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スピアは死んだエミーを助手席に座らせ、車内が血まみれの車で走り出した。
運転は、キングやエミーがしていたものの見よう見まねだ。
粗末な運転だった。
エミーが下手だとは笑えない。
速度の制御がろくにできず、人を轢きそうになりながらも、スピアは向かった。
キングの住むキャッスルに向かった。
真実を確かめるためだ。
キャッスルは、かつて電波塔として使われていた建物だった。
非常に高く目立つその建物をキングは我が物にしていた。
金棒を持ち、キャッスルに向かおうとすると、背後から発砲音が聞こえた。
そんなはずはないと思って振り返る。
エミーはやはり死んでいる。
なのにもう一度、発砲する音が聞こえてきた。
車内からしたのかと思ったが、二回聞いてみると、もっと遠くの場所からした音のように感じられた。
パアン、パアン。
音は鳴り続ける。
次第に、それはどこで鳴ったものではないと、スピアは気が付いた。
鳴っていないが、聞こえているのだ。
スピアにはその音が聞こえている。
きっとこれはチャオの声だとスピアは思った。
エミーが思い描いていた、巨大な体を持ち、おしゃべりをして生きるチャオ。
そのチャオの声が俺には聞こえている。
遠くの空にはとても大きな灰色の雨雲が一つ浮かんでいて、エミーのチャオもきっと灰色だろうと思った。
チャオはなにかを伝えようとしている。
そう感じるのだった。
きっとチャオが言いたいことは。
スピアは車に戻り、助手席のエミーが、自分を殺すために使った拳銃を手にする。
これを持っていけってことなんだよな?
声には出さず、チャオに確認した。
エミーのチャオは、発砲の音とは違う音で答えた。
赤ん坊の産声を縮めたような音だった。
改めて、キャッスルに入る。
門番は殺した。
門番はスピアのことを知っていたが、金棒を持っていたので不審がったのだ。
そしてエレベーターに乗る。
用があるのはキングだけだ。
他の者たちはなるべく殺したくない。
チャオもその考えに文句を言ってはこなかった。
上がれるところまで上がれば、そこがキングの部屋だ。
到着したエレベーターの音がしても、キングは来客に気が付かなかった。
キングは半径二メートルほどの球体の形をした、大きな機械の中に座っていた。
機械は車のようにドアがあって、中に入れるのだ。
ガラス窓で機械の外からも中の様子がうかがえる。
キングは顔には防塵ゴーグルのようなものを、そして手足などいたるところに機械と接続されたバンドを装着していた。
スピアは機械のドアを開け、キングの着けていたゴーグルをむしり取った。
「なんだ、スピアか。どうした?」
平静を取り繕うが、キングはかなり驚いた様子だった。
ゴーグルを取られた瞬間などは、体が反射的に跳ねていた。
それでもすぐに取り繕えるだけ凄いと思った。
「チャオは、あなたの想像上のものでしかないんですか?」
「なんだ。その話か」
「エミーさんは、あなたが想像だけでチャオのことを話していると知り、自ら命を絶ちましたよ」
「そうか、エミーが。あいつは人一倍、チャオに信仰していたからな」
「否定しないんですか」
「まあ待て。ここで喋るのは、窮屈でよくない」
キングは体に着けたベルトを外して、機械から出てきた。
そしてスピアの脇を通り抜けて、美術品を飾っている一角に向かう。
歩きながらキングは、
「かつての人類がチャオの存在を予測したというのは、嘘だ。チャオは、俺の作った仮説だ」
とスピアに話した。
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