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チャオ・ウォーカー -The princess of chao- スマッシュ 12/12/9(日) 3:14

01 僕たちの世界にはレールが敷かれている スマッシュ 12/12/9(日) 3:16

01 僕たちの世界にはレールが敷かれている
 スマッシュ  - 12/12/9(日) 3:16 -
  
 逆らえない流れがある。
 末森優はそう感じていた。
 それはしばしば時間の非情さを主張する時に用いられる表現であったが、優は時間のことを憂いているのではなかった。
 誰かがレールを敷いて、その上を走るトロッコに乗って大勢の人が生きている。
 それがこの世界の形だと、末森優は思っているのであった。常識やマナー、国や世界の方針。誰かが決めていることのはずなのに、自分には手出しができないと優は思っている。デモやテロをしたところで自分の望むような世界にはならないような気がしているのである。
 レールがなければ、トロッコはまともには走れまい。だからレールを敷く人がいるのは悪いことではない。
 そうとわかっていたが、それでも優は怖くなる。そのレールが自分の望まない方向へ敷かれていくかもしれないことが。そうなった時トロッコから飛び降りることもできず、現実が進行していくのを見ていることしかできないであろうことが。しかし個々の望みを実現しようにも世界は一つしかないのであった。
 それなら妥協するしかない。もしかしたらレールは人々が妥協できそうな道を選んで敷かれているのかもしれない。

「また変なことを考えてる」
 優の思考を遮ったのは斉藤由美だった。童子のように整えられた黒い長髪の少女はにやりとした笑みでもって優を見つめている。
「変なことって」
「権力への反抗心を燻らせているようだったから」
 一つ一つの単語を強調して由美は言った。当たらずとも遠からず。
「人の心を読まないでほしいんだけどな」
 由美はしばしば人の考えていることを言い当てるのであった。人の心を読んでいる。優にはそうとしか思えない。
「セキュリティが甘いのが悪い」
「どうやったら強化できるんだよ、それ」
「誰かが自分の思考を読もうとしてるかもしれないって意識するだけでも効果はあるはずだよ」
 彼女がそう言うのなら本当なのだろう、と優は思った。あり得ないくらい凄い人間。それがクラスの彼女に対する評価だった。主に試験の時にその凄さというのは現れていた。毎回全ての教科で学年一位になるのである。彼女の取った点数がそのテストにおける満点である、と言う人間までいる。天才扱いされているのだ。
「人の心を読む方法、教えてほしいな」
「企業秘密。というか末森君じゃできないと思う」
「マジか。神童と言われたこの僕にできないと」
「格が違うんで」
「なんか悔しいな。いつか一泡吹かせてやる」
 そう言って優は笑う。悔しいが楽しいのであった。
「ヘイ、ユー」
 そこにクラスメイトが混ざってくる。優はユウと読むのでしばしば英語風に挨拶されるのであった。
「天才コンビってさ、もしかして付き合ってる?」
 優は付き合っているという言葉に弱かった。周囲の人がしている恋愛というものを自分もしてみたいと思っている。思っているだけで行動には移さないでいるのだが。
「いや付き合ってないよ」
 そう優が否定した直後、由美が優の頭を指差して、
「今こいつ、既成事実にするのもありかもって思ってた」と言った。
「だから読まないでって言ってるでしょ」
「はは。息ばっちりじゃん。俺も天才に生まれたかったわ」
「天才的には天才でいるのも辛いんだって」
 優は少しうんざりとした声色で言った。
「マジで?どうしてよ」
「一人だけ優秀だとさ、周囲からのプレッシャーがやばいんだよ」
 優もまた天才と呼ばれていた。理由は由美とほぼ同じである。優はスポーツも得意であった。彼が小学校と中学校に通っていた時には過剰なまでの特別扱いを受けていた。神童という言葉が周囲で流行ったこともあった。天才には慣れたが神童という言葉にはまだ苦手意識が残っていて、未だそれを聞く度に優は憂鬱になってしまう。優にとって自分より格上のクラスメイトというのは高校で出会った由美が初めてであった。そのために由美のことを恩人だと思う時がある。
「変に期待されてさ、すっげえストレス溜まるんだよ。胃が一つじゃ足りないよ」
「ああ、なるほ」
 そりゃやばい、と笑う。
「じゃああれか。今は結構楽なん?」
「まあ俺はね。斉藤さんはどうだか知らんけど」
「私は別に気にならないから」
「大物だ」
「大物だな」
 そこで会話が止まってしまった。数秒して、
「そんじゃまた明日な」と言ってそのクラスメイトは廊下へ走っていた。
「おう」
「また」
 二人が残る。天才の二人をペアにしておくのが自然であるとクラスのほとんどが思っていた。そのせいで二人きりになることが頻繁で、嬉しくないと言えば嘘になるがたまには他の面子も一緒に下校したいと優は思う。もしかしたらそう考えていることも由美に読まれるかもしれない。警戒して優は、
「帰ろうか」と言葉をかけて自分の思考を中断させる。
「そうね」
 自分より優秀な人間がいる。そのことが優を安心させている。
「ちょっとチャオガーデンで遊んでいかない?」
「うん、いいよ」
 一年前からチャオを飼うのにかかる費用がぐっと少なくなった。チャオガーデンは無料開放された上にチャオを預けられるようになり、それを受けて優はチャオガーデンを利用し始めた。
 チャオのためというより、自分が楽しむためという理由の方が強い。チャオガーデンは人にとって居心地がいい公園のようなものであった。一面の芝生。桜の木が所々に植えられて、新緑が木陰を作っている。そして池は温泉のように常に新しい水が入ってきている。遊具はチャオの体に合わせたサイズだがベンチは人のための大きさだった。そのベンチに座って、
「いいな。こういう庭欲しい」と由美が言う。
「これ庭だったら大豪邸だよ」
「大豪邸にも住みたい」
「無理でしょ」
 外国ならともかく日本にそんなものがあってたまるか、と優は思う。
 だけど芸能人の家は信じられないほど豪華なものもあるらしいからな。由美は芸能界で通用しそうなルックスではあるな。それに由美は僕以上の天才だからどうにかなってしまうかもしれない。
 そう考えると由美が羨ましくなる。素直に羨ましいと思えるのは由美が相手の時だけだったので、優は由美といるのが好きだった。
「僕は一人暮らしできればそれでいいや」
 由美が既に一人で暮らしているということも優にとっては羨ましいものであった。
「それで満足って理想低すぎじゃない」
「僕、衣食住に関しては理想低めだから」
 そう言いながら優は自分のチャオに木の実を食べさせる。チャオはマルという名前だった。マルはチャオガーデンの売店にある食べ物の中で一番安い木の実を勢いよく食べる。好き嫌いがないのである。それを見て由美は飼い主に似たんだなと思った。
「他に野心なんてのはないの?」
「日本を絶対王政にして、王様になりたい」
「日本終了」
 由美が重い息を吐いた。
「冗談だって。もしなれてもなりたくない」
「だろうね。末森君って頂点に立ちたくないって思ってるもんね」
 まさにそうであった。自分の思考の柱を言い当てられて、優はなんとも言えない気持ちになる。由美と出会ってまだ三ヶ月ほどしか経っていなかった。それなのに由美は自分のことを知り尽くしているみたいだ、と優は感じている。
「斉藤さんって、どの程度まで人の心を読めるの。初対面の人の性格までわかったりすんの」
「勿論」
「恐ろしいなあ」
「冗談に決まってるでしょ」
「ああ、なんだ」
「それよりもマルが」
「あ」
 木の実を食べかけのまま置いて動こうとしていた。ベンチから落ちる前に優が捕まえる。
「どうした、遊びたいのか」
 言いながらチャオを下ろしてやる。マルは優や由美の靴をぺたぺたと触って遊び始めた。
「靴に何かあんのか?」
 聞きながら撫でる。答えは返ってこない。しかしチャオは言葉を理解しているかもしれない、と優は思っていて、だから話しかけるのであった。
「靴が面白いと思ったのかもね」
「斉藤さん、チャオの心も読めるの」
「それは無理」と由美は笑った。「ただ、興味を持ったみたいだから。なんとなく気になったんじゃないのかな」
 そう言って彼女は顔を上に向ける。
「人間だって空がふと気になる時があるでしょう」
「ああ、たまにある」
「私はよくある。空に何かが書いてあるような気がして」
 天井があって空は見えないのだが、それでも由美は天井を見続けた。そこにも何か書いてあるのかもしれないと期待しているのであった。
「それにしてもこれからどうなっちゃうのかな。地球大丈夫かな」
「あのこと、気になるんだ」
 最近世間を騒がせているニュース。それは異星人の侵略だった。地球で作られた物ではないと見られる人工物が宇宙より飛来したのだった。それは大気圏突入や落下の衝撃に耐え、未だに何らかの信号を発信しているらしい。近い将来宇宙人が来る、と噂されており、中には侵略しに来るのだと言う者がいるのであった。
「ソニックはいないし、それは仕方ないとしても、カオスエメラルドも見つかってないもんね」と由美は言った。
「あ、カオスエメラルドってまだ見つかってないんだ」
「そうみたいよ」
「じゃあ宇宙人が攻めてきたら」
「降伏するしかないかな」
「やだなあ、それ」
 優がそう言ってのけぞる。マルがそれを不思議そうに見つめた。
「どうにかなんないかな」
 優はマルを撫でた。今撫でておかなければ、明日には撫でられなくなっているかもしれない。その不安が彼の手を動かしていた。
引用なし
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