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チャオ・ウォーカー -The princess of chao- スマッシュ 12/12/9(日) 3:14

05 空には情報が満ちています スマッシュ 12/12/16(日) 0:31

05 空には情報が満ちています
 スマッシュ  - 12/12/16(日) 0:31 -
  
 日曜日だというのに優は早起きしなければならなかった。土日空いてる、と聞かれて「うん」と答えたらとんとん拍子に話が進んでしまったのである。
「おはよう」
 優が母親にそう言うと、ぽつんと同じ言葉が返ってくる。それだけだ。母親は早くに起きたことを珍しいとさえ言わない。そのことに苛立ちを覚える。気まずさもあった。そんなに天才でいてほしいのか、と優は心の中で呪詛のように繰り返す。父親がいない時、優はよくこの防音室を使った。口から漏れぬように気を付ければ、いくらでも恨み言を言うことができた。
 母親がこうなったのは自分のせいであることは明白だったが、優は自分に非があるとは思えなかった。神童と言われていることを両親は真に受けて、家でもそういう扱いをするようになった。そのことにうんざりして、その感情を両親が揃っている時を見計らってぶちまけてから両親は子どもへの接し方がわからなくなったようだった。母親はあまり喋らなくなって、父親はいつまでも子ども扱いをして過保護であった。それもまた優の望んだ扱いではない。しかしそれを言った時に両親がどういう顔をして、その後どう扱いが変わっていくのか、わからなかった。今よりも悪くなるような気がするので言わないでいた。
「今日お昼はいりません。夜は家で食べます」
 敵意があるため敬語になってしまう。喉が急速に枯れていくような感じ。苛立つ。

 優は駅前のベンチに座った。待ち合わせの時間まであと三十分もある。少しでも早く家から出たくて、こんなことになってしまった。大きな商店街のある場所だ。傍にデパートや映画館もある。つまりはそこらでぶらぶらすることなのだろう。優は最近映画を見てないなと思った。ずっと前にアニメ映画を家族で見に行ったのを思い出していると、優を見つけた由美が「おうい」と言って手を振りながら走ってくる。雪奈も一緒だった。
「おはようございます」
「ああ、うん。おはよう」
 雪奈も来るとは知らされてなかった優は視線で事情の説明を由美に求める。しかし由美は困惑しているのを見てにやりとするだけで、意図的に教えなかったのだと優は理解した。両手に花だ、と優は思った。
「で、どこ行くの」
「どこ行こうか。映画とか見る?」
「映画って今面白いの何かやってるの」
「さあ、わかんない」
「ならやめといた方がよくない。つまんないの二時間も見るのって苦痛でしょ」
 昔教室で聞いた話を優はそのまま言った。すると由美はなるほどと頷く。
「それもそうか。じゃあ適当にお店冷やかしながらだべろうか。雪奈もそれでいい?」
「はい」
 私服でいると年下みたいだ、と優は思った。元から中学生くらいに見える顔立ちだ。そんな白い髪の子が大人しめのワンピースを着ているのが身近な存在には思えないのであった。失礼なことを考えている、と優はどうにか異世界から来たような雪奈を友人として見ようと努める。
「庭瀬さんはこっち来たことある?」
 雪奈は遠くから引っ越してきたということになっているのであった。
「いえ、全然。買い物は近くのスーパーと本屋で済みますから」
「本屋ってことは、色々本読むの」
「最近はそればっかりです」
「雪奈の部屋行ったことあるけど、本だけはいっぱいあるね。よく借りてます」
「へえ。僕全然読まないんだよな。面白い本あったら教えてほしいんだけど、というか今から行こうか」
「そうしよっか」
 本屋に行くことになった。三階建てになっている本屋のフロア案内を見て雪奈は「ここ、三階まであります」と言った。相当驚いたのか、声が上擦っていた。
「好きなジャンルってありますか」と雪奈はせわしなく店内を見回しながら優に聞く。
「ないよ。面白ければ何でもいいというか、そもそもこだわりを持つほど詳しくないんだよね」
「そうですか」
 目当てのコーナーを見つけたのか、急に大人しくなった。雪奈は平積みされている本の中から一つを取る。優の知らないタイトルのものだった。
「最近のだとこれがいいんですけど」
 そう言いつつもすぐに戻してしまう。今度は棚に入っている本をじっと見ながら、
「でも読むなら最近とか昔とか気にせずに、名作を読んだ方がいいと思うんです」と言った。
 雪奈は「これとかどうですか」と見せる。その本のことは優も聞いたことがあった。七十歳の男性と十五歳の女性の恋愛を描いたものらしい。
「根強い人気のある名作は、そう言われるだけのものを持っていますから。それにこれはそこまで古くないですから、読みやすいですよ」
「なるほどね。じゃあこれ買うわ」
 本を受け取った。これを自室で読むのか。そう思って優は、家にいる時はマルと遊んでいることが多かったことに気が付いた。それでは本をたくさん持っているという彼女は一人で静かに過ごす生活を今までしてきたのだろうか、と優は想像を巡らせる。由美のように心を読むことはできない。読書の時間を少し減らして、こうやって皆で遊ぶ時間を増やすのは、たぶん悪いことじゃない。そういうことを優は考えた。

 商店街を歩いていると、視線が自分たちの方に集めることに優は気付いた。理由は考えるまでもなかった。黒い髪ばかり。髪を染めている人間は珍しくないが茶髪や金髪がほとんどで、そういう人たちは大人なのである。だから白い髪の少女は目立つ。
「やっぱり映画行く?」と優は言う。「ね」と由美も同意した。映画が始まれば髪の色についてどうこう言われることもないはずだ。
「大丈夫ですよ。皆最初は驚きますから。慣れてくれるのを待ちましょう」
「え、本当に?」
「はい。気にしてもらってすみません」
 逆に気を使われてしまった、と優は感じた。自分がこの髪に慣れたのかどうか不安である。やはりどこかで気になっているような。早く慣れないと、と優は思う。対等でないのは嫌だった。
「そういえば雪奈って帽子持ってないの」
「はい、持っていません」
「隠す気あんまない?」と由美が聞く。雪奈の髪は長いというほどでもないので、帽子を被れば目立たなくはなるはずであった。
「そうですね。まだトラブル起きてないので。それならこのままでもいいかなって思ってます」
「肝据わってるんだな。僕はそういうの怖くて駄目だ」
「女々しいやつめ」と由美が茶化してくる。
「君たちが凄いだけです」
「あ、チャオガーデン」
 雪奈が立ち止まった。
「そういえば今日マル君は」
「連れてきてないよ。迷惑になるといけないから」
 やはりチャオは人とは違うので、こうして遊ぶ時にはどうしても邪魔になるものだった。
「そうですか」
 残念そうだった。本屋のようにチャオガーデンの施設が大きかったから期待するところがあったのだろう。優は慌てて、
「また今度一緒にチャオガーデン行こうよ」と言う。
「はい、そうします」
 雪奈は頷いた。
 その後も三人は商店街をうろつき、
「お昼どうする」と由美が言ったのは十三時を過ぎてからだった。
「ああ、どうしようか」
 優は周囲を見渡す。ファーストフード店がすぐ傍にあった。しかし女子が二人いるのにハンバーガーというのはどうなのだろう。近くの飲食店を記憶の中から探そうとしたら、
「あれ食べてみたいです」と雪奈が言う。指したのはそのハンバーガーのファーストフード店だった。優と由美は顔を見合わせた。すぐに由美は「そういうこともあるか」という顔になる。優はわからないままだった。
 優と由美は頼む物が決まっていた。いつも頼む物を注文するつもりであったからだ。雪奈はメニューを見て将棋の対局のように熟考していた。選んだのはダブルチーズバーガーだった。
 ファーストフードを初めて食べると言う雪奈は探るようにかぶりついて口元を汚した。それを由美が保護者のように拭う。優は子どもみたいだと思った。幼い見た目と中身が一致しているのを初めて見たように感じ、三人の中で一番量が多い彼女の食事を見守るのであった。

 庭瀬真理子が調整チャオ用のチャオガーデンにて作業をしていると、真田徹が入ってきた。真理子は一瞥をくれるとすぐにチャオのデータの収集に戻る。
「何の用でしょう」
「カオスユニットを新しく我が部隊に迎えたい」
「ご冗談を。あなたたちのためのリンドウでしょうに」
 名前を呼ばれたと思った青いチャオがゆっくりと二人の所へ歩いてくる。リンドウは二人の顔を交互に見て、徹が左腕に抱えているチャオを見つめ、
「セイギの、ために」と言う。
「今回はそれとは違うのですよ、庭瀬殿」
「どういうことでしょうか」
「カオスユニット第三号、ヒメユリ」
 真理子の手が止まる。
「人の身にカオスユニットの機能を持たせたのであれば、チャオウォーカーに乗せるのが道理。さぞ優秀な兵士となってくれるでしょう」
「私はそうは思いません。それに彼女はもう自由の身です。私が許可できることではありません」
「倫理を踏みにじっておきながら倫理を語るとは。自らの手で改造したものに同情でもしているのですか?」
 見下すように徹は言った。真理子は苛立ちを手に出さないようにするのに必死になる。
「あなた、自分の身の振り方には気を付けた方がいいですよ」
「どういうことだ?」
 真理子は徹の方を向き、睨んだ。
「ここ最近、各地の戦場でチャオウォーカーが目撃されています。カオスコントロールによる瞬間移動で現れ、敵味方の区別なく暴れて再びカオスコントロールで撤退していくそうです」
「それがどうした」
「カオスコントロールを使用できるのは特殊調整型のみです。それだけでなく模造エメラルドも必要です。それとチャオウォーカー。どれもGUNの内部にしかないものです。その全てを揃え、なおかつ身勝手に使用できる人間がどれだけいると思っておいでですか」
「さあな。それがヒメユリであるならば、私は喜んで撃退しに行くのだがな」
 そう言って徹はガーデンから出ていった。真理子は白々しいと思った。戦場で目撃されたチャオウォーカーの左腕は徹が無理に作らせた物であることを真理子は知っていた。

「今日、何か予定ありますか」
 放課後、雪奈は優にそう言った。あれから何度か優は雪奈とチャオガーデンに行くことがあったが、彼女の方から話しかけてきたのはこれが初めてだった。
「ないけど」と優は答える。
「それなら付き合ってもらえませんか。結構時間かかってしまいますけど」
「オッケー」
「それじゃあ行きましょう」
 校門前に車が止まっていた。雪奈は後ろのドアを開けて乗る。雪奈が奥の方へ行くので、優も彼女の開けたドアから乗り込む。
「わざわざありがとうございます」
「いいよ。暇だったし、暇そうにしてるとこき使われるし」
 運転席に座っているのは声を聞く限りでは若そうな男だった。茶髪で、これは雪奈と違って黒いものが混じっていたので染めたのだろうと優は思った。ドアを閉めたのは自分であったが、車が走り出すと優は閉じ込められてしまったような気がした。
「あの、どこに行くの?」
「中川さん、着いてからのお楽しみと、今言うの、どっちが面白いと思います?」
 運転しながら中川隼人は「着くまでのお楽しみなら目隠しした方がいいぜ。途中でばれっから」と言った。
「そうですね。それならもう言ってしまいましょう」
 優の方を向いて雪奈は言う。
「GUNの基地です」
 優はどのように驚けばいいのかわからなかった。目的地がGUNの基地だと予想していなかったが、言われてみればそういう可能性もあると思えた。雪奈はGUNが作ったとされるビデオに出演していた。それに学校から車で行けるくらいの距離にGUNの基地があるのだった。だからこそGUNの実験のために学校ではCHAO-Sが快適に使えるのだろうという彼女の予測が生まれたわけで、つまり「どうして」と聞くにしてはそれに続く具体的な言葉が浮かばないのであった。
「すみません、窓開けてもらえますか」
「オッケー」
 雪奈は外を眺める。優はまだ自分の反応に困っていた。とっさに浮かんだ「どうして」に続くものを自分の直感から探していくと、一つ見つかった。
「どうして僕がGUNに?」
 一分経ってからの質問だった。彼女は丁寧に優の方へ向き直る。
「ヒーロー理論って覚えていますか?」
「もしかしたらソニックみたいな人間が生まれるかもねっていうやつだっけか」
「はい」
「まさか」
「そのまさかです。私はあなたをヒーロー候補に推薦します」
「うへえ」
 予想ができていたせいで優は一層変な声を出してしまった。学級委員などに推薦されたことを優は思い出す。優秀だから、適任だと押し付けられる。成績以外の適任である理由を考えたこともあったのだが、結局説得力のあるものは何も浮かんでこなかった。今それをせずに済んでいるのは立候補をする酔狂なクラスメイトがいたからだった。来年はまた押し付けられるかもしれない。
「あの、そんな大袈裟なもの、自信ないんだけど」
 嫌ということ以上に、素直に自信がなかった。音速で走れたことはない。あくまで周囲よりちょっと優れているだけであって、本当に天才というわけではない。そんな自分がヒーローに相応しいとは言えない。そう優は思っていて、その通りに彼は告げた。
「まあまあ、いいじゃん」と隼人が言った。「あくまで候補だから。就職する時困ったらコネでGUNに入れるくらいに思っとけばいいんだよ。ヒーロー候補は楽だぞ。特別扱いだから訓練さぼれるんだぜ」
「はあ」
「そうそう、真面目にヒーロー候補するつもりなら運転免許取った方がいいぞ。こうやってたまに雑用させられる時あるしな」
「あの、もしかして」
「イエス。俺もヒーロー候補だからよろしく。いやはや、後輩が出来て嬉しいわ」
「よろしく、お願いします」
 優の脳裏には先日見たGUNのビデオがよぎっていた。冗談が現実になってきている。それを改めて実感していた。
 それからは会話もなくて、雪奈はずっと外を眺めていた。それも空を見ているようで、体が窓際へ傾いていた。
「何か面白いものでもあるの」
「ありますよ。空には情報が満ちていますから」
 似たようなことを由美が言っていたな、と優は思った。そのことを言うと雪奈は体を真っ直ぐに直して、
「学校にいると通信速度が上がるって話がありましたよね」と言った。
「あったね」
「CHAO-Sでの通信は遅いので、それを少しでもましにするためにカオスユニットというのが作られてるんですよ。情報を遠くへ飛ばす際はカオスユニットに中継させることで効率がよくなります。それがここにいるんです」
「だからここらは通信しやすいってことなのか」
「はい。他にもカオスユニットがいることで利用できるものとして、クラウドがあります。ネットで言うところのクラウドとは違って、それよりもオンラインストレージに近いものです」と説明していく。質問を受け付ける間も作らず淡々と語る様がビデオの彼女と一緒で、懐かしい、と優は思った。あれはもう一ヶ月も前の話なのだ。「空気中に情報を留めることで、それを誰かと共有したり好きな時に引き出したりできます。その管理をカオスユニットがするんです。その際に雲があればそれを貯蔵庫として利用するのでクラウドと呼ぶわけです。この地域ではそれもできるので、運よくこの機能を発見した方は使っているかもしれませんね」
 それで空に情報があると言ったわけか。ちょっとロマンがないかもな、と優は思った。

 優は大きな倉庫のような建物に案内された。中では世間を騒がせた件の巨大ロボットがいくつもあって、それらを整備している最中だった。
「これがチャオウォーカーです。今は量産している真っ只中で結構忙しいみたいですね。一部の人が専用機や専用の武装を注文してきたりもして、その対応でもう地獄って感じらしいです」
「はあ。でもどうしてそんな所に僕を」
「チャオウォーカーがこれからの時代、俺たちにとっての銃になるからな」
「CHAO-Sは高純度情報伝達システムと言われていますが、つまりは自分のイメージをそのまま出力できるところが長所です。このCHAO-Sを用いることでイメージした通りに機体を動かすことができる、それがこのチャオウォーカーです」
「イメージすれば動かせるから、一般人でも才能次第ではエースパイロットになれるというわけ。アニメだな」と隼人が付け加えた。
「つまり僕はヒーロー候補ではあるけどあくまで一般人だから、操作が簡単なチャオウォーカーで活躍させてみようってことですか」
「大正解です。それともう一つ理由があります」
 そう言うと雪奈は大きな声を出して「末森さん」と呼びかける。返事があって、人がこちらに来る。声もその姿も優はよく知っていた。
「父さん」
「おお、優じゃないか。お前どうしてこんな所に」
「私が連れてきました」
「父親の仕事場を見せてやろう、という粋な計らいってだけで連れてきたわけではないのだよね」
「はい。彼をヒーロー候補だと判断しました」
 そう雪奈に言われた時の孝太の表情が苦々しいものに一瞬だけ変わったのを優は見逃さなかった。父親にとってもいい思い出はないようだ。
「はっは」と大袈裟に笑ってから「こんなひよっ子に世界の命運は任せられないよ」と言う。
「そんなことありません」
「ヒーローというのは中川君みたいな人にこそ相応しいものだろう」
「照れること言わないでくださいよ。俺なんてまだまだですよ」
「そんなことはない。君は十分素晴らしいよ。色々手伝ってくれてうちも助かってるし。それに比べたらこいつは」
 雪奈が会話に混ざれていない優の方を見る。父はいつもこうなのだ、と言う代わりに優は肩をすくめる。そのメッセージが伝わったのだろうか。
「それで、彼をチャオウォーカーに乗せたいので」と雪奈は会話を遮った。
「ああ、そうか。それじゃあこっちに」
 末森孝太はチャオウォーカーが直立して並んでいる区域に三人を案内した。こちらにはあまり人がいない。整備が終わった物が並べられているようだ。僅かながら青の要素の強い灰色の機体が並ぶその中に所々塗装のはげている赤い機体があった。
「あれは?」
 優はその赤いチャオウォーカーを指す。
「あれはチャオウォーカーのプロトタイプみたいなもんだ。厳密には違うんだが、それでもプロトタイプウォーカーなんて呼ぶやつはいる」と孝太が答えた。「実際には遺跡から発掘された大昔のメカでな。チャオウォーカーはあれに使われている技術をいくつも転用している」
 よく見るとチャオウォーカーの描く曲線と赤い機体の描く曲線には差があった。チャオウォーカーのそれが筋肉をイメージしているのに対して赤い機体のそれは戦車の丸みで、角ばった部分も多数見受けられる。また肩に薄っすらと白い文字で何かが書かれている。「EG」の二文字までは読めた。
「これの技術は素晴らしいが色のセンスは駄目だな。赤い体で頭部が黄色だなんてアホだろう」と孝太は言う。「まあセンスはともかくこれが発掘されたおかげで巨大人型ロボットが作れたんだがな」
「ねえ、どうして人型じゃないと駄目なの。別に無理して人型にしなくてもいいんじゃないの」
 優は雪奈に聞いた。彼女が最もよくわかっていそうだったからだ。自分より年下に見える外見と、それとは裏腹に自分の知らないことをいくらでも知っていそうな知識の印象。一見アンバランスなそれによってバランスを保ってこの地に立っているような雪奈。何かを解説する姿はとても様になるのであった。
「CHAO-Sを使ってイメージ通りに機械を動かす時、何の訓練も受けていない人が戦車を動かせと言われても困ってしまうから、ですね。人型なら普段自分が動くのと同じように動かせばいいですから、誰でも動かせます」
 そう聞いて先ほど隼人が言った「一般人でもエースパイロット」という言葉を優は思い出す。
「もしかして本気で一般人を乗せるつもりなの。その、一人一台みたいなノリで」
「異星人が攻めてくるようなことがあれば、そういうことになるかもしれません」
 総人口が総兵力となる光景を優はイメージした。見知った町にチャオウォーカーが溢れる世の中。そのために灰色の巨体はある。
「末森さん、訓練用装備の準備はできてます?」
「ああ、できてる。そこの二機がそれだ」
「ありがとうございます」
「いやいいよ。それじゃあ俺は仕事に戻るから」
 孝太が踵を返した瞬間、優と目が合う。ただの偶然だったのだが、お互いに感じるものがあった。優は親とのいさかいを思い、孝太は子どもを心配に思う。しかしそれを言葉に置き換えるとどちらも「どうして」となるのだった。
「よう雪奈」
 孝太がいなくなるのを見計らって物陰からチャオが出てくる。そのチャオは挙手をしながら、雪奈に話しかけてくる。
「ここはお友達を連れてくるのに相応しい場所じゃないぜ」とチャオが言う。雪奈はしゃがんでそれに応じる。
「知ってます。それにただのお友達ならここには招待しません」
「安心したよ。お前は時々何も知らないお姫様みたいなことをするからな」
「ねえ、庭瀬さん。僕にはこのチャオが喋っているように聞こえるんだけど」
「あれ、雪奈から聞いてないの。俺はキキョウ。カオスユニット第二号だ」
「えっと、カオスユニットってCHAO-Sの通信速度を上げたり、クラウドがどうのこうのっていう、あれ?」
「そうそれ。ああ、ちなみに人の言葉を喋れるのはそれと関係ないから。GUNのやつらってばカオスチャオが不死身だからって無茶しやがってな。酷いぜあいつら。俺は玩具じゃないっての。とにかくそのせいでカオスユニット用の調整以外にも色々と改造されててよ、そういうわけで人間みたく喋れるんだ。ま、よろしくな、優」
 そう言ってキキョウは手を差し出してくる。
「え、ああ、うん。よろしく」と優もしゃがんでそれに応じる。
「それはともかく、どうしてここにいるんですか」
「だって暇なんだもん。これからチャオウォーカーで訓練するんだろ?面白そうじゃん」
「大人しくしていてくださいね」
「ケチ」
 無視して雪奈は隼人を見る。隼人はボストンバッグから顔を出していた二匹のチャオのうち片方を優に差し出す。
「これお前のチャオな」
 マルと同じ色のチャオ。水色で先端が緑の大人のチャオ。しかし心は虚ろだ。ぬいぐるみのように動かず、そしてそのように扱われている。それを受け取るのにためらいがある。手に取って、使ってしまえば自分もまた同じになるように優は感じた。このようにチャオを改造した者と同じに。
「そのチャオは、もう元に戻りません」
 雪奈が優に言った。
「ですから、せめて使ってあげてください」
 その言葉はまるで死人を前にしたもののようで、目の前にあるチャオが骸骨のように見えた。
「そんなにそのチャオが嫌なら俺を使おうぜ。俺の方が高性能だぜ」とキキョウが言う。
「いや、いい」
 優は立ち上がってチャオを受け取る。雪奈は顔を伏せ、キキョウはふっと笑った。そして隼人が、
「よっしゃ、始めるか」と明るい声を出す。
「CHAO-Sの使い方について、説明します」と雪奈は立ち上がって無表情に言う。「CHAO-Sは調整チャオに触れることで接続が可能になります。送受信をしたいと考えれば、それを受け取ったチャオの方で実行してくれるので複雑な操作はいりません。そのチャオは高性能型なので、チャオウォーカーを操縦する、と考えれば触れていなくても通信が可能になります。その状態にしたらコックピットにチャオを置くための窪みがあるのでそこにチャオを設置してください。そうすればイメージした通りにチャオウォーカーは動きます。左腕の銃は拳の先から弾が出るとイメージすれば発砲できるはずです。訓練用のエアガンなので好きなだけ撃って大丈夫です」
 雪奈の説明が頭に染みていく。言葉以外のものが頭の中に入っているのを優は感じた。試しにチャオウォーカーについての情報をクラウドから探してみたのであった。そうするとまさに雪奈の説明しているような情報が、言葉ではない理解という形で咀嚼されたもので見つかる。その一方で雪奈による言葉の説明も入ってきて、その結果優はどうすればチャオウォーカーの動かし方を前々から知っているような気分になっていく。そして、これは便利だ、と思うのであった。
引用なし
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