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No.5
 冬木野  - 11/8/8(月) 6:26 -
  
 何故幽霊が夜に出てくるものなのか、微かに気になったことがある。
 その時は、星と同じだからという線を考えた。幽霊は星と同じように太陽の光が強すぎて、夜になって初めて星と同じように見えるようになるんだ、と。なんてことはない、重度のリアリストの資質を持った幼い私の取り留めの無い考察だ。ませていた、と言った方が正しいか。

 しかし、どうもおかしな話だ。
 昨日の時はフロウル・ミルを探して、街中を文字通り彷徨っていたから気付かなかったけど――まだ、他の幽霊の姿を見たことがない。
 今日も夜が更けてから何気なくフロウル探しをしていたのだが、ふと幼い頃の幽霊考察を思い出したのと同じ時にその事実に気付いた。一人くらいは他の幽霊と出会ってもおかしな話ではないのに、逆に一人も出会っていないというのはおかしいと思う。
 単純にここに幽霊がいないのか、それともお互いに干渉できない法則でもあるのか。死後の世界の常識というものを知らない私にはなんとも言えないが……。


 ふと、道端の路地裏が目についた。
 過去の人生において路地裏なんて怪しい場所には縁は無かったのだが、今の私には路地裏にはちょっとした縁がある。偏見を持ったとも言う。
 路地裏と言えば、イコールあの人。少なくとも二回は路地裏で遭遇したことがあるあの人だ。彼ならば、或いは所長がどこで何をしているか知っているかもしれない。生前にこの可能性に気付けなかったのは大きな過失だが、後の祭りだ。
 だが、どちらにせよ彼が都合よくこの辺りにいるものだろうか。
 そんな疑問を頭の隅に、ステーションスクエア特有の入り組んだ路地裏へ足を踏み入れた。普通ならば背中に冷やりとしたものを感じるくらいにお断りだが、いっぺん死んでしまうと一般的な恐怖になんの価値も見出せなくなる。つまりは怖くない。
 蛮勇か何かに似た意思の力を胸に、路地裏をずんずんと歩く。人もいなければ幽霊もでてきやしないから、私の歩調(歩いてるのか自分でもわからないけど)は止まることを知らず徐々に加速していく。……別に通り抜けることが目的ではないんだけど。というか、本当に誰もいないのか? 私がここに来た意味がなくなるぞ。

 私の願いが聞こえたのかはわからないが、誰かの声が聞こえたのはそんな時だった。
 話し声だ。二人いる。男の人と、それから女の人だ。どちらの声にも聞き覚えがある。
 気取られないようにする努力を生前に置き忘れた私は、声のする方向へと急行した。路地裏の交差点を二つ三つ曲がった先に、その二人はいた。
「そう何度も来られても困る」
「でも、あなたは連絡先なんて教えてくれないでしょう? だからこうやって直接会いに来るしかないんです」
 この二文だけ抜き出せば、まるで冷たいカップルの会話みたいだ。なんてバカな考えを振り払い、二人の会話に集中する。
「手がかりを見つけたら連絡する。だから今日はもう帰れ」
「…………」
「そんなにあいつが心配か」
 そう問われて、彼女は頷く。
「何が心配なんだ」
「何が……って」
「あいつの身か、それともあいつが」
「やめてください」
 言わせる前に、強い否定を返した。普段の彼女の語気とはあからさまに何かが違う。力強い、というより必死だ。
「お前もあいつがどういう奴かは知っているだろう。確かに人殺しは好きじゃない。だが、殺さないわけじゃない」
「そんなの知ってます!」
「じゃあなんでそんなに否定したがってるんだ」
「あなたは自分の義弟が同僚を殺して逃げたと思ってるんですかっ」
「可能性としては否定できないというだけだ」
「そんな言葉を聞きたいんじゃありません! 私は、私は――」
 それ以上声を荒げる彼女を、シャドウさんは肩に手を当てて止めさせた。
「俺だって、ゼロが殺ったなんて思いたくはない。それに、ユリは死んだと、殺されたと決まったわけでもない」
 それは義兄として当然の感情だ。彼はそう言って彼女を慰めた。
「お前の気持ちはわかる。その気持ちが誰よりも強いのもわかる。……すまなかった」
 ……ああ、なるほどね。
 所長のこと好きだったんだ、リムさん。

 そういえばこの事件が始まってから、一度だけリムさんと会話をした。
 確か彼女は私から依頼の事と、それから所長について問い質してきた。心配しているのかと聞いたら、一瞬だけど肯定した。
 あれから、私が消えてから、彼女はずっと最悪のケースを頭に思い描いていたのか。
 好きな人が、身近な人を殺して消えてしまったことを。
 所長が、私を殺して――。


 あれ?
 おかしいな。
 どうして……辻褄が合うんだ?

 よくよく思い出してみれば、私がトラックに轢かれて死ぬ前にソニックチャオと会っていた。その時は遠い昔に死んだ私の彼氏だと思い込んでいたけど……まさか、あれはいつもの白い帽子と眼鏡が無かったってだけの所長だったんじゃないか?
 でも、私が彼氏と思い込んで話していても、所長は何も否定しなかった。どうして生きていると聞いても、首を傾げもしなければ鼻で笑いもしなかった。ただ単に私の気が狂ってることを見越して、あえて何も言わなかっただけか?
 頭の中で様々な可能性を検討する内、あれが本当に現実に会ったことなのかさえわからなくなってきた。あの所長は所長じゃなくて、私が死ぬ前に見た幻だったのかとさえ思い始めてきた。何もかもあやふやになっていく。
 あれは現実なのか。それとも幻なのか。
 もう、何がなんだかわからなくなってきた。

 その時私は、自分が死んだ時のもう一つ重要な点を綺麗に見落としてしまった。

引用なし
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小説事務所 「Continue?」 冬木野 11/8/8(月) 5:57
キャラクタープロファイル 冬木野 11/8/8(月) 6:02
No.1 冬木野 11/8/8(月) 6:06
No.2 冬木野 11/8/8(月) 6:11
No.3 冬木野 11/8/8(月) 6:17
No.4 冬木野 11/8/8(月) 6:22
No.5 冬木野 11/8/8(月) 6:26
No.6 冬木野 11/8/8(月) 6:33
No.7 冬木野 11/8/8(月) 6:39
No.8 冬木野 11/8/8(月) 6:50
No.9 冬木野 11/8/8(月) 6:56
おまけ「探偵少女のステータス」 冬木野 11/8/8(月) 7:14
後書きは一作品につき一個って相場が決まってんのよ 冬木野 11/8/8(月) 7:47

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