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週刊チャオ鍛錬室 ろっど 11/4/23(土) 4:16

The PERMANENT GARDEN : AM3時のおやつ それがし 11/5/10(火) 12:09

The PERMANENT GARDEN : AM3時のおやつ
 それがし  - 11/5/10(火) 12:09 -
  
:AM3時のおやつ

「兄ぃ、おでん食べたい」
眠たい目をこすり、ブルブルと震えるケータイを開けて、俺の耳に届いた第一声はそんな内容だった。
内心で『またか』と思いつつ、俺はケータイ片手にベッドに突っ伏す。
「良く聞き取れなかった、もう一度言ってくれ」
「おでん食べたい」
「おでん?」
「そ。おでんとかラーメンの屋台って4時までやってるって、兄ぃが前言ってたじゃん」
「……あぁ、屋台ね。確かに、以前、そんな事言ったな。――で、何?」
「なに、って……車で連れてってよ」
「……今から?」
「うん。だからさ、迎えに来てよー」
意味不明かつ破天荒、そして何の脈略もないワガママな要求。
なのに、いらついた感情が立ち消えになってしまう、どこか気が抜けた口調。
彼女――真花(マナカ)からの電話はいつもそんな感じである。
「……真花。今何時だと思う?」
「んぅ、3時ちょうどー」
「おめでとう、正解だ。けど、3時は3時でも〈おやつの時間〉じゃあないな。分かるか? カーテン開いてみろ、外は真っ暗だ」
「うん、暗いよ。夜中だもん」
「そうか。だったら、俺がすげぇ眠いことも分かるよな、おやすみ」
電話を切って、再び布団にもぐりこむ。
が、俺が枕に顔をうずめ目を閉じようとした瞬間、再びベッド上のケータイのバイブレーションが鳴り、布団越しに俺の頭を振動させる。
「……」
このまま無視してしまおうかとも思ったが。
(少なくとも数週間は機嫌を直さないのが目に見える……)
俺は、黙ってケータイを開き、耳元に当てる。
「兄ぃ、おでん食べたい。真夜中のおでん。屋台のおでん。味が染みたおでん。とにかくおでん。兄ぃ、おでん食べたい。真夜中の――」
「あぁもう、分かった分かった!」
どこか不満そうな態度を言葉にすることなく、さっきの欲求を呪詛のごとくエンドレスで言って押し切ろうとするあたり、俺の性格をよく知っているのかもしれない。
「今、着替えてそっちに行く。お前も外着に着替えておけよ」
「んぅ? もう着替えてるよー」
「……」
普通に遊びに行くときには色々と時間をかけて俺を待ちぼうけにするくせに、こういう時だけは腹が立つほどに用意周到である。
「ったく、夜中にお前みたいなちっこい奴が街中に出歩こうなんて、危ないとは思わないのか?」
「そこは兄ぃの出番だよー」
「あ?」
「怖い人から、あたしが身ぐるみはがされないように兄ぃがきちんとエスコートしてよね」
「……」
「結構、お高い服を着ちゃいましたのでー」
「ハァ、そうでいらっしゃいますか。後でお迎えに参上しますよッ」
ケータイを切って、横たえた身体に力を込めて、ベッドから上半身を起こす。
こういうのは勢いでやらないとすぐに夢へと引き戻されてしまうものだ。
「大学の課題がたまっているって言うのに、あいつは――」
寝がえりですっかり皺くちゃになった寝巻を床に投げ捨てる。昼の用事に着る予定だった私服を取り出し、身に纏う。
真夜中に外着への着替えをすると、何とも身体に違和感を感じるものだ。
「さむっ」
ドアを開けた瞬間、吹いてきた肌寒い風に思わず身を縮ませてしまう。
電気が全て消えていることを目で確認し、真っ暗になった部屋に背を向け、壁にかかった車のキーを手に取る。
やはり、空は『おやつの3時』とは程遠いくらい、闇色に染まっていた。

   *   *   *

「今日改めて思ったことは――」
「んぅ?」
「――俺はお前に対しては徹底的に甘いってことだ」
「んー……」
俺の言葉にいまいち理解が出来なかったのか、それとも食いっ気に毒され人の話なんぞハナから聞く気がないのか、真花はあいまいな返事だけをよこしてきた。
ま、どうせ後者だ。証拠に、その目はすっかりおでんの煮え立つ鍋の方へと向けられていた。
「午前3時35分、か」
「おやつの時間、遅刻しちゃったね」
「バカ。遅刻どころか、11時間25分のフライングだ」
「……人、結構いるんだね」
真夜中に出歩くのは初めてなのか、そんな事を俺に聞いてくる。
「あぁ。けれど、――いつもに比べりゃ、そうでもないがな」
話す人の声が聞こえないこともないが、もう流石に飲み会の締めの時刻も過ぎたのだろう、他の屋台にいる人の数もまばらである。休日から休日ということもあるのかもしれない。
実際、今、俺たちが居る屋台も二人だけの貸し切り状態だ。
「……」
おでん屋の店主と思われる親父さんが、隅からのそっと出てきて、使い古した細長い菜箸と金属製のお玉を、俺たちの真ん中に置く。
「ありがとーございます」
「……」
俺と真花の声に、彼は返答することなく、すぐに奥の方へ戻ってしまう。
おでんの数はだいぶ少なくなってきており、減った分もきちんと覚えられるのだろう。
当然、俺は変な小細工して代金を少なく支払おうとは思わない。
こんな真夜中におでん屋を営む人間に目などつけられたくないし、下手なことして関わり合いになるのも嫌である。
「(――ねぇ、あの人、無愛想)」
「(だな。お前の気持ちは分かるが、真夜中の屋台なんざそんなものだろう)」
「(そうなの?)」
「(俺も詳しくは知らん)」
親父さんは俺たちに接客する気はないのか、屋台の奥のベンチに腰かけ、ドラム缶で火を焚きながら、道を通るタクシーをじっと目で追いかけていた。
「むぅ……」
「まあまあ、そんな気にするな。で、真花、どれにするんだ?」
鍋の横に置かれた菜箸を手に取り、俺は真花の方に顔を向ける。
ほんの少しだけムスッとしていた彼女も、さらなる食いっ気に押されたのか、すぐに顔をほころばせて好物の入った鍋を探し始めた。
「決まったか」
「うん、そこの残っているロールキャベツ全部と、そこの卵と大根」
「あいよ」
彼女の要求通りのタネを鍋からつまみ出し、深皿に取って渡す。
「ありがとー」
ギシギシときしむ木の椅子に座りながら、湯気に包まれたおでんの皿を片手に真花は無邪気な笑顔を浮かべる。
上半身もリズムをとるみたく、等速で軽やかに揺れているのが分かる。
「すぐに機嫌良くなるのな」
「うん。あたしの取り柄」
「そうか、それは良い性格だ」
真夜中に無理矢理叩き起こされて目にくまも出来ているだろう俺とは対照的に、真花の目はぱっちりと開いて、髪もふんわりと整えられている。
ちなみに、俺はあまり食べる気もないし、お金もないので、一番安い大根だけを少しだけつまんでいる。
「からしはどうする?」
「ちょーだい」
「ん。……――ふわぁ。ところで、おまえまた生活リズム逆転したのか?」
欠伸を何度となく手で押さえながら、真花の方を見る。
「うぅん。今日はたまたま、夜更かしがしたい気分だっただけ」
「たまたまねぇ。そんなんで人を巻き込むか、普通」
「でも、兄ぃは付き合ってくれる」
「あのなぁ。そんな風に付き合わせるのは、俺だけにしとけよ?」
「んぅ、それって告白?」
「違う逆だ。おまえが彼氏にすぐ愛想尽かされないようにわざわざ忠告してやってんだ」
「でもそれって、お気に入りの女を『そくばく』したいってことじゃないのー?」
「いい加減にしろ、バカ」
彼女の頭にポンと左手を置いて、くしゃくしゃっと撫でる。
髪型が崩れる、と文句を言いつつも、軒先にいる三毛猫のごとく身体を揺らす所を見ると、撫でられること自体は彼女にとって心地の良いものらしい。
色素が少し抜けた、茶色の柔らかい髪の毛は、小さいときからずっと触り心地が良い。
俺も、何かと撫でる機会があればそれに便乗してしまう。
近所の老若男女から常に『変人』呼ばわりされ続けてきた俺の幼馴染の、数少ない美点でもある。
「……んぅ、もう、だめー」
「俺をこんな真夜中に引っ張ってきたんだ、もう少し撫でさせろ」
「むぅ、今食べてるの、終わりっ。次は、そこのちくわぶとハンペンでっ」
「……?」
「早くとってよっ」
「はいはい、ごめん」
赤い提灯が冷たい風に揺らされ、大通りをタクシーが規定速度以上のスピードで走り去っていく。
おでん屋の親父さんが、何とも言えない表情でこっちの方を見ている。
彼からしてみれば、それこそ真花の言うとおり、我儘な彼女と巻き込まれる彼氏というカップリングの新参客が真夜中にずかずか乗り込んできてやがる、と辟易しているのかもしれない。
時計を確認すると、4時を少し過ぎていた。もしかすると、4時で閉店なのだろうか。
「……」
俺はジェスチャーで『お金は少し多めで払う』と伝えるも、やっぱりこちらに何を考えているのか一切伝えずに、俺たちの方から目を反らした。
とりあえず、もう少しだけはここにいてもよさそうである。
「んぅ? なんか気になることでもあったのー?」
「いや、別に何でもない」
場の空気を基本的に読まない彼女は、くいっと首をかしげつつも、いつの間にか新たに皿の中に追加されたタネをどんどん消化していく。
「ああ。一つだけ気になることといえば」
「え? 何?」
「おでん代は誰が払うんだ」
「……んぅ」
「何だよその視線」
「あたし、お財布持って来ていない」
折角大根だけで済ませようと思ったのに、思わぬ出費がかさむことになった。
オゴリとは奢る側の行為であって、奢る側の義務ではない、と声高々に言いたい気分だ。
「――あぁ、もう」
ただ、一番俺が憎々しく思うことは、そんな事になるのを見越して財布に多めのお金を持って来ていた俺自身なのだが。
「兄ぃは人にお金貸したり、連帯保証人にはなったらだめだよー。あと、怪しい勧誘には絶対に乗っちゃだめだからねー」
「それを他ならぬお前が言うのか」
「兄ぃの妹分ですから」
「はいはい、わざわざ妹分のお前から心配されて、兄ぃは幸せですよ」
そうして、俺は自分の分で取った大根を全て腹の中に入れる。真花の方はまだもう少し時間がかかりそうだ。
「……」
暇を持て余し、おでん屋の店主が見ていたように、大通りの続く方をじっと見つめてみる。
等距離に植えられた人工の灯りに照らされ、灰色の道は人々の大半が眠るこの時間でもどこか排気ガス臭い。
速度違反など考えもしていないバイクやタクシーがたまに空気を引き裂きながら過ぎ去っていくことに、チリチリとした恐怖が脳裏をよぎる。
多種多様な人々が行きかい、喜怒哀楽を置き土産にして歩き続ける世界。
多種多様な人々が、喜怒哀楽を拾って自らの糧にする世界、とも言えるかもしれない。
それゆえに、この場所は多くの人をひきつけてやまないのか。
低い建物、高い建物。人がその場により長くとどまろうとする一手段。
ホテル、マンション、オフィスビル、商業ビル――
一見すると、何とも寒々しい無機質の塊。
しかし、そこから白やオレンジの光が漏れだし、そこにあたたかな人間の営みがあるのを確認させるや否や、人々はその塊に共感し、言いようもない親近感が湧いてくる。
あぁ、私は生きている。私は人間だ。この世界に存在する人間だ、と。
(――だが)
最近は、本当にそれは事実なのだろうか、とも思ってしまうのだ。
そこにいるのは――ここにいるのは、まぎれもない何千億という何かによって形作られた人間という生物なのだろうか、と。
もし、人間と全く同一の姿かたちなのに、人間でない〈何か〉が居るなら――
その存在は人にとって無害ということないだろう、人はそれぞれ色々なことを考えるものだ。
それが有益か。それとも有害か。または一生その存在に気が付くことがないか。
その3つに分かれるに違いない。
あの窓の向こうにいるであろう人々や〈何かたち〉は――
俺にとって、その存在は――

一体、どのように受け止められるものなのだろうか?

(――いや、もう、止めよう)

首を振り、現実に戻ろうと、目線を屋台の方へ戻す。
「お」
彼女の皿の上も、ようやくロールキャベツが残り二つのところまで到達していた。
その横にもっさり積んである何か――おそらく〈ロールキャベツを巻く白い帯〉だろう――がやけに存在感を示している。
(いち、に、……。おい、ロールキャベツだけで12個かよ)
彼女の皿に積まれたその数に驚愕しつつも、後で支払う金額を思うと湿ったため息が出てしまう。
「――ん?」
と、いつからこっちの方を見ていたのか、彼女が俺の顔をじっと見ながら、ツンツンと自分の皿を箸で指し示していた。
「なに?」
「……いっこ、食べる?」
「満腹なのか」
「んぅ、そゆことじゃない」
「……」
彼女なりの俺に対するお礼なのだろうか。
帯の取れたロールキャベツを一個、箸で器用に持ち上げてこちらに移そうとしてくれる。
「いや、いい」
「え?」
「お前が食べたければ、俺はいい」
「いらないの?」
「あぁ」
「そ。……――あぁ、そだ」
自分の皿に戻したそれを半分に割りながら、ふと何かを思い出したかのように真花は口を開いた。
「兄ぃ、また明日――じゃないや。今日もまた〈ガーデン〉に来るの?」
〈ガーデン〉と聞いて、一瞬何を聞こうとしているのか分からなかったが、今日が日曜日だったことを思いだす。
「多分行く」
「そ。ごめんだけど、明日は30分遅れてスタートするから」
「何かあったのか?」
「予約がね、入ったの」
「予約?」
「んまー、色々あるの。兄ぃは幼馴染割引きで料金安いんだから、それくらい我慢してよね」
「別に悪くはない。了解した」
「んぅ。――でも、あんな場所をデートの待ち合わせ場所にするなんて、兄ぃもモノ好きねぇ。いや、〈ブリーダー〉のあたしが言うのもなんだけどさー」
「俺が、というよりは、〈アイツ〉が、だけどな」
「兄ぃは嫌い?」
「……アレはアレで愛嬌がある、と思えるようになってきた」
「最初会った時は、へんてこなかたちー、とかバカにしていたくせに。……やっぱり、その〈アイツ〉効果?」
「そうかもな」
「ふうん、妬けちゃうねー」
「妬くな。ただの性格悪いクソガキだ」
俺の返答に、真花は軽く笑みを浮かべると、さっきのロールキャベツを自分の口の中に放り込む。そうして、ようやく右手に持ち続けていた箸を皿の上に置いた。
「ごちそうさまー」
「ん」
俺は財布から貴重な紙のお金を二枚と、硬貨をジャラジャラと出して、少し脂が染みたカウンターの上に置く。
さっきまで不機嫌な態度を示していた真花も腹が膨れて満足したのか、最初来た時のような調子で屋台の親父さんに声をかける。
「お金、置いておきますよー!」
「……」
返答こそなかったが、親父さんはその片手をぶっきらぼうに上げた。
「なんなんだろうねー」
そんなコトを言いつつも反応を得られたことが嬉しかったのか、俺の方を見た真花はクスクスと笑った。

『The PERMANENT GARDEN』

(あとがき)

続きは、次の鍛錬室の課題に従って書き進めていくつもりです。
『チャオ』は出ているかって? ……えぇ、出ていますよ、しっかりとね。そこらへんの話は後からのお楽しみです。
引用なし
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