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☆★☆週刊チャオ チャオ20周年記念号☆★☆ ホップスター 18/12/23(日) 0:00

「Children's Requiem」 ホップスター 18/12/23(日) 0:10
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「Children's Requiem」
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:10 -
  
それは、子供たちによる鎮魂歌。
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『努力すれば必ず成功するとは限らない―――が、成功した者は須らく努力している』
とはまぁよく言われる話であり、彼もまた、そんな格言を身をもって体感した人物の一人である。
推薦でサッカーの名門高校に入学し、ともすれば前時代的な、ネットに流れればブラック部活だと総叩きに遭いそうなほどの猛練習を重ね、苦労の果てにようやくレギュラーを掴んだ…が、3年生になって迎えた県予選は惜しくも決勝で敗退し、ついに全国大会には出れないまま3年間の高校生活を終えることになった。
「お前ぐらいなら、どっか推薦でいい大学入れるんじゃねぇの」
「いやー、掛け合ってみたけど『やっぱり全国出てるのと出てないのとでは向こうの印象が全然違う』ってさ」
「そんなもんかー。でもキャプテンの山本は2部とはいえプロ入りすんだろ?」
「あいつはオレらとは全然違うよ。オレもサッカー好きだけど、傍から見てて『コイツサッカー好きすぎて頭ヤベぇんじゃねぇのか』ってなるレベル。それぐらいじゃないと、プロにはなれないんだよ、やっぱり」
「お前が言うってことは相当だなぁ…今のうちにサインとか貰っといた方がいいのか?」
「貰っとけ貰っとけ。ちなみにオレは3枚貰った!」
「ちゃっかりしてんなおい!」

…もっとも、当然の話ではあるが、プロに入ったからといって活躍できるとは限らない。むしろ大半の選手が活躍できずにいつの間にかひっそりと消えていく厳しい世界である。彼の手元にある3枚のサインがお宝になるのか、それともただの紙切れになるのかは、まだ誰にも分からない。

「でも、推薦貰えないってなると、お前これからどうすんだ?就職?」
「そうだなぁ、いつまでも叔父さんに頼る訳にもいかねぇしなぁ…」

実は彼、両親がいない。
彼の両親は彼が1歳の時に、不慮の事故で帰らぬ人となった。それ以来、叔父夫婦の家に引き取られ、そこで育ってきた。
幸い叔父も叔母も悪い人ではなく、彼を我が子と変わらぬように大事に育て、おかげで彼はサッカーの名門高校でレギュラーになれるような立派な少年になったという訳だ。

「一応、中堅クラスの私立大学なら自己推薦でいけるんじゃないかって話だけど、奨学金もらったとしても学費がなぁ…でも就職する、つってもこんな田舎で高卒じゃ食っていけるかどうかレベルにしかならねぇし、かといって上京は…」
「って、おい、ちょっと待て!!!」

…友人が必死に叫んだが、彼は考えながら喋るのに夢中で、歩みを止めなかった。
彼がようやく気が付いた時には、目の前に、大きなトラックの姿があった。彼は一瞬、何が起こっているのか分からずに思考回路を巡らせたが、全てを理解した時には、既に―――
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Scene:1
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:12 -
  
「あー、あー、コホン!」
「…?」
薄い意識の中で、少女の声が聞こえる。
「お、起きたかな?」
「こ、ここは…」
彼は何とか目を開けると、真っ暗な部屋に1ヵ所だけスポットライトが照らされているように明るい場所があり、その中心にある椅子に少女が座っていた。

必死で思考を巡らせて、状況を整理する。
ついさっきまで、自分が何をやっていたのか。そうだ。友人と進路について話していたら、目の前にトラックが―――まさか。
「まさか、オレ…」
彼はそこで言葉に詰まったが、目の前の少女は全てを察したようにこう返した。
「その通り、大正解!大きなトラックが突っ込んできて…そりゃもう、言語では言い表せない…強いて表現するなら『グロ注意』ってやつかしら…見る?」
「いえ、結構です…」
そんな状態になった自分の姿など、余程の物好きでもない限りは見る気はしないだろう。

さらに彼女は続けた。
「でも貴方は運がいいわ!こうして異世界への扉を開いたんですもの」
「異世界って…そんなアニメみたいな」
少年はそう返す。彼はこれまでの人生をほぼサッカーだけで生きてきた人間であり、『そういう話題』にはあまり詳しくないのだが、今時必ずクラスに数人は熱心な奴がいる時代である。そんなアニメが流行ってるらしい、という程度の話なら聞いたことがある。
「あー、そっちの世界で流行ってるらしいわねー、そういうの。大半は設定が都合よすぎたりガバガバだったりするけど、たまーに『この作者体験者じゃね?』ってのがあるわよ」
「体験者って…オレ以外にも?」
「まぁね。でも超レアよ?細かい事は機密事項だから言えないけど、宝くじの1等に当たったようなものだし…っと、それはともかく!」
そこまで喋って、少女が脇に逸れた話題を戻す。

「さてさてー、そんな訳で、『お約束』通り貴方には現在の記憶・年齢・外見などを保持したまま、異世界へ行ってもらうことになります!何か質問はありますか?」
「あ、えーっと、その異世界ってどんな世界なんですか?」
少年が慌てて質問する。これは大事な質問だ。それが事前に分かるか分からないかで、また心構えも大きく違ってくる。
「あー、異世界転移者よくある質問第1位だねー。あたしらがマニュアルで最初に覚えさせられるやつ。大っ変申し訳ないんだけど、これはこっちじゃ決められないし分からないのよねー」
「そうなんですか…」
それを聞き、少年は落胆した。さすがにそこまで都合良くはいかないようだ。
「あ、でも、異世界に行く人間のパーソナリティや生い立ちをある程度反映した世界になる、ってことは聞いたことがあるわね。だから原始時代とか、逆に人類滅びちゃった的な世界には行かないから、そこは安心して。少なくとも、普通に食べて暮らしていくのには問題ない世界になるはずよ」
「なるほど…それならそこの心配はしなくて大丈夫そうですね」
それならば、サッカーが盛んな世界にでもなるのだろうか、と彼は少し考える。いや逆に、そんな世界だとプロレベルで上手い人が多すぎて自分なんかでは逆に大変なのでは?…など、異世界に行く前から余計な心配をしてしまうが、そんな心配は異世界に着いてからにしよう、と思い直した。

「他に質問はあるかしら?」
さらに少女は尋ねるが、少年は言葉に詰まった。
「…すいません、なにせ急な話なんですぐには…」
「だよねー。まぁ後は習うより慣れろってやつで、実際に行って体当たりで覚えた方が早いと思うわ」
そう言うと、少女は手元にある端末のようなものを操作し始める。準備が終わると、こう告げて、エンターキーのような一回り大きな部分をタップした。
「…それじゃ、異世界へ行ってらっしゃい。グッドラック!!」

そして次の瞬間、少年はその場から消えた。

それを確認した少女は、軽く伸びをして、こうつぶやく。
「…さてと、今日のお仕事終わりっと!…あれ、そういえば大事なことを伝え忘れてたような…なんだっけ…?」
少し首を傾げるが、「ま、いっか!」と言い残し、そのまま彼女もその場から消えた。真っ暗な空間に椅子だけがスポットライトのような明かりに照らされて残っていたが、その明かりもしばらくしてふっと消えた。
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Scene:2
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:13 -
  
「うぅ…えっと確か、トラックに轢かれて、女の子に転生させられて…」
少年は眩暈が残る中、必死で記憶を辿る。そう、異世界。ここは異世界。自分は異世界に転生したのだ。
ようやく状況を把握したところで、まずは周囲を見回した。

「ここは…海岸…?」
自分は砂浜のような場所にいた。周囲に人気はない。ふと陸の側を見ると、近代的な高層ビルが並んでいる。リゾートビーチのような場所だろうか。とすれば、文明レベルは元々いた世界と大差ない。
彼は安堵すると共に、ちょっとガッカリもした。そこまで詳しい訳ではないが、この手の異世界と言えば中世風ファンタジー世界で、自らの知識や才能を利用して楽に暮らせるのがお約束なのではなかったのか、と。

高層ビルが並んでいるのに人気がないのが少し不思議だな、と思いつつ、彼は気を取り直して、高層ビルが並んでいる街の方へ向かおうとした、その時。

「…ん?」
彼の足元に、ぷにっ、と柔らかい感覚がした。
これが最近流行りのアニメであれば恐らく美少女ヒロインなのだろうが、残念ながら周囲に人がいないことはさっき確認したはずである。
クラゲか何かか、と思い、恐る恐る足元を覗く。

そこにいたのは、水色の、ぷるぷるぽよぽよとした、見たこともない生き物だった。

「!?」
思わず驚き、すっと一歩下がる。水色の生き物は、その場から動かない。
彼は少し離れて、その生き物を観察しながら考えを巡らせた。

そう、何度も繰り返すが、ここは異世界である。元いた世界にいない生き物がいても不思議ではないのだ。
落ち着いて考えれば至極当然のことに気が付き、ふぅ、と軽く息を吐いた。見る限り、敵意も無さそうである。

それを確認して安心した瞬間、彼はふとある言葉を呟いた。
「チャオ…」

彼は自分でも、何故その言葉を呟いたのか、よく分からなかった。
が、直感した。これは、この生き物の名前であると。
それを把握した瞬間、突如彼の記憶の一部分がもやが晴れるように澄み渡り、初めて見るはずの目の前の水色の生き物について、ずっと前から知っているような感覚が彼を覆った。

「俺は…この生き物を…知っている…?」
思わず呟く。元いた世界にはいないはずの生き物を知っている。不可思議な現象であり、彼もしばらく混乱した。
数十秒経ってようやく思考が落ち着いてきて、異世界に飛んできたのだからそういうこともあるのだろう、と無理矢理自分の中で納得することにした。

そこでふと、彼の注意がそのチャオから離れた時に、彼の耳にある音が響いてきた。
ザッ、ザッ、という、砂浜の上を人が歩く時の独特の足音。誰か、近づいている。音の感じからして、ほぼ間違いなく人間のそれだ。
果たして、初めて遭遇する異世界の人間とは―――彼は恐る恐る、そちらを振り向いた。

「…あら、驚かせたらごめんなさいね。敵意はないわ」
そこにいたのは、若い大人の女性だった。20代から30代ぐらいだろうか。彼女は目が合うと、そう話しかけた。
そして、次にいきなり、核心を突いてきた。
「貴方も『異世界からの漂流者』かしら?」

「何故、それを…」
思わず彼はそう返したが、彼女は落ち着いた表情を崩さずに話を続ける。
「この世界は『そういう世界』で、たまにいるのよ、君みたいな人が」
「そ、そうなんですか…」
彼はそう答えた。彼女の言った『そういう世界』がどういう世界なのか具体的には解らなかったが、直感的にはなんとなく理解した。

「…かわいいでしょう?『チャオ』っていうのよ」
彼女は続けてそう言い、彼の目の前にいたチャオを拾い上げる。ポヨがハートマークになった。
「この世界の、生き物ですか?」
彼はそれに対し、そう質問した。ただ、少なくとも、自分の頭の中では答えは既に出ている。
「ええ。…そういえば、漂流者の中には、この世界を『チャオの世界』って言う人もいるわね」
彼女はそう答えた。チャオの世界、というのは少しオーバーだな、と思ったが、ほぼ彼の予想通りの答えだった。

そこで彼は、さらにこう問いかけた。
「…少し変な質問をしてもいいですか?」
「何かしら?」
「なんというか…何かが、おかしいんです。俺の元いた世界にはチャオなんかいないはずなのに、俺はこの生き物をずっと前から知っていたような気がして…そういう現象って、ありますか?」
すると彼女は、首を傾げつつこう答える。
「うーん…私は比較的漂流者と話すことが多いけども、そういう話は聞いたことがないわね…」
「そうですか…ありがとうございます」
彼は残念そうにお礼を言った。

そこで彼女がフォローするようにこう続ける。
「そうね…でも、それなら、もしかしたら、あなたは何か運命みたいなものを背負って、この世界にやってきたのかも知れないわね」
運命。その言葉で、彼は異世界に転送された際の少女の言葉を思い出した。
―――貴方が行く異世界は、貴方のパーソナリティや生い立ちをある程度反映した世界になる―――つまり、「チャオの世界」に自分が転送されたのは、自らとチャオに何か関わりがあったからなのかもしれない。最も、異世界の生き物と自分がどう関わっていたのだろう、という謎は解けないが。

一通り話が終わったところで、彼女は話題を切り替えた。
「とりあえず、漂流者を支援している団体があるから、そこに案内してあげるわ。…といっても、実はあたしもそのメンバーなんだけどね。とにかく、この世界で暮らしていくのをサポートするから、安心して」
「そういうのがあるんですね…ありがとうございます」

彼女は抱っこしていたチャオを砂浜に返すと、彼を案内するように歩きだした。彼もそれについていく。
静かな砂浜に、2人の足音だけが響いていた。
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Scene:3
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:13 -
  
少年が異世界に転移してから、およそ1ヵ月。
あの女性から、『漂流者』を支援している団体の紹介を受け、その支援のもと、新しい世界に慣れていった。

「ふぅ…」
軽く汗を拭う。
彼はこの世界で、チャオガーデンの清掃のアルバイトをしていた。
まずは、この世界での生活基盤を作ること。そのために彼が選んだのが、このアルバイトだった。

もちろん、この世界にも様々なアルバイトや仕事があるが、彼がこのアルバイトを選んだのは、自らのチャオに対する記憶の謎の解明に少しでも近づければ、という思いがあったからだ。
清掃中、チャオは別のガーデンに移動しているので、直接チャオと触れ合える機会がある訳ではないが、とりあえず何らかチャオに関わることがしたかったのだ。
それに、元々ずっとサッカーをしてきた身である。頭を使うよりは、体を動かす方が性に合っていたし、それに耐えうるだけの体力もあった。

「よし、池に水を入れなおして、あとは床を綺麗に拭けばおしまいだな」
先輩がこれからの作業の流れを説明する。最も、彼も既に慣れてきて頭に入っている手順ではある。
「あ、それじゃ水栓捻ってきます」
「おう、頼んだぞ」
彼はそう言い出し、ガーデンの隣にある管理室へと向かっていった。

そもそも、チャオは清潔な環境でしか住めない生物である。
そのため、特に人工の建物内にあるステーションスクエアのチャオガーデンは、細かいところまで管理が行き届いていないとチャオが暮らしていくのは難しい。
最も、チャオ自身がチャオガーデンを汚す、ということはほとんどないため、掃除自体はそこまで大変なものではないが、なにぶん広いチャオガーデンである。5人ぐらいでチームを組んで、手分けして掃除することになっている。

彼が水栓を捻ると、掃除のために水が抜かれていたチャオガーデンの池に水が流れ、貯まりだす。
それを確認してチャオガーデンに戻ると、モップを持って先輩達に混じって床掃除を始めた。

全員で床掃除をしている最中、先輩の1人が彼に声をかけた。
「新入り、悪いんだが…今日、鍵閉めお願いしていいか?ちょっと用事があってな」
「いいですよ。管理室の鍵は1階の事務室でしたよね?」
「あぁ、入ってちょっと右入ったとこにある。それじゃ、よろしく頼む」

要は、掃除を終わらせた後、最後にチャオガーデンに鍵をかけるのをお願いされたのである。
特に難しいことではないし、彼は特に用事がある訳でもなかったので、彼はあまり深く考えずに承諾した。


「それじゃ悪いが、後は頼むよ!」
「あ、はい、お疲れ様です!」
掃除を終わらせた先輩が、道具を片付けて先に帰る。残るは、彼一人。
彼は掃除のやり残しがないかチャオガーデンを回って確認し、自らの掃除道具を片付けた。

そして最後に、もう一度チャオガーデンに入り、何となくガーデンを見回す。
そのまま帰ってしまっても良かったのだが、ふと見回したくなったのだ。理由は、特にない。

…が、結果から言えば、それがまずかった。
ガサ、と何やら物音のような音がし、それに反応して(何だろう?)と彼が振り返った瞬間、全身を衝撃が走り、意識はそこで途絶えた。
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 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:14 -
  
―――何か、見える。

おぼろげで、はっきりとはしないが、何かが見える。

真っ暗な視界の中央に、灯りが見える。

それがゆっくりと、だんだんと近づいてくる。

中央の灯りが、だんだん大きくなってくる。

灯りが大きくなり、だんだんとその灯りの中の様子が見えてくる。

その灯りが映し出しているのは、部屋のようだ。

部屋の中には、人が2人―――いや、3人。


彼は、そのうちの「2人」に、見覚えがあった。

(あれは…父さんと、母さん…?)

自分が1歳の頃に亡くなった、両親。
当然、直接の記憶はないが、写真で見たことがある。いや、写真でしか知らないと言うべきか。

(ということは…真ん中の赤ちゃんは、俺…?)

両親の間、中央に赤ちゃんがいる。彼に兄弟姉妹はいない。状況からして、ほぼ間違いなく「自分」であろう。

その「自分」の奥には、テレビが置いてあった。そちらに視点を移すと、そこに映っていたのは…

(チャオ…?)

チャオ。先日初めて知ったはずの、異世界の水色の生き物が、テレビ画面の中に間違いなく映し出されている。

(一体、どういうことなんだ…!?)

理由を知ろうと、さらに周囲を探ろうとした瞬間、


―――目が覚めた。


「…分かるかしら?」
自らの視界に飛び込んできたのは、女性。この世界に漂流してきた際に、自分を案内してくれた女性だ。
「え…あ…はい」
彼はまだ意識が朦朧とする中で、必死に状況を把握し、答える。

改めて状況を確認する。自分はベッドで寝ているようだ。自分のいる部屋を見回す。独特の雰囲気と臭い。
「…病室、ですか?」
彼の問いに、彼女はこう答えた。
「ええ。…確認するけども、自分の名前は言えるかしら?」
「あ、はい」
彼女からの問いに対して、彼は自分の名前を答える。その他にも、彼女はいくつか基本的な事柄について質問したが、彼は全て問題なく答えた。
「…どうやら、記憶は大丈夫のようね」
「はい。チャオガーデンの掃除のアルバイトを終わらせて、帰ろうとしていたところまでは覚えているんですけど…」
それを聞いて、彼女は「チャオガーデンで、何があったのか」について、こう答えた。

「何者かが、チャオガーデンを荒らしたのよ。ボコボコになったチャオガーデンで、貴方が倒れていたのよ」
「チャオガーデンを…荒らした?」
「ええ。鈍器のようなもので手あたり次第にチャオガーデンを叩き壊そうとしたらしいわ。犯人はまだ見つかってないとのことよ」
恐らく、犯人がチャオガーデンに侵入した際に彼がいたため、殴って気を失わせたのではないか、ということだった。

「そんな、酷い…」
「ええ。こっちの世界でも滅多にないニュースで、関係者は困惑してるわ。ただ…」
「ただ?」
「犯人は『漂流者』なんじゃないかって噂が流れてるのよ。なんでも、現場に白紙の漂流者カードが落ちてたって話よ」
漂流者カードとは、この世界で身分証明となるものがない漂流者たちの身分証明になる、カードのことである。漂流者の身分証明書、といったところか。
これにより、漂流者たちもこの世界で通常の住人と同じように行政サービスを受けることができるのだ。

こんな酷いことをする犯人が、自分と同じ漂流者かもしれない。そう考えると、彼は少し心が痛くなった。一体何が、犯人をそうさせたのだろうか。
それと同時に、ある思いが湧いてきた。

「その犯人…俺も、探したいです。何でわざわざこの世界に漂流してきて、こんなことをするのか…気になるんです」
彼がそう申し出ると、彼女はその言葉を待っていたかのように、こう告げた。
「それなら、話が早いわ。どちらにせよ、あなたは被害者であり、かつ犯行直前まで現場にいた重要参考人よ。検査で問題がないことが確認されて退院できたら、この事件を担当している刑事さんと引き合わせてあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
予想外に早い展開に、彼の思考は少し遅れ気味だったが、とりあえず礼をした。

「それと…1つ、気になることがあるんです」
「何かしら?」
彼はもう1つ、気になっていることを聞いた。意識を失っている間に見た、夢のようなものについてである。
彼はその内容について覚えている限りのことを話した。しかし彼女は、少し考えた後、首を横に振りながらこう言った。
「そうね…申し訳ないけど、似たような話を聞いたことはないわ。でも、その夢が真実だとしたら…貴方の世界にも、何らかの形でチャオは存在しているのかも知れないわね」
「そうですか…」
それを聞いた彼は残念そうにそう答えた。仮に元々いた世界でもチャオが存在していたとしても、今更戻って確かめることもできない以上、この謎が解けることはないだろう、と彼は思った。

彼の中でチャオについての謎は深まるばかりであったが、検査の方は順調に進み、後遺症もなく、数日後に彼は無事に退院することができた。
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Scene:5
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:15 -
  
彼が退院してから数日後。
彼は、女性が紹介してくれた刑事と共に、事件があったチャオガーデンにいた。
ステーションスクエアのチャオガーデンはあの事件以降閉鎖され、現在は修復工事中である。所々で壁が剥がされていたり、足場が組まれていたりと、まさに工事現場となっていて、かつてここでチャオが暮らしていたという面影は薄い。

「ふぅ…っと、いくら工事中といえどここでタバコはご法度か」
刑事がポケットに手を入れたが、すぐにこうつぶやき手を戻す。ここはチャオガーデン。勿論普段は禁煙であるし、工事中である今も喫煙はしないよう工事業者に通達が出ている。

さて、このまさに刑事ドラマに出てきそうな風貌の男が、この事件を担当している刑事である。
本人は「さすがに俺みたいなのは今時逆に珍しいよ」と笑っていたが、そんな話を聞きながら彼は、刑事というのはどの世界も似たようなものになるのだろうか、と思っていた。

ここ数日、刑事に彼はこの事件の重要参考人として、あの時の状況などを詳しく話していた。
最も、背後から突然何かで殴られて気を失ったので、語れることはほとんどない。どうしてチャオガーデンに1人で残っていたのか、という経緯の説明ぐらいである。

「さて、改めて話すが…犯人はお前さんと同じ漂流者の可能性がある。現場に落ちてた漂流者カードが白紙だった、というのが少々気になるが…」
と、刑事はチャオガーデンをぐるりと回るように歩きながら話す。
「そもそも、漂流者カードは印刷された状態で役所から渡されますから、白紙ってのはおかしいですよね」
「だよなぁ?俺は元からこの世界の人間だから、その辺の詳しい事情は分からんが…漂流者はこれがないと色々不便なんだろ?」
「はい、身分証明書みたいなものですから…仮に紛失したら、正直生活できなくなります。ですから…」
そこで彼は話を続け、こう彼自身の推測を話した。

「仮に犯人が漂流者だとしたら、犯人は、この場所に戻ってくるんじゃないかと思うんです」
「…こいつを拾いに、か」
と、刑事は証拠品である白紙の漂流者カードをポケットから取り出しつぶやいた。

そして彼は、さらにこう続けた。
「はい。そこで、1つ提案なんですけど…」


彼が提案した内容を聞いた刑事は、首を振りながらこう否定した。
「…おいおい、さすがにそれは危なすぎて認められねぇよ、現に似たような状況からお前さんは殴られたんだぞ?」
「でも、どうしても確かめたいんです!」
彼はそう言い食い下がる。
「気持ちは分かるが、それをするのは俺達の仕事だ。お前さんの元いた世界も似たようなもんだろ?」
「犯人がもし漂流者だとしたら…同じ漂流者にしか聞き出せないことも、あるはずです」

こうしてしばらく押し問答が続いたが、最終的には刑事が折れた。
「…分かった。その代わり、何かあったらすぐに俺が出るからな。それが条件だ」
「分かりました。それで構いません」
「そうなるとチャオガーデンを空けといてもらわなきゃいけねぇか…その辺は俺がやっておくが、今夜からいけるか?」
「はい、いけます」
刑事の問いかけに、彼ははっきりと答える。
「よし、それじゃ今夜もう一度玄関で集合だ。…当たり前の話だが、犯人が都合よく来るとは限らねぇ。長期戦を覚悟しとけよ」
「はい」
刑事の忠告に対し、彼はシンプルにそう返事をした。
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Scene:6
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:16 -
  
修復工事中のチャオガーデンは、深夜になると真っ暗になる。当然ながら人気も無い。
その中で彼は1人、チャオガーデンの中央付近で、何をするでもなく、ただ立ち続けていた。

『もし仮に犯人が漂流者だとしたら、犯人はチャオガーデンに戻ってくる可能性がある』
仮定と可能性を掛け合わせた、冷静に考えると確率の低い賭け。刑事が反対したのも無理はない。
だが、彼は心のどこかで、犯人は間違いなく漂流者で、間違いなく戻ってくるという、根拠のない確信があった。

(これで5日目か…正直すぐに音を上げると思ってたんだが、根性あるな)
刑事はチャオガーデンの隣にある、普段は清掃用具などがしまってあるロッカーで待機していた。
こちらはさすがに最低限の明かりはつけてあるが、怪しまれないように暗めにしてあり、また物音を出す訳にもいかない。状況としては彼とほぼ似たようなものである。
最も刑事にとっては、張り込みは日常業務。慣れたものである。彼にも予め少しコツなどを教えている。

(とはいえ、さすがにそろそろ潮時かも知れねぇな…)
そう刑事が心の中でつぶやいた、その時だった。

わずかな、ほんのわずかな足音のようなものを、その刑事は聞き分けた。
ほとんど勘に近いものだったが、刑事は足音だと確信した。

刑事はすぐにポケットの中に入れておいた、スイッチのようなものを取り出して押す。
これは簡単な通信機で、スイッチを押すとチャオガーデンで待機している少年の受信機が振動する、というごく単純なものである。

(後は…充分引きつけてから…上手くやれよ、少年!)
刑事は心の中で、そう少年に声をかけた。

(…!)
一方、少年も受信機の振動を感じ、静かに身を構えた。ついに来た。
もちろん、刑事の勘が本当なのかどうか、それが本当だったとして、今現れた人物が犯人なのかどうかは、まだ分からない。それは十分彼も理解している、つもりである。
それでも、この状況では、彼としては「犯人が来た」という可能性に賭ける以外の選択肢は、残されていなかった。

やがて、彼も暗闇の中で「気配」を感じた。間違いない。自分以外の人間が、近付いている。
彼はまだ、まだだと自分に言い聞かせながら、息を殺し、待ち構える。

そして、その気配が目前に迫ったところで、突然眼前が光に包まれた。チャオガーデンの照明が灯ったのだ。刑事が見計らった、まさにベストタイミングである。
彼自身も急に照明が灯ったことにより目が眩むが、そこは想定の範囲内。一気に目の前の人物を取り押さえようとした…が、照明に目が慣れ、目の前の人物に視線が向いたその瞬間、彼の動きが止まった。

「…!?」

彼は驚いた。
チャオガーデンに照明が灯り、眼前に現れた犯人と思しき人物は、自分と年齢があまり変わらない少女だったのである。まさか女性、それも少女だとは思っていなかった彼は、完全に動きが止まってしまった。
しかし、彼女はその身なりに合わぬ、凶器代わりとなる金属バットを持っている。凶行のための道具だろう。そう頭では理解したが、体の理解が追い付かない。
少女の方も突然周囲が明るくなったことにより目が眩んで動きが止まっている。本来の手はずであればそのスキに少年が犯人を捕まえる算段だったのだが、驚きで少年の方も動きが止まってしまったのだ。

そして、ようやく少年の体が状況を理解し、少女を捕まえようとした時には、少女の方も照明の明るさに目が慣れ、また状況を理解したことにより、逃げようと後ろを向いて走り出そうとしていた。

(まずい!)
このままだと捕まえられない。逃げられてしまう。何とかしなければ―――
…その瞬間、彼の視界にふと見えたのは、偶然ヤシの木から落ちて転がっていた、チャオが食べるためのヤシノミだった。


(これだ!)
彼はヤシノミが視界に入った瞬間、逃げようとする少女ではなくヤシノミの方に向かい走り出す。
そして、ヤシノミの左側に軸足となる左足を踏み込み、右足の甲で力強くヤシノミをインパクト。…つまり、思いっきり少女に向かって蹴ったのだ。

彼は今まで元いた世界で、ずっとサッカーをしてきた人間である。
プロ入りするほどの実力はないにしても、『物を狙った場所に向かって蹴る』という行為に対しては、少なくとも素人よりは遥かに上手くやれる自信があった。
とはいえ、当然のことながら、ヤシノミはサッカーボールのように綺麗な球状ではないので、真っ直ぐ飛ぶとは限らない。上手くいくかどうかは一か八かの賭けである。

また、ヤシノミの中はサッカーボールとは違い、空気ではなく実が詰まっているので右足が痺れるように痛くなったが、彼は痛みに耐えながらヤシノミの軌道を見守る。
果たして、見事にヤシノミは逃げる少女の背中に直撃。衝撃と痛みで、彼女はその場にうずくまるように倒れ込んだ。

…が、少年も右足の痛みが取れず、動けない。
このままではさすがに逃げられる、と思ったが、完璧なタイミングでチャオガーデンの出入口から刑事が現れ、うずくまる少女を難なく取り押さえた。

「っ…!」
痛みと捕まった悔しさで、少女は声にならない声をあげる。そんな少女に対して、刑事がこう尋ねた。
「…さて、聞かせてもらおうか。何を思ってこんなことをしたのか、ね」
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Scene:7
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:16 -
  
「…さて、聞かせてもらおうか。何を思ってこんなことをしたのか、ね」
刑事のその問いかけに対して、少女はこう切り出した。
「…私は、チャオが憎い。憎くて憎くてしょうがない…!」

「だから、こんなことを…?」
少年が不思議そうに、そう返した。そもそも、「チャオが憎い」という言葉を、概念では理解したが、現実味のある言葉としてあまり理解ができなかった。
元いた世界でも、ペットが嫌い、という人は確かに存在したが、だとしても憎むほどのものだったろうか。

そんな少年の疑問をよそに、彼女はこうまくし立てる。
「あたしの家族はチャオに壊された!母親はチャオ育てに夢中になって育児放棄、挙句の果てにはチャオを通じて知り合った男と浮気して蒸発、その上裁判沙汰の末に父親は借金背負ってその日暮らしの果てに親子心中…こんな環境で、チャオを憎まずにいろっていうの!?チャオさえいなかったら、あたしと家族は普通の家族で居られたのに!!」

「………」
彼女の勢いに、思わず黙ってしまう少年。さらに彼女はこう続ける。
「あなたもわざわざこの世界に漂流してきたのなら知ってるでしょう?チャオはただのゲームキャラクターでしかないってことを!たかがゲームの1キャラクターに、あたしの家族は滅茶苦茶にされたのよ!?」

「ゲームの…キャラクター…?」
少年が首を傾げる。
「まさか…そんなことも知らないのにこの世界に漂流してきたの!?」
その反応に対して、少女は逆に驚く表情を見せた。

そしてさらにこう続ける。
「あなた、この世界に漂流する前に神様に言われなかったの?『漂流者が向かう世界は、その人間のパーソナリティや生い立ちをある程度反映した世界になる』って。『チャオの世界』であるこの世界に、チャオを知らないで漂流してくるなんて、有り得ないわ!」

そういえば漂流する時に神様のような少女にそんなことを言われた気がする、と彼は何となく思い出した。しかし、チャオについては何も思い出せない、というかそもそも記憶にないままである。
今までこの世界で生きていくことに必死ですっかり忘れていたが、確かに一部の漂流者はこの世界を『チャオの世界』と呼んでいるらしい、というのは最初に出会った漂流者の支援をしている女性から聞いている。だとすれば、元々いた世界でも自分とチャオに何らかの関わりがあったのかも知れない。…しかし、チャオなんて生き物は、元の世界にはいなかったはずである。

「まぁいいわ。本当に知らないのか、知らないフリをしてるのか、忘れてしまったのか知らないけれど…それなら教えてあげるわ。ここはゲームの世界。元いた世界で20年ぐらい前に出た、古いゲームのね。チャオはそのゲームにいた、ただのキャラクターよ!そのゲームキャラ1匹で、あたしの人生は滅茶苦茶になった…!」

「20年ぐらい前のゲームの世界…」
そこで、彼はある光景がフラッシュバックした。
最初に彼女に殴られて気を失った際に見た、夢のようなビジョン。
両親らしき人物と、その中央にいる幼い自分、そしてモニター越しのチャオ。

『ひょっとして』、という推測ではあったが、この瞬間、彼の中で点と点が繋がった。

(あぁ、そうか)
(両親は、チャオが出てくるゲームをやっていたのか)
(幼い頃の自分と一緒に…)

果たして両親がどうしてそのゲームで遊んでいたのか、そしてそもそもチャオが出てくるゲームとはどういうゲームなのか、彼は知らない。知らなかったが、自分とチャオとの関わり、何より自分がこの世界に来た理由が分かった。胸のつかえが取れたような気がした。


そこで、今まで彼女を取り押さえたまま黙っていた刑事が口を開いた。
「…おいおい、どういう理由かと思って黙って聞いてりゃ…俺には細けぇ事情は分からねぇが、自分で不幸の上塗りをしてどうすんだって話だ」
「今更不幸なことを恨むつもりはないわ。でも、ここがチャオの世界だと知った時から、どうしてもこの憎しみはぶつけたかった…!」
それに対する彼女の独白に、少年は思わずこう反論した。
「確かにあなたはチャオによって人生を壊されたかもしれない。でもきっと、チャオによって救われた人、幸せになった人だっているはずだ!そんな人たちの幸せまで壊すのは、間違ってる!」
「そんなことは百も承知よ!だけど…それでも…私は…っ!!」
彼女はそう叫ぶが、そこから先の言葉が紡げずに、押し黙ってしまった。

「…ま、塀の中で頭を冷やすんだな。そして外に出たら、どんな形でもいい、幸せになる努力をしろ。それがお前さんの本来やるべき復讐だ。…いいな?」
「………」
刑事の問いかけに対し、少女は何も言わず黙ったままだった。刑事は彼女の答えを聞くまでもなく、彼女に立ち上がるように促し、ポケットから手錠を出して彼女の両腕にはめ、連れ出すようにチャオガーデンから出ていく。彼女は抵抗する様子もなく、刑事の横を歩いていった。

少年は、その様子をただ見守っていた。
(ゲームのキャラクター1つで、人生を壊された、か…)
何となく、少女の言葉を反芻していた。
彼は今まで元々いた世界でサッカーをしてきた人間だから、サッカーに人生を狂わされた、あるいは壊されてしまった人間があの世界にはたくさんいる、という事をよく知っている。だけど、ゲームキャラクターに人生を狂わせた人間がいるとは、まさか夢にも思っていなかった。
でも冷静に考えれば、逆の立場、つまりゲームが好きでサッカーに興味がない人間にしてみたら、サッカーで人生が壊される人間がいるなんて夢にも思わないだろうし、そもそも両親がチャオのいるゲームを遊んでいた自分も、チャオに人生を変えられた人間、なのかもしれない。

…そんなことを考えているうちに、だんだんと意識が遠のき、気が付いた時には、既に目の前が真っ暗になっていた。
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Scene:8
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:17 -
  
「もしもしー?もしもーし?」
女性の声が聞こえる。どこかで聞き覚えのある声。
どこで聞いた声だっただろうか…

彼がその声の主を思い出した瞬間、目が覚めた。

彼の目の前に立っていたのは、その『声の主』である少女。…即ち、自らがチャオの世界に転生する際に案内をしてくれた、あの神様のような少女である。
「あ、あれ?オレは確か、チャオガーデンで…」
そう言い辺りを見回すが、周囲は真っ暗。暗闇の中で、椅子に座った彼女の周囲だけスポットライトに照らされたように明かりが灯され、はっきりと姿が見える。

「はい、お疲れ様でしたー。どうでしたか?自分の生い立ちを探る異世界生活は」
少年の戸惑いを気にすることなく、そう彼女は話しかけた。

「え…?どうもこうも、オレは異世界転生して、チャオの世界で生きていくんじゃないんですか?」
「あーいや、たまーに勘違いする人いますけど、異世界で『答え』を見つけたら戻ってこれますからね?もちろん、その『答え』を見つけられずに異世界で寿命迎えちゃう人とか、俺TUEEEEのハーレム生活から戻りたくない!って駄々っ子のように全力抵抗する人とかいますけど」

彼女の話をそこまで聞いて、何やら、自分はとんでもない思い違いをしていたのかも知れない、と少年は思い始めた。
いや、そもそもこの異世界転生が生い立ちの『答え』を見つけるためのものだとは一言も聞いていない。それが彼女の単純な伝達ミスなのか、敢えてミスリードを狙って伝えていなかったのかは分からないが、その辺りをちゃんと最初に聞いてみるべきだったな、と少年は今にして思った。

そこで、彼は思い切ってこの質問をぶつけた。
「…そもそもですけど、オレ、元の世界でトラックに轢かれて死んだんじゃないんですか?」
「いや、死んでませんよ?そもそもあたし、『貴方は死にました』的なこと、言ってないですよね?」
その疑問に対する彼女の答えは、スッパリ単純明快だった。拍子抜けする少年。

「え、でも、あの時、オレの状況を『グロ注意』って…」
「確かにそんな感じの状況だったけど、だからって死ぬとは限らないじゃない?人間って意外としぶといしねー」
そうだ。この言葉で自分は勘違いしてしまったのだ、と少年は思い返す。少年は彼女のこの表現について、わざとミスリードを狙ったものではないかと疑ったが、この疑問には恐らく答えてはくれないだろう、と胸にしまうことにした。

そんな疑いを他所に、彼女はこう続けた。
「さて、改めて!貴方はトラックに轢かれながらも奇跡的に一命を取り留め、病院で1ヵ月ほど昏睡状態になっていたけど意識を回復する、というところから元の人生を再開します!準備はいいですかー?」
「え、あ、はい…」
急展開に頭がついていけず、とりあえず返事をしただけの少年。

「元の世界での生活で、異世界体験を活かすも殺すも貴方次第!それでは、良き人生を!」
そう彼女は締めて、何もない空間から現れた端末状のホログラムを操作しようとする。
「あ、あの…」
そこで、少年が話しかけた。
「何でしょう?」
「これからの人生、オレの異世界生活は無駄にならないと思います。ありがとう、ございました!」
そう告げて、深々と頭を下げる。
「いえいえ、どういたしまして!それでは、グッドラック!」
彼女はニコリと笑い、端末状のホログラムのエンターキーにあたる部分を押す。次の瞬間、彼の意識は再び暗闇へと消えていった。

「…そういえば、『彼女』は戻ってこれるんでしょうかねー。ま、戻ることが幸せかどうかは人それぞれですけどねー」
そして、そう独り言をつぶやいた後、彼女もまたその場から消えた。いつぞやと同じように、明かりに灯された椅子だけが暗闇の中に残っていたが、それもしばらくして消えて、再びその場は暗闇に戻った。
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Scene:9
 ホップスター  - 18/12/23(日) 0:18 -
  
「…ん…ここ…は…」
少年が目を覚ました。すぐに目が覚めたようにも、長い時間寝ていたようにも思える。不思議な感覚。
最初はぼんやりとしていた視界だが、やがてはっきりとしてくるにつれ、白い天井と明るい照明が目に入ってきた。

『知らない天井だ』
こういう時は、そう言うのがお約束らしい。以前、そんなことをクラスメートから冗談半分で聞いたことを思い出していた。まさか自分がそんな状況に陥るとは、と思ったが、ちょっと前にも似たようなことがあった気がしてきた。しかし、最近入院なんてしたことなかったはず―――しばしの混乱の後、彼は、自分で自分の記憶がかなり混乱していることを自覚した。

やがて、静かな時間が経つにつれ、状況が飲み込めて、かつ記憶も整理されてきた。
ここは病室。トラックに轢かれて1ヵ月ほど生死の境を彷徨い、その間に意識はチャオという生き物がいる昔のゲームの世界に飛んでいき、紆余曲折あった末にチャオガーデンでチャオを憎む少女を取り押さえたところで元の世界に戻ってきた―――と、こんなところだろうか。
最初はこの病室は個室だろうと思っていたが、広い上にカーテンで仕切られていただけで個室ではなかった。カーテンで遮られているので様子は分からないが、隣のベッドにもどうやら入院している人がいるようだ。

(こういう時は、誰かが横にいるのが相場だろうけど…ま、オレには誰もいないか)
ふと、そう思った。何せ両親は既にこの世にいないし、残念ながら彼女も幼馴染の美少女もいない。さすがに叔父夫婦や友人はお見舞いに来ていたようで、花や千羽鶴、それにメッセージの入った色紙なんかが飾られていた。
こういう時は、ナースコールでも押して人を呼んだ方がいいのだろうかとも思ったが、いざ手を動かしてみようとするが手が動かない。何とか首は動くので周囲を見回すこと程度はできるが、首から下はほとんど自分の意思では動かせなかった。
一瞬パニックになりかけたが、冷静に考えれば、トラックに轢かれる事故に遭ったのだから、何らかの後遺症があってもおかしくないのだ。その辺の詳細については、後で医者に聞いてみるしかないな、と思い、手を動かそうとするのを諦めた。

その時、病室の扉が開く音がした。
誰か来た、と少年は身構える―――といっても体は動かないので心の中でだが―――が、確かに人は2人入ってきたが、いずれも隣のカーテンに遮られているベッドの方へと向かい、自分の所には来なかった。

やがて、どうやら看護師の女性らしいその2人は、少し会話をしながら、隣のベッドにいる患者に対して何か処置を始めたようだが、カーテンで遮られている上に医療に関してはド素人である彼には、会話の内容すら意味不明で、何をしているのか全く見当がつかない。

そんな意味不明な会話を聞いていると、何だか眠くなってきたが、1人の看護師が話題を変えた途端、彼は思わず声が出そうになった。

「…でも可哀そうですよね、親子心中で娘だけ昏睡状態になってもう目覚めないかも知れないって」
「ここだけの話、母親は離婚してて行方知れずらしいわよ。父親が1人で頑張って育ててたけど、ついに借金苦で耐え切れなくなって…って話だとか」
「隣のトラックに轢かれた子も可哀そうだけど、それ以上ですね…」
「でもこの前、うわ言のように『チャオが憎い』ってつぶやいたのを聞いたわ。チャオ?ってのが意味不明だけど、夢のようなものは見ているんじゃないのかしら」
「そうなんですね…人間って不思議…」

少年は「まさか」と思った。どこかで見聞きした話と完全に一致する気がしたが、気のせいだと思うことにした。


そして、数ヶ月後―――


彼は苦しいリハビリの末、何とか上半身は動くようになり、まだ車椅子が必要ではあるが、退院できることになった。
退院時には叔父夫婦やクラスメート、サッカー部時代の仲間が出迎えてくれ、それなりに賑やかな雰囲気になった。

また、事故前は未定だった進路についても吉報があった。
「強豪高校サッカー部のレギュラーだった少年が事故で生死の境を彷徨う」というのはちょっとしたニュースになっており、そのニュースを聞いたとある大企業が「卒業・退院したら是非ウチでどうだ」という話を持ち掛けたのだ。
しかもその企業はアマチュアサッカー界で強豪として知られるサッカー部を持っており、もしサッカーができまで回復したら是非プレーしないか、というもの。
彼は二つ返事でその話を受けることにした。これで叔父夫婦に心配や迷惑をかけずに済む。なんだかんだで、自分は人に恵まれているんだな、とも思った。

…そしてふと、『彼女』のことが思い浮かんだ。
人に恵まれないと、人間はあぁなってしまうのか。そう考えると、少し可哀そうで、少し怖い気がした。
そして、せめて自分だけは、彼女のことを忘れないでいようと思った。それで彼女の気が晴れるのかどうか、そもそもゲームの世界に漂流した人間の気が晴れることがあるのかどうかは分からないが、報われない人生を送ってきたと思われる彼女の為にもそうすべきだと感じた。


春からは、叔父夫婦の家から独立し、一人暮らしを始める。
引っ越しのための荷物をまとめる最中、ふとあることを思い出し、叔父に話しかけた。

「父さんと母さんがやってたゲーム?…確かによく2人でゲームしてたけど、お前、どこでその話聞いたんだ?」
叔父は不思議そうにそう答えた。少年の両親がゲームをやっていたという話は、していないはずだったからだ。
「いやぁ、小さい頃に押し入れ探してたら奥にゲーム機があって、そうなのかなーって思ったことを思い出して…まだある?」
少年はそう誤魔化したが、これは全くの出任せである。だがこれが見事に当たったようで、叔父はこう答えた。
「いや、大事そうな遺品は奥にしまったままで処分とかしてないから、あるんじゃないのか?でも20年近く前のゲーム機なんて、動くかどうか分からんぞ?」
「分かった、探してみる。あったらラッキー、動いたらさらにラッキーぐらいの感覚だから大丈夫」

…そして、ほこりと古い荷物の山と格闘することおよそ30分。

「…あった!」
彼が積み重なった段ボール箱の奥から取り出したのは、白くて正方形のゲーム機と、青い針鼠がパッケージに描かれたゲームソフト。
「動くのかこれ?」
「ケーブルあるしちょっと繋いでみる」
そう言い、ゲーム機をテレビに繋ぐ少年。なんだかんだで叔父も興味があるようでその様子を見ている。
電源ケーブルをコンセントに繋ぎ、ディスクをゲーム機に入れて、いよいよスイッチを入れる。

「さて、動くかな…」
なんでもない一瞬だが、緊張の一瞬。少年の指が、左前方のPOWERボタンにかかる。

次の瞬間、テレビ画面が白くなり、独特の効果音と共にオレンジ色の渦巻きが表示される。
20年近く止まっていた時間が、動き出した。


                            おしまい。
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