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自分の冒険 〜自分ならこう書く〜 冬木野 12/4/26(木) 11:03

錆びたナイフ 第五話 ダーク 12/5/9(水) 6:23

錆びたナイフ 第五話
 ダーク  - 12/5/9(水) 6:23 -
  
 K町に着くと、辺りはもう暗くなり始めていた。今日中に怜たちを探すのが難しくなり始めた頃であった。今日は宿を探そうと提案すると、ソウヤも智也と名乗った子どもも同意見だった。チャオを飼えるくらいの経済力を持った人が多いだけあって、なかなかに栄えた町だった。大きな建物が多いので、宿も大きく豪華なものしかないのではないか。持っている金額は国から支給されたとはいえ、贅沢するために使うのは嫌だった。
 なんとなく歩いていた道の脇に、小さいけれどコテージ風の趣がある宿屋があった。ウェストビーチという名前の店だ。こういうところに限って高い金額を請求してくるものだと思っていたが、店頭においてある看板に書かれた金額はそれほどではなかった。ソウヤと智也の同意を得て、ウェストビーチに泊まることにした。
 部屋の中もまた凝っていて、落ち着ける空間だった。ぼくたちは、丸太を寄せ集めて上に布団を敷いたようなベッドに座った。
「次に襲われるのはこの町だね」
 ぼくがそう切り出すと、ソウヤはうなづいた。
「近いうちに、だよね」
 智也がぼくに続く。やはり、智也は襲撃に来るチャオのことを分析していた。
「おそらく、な。正確な日程はわからないが、確実に襲撃の感覚は短くなっている。このペースだと明日には来るかもしれないな」
 その後は明日に備えて休もうという話になり、ぼくたちは交代でシャワーを浴び、ベッドに入った。最後にシャワーを浴びたぼくがバスルームから出てくるころには、もう智也は眠っていた。ソウヤもベッドに横たわっていたが、眠ってはいなかった。
「怜たちを探してくる」
 ソウヤにそう告げ、部屋を出て行こうとするとソウヤは「ついていく」といい、ついてきた。
「心配か」
「うん」
 怜がチャオに襲われて負けることはまずない。彼女の実力も、ぼくに負けず劣らずだ。共に過ごした逃亡生活は、生きるためなら人を殺したし、また人を殺すためには洗練された動きを身につけた。それはお互いに同じだった。
 問題はそこではなく、怜にチャオを殺すことができるか、というところにあった。きっと彼女は橋本の前で、チャオを殺そうとしている。それはある意味では橋本への説得力になるかもしれない。だが、怜の感情は大きく乱れ、今のままではいられなくなってしまうのではないか。それは怜にとってもぼくにとっても、好ましくはない。彼女が橋本の説得に大きなリスクを犯す必要があるとは、ぼくには思えなかった。彼女がチャオを見つける前に、ぼくはなんとしてもチャオを見つけたかった。
 町に出て数分のところで、町に変化があった。避難警報が発令されたのだ。チャオ相手に避難したところでなんになるのだ、とも思ったが、ぼくとソウヤは走った。混乱して逃げる人とは反対方向へ走る。チャオはすぐに見つかった。緑色のチャオだ。そして、そこには怜と橋本もいた。
 チャオが橋本に飛び掛かるが、怜がチャオを押さえつける。チャオの腕を手で押さえ、足に足を絡ませて動きを封じている。何かを喋っている。橋本も近くで何かを喋っている。
 ぼくはナイフを握り、走った。今しかない。ソウヤが何といったか大きな声を出した。チャオの頭を狙ってナイフを引いた。
「晶!」
 怜が大きな声でぼくを怒鳴った。怜が声を張り上げるのを初めて聞いたぼくは、チャオまであと数メートルというところで足を止めた。
 呆然としていると、影がぼくの後ろから飛び出した。
「チャム!」
 智也だった。怜はそれを見てチャオを解放した。智也は号泣しながらチャオを抱きしめ、チャムと呼ばれたチャオもそれを黙って受け入れていた。
 ぼくは何を勘違いしていたんだ。
 ぼくはその場に崩れ落ちた。

 ウェストビーチに怜と橋本を連れて戻ったぼくは、怜と二人にしてほしいといい、ソウヤと橋本には別の部屋を借りてもらった。智也はチャムと元いた町へと帰った。
 ベッドに向かい合って座ったぼくたちを静寂が迫った。だが、ぼくは何もいえなかった。
「晶」
 怜が震える声でぼくを呼び、ぼくの胸に涙で濡れた顔をうずめた。ぼくにはこの状況がわからなかった。
「ごめん」
 怜はそう続けた。何でぼくが謝られているのか。ぼくがした愚かな行いの罪悪感と、怜を涙させた正体がつかめない罪悪感にぼくは涙を流すほかなかった。
「わたしが勝手な行動するから、晶を混乱させた」
「ぼくは馬鹿だったんだ。怜、ごめん」
 ぼくは怜がチャオを殺そうとしているとばかり思っていた。でもそれは違った。ぼくたちは、チャオを認めることで生きてきたはずだった。怜はチャオを認めようとしていたのだ。橋本に見せたかったのも、それだ。怜は変わっていなかった。ぼくのナイフは、ただ今を切り裂くだけのものではないはずだった。思えばぼくの勘違いは、王から依頼を受けたときに始まっていた。そしてその勘違いは、怜を切り裂いてしまった。
「信じてた。でも、わかってた。晶はアキトのことを忘れようとしてる」
 そうだった。ぼくはチャオを切ることで、過去と決別しようとどこかで思っていた。でもぼくはアキトに会いたかった。智也がチャムを抱きしめているのを見て、ぼくはぼくを理解せざるを得なかった。
「寂しい」
 ぼくも、寂しかった。
引用なし
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