●週刊チャオ サークル掲示板
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自分の冒険 〜自分ならこう書く〜 冬木野 12/4/26(木) 11:03

MACA〜Magic Capture〜 第一話 プロポーズ スマッシュ 16/4/1(金) 23:59
MACA〜Magic Capture〜 第二話 破裂して、旅立ち スマッシュ 16/4/10(日) 1:06
MACA〜Magic Capture〜 第三話 爆発する力 スマッシュ 16/4/16(土) 18:48
MACA〜Magic Capture〜 第四話 南 スマッシュ 16/4/24(日) 21:55
MACA〜Magic Capture〜 第五話 流星群 スマッシュ 16/5/16(月) 22:46

MACA〜Magic Capture〜 第一話 プロポーズ
 スマッシュ  - 16/4/1(金) 23:59 -
  
 まだ形を持っていない魔法の中を、チャオだけが漂う。
 この星に満ちている魔法の源、人間がマナと呼んでいるそれをチャオは感じ取ることができる。
 人間にはできない。他の生き物もおそらく。
 チャオだけが感じられる。
 そんなものがあることに、人類はずっと気付いていなかった。
 チャオのおかげでようやく知ったのだ。
 知ることはできたが、俺の体はまだそれを感じられてはいない。
 マナを利用して魔法を使うようになってから五年は経つが、世界の中のマナを感じたことはない。
「お前は魔法を使う時、魔法のことを考えてないな」
 俺の肩に乗っている俺のチャオ、クリックが言った。
 小さな男児のような声をしている。
「いつもは集中してるよ」と俺は返す。
「確かにいつもはそうだな。だがさっきはしてなかった。それに前にも何回かあった。こういうことが」
 魔法を使う時には俺とクリックは繋がっている。
 だからクリックには俺のことがよくわかるのだ。
 そして人間と繋がるために強化された頭脳が、こんなふうに偉そうな口を叩けるようにしているのだった。
 可愛げがないのがいい、とイナナはクリックについて言っていた。
 俺もそう思う。
 クリックのことはかなり気に入っていて、相棒で親友だと俺は思っている。
「それで。何を考えていたんだ?」
 クリックはニュートラルヒコウチャオの大きな羽で俺の頭をぺしりと叩いた。
 こうやって羽をもう一対の手のように扱う癖があった。
 足を機械化したことがこの癖を生んだのかもしれない。
 マナを効率よくチャオの体内に集めるため足を改造するから、魔法使いのチャオの足は金属の硬さがある。
 それがチャオらしくなくて、クリックは気に入っていないらしい。
「何をって、お前わかってるんじゃないのか」
 聞くまでもなく俺の考えていることを読んでいるものと思って、クリックにそう言う。
「残念なことに、そこまではわからんのだよなあ」
「へえ。そういうものなのか」
「それで、何を考えてたんだよ。話してみろよ」
 俺は素直に、クリックに話した。
 俺がまだマナを感じたことがないこと。チャオたちにはそれがどのように感じられているのか気になったということ。
 するとクリックは、そんな面白いもんでもないぞ、と笑った。
「空気みたいなもんだ。いや、それはちょっと違うか。明るい部屋の中で目を凝らすと見える、部屋の中を漂っている小さな埃って方が近いな。そういう、気にしなければ気にならないものだよ」
「そういうものなのか」
 繋がっていないのに俺の考えを察してクリックは、信じていないな、と笑った。
 マナを感じられるようになったら、今よりも世界が輝いて見えるに違いないと俺は思っているのだった。
「まあいいや。次の仕事はちゃんとしてくれよ」
 クリックは羽で、今度は俺の首のすぐ下の背骨の辺りを叩いた。
「さっきの仕事だってちゃんとやったろ」と俺は言う。
「あれがちゃんとだとお?」
「ちゃんと治した」
 さっきまでしていた仕事は、チャオガーデンでのチャオの治療である。
 改造されなくてもチャオはマナを体内に取り入れることで生きている。
 体を自在に変化させられることや転生能力など、チャオに備わった特別な能力はマナの支えがあってこそのものと考えられているのだ。
 そのマナを体内に取り入れ過ぎてしまったり、あるいは出し過ぎてしまったチャオの体内のマナの量を調整することは魔法使いの仕事である。
 調整と言ったって、大雑把に減らしたり増やしたりするだけでいいから、考え事をしていたって上手くいく。
「治ったって、職人技とは言えないんだよ」とクリックは言う。
「知るか。次の仕事は気を抜かないから任せておけよ」
「それはマジで頼むぜ」
 次の仕事は、魔獣退治であった。
 マナには生き物の害となる種類のものもある。
 精神に影響を与えたり、体を変形させてしまうものなどもあるのだ。
 そうしてマナによって怪物となった獣を撃退するのは、魔法使いの仕事だ。
 今日の仕事は、その悪性のマナが観測されたために魔獣が出てこないか警戒するというものだ。
 もし魔獣が見つかれば、戦い殺す必要がある。
 華やかな仕事だ。
 肉体を改造することへの抵抗感が薄れるくらいに。

 もうすぐで魔法を使えるようになってから五年と一ヶ月になる。
 そんな時期に、俺は魔法局に呼び出された。
 魔法を使う者、魔法使いたちを管理している場所だ。
 お叱りを受ける覚えはない。
 頻繁に幼馴染のイナナに仕事の手伝いをさせているが、それがひょっとしたらまずいのかもしらんと心配していたのは、仕事を初めてから三ヶ月くらいの間だ。
 魔法局では魔法使いにそれ専用の仕事を紹介している。
 普通はこちらから仕事を求めに行くのだが、向こうから呼び出してくるということは、何か特別な仕事をさせられるということなのだろう。
 とうとう俺もそういう魔法使いになったということらしい。
 喜びで緊張しながら魔法局の高いビルを見上げ、開く自動ドアの真ん中を通って中に入る。
 見知った受付の女性が、
「マキハルさん、こちらにどうぞ」と軽く手を挙げて言うので、そちらに行く。
 彼女から、来客用のカードキーを受け取る。
「七階の奥の会議室弐です」と彼女は言った。
 エレベーターのドアの近くにある挿入口にカードキーを挿し込むと、エレベーターが一階に降りてくる。
 カードキーの情報を読み込んだエレベーターは俺を乗せると七階に上がる。
 そして奥の方を目指して廊下を歩いていって、会議室弐を見つけるとそこでまたカードキーを挿し込んで開錠する。
 見たことのある顔の男が一人、既に部屋の中にいて椅子に座っていた。
 彼は立ち上がって、
「本日はお忙しいところわざわざお越しくださり、ありがとうございます」と頭を下げながら、低い声で言った。
 ああ、この声、テレビで聞いたことがある。
 俺はそう思いながら、恐縮してしどろもどろに何かを喋りながら何度も頭を下げた。
 男は魔法局の局長だった。
 既に髪は白くなっているのに、体は引き締まっている。
 そういった見た目のために一層威厳があるように見える男だ。
「まあ、座ってください」
 男は笑み、そう言った。
 言われるままに俺は近くの椅子に座る。
 それから俺は男と三十分ほど話していた。
 俺は酷く緊張していたから、話をするという感じではなく、ただ聞いているだけだった。
 彼の話すことに、ええだのはいだの相槌を打ちながら頷いていた記憶しかない。
 部屋から出る際に、男に言われた。
「ところで、チャオは連れていないのか?」
 魔法使いはチャオなしでは成り立たない。
 だから魔法使いは常にチャオを連れているものである。
「メンテナンス中なんです」と俺は苦笑いした。
「ああ、そうなのか。わかった。ありがとう」
 俺は一度会釈してドアを閉めると、早足でエレベーターに向かった。
 仕事の依頼だった。
 悪性のマナの発生源を調査する、という仕事だ。
 これまで、悪性のマナの濃度が高くなった地域がいくつも捨てられてきた。
 それらの地域を取り戻すために、たとえ危険でも誰かがしなくてはならない仕事だった。
 幸い俺以外にも多くの魔法使いが調査員として派遣されるらしい。
 身を危険に晒し続けなくてもいいということだ。
 しかし、悪しきものに立ち向かう魔法使いという英雄の物語のようなこの仕事を、歓迎しないまでも喜ぶ気持ちが俺の中にあって、死なない程度に頑張って何らかの情報を掴んでやるつもりになっていた。
 できればその原因を絶ってほしい、とは男からも言われていたことだ。
 その後に、無謀に突っ込んで死ぬくらいなら安全な所で調査していてもらいたいものだが、と男は言っていたが、どう振る舞おうが俺の勝手だ。
 考えなくてはならないこと。
 それはイナナを連れていくべきだろうかということだ。
 俺は自分の暮らすマンションの部屋でこれからの旅に必要な荷物を思いついた物からメモに書き留めつつ、そのメモ用紙の隅に書いたイナナという文字を見て考える。
 イナナはよく働くから役に立つ。
 あいつがいるとクリックも機嫌がよくなるし、俺も楽しい。
 長い旅になるなら、あいつにはいてほしい。
 しかし危険なことをしようという気でいるのに、彼女を巻き込むのはよくないことだ。
「うっす。いる?」
 イナナが合鍵を使って部屋に入ってきた。
 俺を見つけて、いるなら返事しなよ、と不満そうに言う。
「で、何か仕事ある?」
「しばらく旅に出ることになった」と俺は答える。
「え、どういうこと?」
「魔王を倒す冒険の旅だよ。リュックサック買わないと駄目だろうなあ」
 メモ用紙に、リュックサックと書く。その後ろに小さく登山用と付け足して。
「わかるようにちゃんと話して」とイナナが言った。
「ちょっと待ってくれ」
 俺は山や森で数日過ごすことを考えていた。
 そうできるように装備を整えるなら、キャンプ用品なども調べて準備をしたい。
 メモ用紙には、登山とかキャンプとか、思いつく限りの検索用のキーワードを書き込んで、それから俺はイナナに今回の仕事のことを話した。
 元凶を見つけたら、それを排除しに行くつもりでいることも話すとイナナは、
「それで魔王を倒す旅ってわけ」と嘲笑うような顔をして面白がった。
「そういうわけ」
「ふうん。私も付いていっていい?」
「正気か?」と俺は驚いた。
「マキのこともクーのことも心配だし。長い仕事になるんでしょ」
 期間のことは知らされていなかった。
 長いどころか、一生やり続けるかもしれない。報酬はよかったし。
「じゃあ私も行くよ。あと結婚しよう」
 そう言うとイナナは、得意そうな顔をした。
 これ以上ないプロポーズをしてやったぜ、と言いたそうだ。
 その顔のおかげで俺はあまり動揺しなかった。
「ああ、わかった」と俺は頷く。
「やった」
 イナナは破顔すると俺の握っていたペンを奪った。
 リュックサックの横に二人分と書き足し、それからその下に婚姻届と書き入れた。
「クーに証人になってもらおうか」とイナナは言った。
「あいつチャオだから無理だろ」
「なんだ、つまんない」
 クリックのメンテナンスが終わるのは明後日だ。
 俺たちは早速買い物に出かける。
 ホームセンターに向かう途中で、イナナは証人になってくれそうな人間に手当たり次第電話をかけていた。
引用なし
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MACA〜Magic Capture〜 第二話 破裂して、旅立ち
 スマッシュ  - 16/4/10(日) 1:06 -
  
 結婚式をしてから俺たちは旅立つ。
 式場できちんとやっては時間がかかるので、式とは言えないくらいの簡易なものを俺の暮らしているマンションの部屋で行うことにした。
 家族や友人を呼んで飲み食いするだけの、ただのパーティだ。
 ちゃんとした結婚式はいつかやろうね、とイナナは言った。
 そのパーティにクリックは参加できなくなった。
 クリックのメンテナンスは一日長引くのだと連絡があった。
「クーが戻ってこれないの、残念だね」
「これから危険な戦いに飛び込むことになるからな。クリックもそれなりに自分を強化するつもりなんだろう」
 チャオの改造については、飼い主である魔法使いが意見を出すことが多いそうだが、俺はクリックに判断を任せている。
 それはクリックの意思を尊重してのことではなく、クリックの方が自身を改造することについてよく学んでおり詳しいからだった。
 そして今回のように、こちらには連絡もなくクリックとメンテナンスセンターが勝手に改造を進めることは常だった。
「ケーキどうやって切ろうか」
 イナナはゆっくりチョップをするように右手を動かして考える。
 クリックがいれば、買ってきたホールケーキは八等分すればよかったのだ。
 俺たちのパーティに来るのは、イナナの両親と魔法使いの友人一人とそいつのチャオ、それからイナナの友人が一人だ。
 俺の両親とは五年前から連絡が取れなくなっていて、呼ぶことができない。
「八等分して、食べたいやつにやればいいんじゃないか」
 たぶん友人の魔法使いかチャオが食うだろうと想像して俺は言った。
「そっか、そうする」

 チキンやケーキなどが並べられているのを見て、クリスマスみたいだな、と魔法使いのツキは言った。
「半年早いじゃん!」
 彼のチャオ、ウサウサがそう叫ぶように言って笑った。
 クリックと比べて随分子供っぽい言動をする。
 クリックも生意気なことを言うだけで子供っぽくはあるのだが、ウサウサの落ち着きのなさはまさに幼い子供のもので目に付くのだ。
「一応、ウサウサにプレゼント買ってきたよ」とイナナは言った。
 するとイナナは目を輝かせて飛び、イナナにぐっと顔を近付けて、
「本当に!?」と言った。
 笑顔のままイナナは頷き、包装されたプレゼントを渡した。
「やっぱりクリスマスだ!」
 機械化されて大きくなった手で万歳するように受け取ったプレゼントを持ち上げてウサウサは喜ぶ。
「開けていい? ねえ、開けていい?」
「いいよ。開けてごらん」
「やった」
 ウサウサは一転黙り込んで、包装紙が破れないようにテープを慎重に剥がす。
 そして中の箱を開けると、そこにあった物を見て固まる。
 イナナからのプレゼントは、図書券だった。
「図書券じゃん」
 ウサウサはがっかりして、仰向けに倒れた。
 イナナの笑みが、優しいお姉さんの振りをしたものから、意地悪そうなものに変わっている。
 俺も笑いを抑えきれない。
 このプレゼントは二人で選んだ。
 ウサウサの騒がしさには飼い主のツキも困っていたし、いつもうるさくて苛立たされるので、ウサウサが喜ばないであろう物を選んだのだった。
「ありがたい。これでウサウサに勉強させるよ」
 ツキも笑っていた。
 ウサウサは勘弁してほしいといった感じで変な声を出しながら転がってうつ伏せになった。
「まあ、とにかく食べよう」と俺は言った。
 ウサウサはケーキを食べたがったが、それは後で食べると決まっている。
 ケーキ入刀をするのだ。
 ツキがチキンをやると、ウサウサはそれを食べるのに夢中になって静かになった。
「なんか子供みたいですね」
 ウサウサを見て、イナナの友人のミリアがそう言った。
「ああ、ガキなんだ。そいつのチャオは大人しいんだけど」とツキは答える。
「こっちはこっちで子供だよ。小学生とか中学生とか、そんな感じ。結構楽しいよ」
 イナナがそう言うと、ミリアはうなだれて溜め息をつき、
「私も結婚しなきゃなあ」と言った。
「いつから付き合ってたの。全然知らなかった」
「私たちも知らなかった」とイナナの母が言った。
「いつからって。いつだろう?」
 イナナは首を傾げた。
 俺もわからなかったから、いつだろうな、と言った。
「え、何それ、どういうことなの」
「告白とかしなかったから」とイナナは説明した。
 恋人という関係になった境目があったとしたら、それは初めて体を交わらせた時となるだろう。
 それは中学生の時になる。
 まず小学生の頃、俺たちは好き合っている男女がそういうことをすると知った。
 授業で教えられたのである。
 そして、もしもする相手がいるとしたらこいつだろうな、と俺たちは互いに思った。
 相手が自分と同じように考えているとわかって、じゃあそういうことなのだ、という気分になったのだった。
 実際に事に及ぶまでには間があったが、数年その気持ちが変わらなかったので余計に、そういうことなのだ、という気分は確信めいたものに変化していた。
「ずっと一緒にいたから、まあ、不思議なことでもないよ」
 イナナはなんでもないことのように言った。
「それだったら幼稚園の時から付き合ってたことになるねえ」とイナナの母はにこにこして言った。
「二人は凄く仲良かったから。こうなるんじゃないかって、思ってたのよ」
 イナナの母はミリアにそう言った。
 そうなんですか、とミリアは相槌を打った。
「そう。マキハル君のところで飼っていたチャオと一緒にね、朝から晩まで遊んでたの。あの子が来れないのは残念ね」
「うん。どこ行っちゃったんだろうね」
 イナナは頷く。
 そして事情を知らないミリアと、それからツキに向けてイナナはそのチャオがある日姿を消してしまったことを話した。
「寿命ではないんだよ」と俺は補足した。
「そうなのか?」
「あのチャオはカオスチャオだったから」
 カオスチャオは、不死のチャオだ。
 仮に不死でなくても人間以上に長命だと言われている。
 そんなチャオを俺の両親は飼っていたのだった。
「だから生きてると思うんだけど、再会できてないんだよね」
「カオスチャオは長生きだからな。賢くなって仙人みたいになって、何十年か後に会えばいいやくらいに思っているのかもな」
 冗談というふうでもなくツキは言った。
 チャオは魔法使いのために改造されて初めて喋るようになる。
 しかし改造される前からコミュニケーションは取れるし、その小さい体にしては考えられないほどの知性がある。
 だからチャオの中には人間以上に賢いチャオもいるという想像をする人は少なくない。
 ツキもそういった人間の一人のようだ。
「そうだね。いつか会えるよ」とミリアは頷く。
「うん、そのつもり」
 イナナは頷く。
 ウサウサがチキンを食べ終わりそうになっているのを見て、ツキはもう一つチキンをウサウサにやった。
「でも安心したわ。イナナがマキハル君とくっ付いてくれて」
「何それ」とイナナは母の言ったことに笑った。
「ほら、あの子だけじゃなくて、マキハル君の両親も行方不明になっちゃったじゃない。だから私はマキハル君のことが心配で心配で」
 言っている途中でイナナの母は泣き出した。
「泣くなんて、大袈裟ですよ」
 なだめるように俺は言った。
 するとイナナも、そうだよ泣くことないじゃない、と言う。
 しかしイナナの母は涙をぽろぽろと流しながら、
「イナナはたくましく育ったから、本当に、マキハル君が私の子供じゃないことがもどかしくてね。だから二人が一緒になってくれてよかった。これでマキハル君も幸せになれると思うから」と言った。
 それを何度も深く頷きながら聞いていたミリアが、
「よかったね」と俺たちを祝福した。
「うん」
 ツキはまた新しいチキンをウサウサに渡す。
 ウサウサはのんきに食べている雰囲気ではないことを察して、食べるペースが落ちている。
 それでも一応チキンをかじってはいる。
 イナナの母が泣き止むのを待って、
「そろそろケーキいこうか」とイナナは笑顔で言った。
 ケーキを切る前に、乗せてもらっておいたプレートを取り外す。
 チョコペンで二人の名前と、その間にハートマークを書いてある。
 包丁を二人で握る。
「こういうのってそれ用の包丁あるのかな」
 二人で持つには柄が短くて、イナナは言った。
 ケーキは切った所が潰れた。
「それじゃあ後は私が切るね」
 ミリアは俺たちから包丁を受け取った。
 八等分でいいよ、とイナナが言うとミリアはその通りにケーキを等分した。
 ウサウサがプレートを欲しがるが、
「駄目。私が食べる」とイナナはそのプレートを取った。
「ええ、なんで」
「その代わりケーキは二つあげる」
「まあ、それならいいけど」
 ウサウサはケーキをもう一切れもらう。
「よく食べるなあ」とミリアは呟くように言った。
「意外と食べるよ」
 イナナはそう言うと、プレートの角を口にくわえて噛み砕こうとした。
 歯を食い込ませたところで何かを思い付き、手でプレートを抑えて、
「そうだ、二人で食べよう」と俺に言った。
「誓いのキッスだ!」
 ウサウサは叫んだ。
 何がどう誓いのキスなのか俺にはわからなかったが、イナナは理解したらしい。
「そうだね」
 イナナはプレートをくわえたまま、俺に寄ってきた。
 それで棒状の菓子を二人で食べるゲームから連想しての誓いのキスなのだとわかった。
 プレートは大きくて、ろくなキスにならないだろうと思った。
 それでも周りはもう俺たちに注目してしまっていて、やるしかないと思った。
 その時に、警報が鳴った。
 魔獣が発生したのだ。
「マジかよ」
 うんざりと、ツキは言った。
 魔法使いの彼は対処に向かわなければならない。
「運動したらまた食えるよ」とウサウサは元気だ。
「俺が守ります。離れないでください」
 ミリアはイナナの両親に向けてそう言う。
 そして俺に向けて、
「お前も戦えれば安心なんだがな」とぼやいた。
「お前のチャオを使わせてくれれば戦える」と俺は返した。
「あほ言うな。同調できねえだろ」
 魔法使いはチャオの力を借りて魔法を使う。
 そのチャオを魔法使いが飼うのは、自分用に調整したチャオでなければチャオと同調することが難しいからだ。
 仮に同調できたとしても、自分用に調整したチャオと比べて弱い魔法しか使えない程度にしか同調できない。
「さあ、行くぞウサウサ」
「うん」
 ウサウサの頭の上の球体が淡く光る。
 そしてウサウサの肉体はその球体に吸い込まれるように、形を失ってまとわりつく。
 機械だった部分も球体を作るように変形して一緒になっている。
 そうしてできた大きな球体をツキは握り、自分の胸に押し付ける。
 すると球体を覆うウサウサの肉体だったものがぐずぐずとペースト状に形を変えて胸に広がる。
 そして球体はツキの胸に触れ、ツキの体内に潜り込んでいく。
 球体が全てツキの体内に入ると、ウサウサの肉体だったペースト状のものが急に意思を持ったように形を作り出しながら移動する。
 剣の形になって、ツキの右腕に装着された。
 ウサウサの手足だった機械はその右腕の剣の中核となり、それを刃になったウサウサの体が覆っている。
 ツキは左手でスマートフォンを操作して魔獣の情報を得ようとしている。
 俺も魔法使いなので情報がスマートフォンに入ってきている。
 それで確認すると、魔獣はこの近くで発生したことがわかった。
「近いな」
「だな」
 ツキが部屋の窓の方を見ると、丁度魔獣がこちらに飛びかかってきたところだった。
 窓を突き破って、魔獣が入ってくる。
 魔獣はドーベルマンが変化したもののようだった。
 それらしい体つきをしている。
 しかし体は大きくなっているし、四肢が筋肉質になっている。
 悲鳴を上げるイナナの母とミリアを、俺とイナナはかばうようにしながら、後退する。
「切り裂け」
 剣を魔獣に向け、静かにツキは言った。
 すると剣が光り、魔獣の耳が落ちた。
 他にも小さな裂傷がいくつかできる。
 その痛みで魔獣は吠え、興奮してツキに飛びかかる。
 ツキは飛びのく。テーブルを越えて、着地する。
 魔獣は前肢を振るってテーブルを倒す。
 ツキは着地するところを目がけて剣を突き出す。
「切り裂く」
 光った剣は魔獣の額に刺さった。
 深くまでは入らなかった。
 魔獣は叫びながら後ろにひいた。
 ツキが追い立てる。
 魔獣は距離を取ろうとして下がると、ベランダの壁がなくなっていて落ちた。
 おそらく魔獣がさっき壊したのだろう。
 落ちた魔獣を他の魔法使いが狩ろうと、魔法の炎を手から出すのが見えた。
「たぶん大丈夫だな」
 ツキはそう言って、俺たちに微笑んだ。
「はあ、よかった」
 イナナの母が脱力して、その場に座った。
「やばいねえ、これ」
 壊れた窓とベランダの壁をまじまじと見て、イナナは言った。
「どうせもう出ていくから、いいにはいいんだけどな」
 もうここで生活するわけではないのだ。
 でもいつか戻ってくることを考えて、持っていかない物はここに置いていくことにしてあるから、それを考えると困った。
「いっそここ引き払っちゃう? 物は全部捨てちゃってさ」とイナナは言った。
 そうしよう。
 壊れた窓から入ってくる夜風を受けて、俺はそう答えた。
引用なし
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MACA〜Magic Capture〜 第三話 爆発する力
 スマッシュ  - 16/4/16(土) 18:48 -
  
 壊れた部屋で一晩過ごし、俺たちはチャオメンテナンスセンターへ行く。
 ようやく戻ってきたクリックには、角が付け足されていた。
 カッターナイフの刃のような一本角だった。
「よおっす」
 女性のスタッフに抱えられたクリックは手を挙げて言った。
 クリックの変化に驚いて角をじっと見ている俺たちに、
「どうだ、格好いいだろう、これ。まだ慣れなくて重いけどな」と得意そうに笑った。
 よく見ると、クリックの足も少し変わっていることに俺は気付いた。
 足の機械が大きくなっているように見えるが、それだけではないような気もする。
「どうしたの、それ」
 イナナが角のことを聞くと、
「説明はこっちがする」とクリックは自分を抱えているスタッフを指した。
「こっちとか言っちゃ駄目でしょ」
 イナナが母親然としてクリックを叱ると、スタッフの目が優しそうに笑う。
「いいんだ。俺とこいつは仲が良いんだ」
「素敵な子ですよ、クリック君は。とても賢いし」とスタッフも楽しそうに言う。
 彼女はまず角以外の点について説明を始めようとした。
 クリックは相変わらず得意そうな顔をしている。
 その顔で大幅に変わったらしいということがわかった。
 スタッフの女性が話すには、これから戦闘の機会も増えるため、どのように強化するかが焦点となったらしい。
 しかしパーツを付け足すことはしなかったらしい。
「機械の所を増やすと、マナを感じられなくなるような気がするんだよな」とクリックはそのことについてそうコメントした。
 魔法使いによっては、チャオの体の大半を機械にすることもある。
 一度機械に変えた部位は元には戻せない。
 マナを感じるうんぬんだけでなく、戻れないことへの恐怖があるのだろう、と俺は思った。
「ただ、その代わりに内部も足もパーツを最新の物に変えました。その際、スペックを保ちながら軽くするか、軽くすることは考えないでスペックアップするかというのがあったんですけれど、これからの仕事のことを考えると後者の方がいいだろうとクリック君も私共も判断したので、そういう方向性でパーツを選びました」
「足がな、重くなった。その分、かなりパワーアップはしたけどな」とクリックは言った。
「マナの貯蓄量が五十パーセント、マナの吸収力が百パーセントアップしています」
「二倍ですか」と俺は驚く。
 マナを溜める時間が半分になれば、戦い方は変わってくる。
 これまでの魔獣退治では、魔獣の進行方向を予測して迎え撃っていた。
 確実に魔獣と対峙するために、複数人で包囲網を張って待ち構えるという方法を取るしかなかった。
 しかしクリックの性能が上がったことで、こちらから魔獣に向かっていくことができるかもしれないというのは、これからの仕事には心強いことだ。
「そんなに強くなっちゃうと、ついに魔獣狩りって感じだね」
 イナナのその言葉は、褒めているようにも残念がっているようにも聞こえた。
 魔獣狩りというのは、魔獣の討伐を主な仕事として稼いでいる魔法使いの呼び名だ。
 好戦的で、やたらとチャオのスペックを上げるために改造をさせたがって、チャオの気持ちなど考えない。
 そんな好ましくない人物像を描かれがちな人々だ。
「正義の勇者さ。一角獣のスペック様だ」
「ああ、それでこの角は一体?」
「それは、悪性のマナを対処するためのパーツです。今回の仕事には必要な物なので、付けるように魔法局から指示を受けました」
 彼女の説明によると、その角には悪性のマナを感知するのを助けるレーダーの機能があるそうだ。
 必要がなくなれば、外に見えている部分を外すことはできるらしい。
「こんなださい角だが、力は確かだ。昨日の魔獣で確かめられた」
「ああ、出たな、昨日」
「俺の力が試せなくて残念だった」
「おかげで俺たちの住んでた部屋がぶっ壊れたぞ」
「嘘だろ!?」
 クリックは叫んだ。
 その反応が面白くて俺は笑った。
「それが、本当なんだ」
「昨日、その魔獣がうちに来ちゃって。大変だったよ」
 イナナも面白がっている。
「それでお前たち、無事だったのか」
「ああ。ツキとウサウサがいたからな」
 結婚式をやっていたんだよ、とイナナが説明した。
「そうだったのか」
 クリックは女性の腕から逃れるようにして飛び降りた。
 そして俺を見上げてクリックは、
「リベンジマッチに行くしかないな」と言った。
「なんだそりゃ」
「まだいるんだよ。魔獣が」
 クリックは俺に手を差し出す。
 持ち上げろという意味だ。
 俺はクリックの手を取り、引き上げる。
 すると引っ張られる勢いを利用し、羽をいくらかばたつかせるとクリックは俺の肩に乗る。
「きっと昨日のでもう一匹生まれていたんだ。行くぞ」
「偉そうだな」と俺は言った。
「偉いんだよ。走れ。他のやつに取られる」
 俺は駆け出す。
 クリックが魔獣のいる方向を指示する。
「相当手強いやつだぞ。逃げ足が速いんだろうな。そうでもなきゃ、とっくにやられてるはずだ」
 クリックはそう言った。
「なら先回りした方がいいんじゃないのか。できればだけど」
「できねえだろうなあ。今も遠ざかってる」
「じゃあどうしようもないんじゃないのか」
「知らねえよ。とにかく追うしかないだろ」
 俺は呆れた。
「わかった。とにかく追えばいいんだな」
 俺は走るのをやめて、立ち止まった。
「同調か」とクリックは言った。
「そうしないと体力が持たない」
 走らされて、俺はもう息が切れていた。
 クリックは同調のために光り出す。
「そういえばよ、別の魔獣ならリベンジマッチとは言わないんじゃないのか」
「このタイミングで変なこと言うなよ、クソが」
「お前は魔獣のサーチをしろ。いいな」
 クリックは頷く。
 体が溶けて、大きな球体となる。
 俺はその球体を自分の胸に押し込む。
 クリックの角が俺の額に付き、脚だったパーツは俺の背中にごく小さな羽として付いた。
 その羽にまとわりついて、クリックの体だったものが羽を大きくする。
 チャオと同調したところで身体能力に大差ない。
 それでも魔法で動きをサポートすることはできる。
「あっちだ」
 羽がそう言った。
 クリックの声だ。
 あっちと言われるだけでも、どの方向なのか伝わってくる。
 魔法のおかげで、さっきよりも速く走れる。
 そして俺はクリックの性能が上がったことを思い出した。
「飛んでみるか」と俺は呟く。
 マナを溜めて、それを推進剤として飛翔する。
 手近にあった低いビルの屋上まで上がる。
 同じように飛翔して、それより少し高いビルの屋上へ行く。
「なあ、気付いたことがある」
 上へ向かっている途中で、羽のクリックは言った。
「この魔獣、空を飛んでいるみたいだ」
「上にいるってことか?」
「たぶんそうだ。近付いてる」
 あまり正確に位置を知ることはできないようだ。
 文句を言いたくなったが、魔獣を見つけることを優先して高いビルを探す。
 近くにはもうここより高いビルはない、という所まで移動して、魔獣の位置をクリックに聞く。
 これで遠いと言われたら、もっと高いビルに行くためかなりの距離を移動しなくてはならない。
「この感じは、上で動き回ってるのか? すまん、よくわからない。だけどだいぶ近くなった」
 クリックはそう答えた。
 結局近いのか遠いのかわからない。
「わかった。とにかく魔法を撃ってみよう。向きはお前に任せる」
 俺は右腕を上げた。
 羽となっていたクリックの体だったものが俺の右腕にまとわりつく。
 俺の右腕が紫色に変色したようになる。
 その右腕はクリックの意思で動く。
 クリックが俺の腕を動かして空に狙いを定める。
 俺の想像よりも高い所に魔獣はいるらしく、腕はかなり上の方を向いている。
 俺は魔法を撃つことだけ考えている。
「貫いてくれ」
 そう言って、俺は魔法の矢を右腕から放った。
 魔法の矢は重力に引っ張られることもなく、真っ直ぐ飛ぶ。
 まるで糸を張ったように、マナの光の残りが薄く残る。
 その細い糸は見えないくらい遠くの、そのまた遠くまで届いたはずだ。
 溜めたマナの量で威力と飛距離が変わる。
 なるべく魔獣に当たる可能性を高めるために、マナを多く溜め、飛距離を伸ばしてあった。
「どうだ」と俺はクリックに魔獣の動きを聞く。
「こっちに向かってきている。やっぱりあっちにいたみたいだ」
 当たったか、それか矢が魔獣の近くを通ったかしたらしい。
 俺たちの存在を認めた魔獣がこちらに向かってくる。
 飛んできたのは、カラスの魔獣だった。
「見えればこっちのもんだ」
 魔力を溜める。
 右腕の操作権限を俺に戻す。
 魔獣はこちらに真っ直ぐ突っ込んでくるようだった。
 全力で加速することだけを考えているかのよう。
 こちらに迫ってくる魔獣の体は、風景から飛び出てきたかのように急激に大きくなったように見える。
 それだけ短時間で加速していた。
 しかしその加速で俺たちの体を食い破るには、そもそも離れ過ぎていたのだ。
「燃えろ」
 右腕から炎が噴き出す。
 魔法による火炎放射をカラスに浴びせ、そして俺はビルから飛び降りて攻撃を避ける。
 今のクリックの性能なら、魔法で飛び上がってまたビルに戻れる。
 そうわかっていても、飛び降りるというのは、どきりとするものだった。
 安全の確信と緊張とで、俺の口元は笑う形になる。
 魔法で飛び上がってビルに戻って、魔獣の姿を確認する。
 魔獣の体に炎がまとわりつくが、魔獣が空中で激しく暴れると火は消えそうになる。
 そこにどこからか飛んできた魔法の矢がいくつも刺さる。
 他の魔法使いもこの魔獣を見つけたのだ。
「早くとどめを」とクリックが言った。
 強化されて初めての戦闘。
 それを輝かしい勝利で飾りたい。
 そのようにクリックは思っているらしかった。
「わかったよ」と俺は答えた。
「なら、最高に派手な魔法で行くぞ」
 俺は調子に乗っていた。
 クリックの性能アップは、俺たちの力をとんでもないレベルで強化していた。
 魔法使いは、そのファンタジーを思わせる言葉とは裏腹に、自由ではない。
 しかし今の俺たちは、前の俺たちより自由だ。
 空を飛ぶ魔獣と戦えるだけの飛翔ができる。
「もう一度、燃やす!」
 俺は魔獣に飛びかかりながら、右腕から炎を出した。
 火炎放射は魔獣の体を焼く。
 魔獣は慌てて俺の炎から離れる。
 さっきと同じように、魔獣の体には炎がまとわりつき、それを振り払おうと魔獣はする。
 その残った炎。
 それが、次の手の鍵。
「その炎が俺の魔法の炎ならば、俺のマナで弾けてみせろ!」
 右腕から不可視の魔法を放つ。
 それが魔獣の体の炎にぶつかると、魔法の炎は魔法の爆弾に姿を変えて次々と炸裂する。
 魔獣はその爆発の連打で体の制御が一秒ほどできなくなり、落ちそうになる。
 爆発が止んでも、それまでに受けた矢のダメージもあって、飛ぶ力を失っていた。
 俺はその魔獣にもう一度炎を浴びせ、そして爆破した。
「どうだ、俺の力は」
 チャオの姿に戻って、クリックは誇らしそうに言った。
「ああ、これなら戦えるな」
 俺ははっきり、俺たちの脅威となるマナの源を打ち倒そうと思ったのだった。
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MACA〜Magic Capture〜 第四話 南
 スマッシュ  - 16/4/24(日) 21:55 -
  
 南へ高速電車で向かう。
 昔、南には大きな国があった。
 ケーダという国だ。
 今では国が丸ごと悪性のマナに侵されてしまって、立ち入りは禁止されている。
 電車でその近くまで行って、その後は車で国境を越える予定である。
 俺たちは駅弁を三つ買って電車に乗った。
 これからの仕事の報酬は既に振り込みが始められて、それで出し惜しみすることなく最高級の弁当を買ってみた。
 電車が走り出すのを待つクリックはそわそわしていて、しきりに窓の外を見る。
 まるでホームに立つ人がいなくなれば電車が動き出すと思っているかのように。
 電車が走り出すとすぐにクリックは弁当に付いてきたおしぼりで手を拭き、弁当の蓋を開ける。
 そして刺身を一口二口とぱくぱく食べると、
「やっぱ電車には駅弁だなあ」と言って、おいしさを表現する。
「駅弁だからおいしいんじゃなくて、高いの買ったからおいしいんだよ」
 そう言って、イナナも一口食べて、
「あ、おいしい」と呟く。
「これからは毎日こういうの食べようぜ。報酬高いんだろ?」
 クリックは俺にそう言った。
 確かに報酬は高くて、毎日こうとはいかなくても、少し贅沢な生活をするくらいのことはできる。
 だけど俺は、無理だな、と返した。
「金はあっても、金を使う所がないぞ」
「マジかよ」
「侵食されてるんだからな」
 そんな所でずっと暮らすわけはないのだが、クリックはそのことに気付かなかったようだった。
「この弁当が最後の贅沢か」
 クリックはエビフライを見つめて、ゆっくり噛んだ。
 大事に味わいなよ、とイナナも子供を諭すように言う。
「せめて木の実くらいは食わせてくれよ」
「わかってるよ」と俺は答える。
 チャオは人の食べる物だけでなく、チャオらしく木の実も食べる。
 人からすればチャオの食べる木の実はどれもまずくて食べにくく、ある意味でチャオは人以上に雑食だった。
「あ、そうだ。じゃあさ、これからしばらくどっかで観光しよう。戦いの前の休息。バカンス。あ、新婚旅行だよ」
 クリックは俺たちを交互に見て言った。
 そんなのするわけないだろ、と俺はすぐに返したくなった。
 一応イナナの気持ちを知りたくて、俺は呆れたような顔をしながらイナナの顔を見る。
 するとイナナは、
「新婚旅行は全部終わった後に、めっちゃ凄いのする予定だから。世界一周とか」と言った。
「ああ、それいいなあ。今からやらない?」
 どれだけ贅沢な食事をしていたいのだ、と俺は本当に呆れた。
「怖気づいたのか?」
 戦いを先送りにしたいと捉えたように俺は言ってやる。
 するとクリックは、そうじゃない、と首を振る。
「わかったよ。すぐに終わらせて、それで世界一周、食べ放題ツアーだ」
「世界一周の旅行に食べ放題って付いてくるかな」とイナナは首を傾げた。

 終点で俺たちは電車から降りる。
 電車の中で眠っていたクリックは、眠そうに俺の肩にしがみ付いて目をつぶっている。
 長距離の移動だったために、もう夕方だ。
 駅近くのホテルを取ってあった俺たちはチェックインする。
 ここで泊まるホテルも、駅弁と同じように、しばらく贅沢なことはできないだろうから大きなホテルにしておいた。
 ツインルームは広く、布団を敷いてしまえばもう十人は泊まれてしまいそうだ。
「いい所だな」
 部屋の広さと、十二階という高さから見る外の景色の両方を眺めながら、俺はクリックをベッドに転がした。
「また魔獣が突撃してきたりしてね」
 イナナは笑って言った。
 もっと高い部屋だったらそんな心配をしなかったかもしれないが、デパートや他のホテルなどから魔獣が飛びかかってきそうな高さだった。
「まさかそんなことないと思うけどな」
 苦笑いする。
「まあ、私もないと思うんだけどね。でもちょっと心配」
「魔獣は多いだろうしな。でも南には強い魔法使いも多いからな、大丈夫だろう」
 そう言って俺はホテルのロビーの自動販売機で買ったコーラを飲む。
 悪性のマナに侵された国が近くにあるせいで、国境を越えてきた魔獣が頻繁に現れる。
 それで魔獣退治を得意とする魔法使いは以前から南に集まっている。
 南の魔法使い、と言えば魔獣と戦うことを好む魔法使いというイメージがあるほどだ。
 俺とクリックだけで戦うのは辛いだろうから、ここで仲間を探すというのも悪くないかもしれない。
 きっと南の魔法使いたちにも、俺と同様の依頼が来ているはずだ。
「こいつの言ったバカンスじゃないけれど、しばらくここに滞在するのもありかもな」
 そう言って俺は、仲間を増やすという考えをイナナに話す。
「それいいね。みんなで戦えば怖くないよ」
 イナナに頷かれて、やはり仲間は不可欠だという考えになっていく。
 クリックは性能が上がったと言ったって、全身を改造しているわけではないし、クリック自体に天才的な力が宿っているようにも見えない。
 俺にしたって、魔法を扱う才能に恵まれてはいない。
 そんなので、悪性マナの根源やそれを守る魔獣たちを打ち倒すことができるとは思えない。
「どこで探すの? 酒場?」
「ゲームや西部劇じゃないんだからさ」
 俺はそう笑うが、案外酒場はいい場所かもな、と感じた。
「とは言っても、酒場以外だと、どこ探せばいいんだろうな」と俺は言ってみる。
「SNSで出会うとか」
 イナナは人差し指を立てた。
「それか、魔獣と一緒に戦って、それで友情が芽生えて仲間になる」
「それができれば一番いいや」
 俺はクリックの寝ているベッドに体を横たえて言った。
 魔獣と戦っているところで出会えれば、相手の実力もわかる。
 いい仲間と出会うには最適の方法だ。
「夕飯どうする?」
 イナナに聞かれて俺は、寝ているクリックの羽をそっと撫でつつ、
「ステーキでも食わせてやるか」と答えた。

 朝、目を覚ますと、イナナはもう起きていて、ニュースを見ていた。
「おはよう」と俺が言うと、イナナは挨拶を返さずに、
「大変なことになったよ」とどうでもいい世間話をするようなテンションで言った。
「どうした」
「ちょっと遠くだけど、でもケーダからこっちの方に悪性マナの塊みたいなのが落ちてきたってさ」
「マジかよ」
 クリックはまだ眠っている。
 ニュースでは、悪性マナの落ちてきたという地域の映像が放送されている。
 そこでは何頭もの牛が魔獣となって、暴れている。
 そして所々で魔法使いによって倒される。
「魔獣がこっちに来るかもしれないから気を付けろってさ。外でも放送されてるよ」
「そうか」
 窓を開けてみると、魔獣に警戒するようになどと言っている放送が聞こえる。
 クリックが飛び起きる。
「魔獣が来るぞ!」とクリックは言った。
 俺たちは、そんなこと知ってる、という顔をして立ち上がる。
「じゃあ一度外に出るか」
 イナナは頷く。
 また部屋に突っ込んでこられても困る。
 もしくはこのホテルが崩されるかもしれない。
「急げ近いぞ」
 クリックが早口でそう言うなり、ホテルは大きく揺れた。
「まさかこれ?」と俺が聞くと、クリックは頷く。
 遅れて外の放送が、魔獣の出現を速報で告げる。
「上か? 下か?」
「上」
「右腕だ」
 クリックは指示した通りに、俺の右腕に座る。
 俺はクリックと同調する。
 クリックの体はほとんど溶けない。
 機械の脚と俺の右腕を接着する分だけ尻尾が溶けているだけである。
 廊下に出ると、同じ階の宿泊客が動揺しながら階段に向かっている。
 エレベーターで逃げる人がいないことを期待するが、エレベーターはどれも上へ下へと動いている。
 階段で上ろうにも、下りてくる人の波には逆らえそうになく、俺たちも一階まで下りることになる。
「向こうはまだ同じ階で暴れてるような感じがする」
 クリックは囁くように俺に言ったが、一階のロビーは人で溢れていて、周りに聞かれたように思った。
 ホテルの外に出ようとする流れから外れるように、壁際に俺は移動する。
 俺にぴったり付いてきていたイナナに、
「お前は逃げてもいいんだぞ」と言う。
「え、こっちの方が安全そうだし」
 否定はしないけれど、肯定もできない。
 まあいいか、と思う。
「じゃあ人がいなくなったら、適度に離れてろ」
「うん」
 人はホテルの外へ逃げていって、ロビーには俺と同じようにチャオと一緒にいる魔法使いらしき人間だけが残る。
 俺たちを含めて、魔法使いは四人いた。
「さあ、どうしようか。ここで迎撃か、こっちから行くか」
 両腕にチャオの体の機械をまとった魔法使いの一人が言った。
「考える必要はなくなったみたいだぞ」
 クリックは小さな声で言った。
 同じように悪性のマナを感知できるらしいチャオの飼い主が、来るぞ、と大声で言う。
「落ちてくるみたいだ。そこから来る」
 クリックは俺の右腕を動かして、エレベーターに向ける。
 他の魔法使いたちもエレベーターのドアを注視する。
 そのドアを破って、魔獣が姿を現した。
 猪のような姿をしている。
 まるで弾丸のように体は変形している。
 猪らしいことから、全員が相手の攻撃を避けてこちらの魔法を当てる戦い方を選んだらしく、脚に力を入れている。
 そして魔獣も身構えていた。
 動けばやられるとわかっているかのようだった。
 そこにクリックが、そういう気配に気付いていないかのように唐突に、魔法を放つ。
 拳ほどの大きさの氷の塊を脚の機械から飛ばした。
 それをこめかみに当てられて、魔獣は即座にこちらに突進してくる。
 クリックのやりたいことは俺の頭に伝わってきていた。
 俺は魔法の力で脚力を強くして、横に飛ぶ。
 それと同時にクリックとの同調をやめて、俺の体から離す。
 魔獣の体は俺の横を通り、そしてクリックはその魔獣の体に取りついた。
 魔獣は前肢の片方でブレーキをかけ、そこを中心にして体の向きを変えることで方向転換をして、止まることなく走り続ける。
 その魔獣の体にしがみ付くクリックは、ナイフを振り下ろすように脚を魔獣の体に突き刺す。
「俺の勝ちだあ!」
 それは攻撃の手に困っている魔法使いたちに言っているようにも聞こえた。
 そして突き刺した先から爆発の魔法を使って、魔獣の体内を破壊していく。
 クリックは魔獣の体が二つに引き裂かれるまで、爆破を続けた。
「どうだよ俺の戦いは」
 さっきの台詞はやはり魔法使いたちに向けたものだったらしい。
 誇るようにクリックは魔獣の体の上に立って言った。
 魔法使いたちはそんなクリックを見ていた。
「俺は死ぬかと思ったぞ!」と俺は叫ぶ。
「私も!」
 イナナも叫ぶ。無事なようではある。
 俺はクリックの思い付きを実行する時に、イナナのことを意識から外していたことに気付いた。
 俺たちがクリックに文句を言ったことで空気は緩んだようで、
「飼い主放り出して戦うなんてあり得ねえよ。クレイジーだ」と両腕に機械をまとっていた魔法使いは言った。
「普通に戦えばよかっただろうに」
 他の魔法使いもクリックに呆れたように言う。
「そうでもないでしょ。だって、チャオとの同調切って戦う魔法使いってよくいるだろ」
 クリックは反論する。
 確かに同調することで短時間に細かい指示を出せるのを利用して、チャオをブーメランのように繰って戦う魔法使いはいる。
 俺も右腕にクリックを乗せたのは、そういうことをするつもりだったからなのだが、
「飼い主がそうしろって指示したわけじゃないんだろ?」と魔法使いに言われる。
「ああ。俺のアイデアだ」とクリックは言う。
「それで飼い主を危険に晒すのは、やめた方がいいぞ」
「勝ちゃあいいのさ、勝ちゃあ」
 クリックは少しも彼らの言うことを聞こうとしない。
 それで魔法使いたちの視線は俺の方に向いて、
「お前チャオ変えた方がいいぞ」とか言われてしまうのだった。
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MACA〜Magic Capture〜 第五話 流星群
 スマッシュ  - 16/5/16(月) 22:46 -
  
 流星群だった。
 元ケーダから悪性のマナを蓄えさせた魔獣や岩石が降り注いだ。
 そのために俺たちが泊まったホテルのすぐ南までが、たったの一時間で魔獣たちの住処と化してしまったようだった。
 魔獣たちがここまで侵略してくるのは時間の問題。
 避難指示が出され、人々は逃げる。
 緊急避難用に電車がダイヤを無視して盛んに出される。
 放棄されたエリアから着いた電車が、南に戻ることなくさらに人を乗せて北へと向かっていく。
 俺たちは駅で、人々が電車になだれ込む様を見ていた。
 やがて南へ行くための、魔法使いを運ぶための電車が来る予定になっていた。
 そういう連絡が届いているだけで、いつ来るかなどは未定で、俺たちは他の魔法使いと電車を待っているのだった。
 待機している魔法使いの中に、ホテルで会った魔法使いたちもいて、俺たちは彼らと一緒にいる。
 さっきチャオの機械を両腕に装備していた魔法使いが、リーダー風を吹かしている。
「これからは、さっきの猪よりもずっと強い魔獣と戦うことになるに違いない。それぞれが自分勝手に戦ってもやられるだけだ。手と手を取り合って戦うために、俺たちは互いのことをよく知らなくちゃならない」
 彼のチャオは彼の頭上を飛んでいるが、その様がどこか偉そうな感じで、チャオもまたリーダーとして振る舞うつもりでいるようだった。
 そのチャオはニュートラルオヨギチャオで、両腕両足が機械になっていた。
「俺はキリザ。そしてこいつはウォード。こいつは剣に形を変える。その時その時によって刀身を変化させる、変幻自在の二刀流というわけだ」
 両腕に機械をまとう魔法使いはそう言うと、彼の横にいる女の魔法使いの方を見て、自己紹介をするように促した。
 その女は黒い帽子を目深に被り、黒いパーカーを着て、灰色のジーンズを履いていた。
 チャオはダークハシリチャオだ。
「私はミズマ。この子はライズ。私たちは素早さが売りなんで、よろしく」
 その二人の自己紹介で、反時計回りに進めていくことが決まったみたいだった。
 ホテルで魔獣のマナを察知していたチャオと、その飼い主の男の番になる。
「私はライ。そしてこいつはダルア。魔獣の察知と、狙撃が得意だ」
 次に俺たちが自己紹介をして、最後にヒーローハシリチャオとその飼い主の男の番となる。
「俺はシノキ。こいつはルコサ。俺も狙撃が得意だ」
「ならわかりやすいな」
 指を鳴らして、キリザは言った。
「俺とミズマちゃんとマキハルが前衛。ライとシノキさんが後衛だな。イナナさんは上手く隠れてくれよ。命の保証はできない」
「わかりましたあ」とイナナは笑みを浮かべて言った。

 四時間待って、ようやく南行きの電車に乗ることができた。
 魔法使いと一緒に載せる、食糧などの物資を集めるのにそれだけの時間がかかったようだった。
 魔法使いを運ぶのはこの一度にするつもりのようで、そのためにも出発を遅らせたのだろう、とキリザは言った。
 レールが破壊されない限りは、定期的に貨物列車で物資が運ばれるはずである。
 元ケーダやその周辺で戦っている魔法使いの生活も、そのようにして支えられてきたのだ。
 魔法使いのために用意された三両は、しかし空席が目立った。
 チャオを隣に座らせる魔法使いが多く見られ、キリザなんかは横になって眠っていた。
「なんか、準備する間もなく本番って感じだね」とイナナは俺に言った。
「そうだな。だけどおかげで食べ物には困らなそうだ」
 後部の車両に積まれた荷物のことを思いながら俺は言う。
 そうだね、とイナナは頷く。
「あんたたち、変だな」
 イナナの隣に座っていたミズマがそう話しかけてきた。
「そうかなあ」
 イナナが言うと、そうに決まってる、とミズマは返す。
「魔法使いでもないのに、危険な場所まで来ないだろ、普通」
「でも私、戦い以外なら結構役に立つと思うよ。そういう手伝いしてきたし」
「それにそのチャオ。そんな自分勝手なチャオでよく戦えるよね」
「またそんな話かよ」
 クリックはつまらなそうに言う。
「俺は優秀だから大丈夫なんだよ」
「面白いなあ」
 ミズマは笑う。
 クリックのことが気に入ったみたいだ。
「あんたたちみたいのが生き残るんだよね。あんたたちは、その変な感じで安定してるんだ」
「それは、ありがとう」
 本気で褒めている様子なのだが、いまいち褒められている気がしなくて、俺は苦笑する。
「もしかしたら、あんたたちと一緒に動いた方がいいのかもね」
「かもねも何も、そういうことするんじゃないのか?」
 俺は寝ているキリザの方を見て、言った。
「そんな話、いつなかったことになるかわからないよ。死んじゃうかもしんないし」
「まあ、お互い生き残ろうぜ」とクリックは飛んでミズマに近付いた。
 チャオにそんなことを言われて、ミズマは声を上げて笑った。
「そのつもり」
 ミズマはクリックを抱き締め、撫でた。

 電車が目的の駅に着く。
 まず魔法使いが降り、そして魔法使いたちが魔法を使って荷物を下していく。
 魔獣を警戒する魔法使いと、荷物を下す魔法使いに分かれて、作業は行われていく。
 この作業の経験があるらしき魔法使いの集団が指揮をしたために、混乱もなくのろのろと作業は進められていく。
 俺たちはチャオと同調し、五人固まって荷物を運ぶ。
「ああ、来る」とライが言った。
 俺たちは荷物を放り出して、ライが指さした方を注視する。
 たくさんの魔獣がミサイルのように飛んでくるのが見えた。
「危ねえ!」とキリザが叫ぶ。
 そんなこと言われなくてもわかる、と俺は思った。
 同じような言葉を、ミズマが声に出した。
 飛んできた魔獣はミサイルのように爆発しなかったが、その勢いで大きな衝撃を生み、大きな音を立てて地面を揺らして砂埃を舞わせた。
 俺たちの近くには二匹、落ちてきた。
 しかし落ちてきた魔獣はそれだけではない。
「まずはこの二匹からかな」
 ミズマが尋ねるように言った。
 誰も答えなかったが、彼女の言った通りの方針で戦おうと俺たちの中で定まったのをなんとなく感じる。
 二匹の魔獣はどちらも同じ形をしていて、狼のような姿をしている。
 犬の兄弟などが魔獣化したのだろう。
 ミズマが俺たちから見て右側にいる魔獣に向かって走った。
 その走りは、魔法で強化されているにしたって、速い。
 そしてミズマの狙っていない、左側の魔獣は、俺たちに向かって駆け出す。
 ミズマと魔獣がすれ違う。
 こちらに来た魔獣の突進、そして前肢によるストレートパンチを、キリザが両手の剣で受け流す。
 攻撃後の隙を狙ってキリザはそのまま体をひねって剣を振った。
 しかし魔獣はまるで今の攻撃がフェイントでしかなかったかのように、速度を落とさず走っていて、キリザの剣は空振りする。
 魔獣が狙っていたのは、後衛の二人だ。
「俺たちを狙え!」というクリックの苛立ちが俺の頭に伝わる。
 キリザの剣がもう届かなくなっているように、俺たちの得意の魔法ももう届かない。
 矢の魔法を撃とうと思ったが、フレンドリーファイアの可能性を意識してしまい、躊躇う。
 撃たなかったらそれはそれで二人が危ない。
 そう考え直した瞬間、魔獣の体を矢の魔法が貫いて、俺とキリザの間を抜けた。
 それは狙撃が得意と言っていたシノキの魔法だった。
 その矢が、魔獣の体に開いた穴が、俺とキリザを攻勢に転じさせる。
 俺は矢の魔法を撃とうとする。
 キリザは魔獣を両断するべく近付こうとする。
 しかし魔獣は自分のダメージをなんとも思っていないような動きで、後衛の二人に飛びかかった。
 魔獣が止まっていたのは、矢を受けた一瞬だけだった。
 魔獣の牙がシノキの体を裂いた。
 そして魔獣は首を回して勢いをつけ、二つに分かれた体を放り投げ、彼の死を俺たちに見せつけた。
 俺の矢の魔法が魔獣に刺さるが、シノキのものと比べれば威力が低いのは明らかで、それで魔獣が倒れるはずがない。
 魔獣はすぐライに襲いかかる。
 ライは逃げようとするが、諦めた足取りだった。
 大して走らずに魔獣に噛まれる。
 そしてライは自分を噛む魔獣とは全く関係のない方向へ矢の魔法を放った。
 魔法はミズマがいた方へ飛ぶ。
 そちらを見ると、ミズマは別の魔獣と向かい合っていた。
 落ちてきた魔獣よりも三倍ほどの大きさがあって、人に似た形をしている。
 よく見ると、その魔獣の腕は狼のような魔獣だった。
 それが片腕しかない。
 ミズマが戦っていた魔獣がその腕になっていて、今二人の魔法使いを食い殺した魔獣がもう片方の腕になるのだろうか。
 大きな魔獣は腕を地面に叩き付けてミズマを潰そうとするが、彼女は素早く動き回って掴まりそうにはない。
 もう一匹の魔獣に視線を戻す。
 同じく大きな魔獣を見ていたキリザも、仲間を殺した魔獣の方に向き直った。
「まずはあいつをやるぞ!」と俺に言い、キリザは魔獣へと向かって走る。
 しかし魔獣は大きく跳んだ。
 キリザの剣が届かないくらい高く跳んでキリザを越えて、大きな魔獣の方へ戻っていく。
 そして大きな魔獣のもう一本の腕となった。
「人型の魔獣だっていうのか!」
「しかも巨人だな」とクリックが言う。
「まとまってくれた方がやりやすい!」
 キリザはそう言って、大きな魔獣へと駆けていく。
 しかし魔獣までの距離はかなりある。
 走りながら俺は魔獣の胴体目がけて矢の魔法を撃ってみる。
 当然ながらそれは勲章のように刺さるだけで、魔獣は気にしない。
 そして無力を恥じるように魔法の矢は消失する。
 キリザが近付くまで、魔獣は両腕を交互に叩き付けて、ミズマを潰そうとする。
 そしてキリザがあと数秒で魔獣に切りかかれるというところまで近付いた途端に、魔獣は右腕をキリザに向けて飛ばした。
 飛んだ右腕は狼の魔獣であるから、大きく口を開いてキリザを&#22169;み砕こうとしている。
「危ねえ!」
 キリザは両腕の剣を盾にすることで、どうにか受け流すことに成功する。
 軌道を逸らされた魔獣は、俺の近くに着地する。
 着弾といった方が正しいかもしれない。
 魔獣は着地する地点を決められるわけではなく、ただ飛ばされたままにここまで来た。
 そのことを、踏ん張って着地する様子から感じた俺は、魔獣に飛びかかっていた。
 すぐに次の行動へ移れていなかった魔獣の頭部に、魔法で作った氷の塊をぶつける。
「貫け!」
 クリックを俺の体から切り離し、爆発によって転がった魔獣に投げつける。
 クリックは放物線を描きながら剣に形を変えて、魔獣に真上から突き刺さった。
 剣になったクリックはそのまま地面に刺さり、魔獣をそこに固定する。
「これで動きは封じたはずだ」
 呟き、俺は大きな魔獣の方を見る。
 丁度魔獣の攻撃をかいくぐったミズマが、魔獣から逃げるように背を向けて走りながらライズを切り離したところだった。
 ミズマの脚と一体化していたライズは走るミズマの踵に蹴り飛ばされるようにして、魔獣へ飛ぶ。
 そして魔獣の腕に取りつくと、電撃の魔法で攻撃を始めた。
 大きな魔獣は腕を切り離して攻撃から逃れる。
 腕になっていた狼の魔獣は、ライズの魔法をくらって叫び声を上げる。
 相当のダメージがあるみたいだ。
 キリザが両腕をなくした大きな魔獣の懐に入る。
 そしてジャンプして魔獣の胴体に向かって両腕の剣を振う。
「切り裂く!」
 魔法の力で剣はその刀身が通らなかった場所さえも切り刻む。
 しかし大きな魔獣は、ひるみはしたものの、倒れなかった。
 そして頭部から爆発の魔法を放つ。
 高所から撃たれたその魔法は直撃しなかった。
 しかしキリザは吹っ飛ばされる。
 立ち上がってもう一度切りかかろうとキリザはした。
 黒い鎧をまとった男がそのキリザの横を走り抜けた。
「ショット」
 男の両腕から何かの魔法が放たれる。
 その魔法は魔獣の腹に無数の穴を開ける。
 まるで散弾だ。
「ソード」
 そしてその黒い鎧の男は、右腕を横に振う。
 斬撃の魔法が、穴を通って魔獣を裂いた。
 そしてその男は腕となっていた二匹の狼の魔獣を矢の魔法で倒してしまう。
 礼を言う間もなく、その魔法使いはその場を去ってしまう。
 後になって、その黒い鎧の魔法使いが駅を襲った魔獣のほとんどを倒したことが明らかになった。
引用なし
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