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【企画】ろっどの物語を書こう! ろっど 17/3/26(日) 3:20

第一話 DAYS スマッシュ 17/4/7(金) 23:25

第一話 DAYS
 スマッシュ  - 17/4/7(金) 23:25 -
  
 四人で正方形を描くように立つ。
 それぞれの足下には三十センチの水色のぬいぐるみが座っている。
 ぬいぐるみに見えるそれは、生き物だ。
 チャオという。
「それじゃあ始めるぞ」
 太った、背も僕たちの中では一番高い、スケヤ君がそう呼びかける。
 するとチャオの頭頂部にある球体が紫色に変わり、カウントダウンの数字が表示される。
 僕たちは意識を集中し、チャオとシンクロする。
 そして、ゼロ。
 チャオは一斉に飛び上がる。
 僕の目の前のチャオ以外。
 飛ばなかったチャオは、こてんと横に倒れ、飛んだ他のチャオをぼうっと見た。
 僕も顔を上げて、戦っているチャオを見る。
 スケヤ君のチャオが一番速く飛ぶ。
 ぐんぐんと上昇し、上からペイント弾を撃つ。
 その弾は綺麗に他のチャオに当たる。
 僕が操ろうとした、横になっているチャオにもペイント弾が当たった。

 チャオというのは、ペットであり、携帯用マルチデバイスでもある。
 ぬいぐるみのように丸みがあり、触れればゼリーのように弾力がある、可愛い二足歩行の生き物。
 それが元々のチャオだ。
 その可愛さから人気があったが、美しい自然の中か、それを再現したような、よく整えられた環境でしか生きられない虚弱な生物であった。
 そんなチャオたちをサイボーグ化し、体内に空気や水の清浄機を入れることで、ペットとして飼えるようになった。
 そのついでに、様々な機能が入れられている。
 その一つに、チャオと意識を融合して撃ち合いをする、チャオバトルという遊び方があった。
 でも僕はまだチャオを飼っていなかった。
 友達のチャオを借りた結果がこれだった。
 心が通じ合っていないチャオはうまく操縦できないのだ。
 飼い主である友達自身も、チャオを完璧に操作できているわけではないようだ。

 僕がチャオを飼えない理由は、父さんと兄にあった。
 僕の兄、テスクは、チャオバトルがうまかった。
 その才能をGUNに見いだされ、兄は「アーティカ」の操縦者になった。
 アーティカとは、GUNが宇宙からの脅威に備えて作り出したロボットだ。
 チャオと同じように、意識を融合させて操作するので、チャオの扱いのうまい者はアーティカの操縦者としても優秀なのだ。
 兄と、兄のチャオのロヴは、華麗に空を飛んだものだった。
 ロヴはヒコウチャオで、まるで指で曲線を描くように空中を飛び回ることができた。
 ペイント弾も全く当たらない。
 兄がGUNに連れていかれる直前、兄は僕に言った。
「タスク、お前がいつか俺のように飛べるようになったら、その時は一緒に飛ぼう」
 その約束を実現するために、僕はチャオが欲しかった。
 しかし父は、兄をGUNに奪われたことが気に入らなくて、僕にチャオを飼わせてくれない。
 家を継ぐ者をGUNなんかに盗まれてたまるか。
 そう日々怒っている。
 兄の代わりに僕に家を継がせる気で、僕はチャオを飼うことができない。
「タスク、お前はチャオなんか飼うんじゃない。あれはゴミの遊ぶくだらないガラクタ生物だ」
 最悪な毎日だ。
 僕はチャオを飼えないまま、十一歳になっていた。

 僕は毎日チャオショップに行く。
 父に見つからないようにチャオを飼う方法はないだろうかと考え、日々を過ごしている。
 それは、チャオバトルをしている周りのみんなから逃げる意味もあった。
 チャオバトルに夢中になっているスケヤ君たちがここに来ることは滅多にない。
 そして僕は、珍しい銀色のチャオと見つめ合っては、銀チャオを乗りこなす世紀の天才になった自分を妄想する。
 店員のお兄さんは、毎日そうされると銀チャオがなついちゃうからやめてくれ、と半分本気の冗談を僕に言う。
 本当に銀チャオが僕になついて、僕のものになったらいいのに。
 そう思った。

「銀チャオ、売れたよ」
 十一歳の夏休みの始まりの日、すっかり顔見知りになった店員のお兄さんは僕に言った。
 銀チャオは、珍しいチャオを収集しているという、都会のチャオ愛好家に買われてしまった。
 しかし店員のお兄さんは、こんなことも言った。
「わけありのチャオがいるんだけど、飼ってみないか?」
「どんなチャオなんですか」
 チャオバトルができないチャオならいらない。
 できるチャオなら、欲しい。
 どうやって父を誤魔化すか、考えなくてはいけないけれど、まずチャオを手に入れないことには僕はスタートラインに立てない。
「そのチャオには、心がないんだ」
 お兄さんは暗い顔をして言った。
 喜ぶことも悲しむこともない。
 きっと転生をすることもない。
 そんなチャオは売り物にならず、本来なら処分するしかないらしい。
「チャオバトルはできるんですか」
 僕にとって重要なのはそこだった。
「たぶんできるよ」
 とお兄さんは言った。
 僕はそのチャオを飼うことにした。
 名前はクリア。

 心がないチャオは、僕にとって都合がよかった、とても。
 まず声を出すことがなく、勝手にうろつくこともしないので、父に見つからないように飼うことができた。
 さらにチャオバトルでは操縦が簡単だった。
 操縦がうまくできない大きな原因は、人間とチャオの考えが一致しないことによる。
 常に一心同体とはいかない。
 どちらかが譲って、相方に身を任せなければならない。
 どちらも譲らずに我を通そうとすると、まず動きがぐちゃぐちゃになり、すぐに動きが止まり、的になる。
 しかし心のないチャオであれば、チャオが主張することはない。
 僕は僕の思い通りにクリアを動かすことができた。
 クリアには自分の意思というものがないので、日常の世話をする時にも操縦しなければならないことがあった。
 一日中チャオを操縦しているような日々を送ることになる。
 これが、チャオバトルに役立った。
 僕がスケヤ君以外にチャオバトルで負けることはなかった。
 そしてずるをしているとして、チャオバトルには参加させてもらえなくなった。

 アーティカが空を飛んでいる。
 丸っぽい形を集めたのがチャオのシルエットなら、アーティカのシルエットは長方形を集めたものだ。
 地球はずっと危機に晒されている。
 月の近くに異星人の宇宙船があり、そこから敵の兵器が地球に送られてくる。
 チャオのキャプチャする小動物に似た形の、巨大な機械の兵器が暴れる。
 それを撃退するのが、アーティカだ。
 兄の乗っているアーティカは「スターダム」という名前で、ロヴと同様、飛ぶことに重きを向いたアーティカだそうだ。
 飛んでいるアーティカを見ると、あれは兄のスターダムなんじゃないかと思う。

 僕とスケヤ君は、同級生に敵がいなくなったので、二人で上級生と戦うようになった。
 二対二のタッグマッチ。
 僕たちは負けなかった。
 飛ぶのがうまいスケヤ君と、低空すれすれを飛び続けることのできる僕が上下で挟み撃ちをする。
 その作戦で、中学生にさえ勝つことだってできた。
 僕たちは放課後、中学校に行くのにも退屈になってきて、そろそろ高校生と戦おうかと話していた。
 僕たちが負けたのは、そんな時だった。
 勝負を挑まれた。
 僕たちがチャオバトルをしに行っている中学校とは違う学校の制服を着た男女だった。
 その二人は、僕たちと戦うために、僕たちの通う小学校にやって来た。
 いつも通りの二対二、と思ったが、そうならなかった。
 相手の女の方が、一人で戦うと言い出した。
「だって私だけで充分じゃん」
 あくまで二人で戦おうとする男に、女はそう言った。
 すると男はすぐに引き下がって、
「いいけど、わかってるよな?」
 と念を押す。
 わかってるわかってる、と女は不敵な笑みを浮かべる。
 僕とスケヤ君は、絶対に勝ってやる、と思った。
 勝って、改めて二対二をさせてやる。
 僕たち三人は、二等辺三角形を描くように立った。
 女のヒコウチャオは、スケヤ君のチャオに負けない速度で上昇する。
 そのせいで挟み撃ちの鉄板作戦が使えなかった。
 スケヤ君は早く勝負を決するためにペイント弾を撃つ。
 しかし女は機敏に動いてそれを避ける。
 女のチャオの動きは、急停止と加速力が特徴的だった。
 空中で急に止まり、そして並外れた加速力によって別の方向へ飛ぶことで、ジグザグとした動きを可能にしている。
 女のチャオと、それを追うスケヤ君のチャオは徐々に高度を下げる。
 どちらもペイント弾を撃たない。
 確実に当てられる状況を作ろうとしている。
 そして、自分がそんな状況に追い込まれまいとしている。
 二匹は試合を動かすために、僕の方へ向かってくる。
 女が狙うのは、僕とスケヤ君のフレンドリーファイアだろう。
 そして僕たちにとっては、念願の挟撃のチャンスである。
 女のチャオはクリアを狙ってペイント弾を撃った。
 標的がこっちに変わった。
 そう思った。
 しかしそれが女の罠だった。
 女は僕との距離を詰めるような動きをして、僕を先に倒そうとしているように見せかけて、後ろから攻撃をしかけようとしたスケヤ君に狙いを切り替えて、ペイント弾を当ててしまった。
 これで一対一だ。
 チャンスは、女が僕に近づいてきていたこと、そしてスケヤ君の方を見ていたということだ。
 距離を詰めながらペイント弾を撃ち、今のうちに倒す。
 そう思ったが、女は上に移動して、ペイント弾を避けた。
 このままではまずい。
 僕は急停止する。
 案の定、僕の前にペイント弾が落ちる。
 後ろに行こう、と思った瞬間、後ろにペイント弾が落ちてくる。
 それに驚いて、前にも後ろにも動けなくなった。
 そこを女のチャオはペイント弾で撃つ。
 だけど僕はいちかばちかで、ペイント弾を女のチャオに向けて撃っていた。
 引き分けになれば。
 そう思って撃ったペイント弾は、女のチャオの撃ったペイント弾にぶつかった。
 相殺。
 試合はまだ続く。
 そうわかって動こうとしたが、クリアにペイント弾が当たった。
 女のチャオは、二発、撃っていた。
「二対一でよかったじゃん」
 女は得意げに、男に言った。
 男の方はなにもコメントせず、帰るぞ、とだけ言った。
 僕とスケヤ君が、アーティカの操縦者候補としてGUNに徴集されたのは、その二日後のことだった。
引用なし
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