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【Galactic Romantica】 ホップスター 20/12/23(水) 0:06

第8章:ただ大気の底を眺めて ホップスター 21/2/27(土) 0:03

第8章:ただ大気の底を眺めて
 ホップスター  - 21/2/27(土) 0:03 -
  
フレミエールへの移動中、クロスバードの一室。
【カンナ】「…それじゃ、特別授業、始めましょうか」
【オリト】「こんな状況でもやるんですか!?しかも艦長が!?」
そう、オリトへの授業である。本来はカンナは艦長という立場のため授業の担当から外れていたが、共和国に捕まり曳航中である現在は、つまるところ暇なのだ。
【カンナ】「時間がもったいないじゃない。今日はクーリアと相談して、銀河史の概要をやることにしました!」
【オリト】「とりあえず…ノートアプリ出すんでしばらく待って下さい…」
と、渋々自らの端末を準備するオリトだった。


        【第8章 ただ大気の底を眺めて】


【カンナ】「とりあえず一般常識の範囲ではあるけど、まずは基本的なことからやりましょうか。…人類とチャオが宇宙に進出して以降の歴史は、一般的に3つに区分されてるわね。つまり旧文明時代、宇宙開拓時代、そして今の銀河戦国時代ね」
人類とチャオが宇宙に進出するようになってからおよそ3000年。その活動域は銀河全体に広がり、かつてない繁栄を謳歌していた。
…だがその旧文明は、俗に『大崩壊』と呼ばれる事件で崩壊してしまう。
【カンナ】「大崩壊というのは、およそ550年前に起こった、一斉に全銀河の大半の惑星の文明が崩壊した事件のことね。とはいえ、そもそも光の速さでも端から端まで数万年かかるこの銀河で、どうして一斉に文明が崩壊したのか。その詳細は今でも不明のままよ」

と、そこまで説明したところで、ある人物が現れた。
【アンヌ】「何やら面白そうなことやってますわね!」
…他ならぬこの人である。
【オリト】「何でこんなところにいるんですか!?」
【アンヌ】「折角ですから、艦内を見て回ろうかと思いまして。…で、何をやっているのです?」

アンヌの疑問に対し、カンナが説明する。それに対するアンヌの答えは、カンナとオリトの予想通りだった。
【アンヌ】「それは是非!私にもやらせて下さい!」
【カンナ】「…まぁ、そうなるわよね…」
さすがに断る訳にもいかず、軽く状況説明をして、アンヌにバトンタッチ。

【アンヌ】「それでは、大崩壊後からですわね。…大崩壊の後も、超光速航行が可能な技術レベルを保持できた惑星はわずか。しかしそのわずかに残ったそれぞれの惑星が、もう一度銀河へと進出し始めました。私達がこれから向かう予定のグロリア王国もそのうちの1つですわね。そしてそのうちの3つの惑星が、後に現在の3大勢力の原型となったのです」
この時代がいわゆる「宇宙開拓時代」である。
【アンヌ】「しかしいくら銀河が広いといえど、無限ではありませんわ。銀河全域をほぼ開拓しきり、他の勢力と接触すれば、当然少なからず争いが起こります。最初は小さな行き違いであっても、誤解が誤解を生み、やがて大規模な戦争になっていく…こうして3大勢力を中心として銀河全体が戦争状態に突入してからおよそ50年、現在新銀河暦564年4月、銀河戦国時代の真っ只中ということですわね」
新銀河暦の年数から分かるように、この暦は大崩壊が起こった年を元年として制定されている。但し、あくまでも推定であり、正確な年代は不明である。

【アンヌ】「…さて、話を旧文明に戻しますわ。旧文明については分かっていないことも非常に多いですが、わずかに残っている記録や遺構物の調査などから、全銀河が1つの統一された政府の下にあったと推測されています。現に私達が使用している戦艦や人型兵器も、細部の差はあれど基本的な構造は3大勢力ともに同一。こうして同盟の皆さん相手に共和国の私が普通にお喋りしてもほぼ問題なく通じますのも、旧文明時代に共通言語が使用されていた証拠、と考えることができますわね」
実際、この銀河において各勢力で使用されている言語は、多少の訛りや語彙・用法の違いこそあれど、基本的には同一なのである。銀河のほぼ全住民同士で意志疎通が可能というのは、銀河統一政府のような存在が過去にあった、としなければ説明が難しい。
と、アンヌがここまで説明したところで、アンヌの個人端末のアラームが鳴った。
【アンヌ】「…と、失礼しました。そろそろフレミエールへの到着時刻ですわ」


アンヌとX組の面々がクロスバードのブリッジへ向かい、レイラが軽く端末を操作する。
【レイラ】「外の映像、出ます!」
次の瞬間中央のメインモニターに、黒い星の海の中にある褐色の惑星が大きく映し出された。思わず「おぉ」と声をあげるX組の面々。
【カンナ】「これが…フレミエール…」
【アンヌ】「ええ。旧文明時代は緑豊かな星だったそうですが、環境悪化によりこのような有様に…」
現在も人間が住むこと自体は可能だが、水がほとんどなくなってしまったため、地上には軍の基地や観測拠点など、必要最低限の人員しか住んでいない。
かつてフレミエールに暮らしてた住民の大半は、フレミエールの周辺に建設された宇宙コロニーで暮らしている。また、宇宙開拓時代に新天地を求めて他の惑星へと向かった者も少なくない。
そんな説明を聞いて、クーリアがこんな疑問を呈す。
【クーリア】「なるほど…しかし失礼ですが、私ら同盟や連合の勢力圏から離れていて、戦略的にも戦術的にも価値が薄いと思われるこの星に、なぜ艦隊が丸ごと停泊可能な大規模な基地があるのでしょう?」
【アンヌ】「いい所を突いてきますわね…仰せの通り、ここに基地を置くことに軍事上の意味はほとんどありませんわ。でもここは、論理より感情を大事にする共和国。…あとは分かりますわね?」
ここまで話を持っていけば、さすがにクーリアも気がつく。
【クーリア】「この星にドゥイエット家が基地を置かなければいけない、感情的な理由…まさか?」
【アンヌ】「ええ。この星…フレミエールは、ドゥイエット家始まりの星なんですわ」
そう言うとアンヌは、どこか寂しげな表情でモニターに映し出されたフレミエールを見ていた。


やがて魔女艦隊はフレミエールの衛星軌道上にある基地コロニーに到着。X組の面々も、アンヌに案内されながら降り立つ。
【基地司令官】「お帰りなさいませ、お嬢様!」
司令官を初め、兵士がずらりと出迎えに並び、敬礼をする。ちなみにこの基地司令官もドゥイエット家の分家の人間であるが、本家であるアンヌに対してはこういう立場になる。
【アンヌ】「皆さん、楽にして下さいませ」
アンヌがそうなだめるが、彼らは敬礼をやめようとはしなかった。階級や上下関係もそこまで厳密ではない共和国軍にあって、これだけ引き締まった光景はほとんどない。
【オリト】(これは…緊張する…)
そしてアンヌの後をついていくように歩くX組。カンナを始めとする本来のメンバーはエリート揃いのため、この手のシチュエーションには比較的慣れていたが、スラム育ちのオリトにとってはそうではない。その対象が厳密には自分ではないと分かっているとはいえ、このように敬意を持って出迎えられたのも初めてである。当然、緊張でほとんど思考が停止してしまった。


X組はそのまま会議室のような部屋に案内され、そこでしばらく休憩、となった。
【オリト】「な、なんかすごく疲れた…」
机の上でぐったりとするオリト。
【ジェイク】「おー、机の上で寝るとかチャオの特権だなー」
【アネッタ】「確かにチャオだから許される行動よね…人間がこんな場所で寝そべる訳には…って先生!?」
アネッタが思わず叫んだのは、そう、ミレーナ先生が完全にオリトと同じ体勢で机に寝そべっていたからである。
【ミレーナ】「どーせ共和国も誰も見てないんだしさー。気にしない気にしない。っていうかそんなこと言ってるけど、いつも休憩時間はぬいぐるみに囲まれて幸せそうに寝てるのはどこの誰だったかしらー?」
【アネッタ】「そ、それは…っ!」
アネッタの顔が真っ赤になる。まさか敵国の基地で自分のプライベートが暴露されるなんて夢にも思ってなかった。
【アネッタ】「なんで先生がそれを!?」
【ミレーナ】「いや、みんなの個室の掃除してるのあたしだからねー?」
アネッタは慌てて周囲を見回すが、みんな特別驚いた表情はしていない。まさかと思い、聞いてみる。
【アネッタ】「っていうか、あれ、みんな…知ってたの!?」
【カンナ】「いやだって艦長室にぬいぐるみ持ち込んだのアネッタだし…」
【ジェイク】「アルタイルのコクピットにぬいぐるみ置きっぱなしだよな?」
【ミレア】「えっと、つまり、バレバレ、です」
【オリト】「あ、僕もミレーナ先生に部屋の掃除頼まれたことがあるんで…」
…そう、オリトを含め全員知っていたのだ。

【アネッタ】「…もうイヤー!生きて捕虜の辱めを受けるぐらいならここから飛び降りて死んでやるー!」
と、思わず窓に駆け込もうとするアネッタ。
【レイラ】「ストップストップ!ここ1階だから!ついでに言うともうあたし達捕虜になってるから!」
レイラがツッコミを入れながらアネッタを止める。それを笑いながら見てる他のメンバー。いつものX組の光景であった…が、実はこの場に1人いないメンバーがいた。
【ゲルト】「って、そういえばジャレオはどこだ?いなくね?」
【クーリア】「ああ、彼ならば…」


そのジャレオは、コロニーの宇宙船ドッグにいた。
【ジャレオ】「これがプロキオンですか…まさか実物をこんな形で見れるなんて」
【技術兵A】「アンヌ様のご招待だ。もちろん何もかもお見せするって訳にはいかねぇが…ま、ゆっくり見てってくれ。答えられる範囲なら、質問にも答えるぞ」
【ジャレオ】「ありがとうございます」
アンヌの許可をもらい、人型兵器だけでなく戦艦など、共和国の技術を見学することになったのだ。
現在ドッグでは、魔女艦隊の修理・補給中。共和国の技術兵がいつもと変わりなく仕事をしているところを見学できるというのも、同盟のジャレオにとってはこの上ない機会である。
【ジャレオ】「しかし、クロスバードで交戦、曳航されている際は分かりませんでしたが、どの艦も相当ダメージを受けてますね…相当な激戦をくぐってきたように見えますが…」
【技術兵A】「さすがに分かるか…お前らとぶつかる前に、連合の『蒼き流星』とやり合ってきたからな」
【ジャレオ】「蒼き流星とですか!?」
ジャレオは驚いた。もちろん、彼らクロスバードも魔女艦隊と戦う前に彼女と戦っていたからだ。
【技術兵A】「あぁ。俺は技術兵だから戦闘になったら見守ることしかできねぇが、さすがにヤバいと思ったなぁ…命があるのはアンヌ様のおかげだよ、まったく」

…と、話しているその時だった。
突如とある技術兵が、ナイフを握り締めてジャレオ目掛けて突っ込んできたのだ。
【技術兵B】「うおあああああっ!!!」
【ジャレオ】「!」
突然のことに動けないジャレオ。だが、先ほどジャレオと話していた技術兵が咄嗟に身を挺し、まさに体でナイフを持った技術兵を止めた。
尋常ならざる様子に他の技術兵が気付き、さらに止めに入る。ジャレオは無傷だったが、先ほどの技術兵は右腕から流血している。
騒然とする中、ジャレオを狙った技術兵が叫ぶ。
【技術兵B】「放せよ!俺の家族は!同盟に!殺されたんだ!!」
その後も言葉としては判別不能な叫びを繰り返したが、彼は数人の兵士に腕を捕まれたまま、どこかへ連れて行かれた。

半ば呆然とするジャレオに、負傷した技術兵が語りかける。
【技術兵A】「ケガはないか?」
【ジャレオ】「ええ、僕は…ですが、貴方は…!」
【技術兵A】「なに、兵隊さんやってりゃこれぐらいかすり傷さ。すまんな、ウチの者が迷惑をかけて」
【ジャレオ】「いえ…ここでは僕は、あくまでも敵ですから」
ジャレオはここが「敵地」であることを改めて認識した。ここは同盟ではない。本来は敵国である共和国なのだ。
【技術兵A】「戦争をやってる以上、どうしたってあぁいう憎しみは生まれちまう。ドゥイエット家は基本的に対連合戦線の担当だから同盟に直接の恨みを持ってる者は多くないが、連合に対しては家族や友人を殺された奴がごまんといる。俺だって同僚の何人かが蒼き流星に屠られてるしな。…だが、人間やチャオならば、いつかきっとそれを乗り越えられる…アンヌ様はそう考えておられるからこそ、お前さん達を客人としてもてなしてるんだろうさ」
【ジャレオ】「………」
【技術兵A】「アンヌ様もお前さん達もまだ若い。その先にある無限の可能性を、信じてるぞ」
【ジャレオ】「はい…!」
そう答えると、ジャレオは深く頷いた。


その頃、アンヌは別室で基地の幹部と打ち合わせしていた。
【アンヌ】「補給が終わるまでどれぐらいかかるかしら?」
【幹部】「はっ、数日あれば大丈夫かと。ただ…」
【アンヌ】「ただ?」
【幹部】「いえ…あの…」
しかし、その幹部は言葉を詰まらせる。
【アンヌ】「怒りませんから、言って下さいませ」
【幹部】「はっ。補給線上にあるヘリブニカ宙域にて、いわゆる海賊行為が多発しておりまして、物資の補給などがままならない状況でして…」
【アンヌ】「そういえばそんな話がありましたわね…」
フレミエールは既に人がほとんど住めない状況にあることから、食料や物資などの資源はコロニーでの生産と他の惑星からの輸入で賄っている。
ヘリブニカでの海賊行為によりフレミエールのコロニー群がすぐに危機に陥る、という訳ではないが、それでも大きな損害を被っているのは事実である。
【アンヌ】「鎮圧に回せる部隊は…あればとっくにやっているかしら?」
【幹部】「ええ、他の3家にも問い合わせてみたのですが、何分同盟や連合との戦線維持で手一杯のようで…」
【アンヌ】「ハーラバードなんかは本当に手一杯なのか怪しいもんですけどね…と、それはとにかく、さすがにこのままでは困りますわね…」
少し考え込むアンヌ。今ちょうど動かせそうなのは他でもない自らの部隊である魔女艦隊であるが、戦時中にも関わらずドゥイエット家の主力艦隊が海賊退治、というのは格好がつかない。それにそもそも、今はクロスバードをグロリアまで送る方が優先順位としては上である。

と、そこまで考えて、アンヌは何かを思いついた。
【アンヌ】「そうですわ、それならばいい考えがありますわ!ただ、少々無理を言うことになりますが…」


【カンナ】「………」
【クーリア】「艦長、どうしましたか?」
【カンナ】「いえ、ちょっと嫌な予感が…」
【クーリア】「まさか…」

…かくして翌日、ヘリブニカ宙域にて、クロスバードは宇宙海賊の退治へと出向くことになるのである。
引用なし
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