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ええと、十一ヶ月前のスレッドにレスつけるとか、自分でも非常識極まりない行為であることは理解しているのですが、なんとなくやりたくなってしまったのでやってみました。ご迷惑でしたら削除してください。
載せるも自由、載せぬも自由という週刊チャオの気軽さは、チャオBBSに通っていた当時も強く感じていましたが、「未完結やボツネタでもOK」というのはその極みですね。作品になってなくてもいいよ、ってことですもんね。
随分前に書き始めたものの今日までどうにも形にならず、「お蔵入りか、勿体無いなあ」と思っていたときにふとこのスレッドの存在を思い出したので、投稿してみました。いや本当に、迷惑でしたら削除してください。
まあ、瓢箪から駒という言葉もありますし、「ボツネタとして投稿したら、それをきっかけに何故か続きを書くモチベーションがあがった」みたいな摩訶不思議な事態が私自身に起きたらいいな、などというような都合のいい願望を抱きつつ、投稿してみます。くどいですが、迷惑でしたら削除してください。マジで。
あ、ちなみに私、宏と名乗っていた者です。
「なぁ、蓮華。今日一緒に遊ばないか」
帰りのHRを終えたばかりの、とある中学校の、とある教室にて、とある男子生徒が、窓際最後列の席でせっせと帰り支度をする少年にそう話しかけた。
男子生徒の両脇に、さらに二人の男子生徒が立っている。この三人に少年を加えての、合計四人で放課後に遊ばないか、という誘いだった。
放課後の活動へ向けてそれぞれ動き出す生徒達によって騒がしい空間となった教室の中で――蓮華(れんげ)と呼ばれた少年は、教科書やノート、それに筆記用具などを紺色のスクールバッグに詰めるという作業をしていた。
持ち帰るべき物をバッグに全て詰めて紺色のブレザーの襟を正してから、バッグを肩にかけながら男子生徒に問いに対して答えた。
「ごめん、今日もパス」
蓮華は椅子を机の下に押し込んで『じゃあね』と笑いながら手を振り、がやがやとする教室を出て行った。
その背中を見送った後、両脇の二人と顔を見合わせて、男子生徒がぽつりと呟いた。
「ほんと、付き合い悪いなあいつ」
その様子を近くで見ていた一人の女子生徒が、誘いをあっさりと断られて多少不満そうな顔をした男子生徒に向かって、息子の無礼を詫びる母親のような苦笑を浮かべて言った。
「しょうがないよ。あいつ、チャオのことしか頭にない、チャオバカだから」
Lightning! 〜稲妻、落ちる〜
空が、紅に染まり始めた頃。
放課後の部活動に励む生徒達などで未だ賑わいを見せる学校を後にした蓮華は、大きな川の傍の、土手の上の道を歩いていた。
道の両脇を鮮やかに彩る草花、眼下から聞こえてくる幼い子供達の楽しそうな声、正面から自転車に乗って走ってくる女子高生の制服のスカートからちらりと覗く白い下着……。
それらに対してにべもなく、蓮華はずんずんと歩き続ける。一定のリズムで、一定の歩幅で、ただひたすら目的地を目指して。
「おい、蓮華」
機械の様に歩き続ける蓮華の後ろから、一人の少女が早足で近づいてきた。後ろ首で細長く纏められた長髪が、少女の足の動きに合わせて揺れる。
少女は、目の前の小さな背中に向かって声をかけた。
その小さな背中の持ち主である蓮華に、その声は届いていた。幼き頃から聞き続けている、よく見知った女の子の声であるとすぐにわかった。
なので、無視した。
「無視すんな!」
紺色のブレザーとグレーのスカートを翻し、少女は蓮華のお尻に対して前蹴りをかます。
背後からの蹴りによりつんのめって前に倒れた蓮華は、とっさに両手を地面について顔面からの激突を免れる。
「痛い! 暴力反対!」
蓮華は立ち上がり、振り向いた先に居る少女に対して抗議の構え。両手で、グレーのズボンの上から蹴られたお尻を慰めながら。
「暴力じゃ何も解決しないよ! 皐月はそのことを一刻も早く理解し、今の、いや今までの僕に対する暴力行為について詫びを入れるべきだ!」
涙の代わりにひりひりとした痛みで悲痛な想いを訴え続けるお尻を両手でいたわりながら、目の前の少女に平和的思想への理解と実践を促す蓮華。
皐月(さつき)と呼ばれた少女は、ふんっ、と鼻を鳴らして一言。
「あたしを無視した、お前が悪い」
蓮華の要求を、先程の前蹴りの勢いそのままに跳ね除けた。
身長差を利用し相手を見下す事によって発生した皐月の大きな威圧感の前に、蓮華の勢いは塩をかけられたなめくじのように急速に収縮していくしかなかった。
「ほら、行くぞ」
蓮華の胸元のネクタイを右手で手繰り寄せ、蓮華の脇をすり抜けて歩き出す皐月。
引綱代わりの役目を課された蓮華のネクタイは、皐月の意志を汲んで蓮華の身体を引っ張り始める。
「僕は犬ではありませんが」
「あたしにとっては、同じようなものだ。あんたも、犬も」
自由を奪われ無理矢理先導されて歩かされる屈辱的な状況に対して抗議を行った蓮華であったが、返ってきた言葉でさらに屈辱感が増してしまった。
くっつきすぎて皐月の踵を踏まないように、離れすぎて自分の首がネクタイで絞まらないように。理不尽さを感じつつ、皐月と自分の足並みを揃えることに集中する蓮華。
「お前さ、また遊びの誘い断ってただろ。その内、友達居なくなるぞ」
皐月は左向きに軽く首を回し、蓮華に対して忠告した。
先程の、教室でのくだりについて、である。
「でも僕は、一分一秒でも早くあいつを迎えに行ってあげたいんだ。あいつは今も僕が迎えに来るのを、身とポヨを捩じらせて待っているはずさ」
「じゃあ、迎えにいった後に遊べばいいじゃないか」
「あいつと過ごす事こそ、僕の至福の一時なんだ。彼らと遊んでいたら、あいつと遊ぶ時間が少なくなってしまう」
「お前なあ」
はあ、とため息をついて、蓮華に対して抱いた呆れを吐き出す皐月。
「中学生になっても、蓮華のチャオバカは治らないんだな」
「中学生になっても、皐月の暴力癖が治らないのと一緒さ」
「ああ、そうかよ」
「痛みはある程度我慢できますが肺への酸素の供給の遮断というのは僕の生命を直に脅かす問題でありまして出来れば早めにその手に込めた力を大気圏外にでも逃がして下さいうぐぐぐぐ」
右肩に担ぐようにして持っていた引綱代わりのネクタイを、ぐい、と自分の胸の前辺りまで引っ張った皐月は、背後から聞こえてくる小型クリーチャーの喉鳴らしみたいな声を無視して前へ前へと歩いていく。
そう、本当にこいつは、チャオのことしか頭にない。そのことを再確認すると、気づかぬうちに眉間にしわが寄ってしまう皐月であった。
蓮華は、チャオが大好きである。
先程から蓮華が口にする『あいつ』とは、蓮華が育てているチャオのことである。
蓮華が小学校に入学してまもなく、蓮華は自分のチャオを手に入れた。それからというもの、蓮華の生活はチャオを中心にして回るようになった。
蓮華が学校に行っている間チャオは『チャオガーデン』という場所に預けられているのだが、チャオを育てるようになってから、学校が終わると脇目も振らずにチャオガーデンへチャオを迎えに行きその腕に抱いて帰路につくという、仕事帰りに保育園へ自分の子供を迎えに行くシングルファザーのような生活を蓮華はずっと続けてきた。
とにかくチャオ一辺倒だったため、クラスメイトとの交流等をないがしろにする事も少なくなかった。そのことで、先程のように皐月に注意を受ける事もしばしばあった。
しかし、改善する気配がない……というよりも、本人に改善する気がないということが、先程の蓮華の発言から見て取れる。
そう。中学校に上がっても、蓮華のチャオ一辺倒な生活は直らなかった。
中学校生活が始まり二週間が経ったが、相変わらず放課後以降の時間はチャオに費やしていた。
そして、今も。蓮華が向かう先は、もちろん家ではない。チャオガーデンだ。
「はあ」
本当にこいつは、チャオのことしか頭にない、チャオバカだ。
もう一度大きな嘆息を漏らして、皐月は蓮華に質問を投げかける。
「なあ、お前さ」
その際に、皐月の右手に込められていた力が消失し、皐月の手からするりとネクタイが抜け出る。
それと同時に、蓮華の首にかかっていた力も消えた。
「はあっ、はあっ。さすがの僕も今のは死ぬかと思ったよ! マジで逝っちゃう五秒前だったよ!」
凶器になる五秒前だったネクタイを、かきむしる様な手つきで緩めながら、ぜえぜえと荒々しい呼吸を繰り返す蓮華。
立っているのも辛くなり、その場にへたり込む。それを冷淡な表情で見下ろす皐月。
皐月の表情には、蓮華に対する謝意など微塵も含まれていない。
今の行為で一人の人間の生命活動を停止寸前まで追い込んだという事実をわからせるために、演技ではなく自然に湧き出た涙を目一杯溜めて、蓮華は皐月に視線で要求する。謝罪を。
しかし、皐月はそんな蓮華の無言の要求は全く無視して、先程言いかけた質問を続ける。
「部活には入らないの」
「何をバカな事を。部活になんか入ったら、学校に拘束される時間が長くなってしまう。あいつと過ごせる時間が減ってしまうではないか」
よろよろと立ち上がりながら、今の自分と同じぐらいによろよろになってしまったネクタイを締め直す蓮華。
皐月にとってこの答えは予想の範囲内であった。故に驚く事は無く、ただ呆れた。
「わかったよ。もう何も言わないよ」
三度目のため息を吐きながら、締め直された直後のネクタイを右手で掴み、再び引綱代わりにして蓮華を引っ張り歩き出す。
「僕は犬ではありませんが」
「あたしにとっては、あんたは犬以下だ」
さっきより酷い答えが返ってきた。
「人を見下す事は、よくない事だ。皐月も、チャオのような純粋で優しい心を獲得できるよう努力をするべきだ」
「ええい、うるさい」
「うぐぐぐぐ」
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