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☆★☆週刊チャオ チャオ20周年記念号☆★☆ ホップスター 18/12/23(日) 0:00

Scene:9 ホップスター 18/12/23(日) 0:18

Scene:9
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:18 -
  
「…ん…ここ…は…」
少年が目を覚ました。すぐに目が覚めたようにも、長い時間寝ていたようにも思える。不思議な感覚。
最初はぼんやりとしていた視界だが、やがてはっきりとしてくるにつれ、白い天井と明るい照明が目に入ってきた。

『知らない天井だ』
こういう時は、そう言うのがお約束らしい。以前、そんなことをクラスメートから冗談半分で聞いたことを思い出していた。まさか自分がそんな状況に陥るとは、と思ったが、ちょっと前にも似たようなことがあった気がしてきた。しかし、最近入院なんてしたことなかったはず―――しばしの混乱の後、彼は、自分で自分の記憶がかなり混乱していることを自覚した。

やがて、静かな時間が経つにつれ、状況が飲み込めて、かつ記憶も整理されてきた。
ここは病室。トラックに轢かれて1ヵ月ほど生死の境を彷徨い、その間に意識はチャオという生き物がいる昔のゲームの世界に飛んでいき、紆余曲折あった末にチャオガーデンでチャオを憎む少女を取り押さえたところで元の世界に戻ってきた―――と、こんなところだろうか。
最初はこの病室は個室だろうと思っていたが、広い上にカーテンで仕切られていただけで個室ではなかった。カーテンで遮られているので様子は分からないが、隣のベッドにもどうやら入院している人がいるようだ。

(こういう時は、誰かが横にいるのが相場だろうけど…ま、オレには誰もいないか)
ふと、そう思った。何せ両親は既にこの世にいないし、残念ながら彼女も幼馴染の美少女もいない。さすがに叔父夫婦や友人はお見舞いに来ていたようで、花や千羽鶴、それにメッセージの入った色紙なんかが飾られていた。
こういう時は、ナースコールでも押して人を呼んだ方がいいのだろうかとも思ったが、いざ手を動かしてみようとするが手が動かない。何とか首は動くので周囲を見回すこと程度はできるが、首から下はほとんど自分の意思では動かせなかった。
一瞬パニックになりかけたが、冷静に考えれば、トラックに轢かれる事故に遭ったのだから、何らかの後遺症があってもおかしくないのだ。その辺の詳細については、後で医者に聞いてみるしかないな、と思い、手を動かそうとするのを諦めた。

その時、病室の扉が開く音がした。
誰か来た、と少年は身構える―――といっても体は動かないので心の中でだが―――が、確かに人は2人入ってきたが、いずれも隣のカーテンに遮られているベッドの方へと向かい、自分の所には来なかった。

やがて、どうやら看護師の女性らしいその2人は、少し会話をしながら、隣のベッドにいる患者に対して何か処置を始めたようだが、カーテンで遮られている上に医療に関してはド素人である彼には、会話の内容すら意味不明で、何をしているのか全く見当がつかない。

そんな意味不明な会話を聞いていると、何だか眠くなってきたが、1人の看護師が話題を変えた途端、彼は思わず声が出そうになった。

「…でも可哀そうですよね、親子心中で娘だけ昏睡状態になってもう目覚めないかも知れないって」
「ここだけの話、母親は離婚してて行方知れずらしいわよ。父親が1人で頑張って育ててたけど、ついに借金苦で耐え切れなくなって…って話だとか」
「隣のトラックに轢かれた子も可哀そうだけど、それ以上ですね…」
「でもこの前、うわ言のように『チャオが憎い』ってつぶやいたのを聞いたわ。チャオ?ってのが意味不明だけど、夢のようなものは見ているんじゃないのかしら」
「そうなんですね…人間って不思議…」

少年は「まさか」と思った。どこかで見聞きした話と完全に一致する気がしたが、気のせいだと思うことにした。


そして、数ヶ月後―――


彼は苦しいリハビリの末、何とか上半身は動くようになり、まだ車椅子が必要ではあるが、退院できることになった。
退院時には叔父夫婦やクラスメート、サッカー部時代の仲間が出迎えてくれ、それなりに賑やかな雰囲気になった。

また、事故前は未定だった進路についても吉報があった。
「強豪高校サッカー部のレギュラーだった少年が事故で生死の境を彷徨う」というのはちょっとしたニュースになっており、そのニュースを聞いたとある大企業が「卒業・退院したら是非ウチでどうだ」という話を持ち掛けたのだ。
しかもその企業はアマチュアサッカー界で強豪として知られるサッカー部を持っており、もしサッカーができまで回復したら是非プレーしないか、というもの。
彼は二つ返事でその話を受けることにした。これで叔父夫婦に心配や迷惑をかけずに済む。なんだかんだで、自分は人に恵まれているんだな、とも思った。

…そしてふと、『彼女』のことが思い浮かんだ。
人に恵まれないと、人間はあぁなってしまうのか。そう考えると、少し可哀そうで、少し怖い気がした。
そして、せめて自分だけは、彼女のことを忘れないでいようと思った。それで彼女の気が晴れるのかどうか、そもそもゲームの世界に漂流した人間の気が晴れることがあるのかどうかは分からないが、報われない人生を送ってきたと思われる彼女の為にもそうすべきだと感じた。


春からは、叔父夫婦の家から独立し、一人暮らしを始める。
引っ越しのための荷物をまとめる最中、ふとあることを思い出し、叔父に話しかけた。

「父さんと母さんがやってたゲーム?…確かによく2人でゲームしてたけど、お前、どこでその話聞いたんだ?」
叔父は不思議そうにそう答えた。少年の両親がゲームをやっていたという話は、していないはずだったからだ。
「いやぁ、小さい頃に押し入れ探してたら奥にゲーム機があって、そうなのかなーって思ったことを思い出して…まだある?」
少年はそう誤魔化したが、これは全くの出任せである。だがこれが見事に当たったようで、叔父はこう答えた。
「いや、大事そうな遺品は奥にしまったままで処分とかしてないから、あるんじゃないのか?でも20年近く前のゲーム機なんて、動くかどうか分からんぞ?」
「分かった、探してみる。あったらラッキー、動いたらさらにラッキーぐらいの感覚だから大丈夫」

…そして、ほこりと古い荷物の山と格闘することおよそ30分。

「…あった!」
彼が積み重なった段ボール箱の奥から取り出したのは、白くて正方形のゲーム機と、青い針鼠がパッケージに描かれたゲームソフト。
「動くのかこれ?」
「ケーブルあるしちょっと繋いでみる」
そう言い、ゲーム機をテレビに繋ぐ少年。なんだかんだで叔父も興味があるようでその様子を見ている。
電源ケーブルをコンセントに繋ぎ、ディスクをゲーム機に入れて、いよいよスイッチを入れる。

「さて、動くかな…」
なんでもない一瞬だが、緊張の一瞬。少年の指が、左前方のPOWERボタンにかかる。

次の瞬間、テレビ画面が白くなり、独特の効果音と共にオレンジ色の渦巻きが表示される。
20年近く止まっていた時間が、動き出した。


                            おしまい。
引用なし
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