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チャオ・ウォーカー -The princess of chao- スマッシュ 12/12/9(日) 3:14

07 人間だ スマッシュ 12/12/22(土) 0:01

07 人間だ
 スマッシュ  - 12/12/22(土) 0:01 -
  
 悩んだ末に、末森雅人はレジスタンスと合流することに決めた。彼らがGUNの兵器を持っている以上、何らかのルートで横流しされていることは明らかで、それも利用した方が効率がいいであろうというのが大きな理由だった。それがなければ民間人を巻き込みたくないために一人で戦う道を選んだかもしれなかった。
 彼らと確実かつ迅速に接触する方法として雅人はもう一度戦闘を起こすことに決めた。長引けば加勢に来るはずだと考え、その通りに事が運べばその中の一人を巻き込んでカオスコントロールを使うつもりで末森雅人は再び議事堂前に瞬間移動した。
 少しでも時間を稼ぐために雅人は瞬間移動して議事堂前に現れてから一切に動かずにいた。相手が撃ってこないように、両腕の銃を真下に向けて直立の姿勢でいた。いつでも動けるように操縦する自分の手の動きを思い描きながら待つ。
 大人しく投降しろ。さもなくば。そう聞こえてくる。一分程待つ。そろそろ限界だろうか、と思ったがそれでも戦闘の開始を引き伸ばしたかった雅人はコックピットのハッチを開いた。
「お前たちの中に俺の仲間になろうというやつはいないか。俺に忠誠を誓わないのであれば容赦なくその命、いただくぞ」
 叫ぶ。チャオウォーカーに乗っている者には聞こえなかったかもしれないが、他の兵士には聞こえたはずだ。反応を待っていると、一機のチャオウォーカーが雅人の前に躍り出た。そしてハッチが開く。中にいたのは真田徹であった。
「久方ぶりだな。末森殿」
「お前、真田か」
 かつての部下は雅人に途方もない悪意をぶつける。
「末森雅人。貴様の時代は終わった。貴様の血を浴び、私が究極生命体となる」
 そう言うと彼はハッチを閉じる。閉じ終わらぬうちにチャオウォーカーの左腕を動かし、発砲した。雅人は反射的に思い描いていた通りの操作をして、プロトタイプウォーカーを後方にジャンプさせる。それからハッチを閉じた。まずするべきは後退。開けた場所での戦闘は危険である。ビル郡を遮蔽物として利用し、集中攻撃を受けないようにする必要があった。身を晒している今のうちに攻撃も行うべきである。雅人はホーミング弾用のカメラを稼働させ、ロックオンしては撃つという流れを何度か繰り返すと、敵に背中を向けて全速力で走りビルを飛び越え身を隠した。幸運なことに被弾はしていなかった。一方で途中から背を向けてしまったために相手がどれだけのダメージを受けたのか雅人は把握できていなかった。
 囲まれるのはまずい。じっとしていれば上から右から左から、同時に敵が現れる。六機がどのような状態でどこにいるのか、確かめるために雅人は走ってビルから身を出した。二つのカメラから映し出される映像を正面の大モニターで確認する。徹が乗っていた仕様の三機が少し体を浮かせ背中の推進器でこちらに向かってきている。三方向に分かれており、やはり囲むつもりであったようだ。残りの三機が前方三機の支援を担当しているようで、距離を置いてゆっくりと三機の後を追っている。右手側にあるシャベルの持ち手のようなカメラ操作用レバーを腕を上げて握り、ホーミング弾用のカメラを素早く動かす。するとモニター上では赤い長方形のフレームが動く。チャオウォーカーをその中に入れて人差し指の所にあるボタンを押すと、チャオウォーカーを攻撃対象として認識する。そして親指の所にあるボタンを押して弾を発射する。オートサーチにしておけばこのような手間はいらないのだが、そうするとビルや民間人まで撃ってしまう可能性があるため手動で敵を設定しなければならかった。雅人はこの動作をスムーズにこなして、赤いフレームは全く止まらずに六機のチャオウォーカーを次々とその中に収めていった。そのためビルに隠れる前にもう一度狙いを定めることができた。ブレーキペダルを踏みながら手元に左右にある操縦桿のうち最も右側にある円柱のアイスバーのような操縦桿を握る。それが腕部操作用で、後ろに倒すとプロトタイプウォーカーは右腕を上げる。弾の発射はこの操縦桿についているスイッチでもできる。真上に発射された弾が六機のチャオウォーカーを牽制するだろう。
「このままじゃ駄目だ」
 雅人は舌打ちをし、呟いた。六機全てを捕捉していては時間が掛かる。連射性が失われればその分撃墜も難しくなる。ホーミング弾を避けるために相手はある程度動かなくてはならず、それだけ雅人を危険から遠ざけてくれるのだが、六機が健在であれば被弾しないでいるのが難しいことに変わりはない。減らさなくては駄目だ。
 雅人はまず一機倒すことにした。マニュアルで狙いを定めることの利点はもう一つある。それはホーミング弾で狙うのが一機のみの場合、画面内の敵を全て狙おうとするオートサーチよりも連射ができる点である。雅人は左の肘掛の辺りにあるキーボードを使って操作モードの切り替えを実行する。チャオウォーカーはCHAO-Sを用いているために両腕両足を同時に動かすことが容易い。しかしプロトタイプウォーカーはそうではない。両手と両足で入力できる分しかこの機械は動いてはくれない。雅人はその差を埋めるためにいくつもの操作モードを設定し、それを切り替えることでアクションの多様性を確保していた。今のモードは一斉射撃モード。足や背中の推進器の操作は通常モードと同じく足元のペダルと左から二番目の操縦桿で行う。違いは通常モードではホーミング弾の発射を担当していたスイッチが左腕の銃器の発砲も兼任しているところにある。右腕の武装と左腕の武装の動作をリンクさせるこのモードではホーミング弾用のカメラを操作するレバーが左腕の銃器の照準合わせも行う。そのためこのモードでは複数機を狙う時の効率が非常に悪い反面、一機のみを標的とする場合には移動の操作をしながらでも両腕の武装で攻撃できるのであった。
 狙うのは一番近くにいる敵。そう決めてビルを飛び越える。カメラで捉えてスイッチを押すと両腕から敵を目掛けて弾が飛ぶ。逃げても追いかけてくるホーミング弾と常に照準を動かしているために気まぐれな網のように振る舞うアサルトライフルから飛び出す弾とを避けきれずに特殊仕様のチャオウォーカーが一機、空中で被弾して落ちた。

 同じようにして支援に回っていた一機を撃墜して数秒後、支援をしていた残りの二機の動きが止まり、そして議事堂の方へ戻っていく。残りは特殊仕様の二機。両方とも隠れず雅人に姿を晒していた。そのうち一機は距離を十分すぎるほどに取っており、もう一機は構わずこちらに突っ込んでくる。それが徹であると雅人はすぐにわかった。
「やはり人では超人には勝てぬか」
 徹は呟いた。相手が究極生命体と言われた男であるならば、どんなに数で勝っていて理屈の上で有利であってもそれを覆してくるはず。そう彼は信じている。相手は人の域を超え超人と呼ぶべき存在に至った男、末森雅人。そこに人間の理は通用しない。超人の理で考えるならばそれと対等に戦えるのはごく僅かである。そう徹は確信して自分のみが戦うことにしたのであった。
 一方で雅人は戦況の判断ができないでいた。数の上でも乗っている機体においても雅人の方が不利である。生身での殴り合いならともかくとして、ロボットに乗っての戦闘では自分がヒーローなどと呼ばれる存在であることがどれだけプラスに働くのか不明であった。そうとなればこちらの利は相手には配備されていないと思われるホーミング弾のみである。しかしこれがあれば不利を覆せると雅人は思ってはいなかった。だから操作モードをいくつも用意した。それを活用してよどみなく操縦できるよう操縦法を頭に叩き込み、状況ごとの対応法をイメージした。マイナスを可能な限り零に近付けるためにやれるだけのことはしたつもりだが、そもそもプロトタイプウォーカーを盗んでからこの戦闘に至るまでに長い期間があったわけではない。万全な準備とは言いがたい。ゆえに、勝つのは無理だ、と雅人は思っていた。しかし二機も撃墜できてしまった。そして今相手は囲もうともせず一機でこちらに突っ込んできている。わけがわからない。とにかく戦わなければ、と混乱を振り切って雅人は操縦桿を握る。
 徹のチャオウォーカーは一切射撃をせずにこちらに走ってくる。それを不可解に思いながらも雅人は一斉射撃モードで迎え撃つ。プロトタイプウォーカーが発砲するのに反応してチャオウォーカーはジャンプした。おかしい、と雅人は思った。ホーミング弾はスピードが遅い欠点があるもののアサルトライフルから出る弾の方は撃たれる前に動く必要があるほどに速い。被弾しているはずのチャオウォーカーは無傷で飛び掛ってきていた。外れたのだろうか。雅人は慌てて何度かジャンプして後退しながら無傷のチャオウォーカーを撃つ。それでわかった。チャオウォーカーの前で弾が何かに阻まれている。徹の機体にはそういうものが積まれているのだと理解した。チャオウォーカーの左腕はナイフを展開させていた。右腕は人間と同じようになっていて先端には五本指があったが、右腕にもナイフだけは装備してあったようでそれを展開している。両腕のナイフはただの鉄の刃物ではなくエメラルドのパワーを刃に流すことで巨体を切り裂くに足るものになっているのであろうことが予測できた。つまり徹は近距離戦闘に持ち込んで勝とうというつもりだ。一方こちらにはそのような装備はない。それどころかプロトタイプウォーカーには刃物を振り回すような動きはできない。まずい。雅人は急いで後退する。
 チャオウォーカーは銃弾を避けながら近付いてくる。防ぐことができるのは少しだけなのだろう。それなら当て続ければ弾は機体に届く。そう思ったのだがチャオウォーカーの動きは鋭角の軌跡を作るほどに機敏で、見えない壁の回復を許してしまう。集中したいが打ち続けなければ接近を許してしまう。距離を詰められずに済んでいるのはチャオウォーカーがじぐざぐに動いているからなのだ。徹の乗るチャオウォーカーの向こうに議事堂へ向かって走る武装した集団の姿が見えた。
「勝った」
 思わず声が漏れた。雅人はチャオウォーカーの脇を通り抜けるつもりで加速させる。その際、高速移動モードに切り替える。プロトタイプウォーカーは脚部を正座の形にして、すねの辺りに隠されていた車輪を出して走行する。カメラをチャオウォーカーに向けて固定し、できる限り速く手を動かしてホーミング弾を連射する。チャオウォーカーは飛んでそれを回避する。そのうちに武装集団に追いついた。雅人は叫ぶ。
「カオスコントロール」
 プロトタイプウォーカーは何人かを巻き込んで瞬間移動した。
「逃がしたか」
 徹は立ち止まる。被弾はしていないが、弾を避けるために無理な動きをしすぎたようだった。モニターは膝の異常を訴えている。近接戦闘をするのであれば短期決戦にしなければならないようだ。
「次こそは殺す」
 呪詛だった。

「今日も訓練だったんでしょ。お疲れ様だね」
 雪奈の部屋で寝転がりながら由美は言う。二人がGUNの基地に通っていることを由美は知っていた。
「自分の体を動かすわけではないので楽ですよ」
 雪奈もチャオウォーカーを動かしていた。いつか必要になる日が来ると感じているからだ。
「あ、私コーヒーがいい」
「そうですか」
 溜め息をつく。戦闘の訓練をしているのだ。疲れないわけではない。どうせインスタントなのだから由美がやってくれてもいいのに。そう思いながら粉末を入れてコーヒーを作り、運ぶ。
「末森君はどう?頑張ってる?」
「楽しそうですよ」
「巨大ロボットに乗れるから?」
「いえ。なかなか勝てないから楽しいって言ってました」
 隼人もヒーロー候補である。隼人と優のどちらが超人性に長けるかという観点では、雪奈の見る限り隼人の方が有能であった。それにチャオウォーカーに触れたのは隼人の方が先である。優が勝つことは滅多にないのであった。そして雪奈にも連敗している。負ける度に悔しそうな顔を見せるどころか上機嫌でいる彼にどうしてそんなに楽しそうなのかと質問したことがあった。自分が下位という環境がたまらなく楽しい、とのことだった。
「私あいつのそういう所嫌い」
 きっぱりと由美が言った。
「そういう所?」
「負けると嬉しそうにすんの。で、勝つと仏頂面。これまで辛い思いしてきたっていうのはわかるけどさ、なんか腹立つんだよね。人間どうしても苦しいことが付きまとうわけじゃん。それを乗り越えようっていう強い意志が感じられないね」
 由美は一気にマグカップの中のコーヒーを飲み干した。
「じゃあどういう時本気になるんでしょう」
「知らないよそんなの」
「由美さんなら知っているかと思ったんですけど」
「私そこまで彼に興味ないし」
「そうですか」
 雪奈は考える。優を引き込んだのは考えがあるからだった。彼ならばいつか来る戦いの日に戦力となってくれるかもしれない。そうでないようなら民間人であることを理由にして、体験期間は終了などと冗談めかして基地に来させなければいい。どう転んでもマイナスにはならない。しかし彼に戦う気がないとしたら今やっていることは一体何の意味があるのだろうか。一人の人間の自由を奪っているような気がした。かつて自分がされていたようにGUNという檻に閉じ込めている。調整チャオのように虚ろになった優の姿を雪奈は想像してしまった。
「私のしていることって正しいんでしょうか」
 そう言うと、由美は苦笑いをした。
「私にわかるわけないじゃん」
 その通りだと雪奈は思った。由美は正しいか否かを決定する人ではない。そんな人はどこにもいない。疑念を抱きながら生きていかなくてはならないと考えると辛い。一人でやっていけばよかったと思ってしまう。それなら悩まずに済んだ。そんな心中を読んだのか由美が、
「楽しそうにしているうちはあんま気にしなくていいんじゃないの。顔が曇ってきたら本人に直接聞きなよ」と言った。
 雪奈は「そうします」と小さな声で答えた。

 チャオウォーカーでの訓練は外で行うようになっていた。やはり屋内では狭すぎた。二機のチャオウォーカーはそれぞれ勝手に動いている。新規パーツのテストをしているのだった。プロトタイプウォーカーのすねに仕込まれていた車輪を参考にして、ローラースケートのように移動できる機構が追加された。それを優は試していた。足の横につけられた車輪を動かすと滑るように移動していく。
「人間にはないのを動かすのって難しくないですか」
 優は車輪を動かすのに手こずっていた。動かすためにはモーターを動かす必要がある。そのスイッチを入れる感覚にいまいち馴染まないのである。普段は人が動くのと同じように意識して動かしているのに、こういうことをする時だけは機械を動かすような気分にならなくてはならず、動作に遅れが生じていた。
「俺はそうでもないな」と隼人が答えた。「なんかもう俺の脳みその中でチャオウォーカー動かす用のモードが出来てる感じだからな。頭が切り替わるのよ」
「凄いですね、それ。ああ、くそ。庭瀬さんもやればいいのに」
「仕方ないだろ、二機分しか用意されてないんだから。それともあれか。二人きりで通信したかったか?」
「からかわないでくださいよ」
 モーターが止まってしまった。再び動かしながら、
「でも二人きりで通信はしたいかもしれません」と優は言う。
「おお、素直じゃん」
「そういうのとは違うんですよ。あいつ、いつも敬語じゃないですか。僕に対しては別にタメ口でもいいと思うんですよ。だって友達なわけですし」
 一緒に行動することが増えて話す機会も増えた。基地に向かう車の中でも色々なことを話す。チャオガーデンに一緒に行くことだって何度もあった。由美が彼女の部屋によく来ることなんかも聞いた。これで友達ではなかったら何なのだ、と優は思う。
「そういうの苦手みたいだぜ、彼女。なんか生まれてからずっとああいう感じで喋ってて、それで砕けた感じに喋れないらしい」
 自分がつい僕と言ってしまうのと似たようなものだろうか、と優は思った。
「ところでよ、酷使するとモーターが死ぬってあほだろ、これ」
 チャオウォーカーをローラーで前後させながら隼人が言う。足につけるという都合でプロトタイプウォーカーのものほど大きな車輪を使えなかったのだがそれでも巨体をそこそこの速度で動かすのに十分な力を得ようとした結果モーターが短時間で使い物にならなくなるという欠点が生まれたのである。それは欠点ではなく欠陥だと隼人は笑った。
「推進器でサポートすれば負荷は減るはずなんですけど」
「でもそれって前に行く場合だろ。肝心なのは後ろに下がる時じゃんか、これ」
 プロトタイプウォーカーの車輪は姿勢を低くしながら高速で移動するためのものであったが、こちらは後退をスムーズに行うためのものであった。
「褒めようにも、無いよりかはましってくらいしか言えんな」
「そうですね」
「盾とバリアはまだいいな。でも両立は難しいだろうな、これ」
 右腕に装備された盾は肩にまで及ぶ長さで、チャオウォーカーに装備されているアサルトライフルの弾を受け止めるためにかなりのエネルギーをエメラルドから受け取る仕様になっていた。バリアも同様で、こちらは前方からの攻撃を遮断できるが範囲が広い分耐久力には不安がある。そして両方をフルに稼働させてようとしても模造エメラルドの供給できるエネルギー量では不足するのであった。バリアを破られるのを見計らってエネルギーの供給を盾の方に移す、ということを実戦で行うのは無理に近い。
「隼人さんはどっちがいいですか、盾とバリア」
 どちらか片方を選べと言われても迷ってしまうな、と思いながら優は隼人に聞く。バリアが有効な場合もあれば盾が有効な場合もあるだろう、と考えてしまうのである。隼人の判断は間違っていないだろう、と思った。
「俺はバリアの方が好きだな。広いからな。でもこれどんくらい耐えられるんかね」
 練習用のエアガンでは試すことができない。「だからってちゃんとしたやつで試すのも危なそうだよな」と隼人が言っているところに男の声が割り込んできた。
「教えてやろう」
 通信に割り込んできたそれは空から落ちてきた。チャオウォーカー。瞬間移動してきたそれは着地すると両腕のナイフを展開して、優の方へ飛び掛ってきた。慌ててバリアを展開する。そこに左腕のナイフがぶつかる。それだけで破られてしまったようだ。乱入者にタックルされて優のチャオウォーカーは転倒する。バリアで止められたのはほんの一瞬だった。百八十度向きを変えて隼人のチャオウォーカーを睨む。隼人の方に使える武器はない。相手が銃ではなくナイフを使ってきてくれる以上は盾で応戦するのが無難だと判断してバリアへのエネルギー供給はせず盾にのみ集中させる。
「勝負だ、中川隼人」
「したくねえよ」
 構わず突っ込んでくる。ローラーを駆動させて後退し、攻撃をいなして盾で殴ろうとする。しかしそれをバリアで受け止められる。当然突破できたが、攻撃をバリアが食い止めた一瞬のうちに回り込んで刺そうという動作が始まっている。今度はローラーを使わずに横に飛ぶ。距離を置くつもりだったが相手はそれを許さず即座に食らいついてくる。そのプレッシャーに押されそうになった。この乱入者、真田徹には実戦経験があるということを隼人は意識していた。
「止まってください」
 そこにもう一人通信に割り込んでくる。雪奈だ。彼女の乗ったチャオウォーカーが出てきて左腕のアサルトライフルを徹のチャオウォーカーに向けている。徹は言われた通りに停止し、さらにハッチを開けた。徹は立ったままのチャオウォーカーから飛び降りたが平然としている。三人は片膝立ちにしてゆっくりと降りる。優はもうチャオを抱えるのを忘れなくなっていた。
「何の用ですか」
「用件は二つある。まず末森雅人とテロリストがGUNの兵器を使用している件についてだ。横流しをしているのはここか?」
「そんなこと私たちに聞かれても困ります。聞く相手を間違えています」
「そうだな。その通りだ」と徹は頷く。
「もう一つは何ですか?」
「うむ」
 徹は拳銃を抜いた。実弾式の銃だ。GUNではカオスドライブを用いる銃が多く用いられているが、小型化する技術がないために拳銃だけは未だに実弾を使っているのであった。破裂音に優は耳を塞ぐ。大きな音によって目を瞑ったのは僅かな間だったが、視線を雪奈の方に戻すといない。徹が再び発砲した。その方向を見ると雪奈は瞬間移動でもしたのではないかというくらいにさっきいた場所とは離れた所にいた。その移動が瞬間移動によるものでないことはすぐにわかった。雪奈は走っていた。人間が車ほどのスピードで走っているので余計に速く見える。十一発の弾全てが外れると雪奈はそのままの速度で徹目掛けて走っていく。雪奈は徹を思い切り殴り飛ばそうとしたが徹は拳を腕で受け止めた。変だ、と思った雪奈は距離を取る。
「流石だな、スノードロップ。素晴らしいスペックだ。しかし身のこなしは素人同然」
 すらすらと徹は言った。痛みを感じていないようだった。
「あなた、サイボーグになってたんですね」
「君が知らなかっただけでずっと前から人の身は捨てている。究極生命体に至るのに手段は選ぶべきではない。それがGUNの結論であることは君も知っているはずだ」
 雪奈は徹を睨んだ。徹は優の方を見た。
「君は知っているかね。この少女、スノードロップがカオスユニットであること、サイボーグであること、そしてそもそも人間ではないことを」
 優はこの男が何を言っているのか全く理解できていなかった。しかし唖然としているのを過度の驚愕と受け取ったらしい。彫刻について語るように徹は言う。
「人間をCHAO-Sの端末、それも端末の中の王とでも言うべきカオスユニットにしようと考えた狂人がいたのだよ。最初は普通の人間を調整しようとして失敗した。その方法では駄目だと判断したそいつは何人もの人間をチャオにキャプチャさせ、そのチャオから人間に近い存在を産ませることにした。その甲斐あって人の姿を持ちながらカオスユニットとしての適正が十分にある存在が生まれる。だがそれだけじゃない。GUNは究極生命体を欲していた。それに限りなく近い存在を作るならば、このカオスユニットを使わない手はない。そう判断してできる限りの改造を施した。遺伝子を操作し、カオスユニットとするべく脳をいじり、機械の四肢を植えた。GUNの技術と力を象徴するフラグシップ機、それがこのスノードロップなのだ」
 雪奈は妨害しなかった。ただ口を結んで睨み続けていただけであった。優は徹が何を言っているのかほとんど理解できなかったが、どうやら雪奈が人間ではないということを言っているのだということだけは理解できていた。そして自分の抱えているチャオは理解するどころかまともに聞いてすらいないのだということも。徹は雪奈を見て言う。
「できれば始末したかったのだがな。今の私よりも貴様の方が究極生命体に近いらしい。また今度にしよう」
「できれば勘弁していただきたいです」
「最後の用件だ。GUNは貴様の出撃を望んでいる。末森雅人は民衆にとってヒーローとなり得る存在。それに対抗して民衆をひきつける存在として貴様が適任なのだろう。そのことを伝えに来た」
「三つじゃないですか、用件」
「一つはなくなる予定だったのでな。さらばだ」
 徹はチャオウォーカーに飛び乗って、瞬間移動をして消えた。それを見送ってから雪奈は優に向かって「ばれちゃいましたね」と笑った。優は、悔しい、と思った。どうして悔しいなのかはわからない。どうしても悔しい。
「よくわかんないよ。どうあっても庭瀬さんは人間だって僕は思うんだけど」
 そう言うと、雪奈がとても優しい顔をした。大人が子どもをあやす時のような柔らかい笑みで、
「成長する速度がチャオと同じなんですよ、私。生まれてから二年経ってないんです。たったそれだけでここまで育つ人間なんていないでしょう?」と言う。
 悔しい。凄く悔しい。どうやら自分はこの白い髪の少女をちゃんと対等な友人として認識できるようになっていたようだ、と優は気付いた。この怒りは友人を侮辱された時のものなのだ。そうとわかると悔しさが具体的なものになって強くなる。
「だからって人間じゃないなんて思わない。人間以外の要素が混ざっただけじゃないか。人間じゃないなんてことはないんだ」
 人間ではないと認めたら友達ではいられなくなってしまうように優は感じていた。雪奈は泣きそうになっている優の言葉を否定する気にはなれず、
「ありがとうございます」とだけ言って、それ以上何も言わずにいた。
引用なし
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