|
〇古典チャオ小説のスタイルをまずは整理しましょう
週刊チャオの小説ではどのような作風や文体が流行ったのか?
それを解説していきます。
だけど、ここまでに紹介したエピソードの中にもそういった話題がありましたよね。
既に紹介している、週刊チャオの初期〜中期の作風について、改めてまとめてみましょう。
週刊チャオ初期に生まれた作風・文体【古典チャオ小説】
・ほぼセリフだけの脚本のような形式(絵無し小説スタイル)
・原作を無視した設定
こういった特徴が、後の作品にも受け継がれていったんですよね。
だけど上記の特徴に当てはまらない作品もありました。
ちゃんと地の文があって小説らしさのある作品もそれなりに投稿されていました。
しかも原作のチャオの設定を割と守っています。
そういった黒歴史臭の薄い作品もあったんですね。
それら黒歴史臭の薄い作品も、流行の変化を追う上では重要な位置にいますので、ここで紹介いたします。
〇真っ当な二次創作!?原作重視のスタイルを2つ紹介
黒歴史臭の薄い作品は大きく2つに分けられます。
「〇〇派」って呼び方をしたら文学運動っぽい雰囲気が出そうなので、私が勝手に命名してみました。
名付けて、【森派】と【裁判派】です。
週刊チャオの中で知名度の高い小説に『チャオの森』と『チャオ裁判』という作品がありまして、そこから取っています。
【森派】
チャオの日常を描くことを試みるタイプの作品です。
原作はあくまでゲームですから、チャオの取る行動の種類が限られています。
なので「チャオってこういうこともしそうだよね」と想像を膨らませていく。
二次創作としてはかなり正統派っぽい試みではないでしょうか。
このタイプの作品は絵本っぽい口調で書かれることが度々ありました。
チャオが可愛い生き物なので、それに物語の雰囲気を合わせようとして、そうなったんでしょうね。
【裁判派】
森派はチャオの日常を描くため、チャオが物語の主役でした。
裁判派の主役は人間です。
チャオがいる世界での人間社会を描いたり、人間の心の動きを描いたりします。
ソニックアドベンチャーシリーズに名前ありの人間キャラはあまりおらず、人間はオリジナルキャラとなることがほとんどです。
なので二次創作でありながら、オリジナルキャラクターが主役ということになります。
二次創作としては変わり種ですね。
だけどもチャオは元々ペットみたいな存在なので、そのような配役になってもあまり違和感がないのが強みです。
この後に来る冒険ファンタジー大流行時代には、これらの真面目な二次創作はあまり目立たなくなっちゃいます。
目立たないながらも、これら原作重視の作風もまた後の世代に受け継がれていきました。
〇冒険ファンタジーの流行と、黄金世代のデビュー
ゲームキューブ版が発売してからは、冒険ファンタジーの作品が増えていきます。
せっかくなのでこれを【冒険派】と呼ぶことにしちゃいましょう。
冒険派は、それ以前のチャオ小説の流れを汲んだ上で、ゲーム的な要素を作品に盛り込んでファンタジー小説を書きました。
・絵無し漫画小説と揶揄されたスタイル
・武器や魔法を用いるなどの大胆な原作無視
・RPGなどのゲームや漫画の影響が強く見られるストーリーや設定
・連載形式のため目立ちやすい
このような特徴が冒険派の作品にはありました。
冒険派の作品が増加してきた頃……2004年に週刊チャオの歴史が大きく動きます。
カリスマ性の高い新人たちがデビューしたのです。
彼らの多くは冒険ファンタジーによって多大な人気を得ました。
週刊チャオで人気の高かった彼らは、後に黄金世代と呼ばれることになります。
昭和アイドルで言えば、花の82年組。
将棋界で言えば、羽生世代。
今のお笑い界で言えば、第7世代。
そういう存在が、週刊チャオにも現れたんですね。
それが2004年にデビューした黄金世代です。
黄金世代の書く冒険ファンタジーは、他の作品よりも長く連載が続けられたことが大きな特徴です。
彼らは小説を書くことに飽きませんでした。
言い方を変えれば、他の人は飽きて書くのをやめちゃうことが多々ありました。
だって元々小説に興味が無かったわけですから。
面倒くさくなっちゃって書くのを途中でやめる人はたくさんいたんです。
小説投稿サイトとかでもよくある、「エターナる」ってやつですね。
永遠に完結しなくなった作品は週刊チャオにも非常に多いです。
でも、黄金世代が書く作品は半年以上続きました。
作品によっては数年にわたって書き続けられたほどです。
ひとたび連載を始めれば長く続き、1つの作品が書き終わってもすぐに新しい作品を投稿する。
情熱に満ちた彼らが人気作家の地位を確立していったのは当然のことと言えるでしょう。
彼らが人気者になり、そして小説に飽きなかったのは、黄金世代同士の結び付きが強かったことも影響しています。
黄金世代のメンバーたちは個人サイトでも交流していて、一緒に遊んでいたんですね。
強い絆があったので、小説から離れようという気持ちが起こりにくかったのです。
ネタバレをすると、この黄金世代のメンバーがずっと主役のまま、以降の話は進みます。
黄金世代は飽きることなくずっと週刊チャオにいて、小説を書き続けました。
ずっと週刊チャオにいて、ずっと活躍し続けるので、必然的に主役になっちゃうんです。
〇批判はあったが浸透しなかった
人気の高かった冒険ファンタジー小説ですが、その文章は「絵無し漫画小説」と揶揄されることもありました。
そりゃあ、
ガオチャ「ドラゴン・メテオ・ボンバーー!!!」
ドゴォォォォン!!
なんて文章は批判の的にもなりますよね。
「もっとまともな小説を書こうよ」って言いたくなる人が現れるのも道理でしょう。
度々この文章スタイルは批判されましたが、それで投稿される小説が変化することはありませんでした。
実を言うと、本気でこの文章スタイルを批判する人って、全然いなかったんです。
絵無し漫画小説だと揶揄する人たちが本当に言いたいのは、「公式掲示板に小説を投稿すること自体がウザい」ということでした。
俺たちはゲームのチャオの話をしたくてここにいるんだ。
ゲームと関係のない小説ばっかの掲示板なんて嫌なんだ。
という主張がメインだったんですね。
そして、自分たちの主張の正当性を高めるために「そもそも小説のレベルが低い」って言い分が登場したわけです。
お前たちの小説は、いわば絵無し漫画小説であり、下手くそだ。
下手くそなんだから、投稿しなくてもいいでしょ。
そう批判したんですね。
それらの主張に対して掲示板のみんなで話し合った末に出る結論と言えば、
掲示板を綺麗に保つために週刊チャオがあるから大目に見てね。
小説を書く人は、できれば週刊チャオを使おうね。
プロが書いているわけじゃないんだから、小説のレベルが低いって言っても仕方ないよね。
こんな感じのものでした。
これにて一件落着、めでたしめでたし。
ということで、みんなはこれまでと同じように冒険ファンタジーを書くのでした。
小説のレベルが低いという批判は、ほとんどの人の心に響きませんでした。
〇黄金世代の異端児が一石を投じる
誰かが「お前たちの小説は下手だ」と言っても、週刊チャオの小説に変化は起きませんでした。
それでも、週刊チャオを利用するみんなの中に「もっとレベルの高い小説を書きたい」という気持ちの種は生まれていました。
当時の掲示板には、「小説が下手くそ」という批判に対する常套句がありました。
「俺たちはプロじゃないんだから、上手く書けない人だっているでしょ」
というものです。
この反論こそが、新しい小説文化の種であったと感じます。
「俺たちはプロじゃないんだから」って言い方は、腕が悪いことを認めています。
下手だけど、それは仕方のないことじゃん。
っていう反論ですからね。
俺たちの小説は確かに下手だけど。
だけど、それでも別にいいじゃん。
そう思っていたのです。
下手くそでも楽しくて、盛り上がりました。
けど、ここに一石を投じる人物が登場します。
その人物もまた黄金世代、2004年デビュー組。
彼のことは、重要人物なので、Aさんという仮名を付けて呼ぶことにしましょう。
Aさんは批判します。
「お前たちの小説、絵無し漫画小説とかはレベルが低い」と。
一見、これまでされてきた批判と同じですね。
ですが大きく違う点がありました。
掲示板で小説を書くこと自体には文句を言っていなかったんです。
これまでの批判は、小説を公式掲示板に投稿する行為そのものを疑問視したものでした。
だけどAさんの批判は、小説を書くこと自体は別に問題にしていないんですね。
「もっと良い小説を書こうぜ」という意味の批判だったんです。
しかもAさんは小説をたくさん書いていました。
黄金世代の他のメンバーとは異なり、冒険ファンタジーはあまり書きません。
ですが、小説をたくさん投稿するという点は同じ。
連載形式で書かない代わりに、読み切りの作品をたくさん投稿するのが彼のスタイルでした。
もちろんその中で、Aさんなりにレベルの高い小説を書こうと試みていました。
批判をすると同時に、自分の主張を体現する小説を書こうと努力していたのです。
このAさんの活動があったおかげで、他の投稿者も「もっとレベルの高い小説を書けるようになりたい」という気持ちを強められたのだと思います。
|
|
|