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書けば書けるから書いた【チャオ21周年記念作品】 スマッシュ 19/12/14(土) 1:17

第四話 覚醒の スマッシュ 19/12/14(土) 1:20

第四話 覚醒の
 スマッシュ  - 19/12/14(土) 1:20 -
  
 鉄の味がする……


 ピンチの時には必ずヒーローが現れる


 心の中で三回唱え、

 ヒーロー見参
 ヒーロー見参
 ヒーロー見参


 鉄の味がする……

 僕の血は、鉄の味がする……


第四話 覚醒の星物語(スターストーリー)


 知っているか?
 ヒーローはいない。


 お前がどれだけ苦しんでいてもヒーローは来ない。
 白馬の王子様は救いには来てくれない。
 奇跡なんてないんだ。


 僕は小説を書いた。
 僕は誰にも読まれない誰も評価しない小説を書き続けた。
 ヒーローは来ない。
 だけど僕は小説を書き続けた。
 僕は呼吸をし続けた。
 吸って吐く。
 単純なこと。
 小説を書く。
 とても単純なこと。
 その繰り返し。

 ヒーローは来ない。
 僕はヒーローの顔をまだ知らない。
 いつかその人が現れる日を待ち望んでいる。
 白馬の王子様とはいったい誰で、いつ僕を迎えに来てくれるのだろう。
 奇跡はなにを僕にもたらしてくれるのだろう?
 
 空想をしても胸は躍らない。
 ヒーローがいないことを僕は知っている。
 だけど僕は奇跡が起こる日ために小説を書き続けている。


 全ての物事は奇跡へ向けて突き進んでいる。
 一歩一歩、着実に加速する。
 深く息を吸い、深く息を吐く。
 僕は加速していく、奇跡に向けて。

 十万文字の小説を二週間で書き上げる。
 起きてから寝るまで、人生を小説の執筆に捧げる。
 小説の中の世界が本当の世界に感じられてくる。
 僕のいるこの世界は、小説の世界の外側の、架空の世界に過ぎない。
 この世界の全ては小説の世界のためにある。
 そう信じて過ごす。
 一日あたり一万文字という計画。
 そのペースで書けば、十日間で一作が書き上がる。
 もちろん、机上の空論どおりにはいかないものだ。
 だから四日、余裕を持たせておく。
 二週間というのも区切りが良く、スケジュールを調整しやすい。
 そしてその前段階として周到にプロットを用意しておいた。
 物語の流れだけでなく、どのような文章を盛り込むのか、仔細に指示を書いたプロットだ。
 それはあらかじめ小説の下書きをする作業に近い。
 どこで文章が詰まってしまいそうか想像しながらプロットを作り、対策を打つ。
 小説の合間合間に入れられるべき、ささやかなれど美しいアイデア。
 それをこのリハーサルによって事前に用意しておく。
 おかげで執筆の間にいちいち考えることなく書き進められる。
 書いていれば、その中で刺激を受けて新たな表現が生まれることもある。
 周到に用意したアイデアと、突発的に生まれるアイデアとがあれば、筆が止まることはない。
 書き続ける。
 書き続ければ、また新たなアイデアが浮かんでくる。
 寝ても覚めても小説のことを考える。
 心身が小説を書くことに最適化されていく。
 小説の外の人生を投げ打ち、最適化を推し進める。
 この体が小説を書くために存在していることが至福の喜びとなる。
 二週間という時間を確保するために割いた労力が報われる。
 ただひたすらに小説を書く。
 多大なる幸福感が一日中僕を満たす。
 興奮によって夜は眠れなくなり、区切りの良いところまで書かなくては落ち着けず、寝ることはままならなかった。
 熱を入れ過ぎて夜遅くまで作業をした反動として翌朝には頭痛が訪れることもある。
 あまりにも痛みが酷ければ頭痛薬を飲むが、どちらにせよ、小説を書いていると痛みは意識されなくなる。
 その時、僕の人生は小説のためにあった。
 だから小説とは関係のない頭痛のことなど、意識するに値しなかった。
 僕の意識も僕の無意識も、頭痛のことを忘れ、小説に没頭したのだった。
 いつまでもいつまでも小説を書きたいと思った。
 だが一つの作品は十万文字書けば終わる。
 この小説も終わりが近付いてきていた。
 そこに一抹の寂しさを覚える。
 だが終わりの見えた喜びもある。
 かつては僕の脳内にしか存在しなかった物語。
 ただの個人の空想でしかなかったもの。
 それが文章によって形を与えられたことを実感する。
 入念に作られたプロットが骨となり、そこに幸福感をばらまきながら接着した文章たちが肉となって小説を形作る。
 そうして空想は、一つの世界となる。
 空想から世界への変化の手応えが、段々と感じられるようになってくる。
 その手応えに僕はさらに興奮する。
 幸福を覚える。
 結局は十二日目で書き上がった。
 最後の一日は徹夜をした。
 もうすぐ物語が終わろうとしているところで、作業を止めることなどできなかった。
 書き上がるまでは寝るわけにはいかなかった。
 心が熱くなるままに僕は書き続けた。
 十万文字を超えたところで外を見れば、外は朝焼けていた。
 その時、僕の人生はここで一つの終わりを迎えたのだと感じた。
 本物の世界が完成したのだと実感した。
 僕が見ている朝焼けは偽物の世界のものでしかない。
 本物の世界は僕の手元に、たった今書き上げたばかりのこの文章の中にある。
 そのことがとても嬉しかった。
 そして僕の生命というものは、新しく完成した世界の中に潜む。

 この世界にこれだけの快楽が他にあるだろうか?
 これほどまでに人生を費やすに値すると思えるものがあるだろうか?
 僕は小説と共に生きていきたい。
 全ての人間が小説を書いて生きてほしい。

 強く願う。

 奇跡よ起これ。
 白馬の王子様よ現れろ。

 心の中で三回唱え、

 ヒーロー見参
 ヒーロー見参
 ヒーロー見参

 どうか僕の望みを叶えてくれ。

 だけど僕は知っている。
 ヒーローはいない。


 僕は小説を書き続ける。

 小説に捧げたあの二週間の日々。
 本物の世界を完成させたあの朝焼けの瞬間。

 あの時に僕の中でなにもかもが変わっていた。

 深く息を吸い、深く息を吐く。
 僕は加速し続けている。

 二週間だけ確保した、最高純度のモラトリアム期間。
 その中でのみ踏んでいるはずだったアクセルは、今も踏みっぱなしになっている。
 僕の中で全てのことが加速し続けている。

 小説も。
 小説でない文章も。
 全ての文章を繰るスピードが加速し続けている。
 ヒーローは存在せず、奇跡の起こらない世界で、それでもどこかに向かおうとして速度を上げ続けている。
 奇妙な全能感。

 あの二週間、僕はそれまでの人生で一番のスピードで文章を書いた。
 その爽快感は忘れられない思い出となるはずだった。
 しかし現実は違った。
 爽快感は今も続いている。
 書けばいくらでも書ける。
 空想の詰め込まれた脳に、時間をちょっと注いでやれば、それだけでポップコーンが破裂するみたいに文章が生まれてくる。

 僕は加速を続けている。
 いつまで加速し続けられるのだろう?
 限界までアクセルを踏み続けたい、と僕は思った。
 限界が来てもアクセルを踏み続ければいいさ、と僕は答えた。
 僕は加速を続けられる。
 いつまで、なんて意識しなくていい。
 いつまでも僕は加速していく。
 そんな全能感が僕に強くアクセルを踏ませる。
 小説を書き続ける。
 書けばいくらでも書ける。
引用なし
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