身のカオスチャオ。それが目の前にいるというのは信じがたかったが、キキョウが頷くのを見て、こんなことをするチャオなら確かにそうかもしれないとも優は思うのであった。
「面白いな、こいつ」
「そうですね。ずっと一緒にいても飽きません」
「やっぱりこうしてちゃんと反応を見せてくれるチャオが僕はいいなあ」
 由美のチャオは遊ぼうとせずにじっと座っているだけだ。ガーデンの端にある木の影から木の実を持ってきても反応を見せないのであった。

「よっす」
 雪奈が暮らすことになったアパートに由美はよく押しかけてくる。チャオガーデンに行った日、夕飯の支度をしている最中に由美は来た。部屋に入るなり由美はくんくんと鼻を動かす。
「今日は何作ってんの」
「シチューです。塩麹を使ってみました」
「へえ。なんか凝ってるね」
「面白そうなレシピはCHAO-Sで集められますし、色々試すと成功したり失敗したりが楽しいですよ」
「やっぱ私とは出来が違うわ」
 由美はカップ麺で食事を済ますことが多かった。失敗を楽しいとは思えない。まずい料理を食べるのは他でもない自分だ。だから料理をするにしても作り上げたテンプレートから外れない。由美は冷蔵庫のドアを開けて、持参してきた物を入れる。ちらりと雪奈がそれを見た。酒だった。
「何ですか、それ」
 咎める口調で言ったのだが由美はドアをばたんと閉めて、
「チューハイ」と答えた。さらに「飲んだことある?」と聞いてくる。
「飲むわけないじゃないですか。お酒ですよ」
「未成年だって隠れてお酒飲んでるって情報、CHAO-Sで拾わなかったの?」
「というか、食べてく気なんですね」
「駄目なの?」
「いいですけど」
「やった。大好き」
 そう言って抱きつくと、雪奈は溜め息をついた。いつもこうである。そのせいで夕食はいつも二人分は作るようになっていた。由美が来なかった時は残りを次の日の朝に食べればいいのでそれほど困っているわけではないし、楽しいからいいのだが、どうしてこうなってしまったのだろう、と雪奈は時々考えてしまう。その由美は部屋を物色し始めたようだった。
「雪奈さ、服ちゃんと持ってる?」
「どういう意味ですか」
「制服以外で外うろついてる姿が思い浮かばない」
「持ってますよ、一応」
「なら今度の休みどっか遊びに行こうよ」
 本棚はハードカバーの本の段と文庫本のための段とに分けられていた。雪奈の部屋で娯楽らしい物はここにある本だけであった。
「いいですけど、持ってなかったらどうするつもりだったんです?」
「その時は服買いに行こうって言ってた」
「そうですか」
 由美がハードカバーの表紙をじっと見つめ、それから中身を数ページ読むということを繰り返している間、雪奈はキッチンからテーブルへ食器を運んでいた。シチューが運ばれてくると由美はテーブルの方へ這っていく。
「おいしそう。なんだっけ、塩なんちゃら」
「塩麹です」
「塩コウジね、ふうん」
 由美は、これのどこにコウジ君が入っているのだろう、とシチューを見つめる。鶏肉やにんじんなどは見当たるが、それらしい物はない。調味料なのだろうか、と考える。
「飲み物はどうしますか」
「あ、麦茶ある?」
 キッチンに向かう途中の雪奈が足を止めた。振り返って、
「麦茶。チューハイじゃないんですか」と聞く。
「それは後で飲みたいかな」
「じゃあ今日は泊まっていきますか?」
「それいいね。着替え持ってくればよかった」
「取りに行けばいいじゃないですか。走ればすぐなんですから」
「それもそうだね」
 由美が雪奈の部屋を訪ねてくるのは近いからという理由もあるのだった。他には楽しいとか居心地がいいとかいうものもあった。雪奈の部屋は物が少ない上に整理が行き届いていて、さらには由美が通うようになったおかげでそれ用に座布団などが買われて、快適な場所になっていたのであった。由美は食べながら塩コウジのことについて探ろうとしたが結局わからなかった。やはり出来がいいな、と由美は思う。

 食べ終わって少し休んでから、雪奈が「お風呂に入ってきます」と言ったので由美は自分の住むアパートへ一旦戻ることにした。走ればすぐと雪奈が言ったことを思い出して由美は走ってみる。すぐに腹の横が痛くなって走れなくなる。馬鹿だ、と由美は思った。こういう時に由美は、天才なんかじゃない、と思うのである。テストでいい点を取ることはできる。しかしそれは彼女にとって知能を使うことではなかった。生活の中でそれは必要とされて、そして由美の苦手なものは大抵そこにある。そういう認識であった。おまけに運動もそこまで得意ではない。
 昔から変わらない。自分は馬鹿だ。
 由美はそういう評価を自分に下している。努力が苦手である。努力して得たものなんて自分の人生の中に一つもないのではないか。由美は痛みがなくなるまでそんなことを考えていた。そして痛みがなくなれば雪奈の部屋の冷蔵庫にあるチューハイのこととか、今日は雪奈と一緒だということとかが浮かぶようになってきた。痛みや不安が再びトリガーなるまで由美はお気楽な天才に戻る。

「乾杯」
 缶をぶつける。由美は勢いよく飲み、それを見て雪奈は恐る恐る缶を傾ける。
「どう、おいしい?」
「よくわからないです」
「最初はそんなもんか。そのうちおいしさがわかるようになるよ」
 そう言って由美はまた口に流し込む。
「学校、どう?」
 この質問はいつもしてるな、と思ったが自然に口から出ていた。楽しいです、と雪奈が答える。これもいつも通りだった。
「特に今日は。放課後誰かと遊ぶのは今日が初めてだったので」
「末森君のこと、気になる?」
「はい」
 そこに恋愛感情はあるのだろうか、と由美は考えそうになったが、すぐにそうではないだろうと思った。彼は天才と言われていて、おまけにCHAO-Sに抵抗を示している。だから雪奈は気にしているのである。
「雪奈はチャオ好きだもんね」
「そうですね。でももしかしたら好きとは違うのかもしれません」
 由美は首を傾げた。
「私の中にあるのは、同情なのかもしれません。私の近くにいたのは虚ろなチャオばかりでしたから。だからたまに自分も虚ろなもののように思えて、だから同情しているだけなのかもしれません」
「雪奈は虚ろじゃないでしょ」
「他の人と比べたら、そっちに近いと思います」
「数値にして比較できることじゃないよ。少なくとも今は」
 将来はどうなるか全くわからない。そんな世の中になってしまった、と由美は思った。
 数値化できる世の中になったら。自分は他の人と比べてどれだけ虚ろなのだろう。雪奈のためにも自分のためにも科学が今の時点で止まればいい。今の生活には満足している。電気や食料に困ることのない時代だ。どういう変化が起きるかわからないのであれば、一切変化しない方がいい。そう由美は思う。
「今は数値化できないんだからさ、別に同情してるだけとか決め付けなくていいんじゃない。好きってことにしときなよ。自分の都合のいい方に解釈すればいいじゃん」
 由美はそう言いながら心の中で「私なら間違いなくそうする」と付け足した。プラス思考ではなくずる賢さによってそういう選択をするのだ、と思ってから、そこは都合のいい方に解釈してプラス思考と言い張れるべきじゃないのか、と気付いて笑ってしまった。雪奈はきょとんとする。
「ごめん。ちょっと自分が馬鹿だったことに気付いちゃって」と言い訳をした。そして「とにかくさ、雪奈はチャオが好きってことでいいと思うよ」と言う。
「そうですね。それならそういうことにします」
「うん」
 それならそういうことにする、という言い回しが由美は気になった。私が言ったからそうするだなんて。確かに虚ろな所があるのかもしれない。由美はそう思いながら、もう中身の入っていない缶を傾けた。

引用なし
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