●週刊チャオ サークル掲示板
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自分の冒険 〜自分ならこう書く〜 冬木野 12/4/26(木) 11:03

Crisscross 第一話 変化する戦士たち スマッシュ 13/8/19(月) 22:28
第二話 奇跡を守る人 スマッシュ 13/8/19(月) 22:30
第三話 その脚が踏みしめた時間 スマッシュ 13/8/19(月) 22:31
第四話 正義が貫いた願い スマッシュ 13/8/19(月) 22:37
最終話 純白 スマッシュ 13/8/19(月) 22:45

Crisscross 第一話 変化する戦士たち
 スマッシュ  - 13/8/19(月) 22:28 -
  
 昔々、七つの不思議な宝石がありました。
 その宝石を手に入れた人は凄い力を手に入れ、英雄となるのでした。
 七つの石の力はそれだけではありませんでした。
 七つの石全てを一つの所に集めると、人々の願いを叶えてくれるのです。
 そうだ、ずっと七つの石が一つになっていれば、皆の願いが叶い、全ての人間は幸せになるに違いない。
 ある時、そう考えた王様が、七つの石をくっ付けて、一つの石に変えました。
 そしてこの石を狙う悪い人たちをやっつけるために王様は石に願い事をして、素晴らしい剣を作ってもらい、それを兵士たちに持たせました。
 こうして王様は願いを叶える石を使って世界を平和にしたのでした。
 これがこの世界に伝わる、不思議な石と不思議な剣の物語。


 物語の通りに世界は続いているというのに、悪者は混沌の石を奪い去っていってしまった。
 まるで世界が崩れていく途中にあるようだとウォンドは感じた。そして崩壊を止める者として自分が選ばれたことを幸運に思っている。
 混沌の石を取り戻し、平和を取り戻す。そのための英雄探しが始まって数か月。混沌の石や混沌の剣との相性がいい人間が二人新たに見つかった。その一人がウォンドであった。
 彼は、どうして自分が混沌の石と相性がいいのかわからなかったが、英雄に選ばれるようなことをしていた覚えはあった。
 人助けをするのが好きである。困っている人がいると、どうにかしてあげたいと思う気持ちがあった。おそらく英雄に求められているのは普段やっている人助けとそう変わらないだろう。
 もう一人の英雄は女性であった。顔つきは凛々しく正義の味方が似合いそうであったが、筋肉の硬さが見えない体つきで、女性らしさだけの肉体であった。
「一日も早く、混沌の石を取り戻してほしい。あの石は、混沌と言われるだけあって、何もかもを叶えるだけの大きな力を持っている。だからこそ、叶えてはならない願いもあるのだ」
 王はそう言って、二人に剣を渡す。混沌の石が生み出した剣、混沌の剣である。柄にはレイピアのように、手の甲を覆う部位があった。そこに様々な色の宝石が飾られていた。武器というよりも、武器の形をした芸術品に見えた。

 城から出ると、ウォンドは剣を抜いてみた。赤い宝石のような輝きが僅かにある刃であった。じっと見ていると、その刃の中で青や黄、紫の光が稲妻のように走っていた。稲妻は育っていき、赤い刃がいつの間にか青っぽく変化していた。そしてなおも変化を続ける。まるで泉の底に沈んでいる神秘の物体のようで、刃の形さえも徐々に変わっていくのではないかと思わせるほどであった。さらに、持っているだけで力が湧いてきた。普通の人間では到底できないようなことをやれてしまうような自信があった。
「凄いな」
 隣でこれと同じ剣を受け取った女が見ていたため、ウォンドは彼女に聞こえるよう呟いた。
「ウォンドはこれからどうするの」と女が聞いた。ウォンドは思わず彼女の方を見た。
「なんで俺の名前を?」
 名乗っていない。彼女がいるところで名前を呼ばれてもいない。
「覚えてないかな。昔、君が正義のヒーローやってた頃、僕は君に助けられたんだ」
「正義のヒーローって、もしかして、あれか」
「そう、あれ。人助けのチーム」
「ああ、懐かしいな」
 幼い頃に、ウォンドは友人を集めて、正義のヒーローごっこをしていたのだった。それも遊びという規模ではなく、困っている人を助け、ルールを守らない人をこらしめる活動であった。自分は正しいことをしているという自負と、何人かの集団であるという心強さとで、大人が相手だろうと容赦はしなかった。ウォンドは小さい頃から腕っぷしは強かったし、大人に勝つために武装もしていた。
「ええと、君の名前は」
「クリス」
「クリスちゃんか。えっと、ごめん、思い出せないや」
「いいんだよ。僕、助けてもらっただけだから、覚えてないのも無理ないよ」
「僕って自分のこと、その時から呼んでた?」
「うん。ずっと、僕だよ」
「そうか」
 自分のことを僕と呼ぶ少女であれば印象に残っていてもおかしくないとウォンドは思ったのだが、そのような子を助けた記憶はなかった。小さい頃の話だ。周囲の人間の何もかもを暴き立てるくらいの勢いで活動していたから、助けた人間こらしめた人間の数は相当なものになる。彼女のこともその中の一つとしてくくって、忘れてしまったのかもしれなかった。
「ごめん、思い出せなくて」
「いいってば。それよりもさ、一緒に行かない?」
「え?」
「なんかさ、君でも一人で行くのはちょっと心配だし。僕も不安なんだよね。だから一緒にどう?」
「そうだね。一緒に行こうか」
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第二話 奇跡を守る人
 スマッシュ  - 13/8/19(月) 22:30 -
  
 昔々、あるところに男の子とチャオがいました。
 そのチャオは皆の人気者でした。
 男の子もチャオのことが好きでした。
 そしてそのチャオは男の子のことが大好きで、男の子と一緒に遊んでいました。
 他の誰よりも、その男の子と一緒にいることが、そのチャオの幸せだったのでした。
 これは、混沌の石の物語の、その一つの場面。


 旅をするにも楽な時代になった。歩いて旅をする必要はない。
 混沌の石から力を持った剣が生み出されたように、人々を補佐するための物が生み出されてきた。
 その一つが建物を動かす混沌の歯車である。止まることのない動力源として、頑なに働き続けている。
 歯車を搭載した十階建ての塔が貿易に使われている。町と町を結ぶ道の間には店などが一切なく、食料品の補充もままならない。そのため旅人はこの貿易の塔を利用して町を渡っていくのである。
 ウォンドとクリスが向かうのは、混沌の石を奪った者が拠点にしているとされる町であった。その町では、混沌の剣に似た剣が出回っているようである。混沌の石を奪った者が剣を生み出して売りさばいている可能性があった。
「混沌の剣の量産って、まずいかもね」
 クリスがでたらめに素振りをしながら言う。素人が片手で剣を振り回しているに過ぎないのだが、剣の美しさに騙されてしまうのか、様になって見える。混沌の剣の力とは、持った者を素人であろうと達人のようにしてしまうものであった。そして剣は持ち主の腕前に関係なく、目の前にある者を見事に切断してみせた。そして剣を振るうクリスの動きも、軽やかでなおかつ重みがある。ウォンドも試しに剣を適当に振ってみると、体にも剣にも重さを感じず、十メートル先まで跳躍できてしまうのだが、足元をすくわれるような不安定なところはなく、剣も受け止めることが難しいような、ある種の一貫した説得力があった。
 クリスが混沌の剣が量産されることにまずいと言ったのは、こういった数々の恩恵が自分たちだけのものと思っていたためである。こちらだけが人間を超えた力を持っているのであれば気が楽だが、相手も同じ力を持っているかもしれないとわかると、途端に不安が大きくなった。

 塔が止まった。町に着いたのかと思ったが、その少し手前で停止していた。
 ウォンドとクリスは何が起きたのか知ろうと、塔から出た。町の前に二人の男が立っていた。二人は混沌の剣を握っていた。どうやらウォンドたちより前に英雄としての命を受けた者のようだった。
「何かあったんですか」
「今、この町の中で戦闘が起きています。相手は純白の混沌の剣を持っていて、無差別に人を切り殺しています」
 中で彼らの仲間が対処している、と聞くや否や、ウォンドは剣を抜いた。
「俺たちも行こう」
「うん」
 剣を持てば素早くなる。止めるような間さえなく、二人は町の中に入っていった。

 町の中は死体ばかりであった。建物という建物の扉はこじ開けられていて、中をうかがうと切り刻まれた人の死体があった。クリスは確かめるだけ無駄なような気がして、犯人を捜すことに専念したいと思ったが、ウォンドは生存者を探すことを最優先して、時間をかけた。
 そうして身を隠して生き延びた人はいないかと探しているうちに、戦闘の渦の方が二人に近付いてきた。混沌の剣を持った女性と真っ白な剣を持った女性が戦っていた。混沌の剣の女の方が劣勢のようであった。彼女が逃げ、白い剣の女が追う形であった。二人は風の速さで走っていた。ウォンドはその間に飛び込んで、戦闘に割り込んだ。横合いから不意に飛んできた斬撃を受け止めるのが精一杯で、白い剣の女は転倒した。混沌の剣の女も走るのをやめて、息を整える。長い金髪が美しい女性だった。背が低く、力がなさそうに見えた。
「お前がこの町の人たちを殺したのか」
 ウォンドが白い剣の女に言った。女の持つ剣は混沌の剣と全く同じ形をしていたが、刃から柄の宝石まで、全てが真っ白であった。
「そう、私たちが殺した」
「他に仲間がいるってことか」
「いる。いた。殺した」
「何だって?」
「そしてお前たちも殺す」
 女は全力で白い剣を振るった。それを受け止めるウォンドの混沌の剣を折りそうなくらい、叩きつけるといった感じの振り方だった。ウォンドは攻撃を受けてばかりだ。殺そうという、相手の深みまで突き刺すような攻撃を全くせず、
「どうして殺したんだ」と話をするのに必死であった。
「奇跡のために」
 女も律儀にウォンドの問いに答える。そして先ほどまで彼女と戦っていた金髪の女が再び彼女に切りかかる。女は受け流して、背中を蹴った。まるで余計な物を静かにどけるような、上品さのある動きであった。女はウォンドを睨んでいる。彼が彼女の敵だった。彼女の剣がウォンドを塗り潰そうとする。どの色にも混ざりそうにない白が襲いかかってくる。
「奇跡ってどういうことだ」
「奇跡というものは、こうしないと逃げていってしまうんだ。奇跡は奪われる。だから私は誰にも奪われないように、こうしているんだ」
 女が叫ぶ。しかしウォンドの剣は無数の色を持ったままであった。
「錯乱しているのか」
「私は正気だ」
 それまで剣を握っているだけで棒立ちしていたクリスが動いた。クリスにはウォンドが一方的に攻められているように見えて、このままでは彼は殺されてしまうと思ったのだった。女の背中を狙って剣を振る。女はそれを回転しながら剣で受け流した。金髪の女がクリスに続いて攻撃をしかける。スピードに任せて剣を突き刺そうとする。それもまた難なく避けられてしまう。その間にウォンドは女との距離を少し取っただけで、攻撃もしなかった。
「私の願いの邪魔をするな」
 女はウォンドと会話をするうちにかなり興奮してようで、自分に攻撃をしかけてきた二人に殺意を向けた。まずい、とウォンドは思った。二人は自分のように強くはないようだった。もっと詳しく話を聞いて情報を得たいと思っていたが、殺すために剣を振った。色の束となった光を剣は描く。やはりこの剣は、戦いさえも芸術のように仕立て上げてしまうようであった。剣が流れる。女の剣を強く打つと、彼女の手から剣が抜けた。そして剣が無防備になった体を突き抜けようとする。女はそれを避けようとしたが、間に合わず腕を割かれた。女は胸を押さえた。地面に転がった白い剣が砂のように割れた。女は死んでいた。

 町にいた人は全て死んでいた。路上には、白い剣を持った人間が何人も死んでいた。混沌の剣を持った死体も多く、生き残ったのは金髪の女だけだったようだ。女はセレナと名乗った。
「戦いって、こんなにきついものだったんですね。そんなこと全然考えてなかった」
 セレナは、自分は選ばれて混沌の剣を手にしたわけではない、と言った。偶然剣を拾って、この力を正義のために役立てようと思って旅を始めたのだということを二人に語った。
「ちょっと自信がなくなっちゃいました。でも、私、平和を取り戻すために何かしたいんです。あの、私を仲間にしてもらえませんか」
「うん、いいよ。これから強くなろう」とウォンドは笑いかけた。そしてすぐに真剣な顔に戻って、
「それにしても生存者が全然いないなんて、辛いな」と言った。歩いているうちに、死体から目を逸らすのが上手くなっていた。
 諦めながらも、念のために生存者を探していると、長い髪の男が立っていた。白い剣を二本持っていた。
「白い剣」
 ウォンドは警戒する。男は、
「私は敵じゃない」と言った。「むしろ味方ってところかな」
「でも白い剣を持っているやつが襲ってきた」
 セレナの反論に男は頷いた。
「私も襲われた。もしかしたらこの純白の剣は持ち主を狂わせるのかもしれないね。どうだろう、私も君たちと一緒に行動させてくれないか。そしてもし私がこの純白の剣に心を乱された時は、私を殺してくれないか」
「本当に敵じゃないのか」
「みたいだ。そういうことなら一緒に来てくれ。腕も立ちそうだし」
 男はクラウンと名乗った。
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第三話 その脚が踏みしめた時間
 スマッシュ  - 13/8/19(月) 22:31 -
  
 昔々、ある悪い貴族がいました。
 悪い貴族は人々からお金を騙し取り、多くの人を苦しめました。
 ある時、そんな悪い貴族をやっつけようと人々は立ち上がりました。
 貴族の娘は、願いを叶える不思議な石を持った王様のところへ行きました。
 このままでは父は殺されてしまいます。私の父はそれだけの恨みを買う行いをしてきました。しかしそれでも私にとってはあの人こそが父なのです。だから私はあの人の命を救いたいのです。
 王様は、貴族の娘の健気な姿に心を打たれ、不思議な石の力を使って真っ白な剣を作り、そしてこう言いました。
 君の願いが真っ直ぐ一つの色に輝き続けるのであれば、この純白の剣が君の想いに応えるだろう。
 貴族の娘は純白の剣を握り、父を倒そうとする人々と戦いました。
 純白の剣は彼女の真っ直ぐな心に応えて、彼女と彼女の父を見事に守ったのです。
 これがこの世界に伝わる、不思議な石と純白の剣の物語。

 混沌の石を盗んだ者はどこにいるのか。
 クラウンは、純白の剣を売りさばくつもりなら大きな町にいるだろう、と言った。
 その言葉の通りに、栄えている町へ行き情報を集めることにした。ついでに観光する雰囲気になり、買い物を楽しむことになった。
 ウォンドとセレナが服を見ている。男物の服である。セレナは一番彼が格好よくなる服を探しているようだった。それを女物の服の近くでクリスとクラウンが見ている。背がやけに高く、髪が長かったので、クラウンは不気味な女性に見えないこともなかった。
「服なんてどうでもいい、と思っているね」とクラウンが言った。
「別に、そうじゃないけど」
「叶わない恋と思っているのだろう」
 クリスは答えない。
「でも可能性はある。彼の恋人になる可能性は確かにある。だって君は女で、彼は男だ。男と女はつがいになれる。君の恋は叶う。それなのに、どうしてまだ叶わないなんて思っているのかな。諦め切れないくせに、どうしてあの女が彼にすり寄るのをじっと見ているだけなんだい」
「黙ってくれないか」
「それとも、私のものになるかい。私は君を大事にしてあげるよ。君が彼のことを想っているように」
 そう言ってクラウンはクリスの肩に触れた。クリスは身を離した。
「僕に触るな」
「奇跡は起こる。彼は君のことを見る。でもこのままだと彼はあの女のものになってしまうかもしれない」
 クリスはクラウンの顔を殴った。クラウンは大きくよろけたが、こらえた。
「お前なんかに何がわかる」
 そう言ったクリスの顔をクラウンは見下ろした。痛みさえ感じていないように平気な風に振る舞いながら、
「図星だって、あんたの拳が言ってるよ」と言った。
「ふざけるな」
 クリスはその場から逃げた。その様子をウォンドとセレナが見ていた。ウォンドがクラウンに近寄って、
「一体何したんだ」と聞いた。
「別に何もしちゃいないよ」
 そう言ってクラウンも一人で店を出て行った。ウォンドとセレナは買い物を続けるかどうか少し迷って、追いかけようとしたが、クラウンの姿も見当たらなくなっていた。

「困ったな」
「人に聞いた方がいいかも」とセレナが言った。
「そうだな。あの、すみません」
 適当な女性に声をかける。大人しそうな女性であった。車椅子に買った食べ物を乗せていた。
「知り合いとはぐれてしまって、探しているんですけど、剣を持った女の子と男を見ませんでしたか。男の方は背が高くて髪も長くて、目立つと思うんですけど」
「さあ、ごめんなさい。あの、私もいいですか」
「え、何でしょう」
「私も人を探していて。グランドって言って、優しい顔をしていて、実際に優しいんですけど」
「ううん、ごめんなさい、心当たりないです」
「そうですか。あの人、ついこないだまで脚が動かなくて。それなのに一ヶ月くらい前に、急に動くようになって、それで一人で出歩くようになってしまって、心配なんです」
「それは確かに心配だ。じゃあ、一緒に探しましょうよ」
「はい。お願いします」

 茶色い服の温厚そうな男がクリスを呼び止めた。
「もしかしてその剣、混沌の剣ですか?」
「ええ、まあ、そうですけど」
「そうですか」
 男の腰には純白の剣があった。
「なら、あなたはここで死ぬことになります」
 クリスは慌てて飛び退いて距離を取った。剣を抜く。それを見てから男はゆっくりと剣を構えた。
「あなたも正気を失っているのか」
「おそらく正気です。あなたには願いはないのですか?」
「願いって」
「誰かを敵に回しても得たいもののことです」
 男は言い終えると、素早く切りかかった。既に戦闘の雰囲気である。クリスは必死に距離を取ろうとする。男の攻撃の激しさを受け切る自信がなかった。反撃してこないのをいいことに、男は追うのをやめて、体勢を整える。そうして再び鋭い攻撃をしようというつもりであった。
「あなたにはあるのか。そういう、願いが」
「そう。そうさ。俺は、願った」
 再び殺意が飛んでくる。クリスは同等の殺意で襲いかかる術を知らない。そのために攻撃を受けるだけで精一杯になる。しかしながら傷つけられることなく、クリスは剣を構えていた。男は再び体勢を整える。今度は疲労のためだ。
「願いを叶えるためだからって、僕とあなたが戦わなくちゃいけない理由が、僕にはわからない」
「願いは叶ったよ。だけど願いというのは叶ったところで終わりじゃない。ずっと願いの続きを守らなきゃいけないんです。だから、あなたは敵だ」
 男がまた攻撃をしかける。
 騒動の噂を聞きつけて、ウォンドたちは二人が戦っている現場にやって来た。
「グランド」と女が言った。
 その声を聞いて、男の攻撃が止まる。
「アイビイ?」
 その隙を見て、白い斬撃が男の剣を弾いた。クラウンであった。
「大丈夫か」
「え、ああ、うん」
 弾かれた剣が刃の方から地面に当たり、その衝撃で折れた。するとグランドと呼ばれた男が急に倒れた。アイビイと呼ばれた女が彼の名を呼びながら駆け寄る。グランドは生きていた。しかし脚が動かなくなっているらしかった。
「ほらな。願いは叶ったところで終わりじゃないんだ」と男はクリスに向けて言った。

 グランドはアイビイの車椅子に乗せられていた。一ヶ月前の二人もこのようにしていた。
「脚が動かないっていうのは、不便なんだ」
「うん」
「でもそれは自分で歩けないからではないんだと、俺は思う」
「それって?」
「こうやって車椅子に座って見る景色は、皆の見る景色より低い景色なんだ。それが俺には、孤独の象徴に見える。俺だけ別の世界にいるような、そんな感じがするんだ」
 女は何も言わず、車椅子を押していた。
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第四話 正義が貫いた願い
 スマッシュ  - 13/8/19(月) 22:37 -
  
 昔々あるところに二人の男の子とチャオがいました。
 チャオは二人の中の一人のことが大好きで、もう一人にはあまり懐きませんでした。
 あまり懐いてもらえない男の子は嫌われているのではないかと思いました。
 しかしもう一人の男の子はきっと大丈夫と言って、男の子とチャオを遊ばせました。
 そうして二人とチャオは一緒に遊んでいたのです。
 これは、混沌の石の物語の、もう一つの場面。


 混沌の石を盗んだ者は見つからず、また次の町に向かっている。
 クリスとクラウンは和解したようであった。結果的にクラウンがクリスを助けた形になったため、ぎすぎすした雰囲気のままではいられなくなったためであった。
 そして今度はウォンドが落ち込んでいる。リーダーとしての役割を果たせていないと落ち込んでいるのであった。
 それを不安そうに見守るクリスとセレナ。そしてクリスをじっと見ているクラウン。
 動いたのはセレナだった。ウォンドの隣に腰かける。
「どうしたの」
「いや、なんでもない」
「そんなわけないでしょ。いつも明るいのに」
「会ったばかりだからわからないかもしれないけどな、いつもこうなんだ」
「嘘だ。落ち込んでるんでしょ」
「まあ、な」
「どうしてなの。聞かせてよ」
「この前、トラブルが起きただろ。トラブルが起きるってことは、俺が上手くやれてないからってことだろ。だから責任を感じてるんだ」
 そう言うと、セレナは笑った。
「ウォンドのせいじゃないよ」
「いや、俺のせいだよ」
「ううん、違うよ。ウォンドは凄いもん。ちゃんとやってる」
 ウォンドは黙ってしまう。すると今度はセレナが、
「私、この剣を拾った時、嬉しかったんだ。これで正しいことができるって。いつも自分のやってることが本当に人の役に立ってるか自信なかった」と打ち明け始めた。
「でもこの剣を持って、混沌の石を取り戻せば、私は正義の味方になれるって思った。だから旅をしている間、私は自分のやってることは間違ってないって自信が持てる。いざ戦いになると全然駄目で、そういうところではちょっと自信無くしちゃうけど。でも、そんな私から見たら、ウォンドは私のこと助けてくれたし、ウォンドは本当の正義の味方だと思う。だから自信持って」
「正義の味方、か」
「そう。英雄だよ、ウォンドは。だから大丈夫」
「ありがとう。ちょっと自信出てきた」

 町に着いた夜。
 少しでも役に立ちたいと思っているセレナが宿の外で素振りをしていた。混沌の剣の力で常人離れした動きをすることはできるのだが、それでもウォンドと比べると数段劣っている。セレナはひたすらに人間を超えた力に体を慣らそうと剣を振っていた。
「混沌の剣が様々な色を見せるのは、様々なものをその内に宿しているからだ。喜びもあれば悲しみもある。何もかもある。それが混沌なのだ」
 男がセレナに言った。セレナは素振りをやめる。
「あなたは?」
「混沌の石を持つ者」
 セレナは剣を構えた。
「あなたが混沌の石を盗んだ犯人」
「混沌の剣を使いこなすには、混沌の剣との相性がよくなくてはならない。混沌を目前にする素質とでも言うのだろうか、そういうものが、君には無いのかもしれないね」
「だから何だって言うの。私はあなたを倒す」
「その剣は君の心に応えてくれない」
 セレナが切りかかる。混沌の石を盗んだ男はそれを避ける。
「ウォンドという男のことを君は好いているようだね。彼を自分のものにしたいと思わないか」
「あなたには関係ない」
「だがしかし、君の恋心にこの純白の剣は応えてくれるだろう」
 男は混沌の石から純白の剣を生み出した。
「そして君も、純白になるといい」
 混沌の石が真っ白なドレスを生み出す。セレナはそのドレスに包まれた。

 朝、白いドレスを着たセレナがクリスに襲いかかった。
「どうして」
 慌ててクリスは剣を抜く。
「あなたが女だから」
 セレナの動きは段違いであった。クリスには太刀打ちできそうになく、やはり受け止めるのが限界であった。戦いの音を聞いて、ウォンドとクラウンが駆け寄る。
「一体どうなってるんだ」とウォンドが言った。
「わからない」
「純白の剣だ」とクラウンが言った。「あの純白の剣が彼女を狂わせているんだ」
「あの剣を壊せばいいのか」
「たぶん、そう」
「わかった」
 ウォンドが二人の間に割って入る。
「どいて、ウォンド」
「セレナ、俺は君を守るよ」
 ウォンドの振るう光がセレナの純白の剣を射抜いた。剣は空中で二つに折れた。そして倒れそうになったセレナを、ウォンドは支える。
「ごめんなさい」
 正気を取り戻したセレナが小さな声で言った。
「大丈夫。君のことは俺が守ってみせるから」
 そう言ってウォンドは強く抱き締めた。
「大丈夫なんだよ、セレナ」とそれを見ているクリスが呟いた。
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最終話 純白
 スマッシュ  - 13/8/19(月) 22:45 -
  
 昔々、あるところに男の子とチャオがいました。
 チャオは男の子の気持ちがわかりました。
 チャオは自分の気持ちもわかりました。
 だからチャオは旅に出ました。
 そうする他にできることがなかったのです。
 それは、混沌の石の物語の、その一つの場面。


 セレナが純白の剣を与えられたことで、混沌の石を盗んだ者の拠点が近くにあることがわかった。
 それとは別に、セレナは町である噂を聞いていた。
 混沌の石を盗んだ集団の中に黒いチャオがいた、という噂。そのチャオはクロウという名前で、そのチャオがリーダー的存在であったという噂。
 それは笑い話のようであったが、ウォンドに話すと顔色を変えた。
「そのチャオ、幼い頃、よく遊んだチャオと一緒だ。黒くて、名前はクロウ」とウォンドは言った。
「え、でも、どうして」
「わからない。でも、そうか。それならこれは運命だったのかもな。クリスが選ばれたのも、あいつと遊んだことがあったからなのかもしれない」
「そっか、幼馴染だもんね」
「ああ。だとすると、あいつもいるのかな」
「あいつ?」
「そのクロウが一番懐いてたやつ。いつも一緒に遊んでた」
 ウォンドは、噂のことをクリスには話さないでおこうと思った。知っているチャオが犯行にかかわっているというのは、大きなものではないにしても、ショックなことに変わりはなかった。それなら本当に幼い頃遊んだチャオだと確定するまでは話さなくていいだろうと思った。
「そういえば、あのチャオ、いつの間にか姿を消してたんだよな」

 ウォンドたちの泊まっている宿に、町の地図が届いた。そしてある建物のところに印が書かれていて、混沌の剣を持つ者を待つ、とその傍に書いてあった。
「ここが拠点ってことでいいんだろうか」
 地図を見ながらウォンドは言った。
「罠って可能性もあるかも。拠点として使ってはいたけど、私たちの罠にはめるために使って、本人はもう逃げている、とか」
「でもこれ以外に手がかりがないからな。俺としては、行ってみたい」
「ウォンドがそう言うなら、付いていくよ」
 クリスとクラウンも頷いた。

 印の書かれた建物には、誰もいなかった。
「やっぱり罠か。もう逃げられたかな」
「どうにかして足取り追えないかな」とセレナが言う。
「そうでもないさ」
 そうクラウンが言った。三人はクラウンを見る。
「何かあったのか?」
「純白の剣をいくつ用意しても無駄のようだ。だから君たちの旅は私が終わらせる」
 クラウンは純白の剣を抜く。そして右手で持った剣をウォンドに向けた。
「お前、正気を失ったのか」
「違うよ」
 クラウンは左の手で混沌の石を持ち、三人に見せた。
「私がこれを盗んだんだ」
「クロウ」とクリスが言った。
 三人はその名前を聞いて、驚いた。クラウンだけは、目を見開いて、感心している驚きであった。
「いつ、気付いた。私がクロウだって」
「お前がクロウだって?」
 ウォンドを無視してクリスは答える。
「君がこんな姿をしているとは思わなかったけど、クロウが犯人だって気付いたのは、僕がこんなことになった時だ。混沌の石の力で、僕を変えたんだろう。そんなことをするのは、クロウしかいない」
「そうか。私のことを、わかっていてくれてたんだね」
「でも僕はこんなこと望んじゃいない」
 クリスは混沌の剣でクラウンを突き刺そうとした。しかしクラウンは純白の剣でそれを弾く。クリスの剣が宙を舞った。
「君の剣はそれじゃない」
 クラウンはまだ抜いていなかった純白の剣を持った。
「この純白の剣が君の剣だ」
 そう言って、純白の剣をクリスの前に投げる。
「君の叶うはずのなかった恋を叶えるために生まれた剣が、その純白の剣だ。そして私の純白の剣もまた、私の叶うはずのなかった恋を叶えるための物なんだ」
「そう。君は僕のことを。だけど今の僕の願いは」
 純白の剣をクリスは握る。そして純白の剣はクリスに応え、力を与える。突進し、剣を突き立てる。クラウンは避けることができなかった。剣は混沌の石に突き立てられ、石はクラウンの手から離れた。
「全てを元に戻してほしいんだ」
「でも、それだとクリス、君の想いは」
「いいんだよ、これで」
「そんなの悲しいじゃないか」
「知ってるよ、そんなことは。でも、これが自然なんだ」
 クラウンは徐々に黒いチャオに戻っていく。そしてクリスの骨格も徐々に変わっていった。
 低くなった声でクリスはウォンドに言う。
「こんな恋心、君は知らなくてよかったんだ」
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