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【Galactic Romantica】 ホップスター 20/12/23(水) 0:06

第25章:氷の果てで嗤う世界の渦 ホップスター 21/7/3(土) 0:04

第25章:氷の果てで嗤う世界の渦
 ホップスター  - 21/7/3(土) 0:04 -
  
かのケレイオスの戦いから数週間後。
クロスバードは、氷の中にいた。

【ジェイク】「…これで何日目だ?」
【アネッタ】「8日目ね…いつまで続くのかしら、この状況…」


        【第25章 氷の果てで嗤う世界の渦】


惑星・リベルクエタ。
赤道付近を除いて惑星のほとんどを氷に覆われている、まさに氷の星である。
こんな厳しい環境であるため元々知的生命はいなかったが、同盟と共和国の勢力圏の境界付近にあったこと、そして何より氷の合間から僅かに顔を出す地表からは貴重な鉱物が採取されることから、両勢力の間で激しい争奪戦が繰り広げられてきた。

そう、ケレイオスの次はリベルクエタ、とばかりに、クロスバードはこの星へと向かったのである。
…が、その経緯は単純ではない。


遡ること2週間ほど前。
【イレーヌ】「…で、リベルクエタが危ないからあのお嬢ちゃんの艦を寄越せと?」
【アルベルト】『そうではない!聞けばケレイオスでの戦いに於いて、よりにもよって単艦突撃させたそうではないか!
        これでは何のためにあの小娘達を第4艦隊ではなく第3艦隊にやったのか分からんぞ!』
【イレーヌ】(ちっ、痛い所を突いてくるじゃないか…)
イレーヌが軽く舌打ちした相手は、第6艦隊のアルベルト=グラッドソン元帥。どちらも海溝派で対共和国戦線ということもあり頻繁に通信しているのだが、今回はこの話題を突き出された。
【アルベルト】『とにかく、参謀総長の許可も得ている。早急に手配するように』
イレーヌ元帥は思考を巡らせる。反論しようと思えばいくらでも反論できる。ケレイオスの戦いだって、危なくなったらいつでも援護できるように控えていた(そして、実際そうした)のであるし、何より激戦地であるリベルクエタに行かせるのでは、結局同じことである。
…だが、結局イレーヌ元帥は反論せずに、こう切り出した。
【イレーヌ】「分かった、そうしよう。…但し、だ。貴重な戦力をタダでくれてやる訳にはいかん。1つ条件がある」
【アルベルト】「何かね?」
アルベルト元帥は多少苛つきながら聞き返す。
【イレーヌ】「惑星メルテリアの基地、あそこを少し貸してくれないか。ケレイオスを獲った関係で補給線がちょっと不安なんだよ」
【アルベルト】「…ふん、まぁ良かろう。あくまで一時的だぞ」
アルベルト元帥は少し考えたが、首を縦に振った。
【イレーヌ】(これで万が一があっても動ける…自力で動いてもいいけど、『あの噂』が本当なら…接触してみる価値はありそうだねぇ)
その裏でイレーヌ元帥がある計画を練っていたが、それにアルベルト元帥は気付くことはなかった。


…かくして、クロスバードはリベルクエタの氷の中に向かわされた。ジェイクとアネッタの無益な会話の翌日、9日目の昼のことである。
【カンナ】「…さて、ブリーフィングを始めましょうか」
ブリーフィングルームに集まったX組の面々であるが、カンナの口も重い。1日1回、定期的に集まってブリーフィングをするのだが、ここ数日全く状況に変化はなく、話すことなど既にないのだ。
【クーリア】「では…ここまでくるとただの朗読練習ですが、現在の状況をもう一度説明します」
クーリアも渋い表情をしながらそう切り出す。昨日と同じ内容を繰り返すだけの、最早ただの作業である。

【クーリア】「えーと…9日前、私らは第6艦隊のグラッドソン元帥に指示されて…というかぶっちゃけ騙されて、リベルクエタの南緯10度付近、巨大氷山の合間から海が顔を出すエリアに移動。
       そこで氷山に潜みつつ、好機があれば付近の共和国軍基地を攻撃するよう命じられましたが、好機もへったくれもないまま9日経過しました、説明は以上です」
【レイラ】「クーリアの説明が日を追うごとに投げやりになっている…」
生真面目なクーリアですらこれである。他の面々は推して知るべし、というところだろうか。

【カンナ】「ミレーナ先生、こんな話はあまりしたくないけど…食料は大丈夫?」
そんな中でカンナは、かねてよりの懸案事項をついに口にした。ミレーナ先生に問う。
【ミレーナ】「元々1ヵ月分ぐらいは大丈夫だけどねー。それよりも、正直あたしはみんなの精神面が心配かなー…」
身動きができない状況、既に皆の様子も一様に暗い。医師でもあるミレーナ先生は、むしろそちらを心配していた。仮に万が一、この後『好機』が訪れたとしても、この心理状態ではそれを活かすことができないかもしれないのだ。そしてそれは、当然クロスバードの運命、そして皆の命に関わる。

【ジェイク】「あのクソジジイが!!体よく俺達を葬りやがって!!!」
ジェイクが思わず机を叩いて叫ぶ。X組の面々でも、いや当事者だからこそ分かる。どちらかといえば山脈派寄りと目されるX組の活躍は、海溝派である第6艦隊、グラッドソン元帥にとっては邪魔でしかなかったのだ。
グラッドソン元帥の説明では、第6艦隊の主力がクロスバードの反対側から基地を挟み撃ちにするというものだったが、いざリベルクエタに降りてみれば、リベルクエタで戦う第6艦隊の主力は惑星の反対側。説明を求めようとしたが、のらりくらりと躱されておしまいである。
【ゲルト】「しっかしあのクソ司令、『連合や共和国よりも山脈派が嫌い』って噂話は冗談じゃなかったのかよ…」
ゲルトがそんな噂話を持ち出せば、
【フランツ】「オマケに敵基地は防御が厳重で、隙の一つもありゃしない、と…」
フランツも半ば諦めるように呟いた。

…ところが、である。
そこで、オリトが閃いた。

【オリト】「…あの、でも、それってちょっとおかしくないですか?」

【カンナ】「どういうことかしら?」
カンナが説明を促す。オリトはゆっくり、自分の言葉で、周囲に確かめながら説明を始めた。
【オリト】「この基地周辺に、このクロスバード以外の同盟軍はいないんですよね?」
【レイラ】「ええ、それは間違いないわ」
【オリト】「それだったら…なんで共和国の基地は、敵が近くにいないのに、防御をしっかり固めてるんですか?」

【クーリア】「…っ!!」
クーリアが思わず「しまった」という表情を浮かべる。この極限状況で冷静な判断ができなくなっていたことを、さすがにこの時は後悔した。
現在クロスバードは敵に気づかれないために、エンジン等を全てダウンさせている。共和国もクロスバードの存在に気が付いたら真っ先に攻撃してくるはずであるから、まだ自分たちは気が付かれていないのだ。なのに、この厳重な防御。

レイラが何かを思い立ち、個人端末を開き、データから解析を始める。
【レイラ】「敵防衛部隊の行動パターンを解析…恐らくこれは、『敵を探している』感じだと思います」
【カンナ】「ひょっとして…『どこかは分かっていないが、近くに敵がいることは知っている』って感じ…?」

と、その時だった。
やや乾いた感じの、あまり聞いたことのない衝撃音が、クロスバードを駆け巡った。

【アネッタ】「な、何!?」
【ジャレオ】「各種センサーに異常なし、クロスバードは無傷のようですが…一体…!?」
ジャレオが不思議がる中、レイラが素早く端末で状況を把握していた。
【レイラ】「いや、これは…氷が割れてる…!!」
運命か偶然か。クロスバードを隠していた巨大な氷が裂けたのだ。…そしてそれは、敵からもこちらからも、互いの姿が確認できるようになったということである。その状況を飲み込んだクーリアがこうつぶやいた。
【クーリア】「…さて、これで逃げも隠れもできなくなりましたね」
【カンナ】「こうなった以上、死ぬのが早いか遅いかの違いと思ってやるしかないわね。…みんな、覚悟はいい?」
カンナがクルーに問いかける。全員、軽く頷いた。
【カンナ】「やるだけやってやるわよ!ジェイクとアネッタは出撃準備に入って!他のみんなはブリッジへ移動!!」
そして、その掛け声で一斉に立ち上がり、それぞれの持ち場へと向かった。


【共和国兵A】「何の音だ!?状況を報告しろ!」
【共和国兵B】「音声パターンを解析…4−6A方面、距離200の氷塊が崩壊した模様!」
【共和国兵A】「何だ、ただの自然現象か…」
報告を聞いた共和国兵が安堵する。が、その直後、彼の背後に人影がすっと近づいた。
【???】「…何を寝惚けた事をおっしゃってるんですの?」
【共和国兵A】「も、申し訳ありません!!再度確認を…」
【???】「その必要はありませんわ。…総員、急いで出撃準備を!!戦艦を動かしますわ!」
そう指示を出す彼女は、少しだけニヤリと笑っていた。


【クーリア】「各員、配置につきました。ジェイクとアネットも準備完了です」
ブリッジ要員は全員ブリッジに移動。オリトやミレーナ先生もブリッジにいる。
【カンナ】「ありがとう。…それじゃ、みんな…」
【レイラ】「ちょっと待ってください!!敵基地から大きな熱源反応!!」
カンナの指示を遮るように、レイラが叫ぶ。
【クーリア】「先に敵が動き出した!?」
【レイラ】「メインモニターに画面出します!!」
レイラが端末を操作し、正面のメインモニターにその様子を映し出した。

映し出されたのは、基地から浮上する、1隻の戦艦。
【カンナ】「えっ…」
【オリト】「う…嘘、だろ…?」
その戦艦を見たクロスバードのクルーは、言葉を失い、ただその様子を見ている他なかった。

数秒経って、レイラがはっとした様子で端末を操作する。
【レイラ】「パターン解析…間違い、ありません」
レイラはその続きを言おうとするが、衝撃のあまり言葉が出ない。
【カンナ】「…レイラ、続けて」
カンナに促されて、ようやくその続きを口にした。
【レイラ】「あ、はい…共和国ドゥイエット家私設艦隊旗艦、プレアデス…魔女、です」

ようやくそこまでレイラが言い切ったところで、通信が飛び込んできた。発信源は、そのプレアデス。
カンナは渋い表情で、通信機を手に取った。


【アンヌ】『ごきげんよう。お久しぶりです、クロスバードの皆さん』
【カンナ】「…お久しぶりです。まさか、こんな場所でこういう形で再会するとは思っていませんでした…」
いつもと変わらず、カンナ達もよく知っているいつもの調子で話しかけるアンヌに対して、カンナは予期せぬ再会の衝撃が抜けきっていない。
【アンヌ】『世の中とは得てして予測できないものですわ。…さて、再会の挨拶も済みましたし、そろそろ始めましょうか』
【カンナ】「始める…?」
カンナが軽く首を傾げたが、アンヌは表情一つ変えずにこう返した。
【アンヌ】『おかしなことを尋ねるのですわね。この状況で、戦争以外に始めることがありますか?』
【カンナ】「…!!」
その言葉で、カンナ、そしてクロスバードのクルーはようやくはっとした。以前とは違う。彼女達は、間違いなく『敵』なのだ。
気が付くと、プレアデス以外にも、アトラス、アルキオネ、エレクトラ…と、魔女艦隊の戦艦が次々と目の前に現れている。
【アンヌ】『各艦、主砲発射準備…撃ぇーっ!!』
アンヌは敢えて、クロスバードとの通信を切らずにその言葉を告げる。
次の瞬間、魔女艦隊の各戦艦主砲から光の束が放たれ、一斉にクロスバードを襲った。
引用なし
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