●週刊チャオ サークル掲示板
  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1661 / 1890 ツリー ←次へ | 前へ→

自分の冒険 〜自分ならこう書く〜 冬木野 12/4/26(木) 11:03

ピュアストーリー 第六話 真実を知る者 スマッシュ 13/11/30(土) 0:00

ピュアストーリー 第六話 真実を知る者
 スマッシュ  - 13/11/30(土) 0:00 -
  
 情報はあらゆる場所にあった。本の中、人の脳、大地。クレイモアの魔法はそれらから情報を引き出すことができた。とりわけ得意なのは人の記憶を入手することである。本に書かれたものを魔法によって頭に入れても、言葉の用い方が違うために理解することが難しい。自分なりの言葉で翻訳しなければ役に立たないのである。そして大地に刻まれた情報は人間の利用する情報とは異なるのでクレイモアには読解ができなかった。地層を見ても知識がなければ何を意味しているのかわからない。それと同じようなものであった。そういうわけで最も簡単に利用することができるのは人間の記憶であった。
 クレイモアは人々の記憶を集めながら旅をしていた。人の多い所を歩いて記憶をある程度集めたらカオスコントロールで別の場所に行く。そうやって一日にいくつかの町を歩いた。欲しい情報は五十年前に失われたはずの記憶と賢者ブレイクが今どこにいるのかという情報だ。それ以外の情報は破棄する。カオスエメラルドの力を借りれば記憶を捨てるということも簡単に行うことができた。捨てた記憶は数日前の夢のように何も思い出せなくなる。
 老人たちの記憶にはカオスエメラルドの情報が時折見られた。カオスエメラルドについては、噂のような情報を持っている若者もいたが、老人たちが持っていたのは学校で習ったような知識としての情報であった。ドクターフラッシュが持っていた情報と同じような記憶であったが、ドクターフラッシュの記憶が最も鮮明なものであった。それでも町中ですれ違った老人たちの記憶はドクターフラッシュの記憶におかしな点はないのだと裏付ける情報となった。
 賢者ブレイクがどこにいるのか。その点に関しての情報はあまり見つからなかった。賢者ブレイクは人前に姿を出てこないということで有名である。世界革命を起こした際に世界が変わったことを人々に伝えたのだが、しばらくすると姿を消してしまった。まだ生きているのかさえわからない。世界革命から五十年経っている。若くても七十歳前後。死んでいてもおかしくない年齢である。人々は身近にいる不気味な老人のことを、もしかしたら賢者ブレイクなのではないか、と面白半分に噂しているようだった。恐ろしげな風貌のホームレスがその噂の対象になる傾向があった。

 多くの人が失った情報は世界からも失われていた。例えばカオスエメラルドに関する本はどこにもない。それでも覚えている人間が稀に見つかる。
 ソニックというハリネズミのことを覚えている人間は比較的多かった。カオスエメラルドのことを覚えている人間の二倍くらいいた。そして中にはソニックと一緒にいたキツネのことを覚えている者もいた。名前はテイルスなのかマイルスなのかはっきりとしない。人によって記憶している名前が異なっていた。しかし誰もソニックが何年前に活躍したのか知らなかった。大昔にソニックが活躍して世界を救ったという出来事自体は常識に近い知識であるようだった。歴史上の有名人といった具合で、学校でも教えられていたようだ。しかし教育の場でもそれがいつの出来事なのかはっきりとは語られなかったようである。本当にあった出来事なのか怪しいとクレイモアは感じた。スペースコロニーアークという物が登場する事件があったと人々は教えられたらしいのだが、そのようなスペースコロニーは見つかっていない。
 もう一つ不思議なのは五十年前にエネルギー問題とは別の問題に不安を抱えていたようなイメージが老人たちの記憶の中に見つかることだ。不安だったという印象が残っている人がいくらか見つかった。クレイモアの祖父がそうであったように、彼らは身の危険を感じている風の強い不安を当時抱えていた。世界革命はそもそもエネルギー問題を解決するためのものだったのだろうか、とクレイモアは思った。その強い不安を解消するためのものだったのではないか。エネルギー問題の解決は、チャオが人の言葉を話すことができるようになったのと同じで、副産物だったのではないか。では当時の人々が直面した問題は一体何だったのか。なぜその記憶が失われたのか。

 クレイモアは賢者ブレイクを見つけた。賢者ブレイクかもしれないと噂されている老人をしらみつぶしに確認したのだった。賢者ブレイクはここ最近墓地に出没するようになった老人であった。平らな敷地に墓が整列している。老人は墓地の奥の墓の前にいた。新しく出来たばかりの墓で、それより奥にはまだ墓石がない。無数の十字架の奥にいるその老人の記憶には世界革命以前の情報が鮮明に残っていた。彼は墓の前にあぐらをかいて、じっと座っていた。クレイモアは彼の記憶を読むのに五分ほど夢中になっていた。老人がクレイモアに気付いて、振り向いた。白い髪は短く、髭は剃ってある。頼りなさそうな顔の老人であった。
「あんたが賢者ブレイクなのか」とクレイモアは言った。
「人違いだ」
「あんたの記憶がそう言っている」
「記憶?」
「俺の魔法は、人の記憶が読める」
 老人はクレイモアの目を凝視した。クレイモアは老人の記憶に心を奪われていて、ややぼんやりしながら老人を見ていた。
「確かに私がブレイクだ」と老人は言った。
「この記憶は本物なのか?」
 クレイモアは混乱していた。魔法で記憶を読んでいるのだから、意図的に作った記憶であればそうとわかる。相手に尋ねなくても記憶が教えてくれるのに聞いてしまった。
「ああ。事実だ」
「それじゃあ異文化ウイルスとかいうやつは今も世界中で広まっているのか」
「だろうな。でなければこんなに人殺しは起きないだろう」
 異文化ウイルス。老人の記憶によると、それは実際のウイルスとは異なるもので、流行り病のように広まりやすい異文化のことであるらしい。その異文化に感染した者は殺人行為への抵抗が薄れてしまう。例えば犯罪者は殺しても構わないと考えるようになる。その異文化ウイルスはこの世界とは異なる所から送られてきていて、その発信源は敵と呼ばれていた。敵は異文化ウイルスによって攻撃をしかけてきたのである。そしてその攻撃によって今もなお一年に起きる殺人事件の数は増加している。
「じゃあ俺たちはその敵と戦争中ってことになる。しかも今の俺たちは無抵抗にやられている状態だ」
「そうだ」
「そしてあんたは人々の記憶からその異文化ウイルスのことを消し去った」
「そうだ」
 クレイモアは言葉を失っていた。不満を感じているものの、老人の記憶を手に入れているために老人の気持ちがよく理解できていて何も言うことができなかった。老人は墓に向き直った。
「私にとっては戦争なんてどうでもよかった。武器や兵器で戦っているわけじゃない。現実に起きているかどうかわからない戦争だ」
 不思議なことに老人がそう喋ると、自然と言葉が出てきた。
「俺たちにとってはどうでもよくない。俺の弟は学校で殺された。俺の友人も両親を殺された。その友人の両親はたくさん人を殺していた。自分の身の周りにいる人間が殺されていたり、誰かを殺しているという人間はとても多い」
 事実を客観的に語っているだけのような語調であった。詳細を思い出すことはできないが、人々の記憶を見る中で殺人事件に関する記憶を持っている者が多かったことを記憶していた。自身の弟が殺された記憶もそのデータの一部分として埋もれつつあるようであった。
「どうせ負ける戦いだろうさ。この国では普通米を食わない。その文化を私たちは変えることはできない。一方で敵によってその文化が変えられることはあり得る。一方的だ。戦うどころか守ることさえできないのだから」
「それでも人々は真実を知らなければならない。人間は真実を摂取して生きなければならない。それにあんたの望みはもう叶えられた」
「そうだな。ソフィアはもう死んだ。私の戦いは終わった。君たちはもう私の敵ではない」
 老人が背を向けたまま言った。クレイモアは、
「これからは俺たちの戦いだ」と言い、立ち去ろうとした。しかしその途端にひらめいた。
「あんた、カオスエメラルドにならないか」
「何?」
 老人の記憶によれば、世界革命の際ブレイクは魔法の扱いのセンスには才能とでも言うべき先天的な個体差が出るように仕組んだらしい。そしてブレイクと彼の恋人のソフィアは誰よりも優れた才能を持っているように設定した。それならば二人の心臓は他の誰よりもカオスエメラルドに近付いているということになるとクレイモアは思ったのだった。
「あんたの心臓はもしかしたらカオスエメラルドに近い物になっているかもしれない」
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chr...@p214.net219126049.tokai.or.jp>

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1661 / 1890 ツリー ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
56299
(SS)C-BOARD v3.8 is Free