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ステンドグラス だーく 17/7/11(火) 21:19

十三話 お疲れチャンプー だーく 18/1/22(月) 21:53

十三話 お疲れチャンプー
 だーく  - 18/1/22(月) 21:53 -
  
 大会を終え、地衝道メンバーは特に打ち上げに行くこともなく、それぞれ家に帰ることになった。みんな行きと同じ車に乗る。俺の車にも俺以外に四名
のメンバーが乗った。それで満席なので、トロフィーと賞状をどこに置こうかと迷ったが、助手席に座ったモブが抱えてくれるというので、言葉に甘えてトロフィーと賞状を渡した。
「まさか生きている内にこんなものを持つことができるなんて思いませんでしたよ」
 モブはもう十四回も転生しているおじいさんだ。地衝道の中では一番歳を取っている。もうそろそろ転生力もなくなってきて、先が長いとは言えないだろう。老後の楽しみの一つに、ということで地衝道に入門したので、確かにトロフィーを持つなんて思っていなかっただろう。
「モブさんだって、年齢別部門だったら行けるかもしれませんよ」
「いやいや、私にトロフィーは重すぎますよ」
「はは、でも今持ってるじゃないですか」
「あらら、一本取られましたね」
 帰り道は今日の俺の試合の話がなんとなくあがって、そのままずっと俺の試合の話だった。やっぱり、裏鬼は初めて見る者にとってはかなり衝撃的な技なのだ。
 カオスドライバーの話を思い出す。使用者が持っている可能性以上の力は手に入らない。俺は可能性について考えたことなんてなかった。強くなるためにすることをすればするほど強くなるものだと思っていた。いや、もしかしたらカオスドライブの未使用者はそうなのかもしれない。自分の潜在能力を全部開放できないのが当たり前で、カオスドライバーが異常。そう考えた方が自然だ。
 それでも尚、俺の裏鬼一発の方が衝撃が強い。そう考えると、メンメの気持ちがわからないでもない。俺とメンメは何のために稽古をするのか。でも何のため、なんて考えるのは性に合わない。俺は稽古がしたいだけだ。だから、きっとメンメは俺が知らない孤独を抱えている。
 モブ達を送った後、俺は賞状とトロフィーを置きに道場へと来ていた。地衝道に置かれる初めての優勝の証なので、目立つところに飾っていいような気もするだけど、どちらかというとこれは地衝道が勝ち取ったものではなく、俺が個人で勝ち取ったものだ。やっぱり飾るのはやめにして、とりあえず個室に置いておく。
 個室を出て、道場を見渡す。次の大会に出るのかどうか、まだ俺は決めかねていた。何がこの道場のためになるのかわからなかった。どちらを選んでも、誰かが満足して、誰かが不満を抱くようにしか思えなかった。俺は指導者としてはまだまだ未熟なのだ。でも、それだけわかっても何も変わらない。
「参った」
 溜め息と一緒に小さく声が出る。戦いでは参ったことなんてないんだけどなあ、と思う。でも、戦いとは違って相手を打ち負かすことでも傷つけることでも何も解決しない。とにかく結果が大事だ。
 俺は道場を出て、ミヨ婆の細工屋へと向かった。時刻は十七時、店自体はもう閉まる時間だ。町は静かだが、それは夕方だからという訳ではなくて、田舎だから静かなのだ。平日も、休日の昼も大体静かだ。俺が道場帰りだろうが、大会帰りだろうが、優勝していようがいまいが、町にとっては関係ない。俺はそんなに確固たるものの中にいるのだろうか。全然しっくりこない。
 細工屋は意外にもまだ営業中だった。営業中、とだけ書かれた札がドアについたフックに掛けられている。ちなみに、裏面には閉店と書かれている。いつも思うが、風でひっくり返ることはないのだろうか。まあ、どちらにしても、俺はドアを開ける。細工屋に入ると、ミヨ婆はいつもの黄色いソファに座っていた。向かいには、マミとニカが立っていた。
 機械は止まっていて静かだったので、細工屋のドアが開いた音を聞いてニカがちらとこちらの方を向いた。一瞬、ミヨ婆の方へ向き直そうとしたが、もう一度こっちを見て「あれ?」と言った。その声を聞いてマミもこちらを見た。
「チャンプーだ」
「モンスターみたいな呼び方だな。しかも絶対弱いだろ」
「お疲れチャンプー」とニカ。
「アイドルの曲か?」
「なんだい、チャンプーって」とミヨ婆。
「今日大会で優勝したんだよ」
 改めて自分で言うと気取ってるみたいで恥ずかしい。
「なんだ、お前も出たのか。お前が優勝するのは当たり前だろう」
 恥ずかしく思ったのが恥ずかしいくらい平然と言われる。
「ミヨさんはマックルさんのこと詳しいんですか?」とニカ。
「まあね。というより、こいつと同世代以上のやつはみんなこいつのこと知ってるよ」
「へえー、すごいですね。でも、ウチの道場のおじさん達はマックルさんの試合見たことないらしいですよ」
「その方がレアケースだよ。負けるどころか追い詰められたことすらない格闘家なんてこいつしかいない。道場のオヤジがこいつのことを知らないのは、こいつがそういうやつしか入門させてないからだよ」
「ミヨ婆、ストップだ」
「なんだ、教え子達には言ってないのか? まあそうか、何と言っていいかもわからんか」
 ニカとマミは「ふーん」と言った顔をしていた。多分、そこから先は本当に興味がないのだと思う。
 ニカとマミの手には小さな茶色の紙袋がぶら下がっていた。何か買ったのだろう。大会帰りだと言うのに、二人でショッピングか。切り替えが早いというか、別世界に生きているというか、不思議な感じがする。
「ミヨさん、また買いに来ますね」とマミ。
「ありがとね」
 ニカとマミが細工屋を出て行く。珍しく、ミヨ婆も二人のあとをついて行き、外まで見送った。二人がある程度遠ざかると、すっとドアに掛かった札をひっくり返し、また細工屋へと戻った。俺もついて行く。
 ミヨ婆はまた黄色いソファへ座った。
「ドアノブでも作って欲しいのかい?」
「いや、まだ帰ってない。壊すとしたらこれから」
「ちゃんと覚えておくんだよ」
「一応覚えておく」
 ふと、この細工屋が赤字なんじゃないかということを思い出した。
「そういや、ここって儲かってるのか?」
「儲け話でもあるのかい? まあ、正直儲かってるから必要ないけどね」
「儲かってるのか、こんな町で」
「そりゃあこの町だけの商売だったら大赤字だろうさ。ちゃんと販売店と契約してるから大丈夫だよ」
「へえー、意外とツテがあるんだな」
「最低限やっとかないと、続けることも難しいからね。あたしはある程度の量産品もできるし、オーダーメイドも聞くからまあ困らないよ」
「量産って感じしないけどなあ」
「色々な町に売り出してる訳じゃないからね。そんな莫大な数じゃないよ。この町でも販売してるし、あれもこれもはできないね。そこは販売店の販売力を見るさ。もしも爆発的に売れちまったら、そのときは量産が得意なところにやらせて、安く仕入れて横流しにすればいい」
「そんなことできるんだな」
「今は必要ないがね。今後どうなるかわからんが、でももうあたしには関係ないね」
「さすがババア」
「黙れ小僧」
 近くにあったパイプイスを引き寄せて、座った。なんだか疲れた。
「それで、どうして急に大会なんて出たんだい?」
「ああ、たまたまかな。色々重なった」
「久しぶりの大会はどうだった?」
「久しぶりに出たから楽しかった、って感じだな。でも、半分後悔してる」
「ほう、なんで」
「地衝道で出ちまったからな。このあとどうすればいいのかわからん」
「お前は困ったやつだな」
 ミヨ婆はそう言うと小型の液晶テレビの電源をつけた。俺が現役だった頃から続いている時代劇が丁度始まる頃だった。十八時だった。
 いつものようにやたら偉いじいさんと、その側近の二人と、よくわからんお調子者が細い道を歩いている。時代劇らしく、画面内には木々だとか田んぼだとかが多くて、木造の家がいっぱい出てくる。その後はいつものように町に出て、怪しいやつを見つけて、裏を探っているうちに悪党達に囲まれ、側近の二人が悪党達を倒していく。痺れを切らしたように側近の一人が「静まれい、静まれーい!」と言って、悪党達と対峙する。そして、いつもの決め台詞でこの時代劇をこの時代劇として完成させる。
『このもりもりの紋所が目に入らぬかあ!』
引用なし
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