●週刊チャオ サークル掲示板
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03 奇跡時代に生きる皆様こんにちは
 スマッシュ  - 12/12/9(日) 3:19 -
  
「なんか大変なことになっちゃったな」
「そうだね」
 学校に限らずどこでも話題はクーデターのことで持ちきりだった。
「全く、なんだよ奇跡時代って」
 優も多くの人々同様、突如自分の住んでいる国が変わってしまったことに戸惑っていた。しかしそれを聞く由美は平然としているようであった。
「今日、その奇跡時代とやらについて説明があるらしいよ」
「説明って?」
「詳しくは知らないけど、授業の代わりにやるって噂」
 授業の代わり。それはいいことだ、と優は思った。
 そして由美の言う通り、新しい時代を生きる若者に必要な基礎教養を身に付けるため、という目的で作られたビデオディスクを担任が持って教室に入ってきた。GUNから配布されたとのことだった。ホームルームが終わると、早速そのビデオが再生された。

「奇跡時代に生きる皆様こんにちは。聞き手のウツツマツリです」
 赤く先端で巻き毛になっている二十台と思われる女性の下に「現茉莉」と書かれたテロップが表示された。彼女が「そしてこちらが講師の」と言うと、カメラは中年の男性を写す。スーツ姿だがかしこまった風ではなく、白と黒の市松模様のネクタイなどからラフな雰囲気を漂わせていた。
「カブトマサヨシです。これより皆さんにはこれからの人類発展に貢献してもらえるよう、奇跡時代の到来について講義させてもらいます。よろしくお願いします」
 お辞儀をするその男性の下には「兜正良」というテロップが表示される。少しの間を置くと正良は「まず奇跡の力についての説明からしましょう」と言った。
「皆さんはカオスエメラルドという物をご存知でしょうか」
 二人の間に置かれている大きなモニターに七つの石が表示される。全て形は同じだが色だけ違う。
「このカオスエメラルドを使って活躍したのがあの英雄、ソニックだって聞いたことがあります」
「そうです。よく知ってましたね現さん。彼はこれを使って、例えば、瞬間移動をすることができたようです。そのことはカオスコントロールと呼ばれていますね」
 他にも、と言って正良は機械の動力源として用いられたことやこれを七つ集めたソニックが金色に輝き凄まじいパワーを発揮したことなどを紹介した。
「カオスエメラルドが出すエネルギーは物理的なエネルギーではなく、奇跡そのものを引き起こすためのエネルギーとされています」
「奇跡そのものを起こすエネルギーってどういうことですか、先生」
「一言で言うと、望めば叶う、ということですが、身近な例としてはこんなことを起こせると考えられています」
 正良がそう言うとモニターに「もしも高校球児がカオスエメラルドを手に入れたら」という文字が表示された。そしてVTRが始まる。

「俺は野原球太。今年は高校生最後の夏。今度こそスタメン入りして甲子園に出たいんだけどなあ」
 その頭に野球のボールぶつかり「いてっ」と声を上げる。そして遠くから声が掛かる。
「おい球太、ボール拾え」
「あ、はい」
 慌てて拾い、バッティング練習をしていた男の方にボールを投げる。そして心の声。
「こんな感じで雑用ばっかり。一年や二年の上手いやつにも頭が上がらない。俺だってもっと野球が上手かったらなあ」
 そうぼやいた直後球太は何かにつまづいて転ぶ。また「いてっ」という声。
「いててて。何だよ今度は。ん、何だこれ?」
 カメラが彼の足元にあった物を写す。カオスエメラルドだった。それを球太は首を傾げながら手に取る。
「なんか綺麗だな。ラッキー」
 球太はカオスエメラルドをそのまま持ち去ってしまった。ここで「取得物は交番に届けましょう」というテロップが出て、教室内ではくすくす笑う声が漏れた。それからは球太が何かする度にカオスエメラルドが光り、事が上手く運んだ。バットにボールが当たってホームランとなり、走るスピードも段違いになり、周囲から「お前最近凄いな」と褒められる。そして彼は見事にスタメン入りし、甲子園出場を実現させるのであった。甲子園の土を踏む彼の笑顔でVTRは終わった。

「なんか漫画みたいなお話だったんですけど」
 茉莉が苦笑いしながら言った。正良は頷いて、
「そう見えますよね。でもこれが私たちが将来手にする奇跡の力なんですよ」と言った。
「私としては、今頑張って努力している人たちに申し訳ないような気がするのですが」
「そうかもしれません。でも将来はこの奇跡の力が平等に皆さんの物になるでしょう。自分だけでなく世界中の誰もがさっきのような奇跡を使える。そうなった時、最後に物を言うのは努力なのかもしれません」
「なるほど。努力は無駄ではないんですね」
 二人は笑顔になる。
「ところで現さん、これが何だかわかりますか?」
 正良が棒状の物体を取り出して言った。
「えっと、これはカオスドライブですよね。永久燃料で、私たちが普段使っている電気とかはここから生み出されているんですよね。生み出されたのはソニックがいた頃ではないかと言われているって習いました」
「そこまでご存知でしたか。そうなんです。実はこのカオスドライブ、カオスエメラルドをお手本にして作られたものとして見られています」
「ということは、カオスドライブでもさっきみたいなことができるってことですか?」
「残念ながら、そうではないんです。カオスドライブにはそこまでの出力はありません。それに、カオスエメラルドはカオスドライブとは決定的に異なる点があるんですよ」
「それは一体どこですか?」
「はい。カオスエメラルドは作ったエネルギーを溜めておく貯蔵庫の役割も持っているようなんです。これによってカオスドライブとは比較ならないほどのエネルギーを放出することができるのです」
「へええ、そうだったんですか。でも、カオスエメラルドって見つかっていないんですよね?どうしてそんなことがわかるんですか?」
「いい質問ですね。確かにカオスエメラルドは一つも見つかっていません。ですが、こういう物が発見されたんですよ」
 そう言って懐から綺麗な直方体に整えられた緑色の石を取り出した。
「これは何ですか?」
「カオスエメラルドに限りなく近い性質を持つとされる模造エメラルドです。大昔の遺跡の中で発見された巨大なロボットの中にあった物で、そこからいくつか見つかっています。実際にこれを使ってカオスコントロールによる瞬間移動をする実験が行われ、成功しているんですよ。そして最近はこれを見本にして模造エメラルドの量産が進められています」
「じゃあ私たちが瞬間移動できる日も近いということですか」
「その通りです。そのうち遠い国へ日帰りで旅行ができる時代が来るかもしれませんね」
「わあ、それは楽しみです」
 そしてにっこりしたまま茉莉がカメラの方を向く。
「今回の講座はウェブでも確認できます。奇跡時代講座のホームページからアクセスしてください。奇跡時代講座のURLはこちら」
 テロップでURLが表示される。非常に短く、覚えやすいものであった。
「それでは皆さん、また会いましょう」
 手を振る二人。それでビデオは終わり、休み時間になった。

 教室のざわつきを背中に受けながら優は由美に、
「散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする、だな」と言った。
「そういうのなら私は上喜撰の歌がお気に入り」
「黒船のやつだっけ」
「そう、それ」
 二人は席替えの際に優等生ということで最前列の真ん中の席を押し付けられた。教室の先頭に優等生の男女二人が並んでいる。お似合いと言われるのも道理であった。これには由美も不満を口にした。しかしそれは優のものとは違って「一番前だと首が疲れるから嫌」という内容であった。
「でも人間ってすげえよな」
「どうしたの、いきなり」
「散切り頭も上喜撰も、ソニックが出てくるよりずっと昔の話なんだろ。その情報が残ってるって面白いなって」
「うん。昔の人が使っていた教科書とかが残っていたのかもね。それなら一つくらいあっても不思議じゃないと思う」
 二人の後ろでは全く違った話がされている。「もしも高校球児がカオスエメラルドを手に入れたら」に影響を受けたらしい。俺がカオスエメラルドを手に入れたらハーレムを作る、と豪語していた。それに対して「それよりも、とりあえず金持ちになろうぜ。金が命だ」などと言い合っている。
「奇跡の力が使えるようになったら、人間は駄目になるんじゃないかな」
 優は小声で由美に言う。由美は肩をすくめて、
「末森君も気をつけないと駄目だよ。他人の奇跡の犠牲にならないように」
 他人の奇跡の犠牲とは不思議な言い回しだ、と優は思った。そしてそれはどういう意味だろう、と考える。言い回しの珍妙さのせいか、上手くイメージができないでいると、
「奇跡の力で、自分の感情が操作されたら困るでしょう。好きでもない人のことを好きにさせられる、とか」と由美が言った。
「また心を読んだんだ?」
 由美は笑みを返す。この人の奇跡の犠牲になるかもしれないぞ、と優は思い、くすりと笑った。

 二時限目もビデオを見ることになった。今日の午前はビデオを見るだけだと担任は言う。よっしゃ、という叫び声が上がった。静かにと注意してから、担任はビデオを再生した。
 前回と同じ二人がカメラに写っている。服装もさっきと変わらない。一気に撮ったのだろうなと優は思った。
「さて今回はヒーロー理論について学んでいきましょう」
「ヒーロー理論って何ですか?全然聞いたことがないんですけど」
「これは最近勢いを増してきた説で、あらゆるものにおいて一定の確率で常軌を逸して優れたものが生まれる、というものなんです」
「一定の確率で常軌を逸した?すみません、もうちょっとわかりやすく説明していただけないでしょうか」
「ちょっとイメージしにくいですね。わかりやすくなるよう、画像を用意してきました。これを見てください」
 正良が言うと、モニターに一つの画像が現れる。青い体で棘のある生き物が二本足で立っていた。
「あ、これはソニックですね」
「そう、ソニック・ザ・ヘッジホッグです」
「これがヒーロー理論と関係あるのですか?」
「あるんです。こちらの画像も見ていただけますか」
 次は灰色のハリネズミの画像が出てきた。手に乗って、無数の短い針を背中に持っている。
「これは普通のハリネズミですか」
「その通りです。さて現さん、この二つの画像ですが、同じ種類のハリネズミに見えますか?」
「ちょっと見えないですね」と首を傾げながら茉莉は答える。「違う種類のハリネズミどころか、全然違う生物と言われても不思議じゃないです」
「それにこちらのハリネズミはソニックと違って音速では走れません。でもソニックもこのハリネズミの仲間かもしれないんです」
「もしかしてそれがヒーロー理論と関係しているんですか?」
「そうです。ヒーロー理論で言うところの常軌を逸して優れたハリネズミ。それがソニックなのです。実際ヒーロー理論はソニックのことを意識してヒーローという言葉を使っていて、彼のように優れた存在のことをヒーローとこの理論の中では呼んでいるのです」
「そんな説があるんですか。でもちょっと科学的とは思えない話ですよね」
「そうですね。この理論はあくまで机上の空論でした。しかし実際に人間におけるヒーローが誕生したためヒーロー理論は注目され始めているんですよ」
「え、人間のヒーロー、ですか」
 茉莉が目を丸くしたのを見て、満足そうに「そうなんです」と頷き、さっき紹介された模造エメラルドを茉莉に手渡した。
「現さん、この前カオスコントロールと呼ばれる瞬間移動の話があったのを覚えてますか」
「はい。カオスエメラルドの奇跡の力を使ってやるんですよね」
「試しにその模造エメラルドでやってみてください」
 突拍子もないことを言われて茉莉は「ええ」と笑ってしまう。
「でも、どうやってやればいいんですか」
「念じればできるそうですよ」
「念じる、念じる」
 しかし一向に瞬間移動しない。それを見て正良が「無理みたいですね」と言う。
「実はカオスコントロールは普通の人にはできないんです。しかしできてしまう人が現れたんです。それがこのスエモリマサトという人です」
 若い男性の写真が表示された。その写真の下に末森雅人という文字が一緒に出てきた。
「ソニックがいた頃、地球は何度か危機に晒されました。それがいつ地球に再び降り注ぐか、私たちにはわかりません。そこで危機から地球を救う英雄が必要なんです」
「それがこの末森雅人さんってことですよね。じゃあ地球は安全なんですね」
「そうだとよかったのですが、大変残念なことに、彼はGUNで行われたカオスコントロールの実験中に行方不明となってしまいました。現在捜索中なんです」
「ええ、そうなんですか」
「ま、そのことはひとまず置いておきましょう。もしかしたら皆さんの身近なところにもヒーローがいるかもしれないので、ヒーローの特徴として推測される点をいくつか紹介します」
 動物が人間と同じように喋るというように、飛び抜けて頭がいい。身体能力に優れている。体が頑丈である。カオスコントロールができる。そういうものを正良は列挙していく。
「一言でヒーローと言っても色々なタイプがあるんですね」
「これから地球にどのような危険が迫るか予想できないわけですから、できるだけたくさんのヒーローを発見し、なおかつ絶やさないようにしなくてはなりません。そのための試みが行われていますが、それはまた次回ということで」
「なんだか楽しみです。今回の講座はウェブでも確認できます。奇跡時代講座のホームページからアクセスしてください。奇跡時代講座のURLはこちらです。末森雅人さんの情報もこちらで集めております。それでは皆さん、また会いましょう」

「末森雅人ってもしかしてお前の父ちゃん?」
 クラスの男子がそう言ってくる。休み時間になる前からそうなるであろうと優は予想していたので、
「違うよ、俺の親父は孝太って名前。親戚にもいなかったと思うよそんな人」と用意していた答えを返す。
「なんだ違うのかよ。てっきり親の遺伝子を受け継いでるのかと思ったのに」
「何言ってんの。俺音速で走れないから。瞬間移動だってできないだろ、たぶん」
「わかんねえぞ。もし俺がカオスエメラルド見つけたら、お前に貸してやるからやってみろよ」
 そして確かめた後にはハーレムを作るんだろう、と優は心の中で呟いた。
「へいへい。無理だと思うけどな」
「んじゃまた」
「おう」
 クラスメイトは自分の席に戻っていく。それを横目で確認した由美が「俺」とからかうように言った。
「うるさいな」
 優は俺と言った後いつも自然に言えたかどうか不安になる。由美のせいでより一層気になってしまった。
 周りの男子たちはどのようにして俺と言えるようになったのだろう。僕という時代を経験せずに、三歳くらいから俺だったのかもしれない。
 優は、一人称を変えるタイミングを逃してしまったようだ、と思うのであった。

「今回は遺伝子操作とサイボーグについて勉強していきましょう。これは前回やったヒーロー理論にも関係しますが、それ以上にこれからの皆さんの人生にも大きく関係してくると思われます。頑張って勉強しましょう」
「遺伝子操作に、サイボーグですか」
 例の二人だ。服装もやはり変わりない。
「映画で見たことがある、という人もいるかもしれませんね」
 二人の話が続いていく。遺伝子組み換え食品のことを例に出したり、機械で出来た人間の腕を見せたり。どちらも実用が間近であると正良は説明し、これらを活用することでヒトの寿命が延びることもあるだろうと言う。
「それだけでなく人工物にもヒーローが生まれる可能性はあるとされるために、サイボーグ化して初めてヒーローとしての才覚を表すことがあるかもしれませんし、遺伝子操作によってよりヒーローを生まれやすくなるかもしれないのです」
「そうなんですか。私としては長生きできるっていうのがとても素敵に感じられます」
「そうですね。ところで実際に遺伝子操作によって生まれた人がいるんです。そうですよね、現さん」
「はい。実は私がそうなんです」と茉莉は挙手した。そして自分の髪の毛をつまみあげ、彼女は説明する。
「この赤い髪、地毛なんですよ。髪の毛の先がくるってなっちゃうのは意図されたものじゃなかったらしいんですけどね。そうそう、ちょっと黒っぽいですけど、眉毛も赤いんですよ」とカメラに向けて、自分の眉毛をアピールする。赤褐色の眉であった。
「現さんが生まれたのは二十年くらい前ですからね。今はもっと思い通りに操作できるようになっていますよ」

 優はビデオを見るのに飽きていた。どうにも科学的には思えない、迷信のような妄想のような話が続いている。そんなのを授業として真面目に話されているのだからたまらない、といった感じであった。どうしてこんな馬鹿げた話を授業で聞かなくてはならないのか、と考えてみると思い当たる理由は、これからそんな妄想めいた話が本当になっていくから、というものであった。
 クーデターなんてものを起こした以上、これからはさっき習ったことが当たり前にある社会を実現していくために日本のGUNは動いていくのだ。
 それはとても自然な流れだ、と優は思った。だから奇跡だのヒーローだのを妄想だと笑うことができない。もどかしい。

 最後のビデオ。これでみょうちくりんな未来とおさらばできる、と優は思った。再生されると、画面にはこれまでと違って茉莉だけしかいなかった。
「さて今回は新技術チャオスというものについて学ぶ予定なんですが。あれ?正良先生がいませんねえ」
 すると茉莉はメモを発見する。
「何でしょう、読んでみましょうか。ええと。今回は私よりチャオスに詳しい庭瀬雪奈先生に解説を頼むことにしました、ですって。雪奈先生、どこにいるんでしょう?」
「ここにいます」
 カメラが少し引くと、中学生くらいに見える少女が写った。髪が白い。
「庭瀬雪奈です。よろしくお願いします」
 カメラが近付き、お辞儀する姿を撮る。優は眉毛まで白いことを発見した。
「凄く可愛い先生ですね」
「どうも。それでは私が正良先生に代わって、チャオスについて説明します」
 雪奈がそう言うと、モニターに「CHAO-S」という文字列が表示される。
「高純度情報伝達システムCHAO-Sは新しい通信方法で、端末としてこれを用います」
 テーブルの下から何かを持ち上げて、テーブルに乗せる。チャオだった。
「チャオ、ですか」
「はい。キャプチャというのを見たことあります?小動物からDNAなどの情報を抜き取って、それによって自身をキメラ化させるチャオ特有の習性なんですけど」
「ううん、実際にその場面を見たことはないんですけど、動物の可愛い耳や尻尾がついたチャオなら見たことあります」
「そのキャプチャを応用して、情報をやり取りするのがCHAO-Sです。通信用に調整されたチャオを用いることで、情報の送受信が可能です。複数のチャオを用いた通信方法なのでCHAO-Sと呼ぶわけです」
「なるほど。でもCHAO-Sにはどういう特徴があるんですか?普通にやり取りするだけならインターネットでも十分だと思うんですけど」
「最大の特徴は、チャオがキャプチャによって脳内の情報をコピーしてその情報をそのまま相手側のチャオに送信するところにあります。これによって今まで人間が上手く出力できなかった情報を出力できるようになりました。例えば感情です」
「感情、ですか」
「例えば私が、チーズケーキ大好き、と言っても、どれくらいチーズケーキが好きなのか正確には伝わりません。主観という曖昧なものを言語という曖昧でないものに置き換えるために情報のほとんどが失われてしまうのです」
「主観的なものを客観的に伝わるようにすると、情報が失われてしまう、ということですか」
「はい。しかしCHAO-Sは脳内の情報をそのままチャオが抜き取り、相手のチャオに渡し、そのチャオが情報をそのまま相手の脳に送信するので、主観性を失わずに済むのです」
「じゃあ意中の相手に自分がどれだけ愛しているか、告白するのにも役立ちそうですね」
「そうですね。無線通信なのでいつでもどこでも使えるというのも強みでしょう。そしてもう一つの特徴は情報の保護です。CHAO-Sでの通信には水分を使います。チャオの守護神とも突然変異体とも言われるカオスは水を操ることができたそうで、それを基にして作られた人工カオスという兵器もそれによる攻撃手段を持っています。CHAO-Sではこれを送受信の方法として活用しています」
「水の中に情報を入れて、送るということですね」
「そんな感じです。速度は従来のものより遥かに劣りますが、ラジオのようにノイズが混じることが少なく、また混線の心配もほとんどないので、自分の考えていることを相手に直接伝える手段として最も優れていると言えます」
 ふむふむと茉莉が首を上下に動かしている。それを横目で一度見て、雪奈は説明を続ける。
「CHAO-Sが皆さんの生活に登場するのはそう遠い未来のことではありません。近々調整チャオの販売が開始される予定ですし、既にチャオを飼っているという方には調整手術の受け付けも始まる予定です」
「そうなんですね。それじゃあこのCHAO-Sが奇跡時代の幕開けを象徴する新技術と言っても過言ではないですね」
「そうかもしれません」
「今回の講座はウェブでも確認できます。奇跡時代講座のホームページからアクセスしてください。奇跡時代講座のURLはこちらです。それでは皆さんさようなら」

「さてまだ弁当出すなよ、外に出るなよ。昼休みの前に転校生の紹介をするぞ」
 ビデオを止めた担任がそう言うと、教室内がざわつくが、担任も今回は注意しなかった。そのまま教室から出たと思うと、後ろのドアから机と椅子を持って入ってきて席を追加する。そうしてからまた教壇に立ち「それじゃあ入ってきてくれ」と廊下の方に声を掛ける。転校生がドアを開けた瞬間「ああ」という絶叫が聞こえた。さっきCHAO-Sについて説明していた少女がそこにいたのである。
「はい、静かに。うるさいと自己紹介ができないだろ」
 それで見事に静かになった。
「それじゃあ自己紹介をしてくれ」
「庭瀬雪奈です。こうした方が面白いからということで、私の出たビデオを見てもらってから入ることになってしまって、少し恥ずかしいです。どうか普通によろしくお願いします」
 恥ずかしいと言う割にはよどみなく言って、頭を下げた。
「庭瀬の席はあそこになるからな。皆昼休みの間に色々教えてやれよ」と言い残し、担任は教室から出ていった。
 殺到した。雪奈はあれこれと聞かれるのに答えていく。
「ねえねえ、あのCHAO-Sっていうの、本当にすぐ使えるようになんの?」
「すぐに使えるようになると思いますよ。来週には調整チャオの販売が開始される予定ですから」
 雪奈の言った通りになった。チャオガーデンで普通のチャオよりも安い値段で販売された上に、新品のパソコンなどを買う際にセット販売ということで調整チャオが付いてくるキャンペーンが積極的に行われ、瞬く間に調整チャオが広まることとなった。

引用なし
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チャオ・ウォーカー -The princess of chao- スマッシュ 12/12/9(日) 3:14
01 僕たちの世界にはレールが敷かれている スマッシュ 12/12/9(日) 3:16
02 天界に忘れ去られし奇の石の英知を得るは小さき泉 スマッシュ 12/12/9(日) 3:17
03 奇跡時代に生きる皆様こんにちは スマッシュ 12/12/9(日) 3:19
04 好きってことにしときなよ スマッシュ 12/12/16(日) 0:30
05 空には情報が満ちています スマッシュ 12/12/16(日) 0:31
06 俺が英雄になる スマッシュ 12/12/16(日) 0:32
07 人間だ スマッシュ 12/12/22(土) 0:01
08 チャオを助けたい スマッシュ 12/12/23(日) 0:01
09 世界の進む道 スマッシュ 12/12/23(日) 0:01
10 いつか私は スマッシュ 12/12/23(日) 0:02
感想コーナー スマッシュ 12/12/23(日) 0:03

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