●週刊チャオ サークル掲示板
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ハートの実 第1話 繁殖 スマッシュ 16/11/20(日) 20:58
第2話 マッスル スマッシュ 16/11/22(火) 22:39
第3話 滑り台 スマッシュ 16/12/16(金) 22:32
第4話 お風呂 スマッシュ 16/12/16(金) 22:33
第5話 農園 スマッシュ 16/12/16(金) 22:33
第6話 チャチャチャ スマッシュ 16/12/16(金) 22:33
最終話 進化 スマッシュ 16/12/16(金) 22:34
感想コーナー スマッシュ 16/12/16(金) 22:50
感想です ろっど 16/12/22(木) 18:52
ありがとうございました スマッシュ 16/12/23(金) 4:05

ハートの実 第1話 繁殖
 スマッシュ  - 16/11/20(日) 20:58 -
  
 ハートの実は安い。
 オスの犬一匹を去勢するお金で、ハートの実が十個は買えてしまう。
 私は、白いコートを買うために取っておいたお金でハートの実を二つ買った。
 私のチャオと瑠加のチャオを繁殖させるためだ。
 手口はシンプル。
 瑠加がトイレに行っている間に、ハートの実を食べさせる。それだけ。
 お互いチャオを飼っていることがわかってから、私と彼は時々チャオガーデンで一緒にチャオを遊ばせていた。
 その日も瑠加はボールを投げたり転がしたりして、駆け回った。
 彼のチャオはニュートラルハシリチャオで、走るのが好きみたいだ。
 私のヒーローチャオも、彼のチャオに比べると遅いけれど、笑いながら頑張って走っていた。
 私だけ大人しくしているのは寂しくて嫌だったから、私も動きやすい格好をして来ていた。
 そして、体育の授業じゃ絶対にしないくらいに思い切り私は走った。
 走り疲れて私もチャオも座り込むと、瑠加がとうとうトイレに行った。
 すぐに私はハートの実をチャオたちに食べさせた。
 私は瑠加が好きだった。
 私の理想の将来というのは、夫と一緒にチャオを愛でて生きていくというものだった。
 子供が産まれたらチャオを友達として一緒に遊ばせたり、白髪が増えてきた頃にチャオを撫でながら旅をしたり、ということを思い描くのである。
 チャオがとても好きな瑠加も、私と似たことを思っていそうに見えた。
 だけどハートの実をチャオに食べさせたのは、彼に私を意識させるためでも、ましてや告白のためにしたわけでもなかった。
 好きな人のチャオと、私のチャオを繁殖させてみたかったのだ。
 チャオが繁殖する時にたくさん咲かせる花も見てみたかった。
 そういうことが、ハートの実を食べさせるだけでできるのだから、やりたくてたまらなくなる。
 私は、チャオを繁殖させたらタマゴが産まれるということを少しも考えず、ただやってみたいと思っていた。
 瑠加は、思ったより早く戻ってきた。
 だけど二匹とも実を食べ終わっていて、既に周りに花を咲かせ始めていた。
「これって」
「なんか、始まっちゃった」と私は答えた。
 瑠加は狼狽するだろうか。ハートの実を食べさせたことに感づいて怒るだろうか。
 そんなことを今更になって思ったけれど、瑠加は冷静な様子で、私の隣であぐらをかいた。
 二匹のチャオは見つめ合っているだけだ。
 それでもチャオの周りでは、ポップコーンが弾けるみたいに次々と花が咲いて、それが二匹の気分を代弁しているみたいに見える。
 そう思うと、二匹のチャオもうっとりと相手のことを見ているような気がしてくる。
 やがて二匹のチャオは体を寄せ合い、頬をすり合わせた。
 そして両手を繋いで、輪を描くみたいに動いた。
 交尾にしては稚気が溢れる動きで、密着もしていなくて、ダンスって呼びたくなるのはよくわかる。
 それなのに二匹の間から、急速に膨らむ風船のようにタマゴが産まれた。
 そのタマゴに押し退けられるように二匹は離れて、繁殖は終わった。
「産まれた」
 私は意外なことが起きたように言っていた。
 瑠加のチャオは、ジャンプしながら万歳をして喜んでいた。私のチャオはにこにこして、産まれたタマゴを優しく撫でた。
 衝動がなくなって、心が落ち着いた私はその時になって、タマゴをどうしよう、と考え始めた。
 チャオガーデンで引き取ってくれた気がするけれど、お金がかかるんだったっけ。
 高いんだろうな、困ったな、と思っていたら、
「このタマゴ、俺がもらっていい?」と瑠加は言った。
「相田が欲しいんなら、相田がもらってっていいけど、そうじゃないなら、くれないか」
「大丈夫なの?」
「俺の家、チャオたくさん飼ってるんだ」と瑠加は自慢した。
「だから大丈夫だよ」
「じゃあ、お願い」
 そう私が言うと、任せろ、と瑠加は笑った。
 そして瑠加は立ち上がってタマゴを抱えると、また私の隣に座った。
「胎教ってあるだろ。それみたいに、チャオもタマゴの頃から可愛がってやるといいんだってさ」
 あぐらを組んだ脚にタマゴを乗せ、軽く揺すったり、撫でたりする。
 タマゴを産んだ二匹も真似して、タマゴの下の方を撫でていた。
「相田も撫でてみろよ」
 私は両手で、こするみたいにタマゴを上下に撫でた。
 タマゴを中心に、私たち二人と二匹はこれまでにないくらい近付いていた。
「なんか、暖を取ってるみたい」と私は言った。
引用なし
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第2話 マッスル
 スマッシュ  - 16/11/22(火) 22:39 -
  
 増田瑠加は、水泳部だけどバスケが上手い男子だった。
 体は細い。
 苗字と名前を縮めて、マッスルってあだ名があった。
 体育祭で活躍した時なんかにマッスルって呼ばれると、瑠加は嬉しそうにする。
「やっぱりマッスルのチャオはチカラタイプになるのか?」
 休み時間、瑠加は友達と話していた。
 チャオ、という単語を聞いて私は彼らの方を横目で見た。
 瑠加は携帯電話でチャオの写真を見せているらしい。
「いや、こいつはヒコウタイプにしようと思ってる」と瑠加は言った。
「無理だろ。ダークチカラチャオになる、絶対。チャオは飼い主に似るんだぞ」
 瑠加と同じ小学校に通っていた田村が言った。
「似るって言ってもそういうふうに似るんじゃねえから。それに、それだったらオヨギタイプだろ」
「私のチャオ、チカラタイプ!」
 瑠加の近くの席の子が手を挙げて、言った。
「そうか、お前結構パワータイプだったんだな」と田村があしらうように言った。
「ちげえし」
 彼女は田村の頭を平手で叩いた。
 いい音がした。
「地味に痛いとそれはそれで反応に困るからな?」と田村は彼女をたしなめる。
「はいはい。いいから、チャオ見せて」
 瑠加は写真を見せた。
 いいね、いいだろ、と二人は話した。
「ねえ、きっちゃんもチャオ飼ってたよね。来なよ。瑠加も飼ってるよね?」
 彼女に呼ばれて、私ときっちゃんも輪に加わった。
「こいつ、ヒコウタイプにしようと思うんだ」と瑠加は私に写真を見せながら言った。
「うん、聞いてた」
「どう思う?」
「いいと思う。飛んでるチャオって可愛いし」
 写真のチャオはまだ子供で、たぶんこの前産まれたタマゴのチャオだった。
 私のチャオも瑠加のチャオも普通のピュアチャオだったから、写真のチャオもピュアチャオだった。
 丸い木の実を食べている途中だったそのチャオは、撮られていることを気にしてか、カメラの方を見ていた。
「ヒーローか、ダークか、それともニュートラルか。どれにしたらいいかな」と瑠加は私に聞いた。
「私は、ヒーローかニュートラルが好き」
 ダークチャオになると、黒くなってちょっと怖い。
 白いヒーローチャオは可愛いし、進化したばかりのニュートラルチャオのパステルカラーもいいと思う。
 それに、この子の親はヒーローチャオとニュートラルチャオだから、どちらかに合わせてあげたいということも思った。
 休み時間が終わってから、もしかして私にも飼い主としての決定権があると思って、あれこれ聞いてきたのかもしれないと気が付いた。
 もしかしたらそれは恋人や夫婦の真似事をするのに丁度よかったのかもしれない。
 けれど、そういう気は起こらなかった。
 あれから、私たちの仲は特に進展していなかったのだ。
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第3話 滑り台
 スマッシュ  - 16/12/16(金) 22:32 -
  
 繁殖させてから一ヶ月後、久々にチャオガーデンで遊ぼうと瑠加を誘ったら、うちに来なよ、という返信が来た。
 チャオを二匹、チャオガーデンまで連れていくのが面倒なのだろうか。
 考えるのもそこそこに、ラッキーだと思った私は、行くと返信した。
 私はチャオを連れ、瑠加の家に向かう。
「チャコ、今日はチャオガーデンじゃなくて、瑠加の家に行くよ」
 そう言うと、チャコは喜んだような顔をした。
 瑠加の家は大きかった。
 三階建てで、庭が広い。
 そして門の横の車庫には車が二台ある。
 チャコは私以上に興奮していて、門にしがみ付いていた。
 ドアホンを押すと、瑠加が家から出てきて門を開けてくれた。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」と瑠加は私を招き入れる。
 庭は、子供が鬼ごっこをして走り回れるくらいのスペースがあった。
 金持ちなんだな、と私は思った。
 玄関にはチャオが二匹待っていた。
 ニュートラルハシリチャオのナガレ君と、そしてナガレ君とチャコが産んだチャオだった。
 そしてチャオたちの奥で、瑠加のご両親も待ち構えていた。
「こんにちは、お邪魔します」
 私は深々と頭を下げた。
 ご両親は、息子が女の子を家に招いたせいで、浮かれている様子だった。
 恋人でもないのに、私のことを丁重に扱おうとする。
 好きな食べ物あれば言ってね、なんて言われる。
 それが移って、私の片思いなんですよ、と言ってみたくなった。
 チャコは顔を知っているナガレ君に、チャオチャオと言って挨拶らしきことをしていた。
 そしてもう一匹のチャオのことを観察するように見た。
 自分の知らないチャオがいるなあって感じで見ているんじゃないかと私は思った。
 自分の子供だということには気付いていないと思う。
 彼の部屋に行くのかと思いきや、私たちはリビングに通された。
 やっぱりリビングも広かった。
 だけど、一目見た感じだと、リビングと言うよりもやたら広い子供部屋というふうに見えた。
 車輪の付いた赤い箱と、高さ一メートルくらいの滑り台が目立っていたせいだ。
 そして床にはボールなど、チャオの玩具が散らばっていた。
 なんと滑り台は壁付けの本棚みたいに家の壁と一体化していて、壁に沿って階段がある。
 赤い箱の中にはヒーローオヨギチャオが入っていた。
 そしてダークハシリチャオが、箱に取り付けられているロープを握って、箱を引いていた。
「なんか、チャオガーデンみたい」
 瑠加は嬉しそうに、そうなんだよ、と言った。
「この家を建てる時にじいちゃんばあちゃんが、リビングはチャオガーデンみたいにしたいって言って、こうしたんだってさ」
「おじいちゃんとおばあちゃんもチャオが好きだったんだ?」
「うちは、代々チャオの仕事をしているんだよ」
 瑠加のお父さんがそう言った。
 丸い眼鏡が似合っていて、そして私たちの親世代にしては若く見える人だった。
「チャオの仕事って、ガーデンの管理人さんとかですか?」
「いや、僕は大学でチャオの体の仕組みを研究をしているんだよ。チャオ専門の医学者って言えばわかりやすいのかな。どうするとチャオは長生きできるのか、どんなチャオが転生をするのか、みたいなことを調べているんだ。そして僕の両親は、チャオの食べる木の実を作る農園を昔からやってる」
「そうなんですね」
 私は、チャコとナガレ君に食べさせたハートの実のことを思った。
 あれも瑠加の祖父母が作ったのかもしれなかったのだ。
 チャコは滑り台に興味を示して、階段を上っていく。
「ちなみに私は、チャオの服を作ってました」
 瑠加のお母さんが小さく手を挙げた。
「サラブレッドなんだね」
 瑠加にそう言うと、
「そんな大したものではないだろ」と瑠加は照れた。
「こんな家だから、チャオ好きに育ってくれて、ほっとしてるの」
 瑠加のお母さんが冗談めかして言う。
「それよりもさ、ほら、こっからベランダに出ると」
 瑠加は小走りでガラス戸の方へ行き、開けた。
 そこには、たぶんチャオのために作られたプールがあった。
 温泉の湯船みたいに、段が設けてあって、そこから出入りがしやすいようになっている。
「本当に、チャオガーデンなんだ」と私は感心した。
「チャオは水がかなり好きで、泳げないチャオでも水に入るとリラックスするんだよ」
 シャワーを浴びさせるくらいでもいいから水に触れさせてあげるといいよ、と瑠加のお父さんは解説する。
 だけど熱過ぎるお風呂は苦手だからそこは気を付けないといけない、とも言った。
「ぬるま湯くらいなら一緒に入っても大丈夫だから。そっちの方が人間の体にもいいって聞くしね」
「そうなんですか」
 チャオと一緒にお風呂に入ったことは、一度もなかった。
 そうした方が長生きとか転生とかするんですか、と聞こうとしたら、チャオオ、と語尾を伸ばしてチャコが私を呼んだ。
 声のした方を見ると、階段を上りきったチャコが両手を挙げてアピールしていた。
 私の視線が自分の方を向いたことを確かめると、チャコは滑り台を滑って降りた。
 そしてチャコはまた階段を上る。
「気に入ったみたい」と瑠加のお母さんは笑った。
 チャオは飛べるから、高い所に行ける遊具があった方が楽しくていい。
 瑠加のおじいちゃんがそんなふうに言って、作ってもらったのだと瑠加のお父さんは話す。
 元々ほとんど飛ぶことのないチャコは、滑り降りるばかりで飛ばない。
 だけど滑り台は結構気に入ったみたいで繰り返し遊ぶ。
 赤い箱で遊んでいたヒーローチャオとダークチャオがチャコのはしゃぎように影響を受けて、二匹も滑り台で遊び始める。
 三匹は長縄飛びをしているみたいに滑り台に上っては滑り降りるのを繰り返す。
「ブームが来たな」と瑠加は面白がって見ている。
 ナガレ君と、子供のチャオもそのブームに加わる。
 だけど産まれて一ヶ月も経っていない子供のチャオは階段を上る動きがのろくて、そこで渋滞が起きてしまう。
 チャオたちは怒ったりしないで、子供のチャオを見守っていた。
 そして子供のチャオが無事に滑り降りるところを、にこにことして見ていた。
 チャオたちは、なんて優しいんだろう。
 もっと身勝手なものだと思っていた私は驚いた。
「いい光景。泣けちゃう」
 うっとりと瑠加のお母さんが言った。
「チャコちゃん、すぐ馴染めたみたいだね」
 瑠加が私にそう言った。
 そうみたい、と私は頷く。
 瑠加はまた階段を上ろうとしている子供のチャオを抱っこした。
「ちょっと俺の部屋に来て」と瑠加は言った。
 たぶんそのチャオの話なんだろう。
「わかった」
 瑠加の部屋は、三階にあった。
 階段を上りながら瑠加は、
「押し付けられたんだ。若いから階段上るの、なんてことないだろ、って」と苦笑した。
「まあ、なんでもないよ」と私は言った。
「そうだけどさ。トイレも三階にはないんだ」
 私たちは一段飛ばしで階段を上って、三階まで行った。
 三階には三つ部屋があった。
 階段を上って、左手にある一部屋が、瑠加の部屋。
 右側の二部屋は、瑠加のお姉さんの部屋と、滅多に使わない物を入れる物置なのだそうだ。
「滅多に使わないって、どういうの?」
「一年に一回食べるかどうかっていう、たこ焼き器」
「ああ」
「今日はたこ焼きだってなると、俺か姉ちゃんがそっから出すんだ。それと、俺たちは普通に使えるから、二人の金で買った漫画をそっちにしまったり」
「仲良かったんだね」
 瑠加が羨ましくなる。
 私には兄弟がいなくて、欲しいとずっと思っていた。
 同じ漫画を読んだり、楽しそうだ。
 瑠加とお姉さんの関係は、私の思い描くような姉弟そのもののように聞こえた。
 喧嘩もほとんどしなかったよ、と瑠加は言った。
 そのお姉さんは、通っている大学の近くで一人暮らしをしていて、今はいないらしい。
 瑠加の部屋も当然、広かった。
 私の部屋が二つは入りそうだった。
 勉強机とかベッドとかある、普通の子供部屋らしいスペースが奥の方にある。
 そして手前の方は、一人暮らしの学生の居間のようにラグマットが敷かれてあり、小さな丸テーブルもあった。
 私たちは薄いクッションを座布団代わりにして座った。
 瑠加は、丸テーブルに子供のチャオを乗せて、言った。
「気付いていると思うけど、この子はナガレとチャコちゃんの子供だ」
「うん」
「チャコちゃんの子供なんだから、君にはこの子の飼い主の権利があると思う」
「あ、いや、別に飼いたいわけじゃないから、いいよ」
 むしろあの時、迷う素振りを少しも見せずに引き取ってくれて、ありがたかった。
 私の家でもう一匹チャオを飼うとなったら、お母さんもお父さんも困ってしまうだろう。
 チャコ一匹で、私たち家族は満足していた。
「そういうの以外にもあるだろ。名前付けるとか、一緒に遊ぶとか、芸を覚えさせるとか」
「名前、付けてないの?」
「一応付けてある。トウマって名前」
「いいじゃん」
「トウマでいいならいいんだけど、でもどういう名前がいいか意見する権利は君にもあって然るべきって話」
 なんとなく話が見えた。
「なるほど。ゴミ箱舐め太郎がいい、とか言っていいってことね」
「その名前はちょっと」
 瑠加は苦い顔をした。
「冗談だって。とにかくトウマを自分のペットとして、好きなようにしていいってことでしょ?」
「そう。そういうこと」
 チャオガーデンで遊んでもいいし、今日みたく俺の家に来てもいい。
 瑠加はそのように言った。
「じゃあ、毎週来ていい?」
 駄目だと言われても、冗談だということにできるから、そう言う。
「まあ、いいけど」と瑠加は答えた。
 やったね、これから毎週来よう。
 そう思うと同時に、やっぱり毎週来るわけにはいかない、と冷静に考えていた。
 トウマのことを自分のペットとして可愛がるような気持ちが私の仲にないことを、私はわかっていた。
 トウマに会うためという建前が全くの嘘では、快く招き入れてくれた瑠加のお父さんお母さんに申し訳ない。
「へえ。本当に来ちゃうかもしんないからね」
 そう言っておくけれど、たまにしか行かないと私は決めた。
「それでさ、前にもちょっと言ったけれど、こいつはヒコウタイプにしようと思う。ヒーローヒコウチャオ」
「うん。いいと思う」
「チャオって飛ぶのが上手いと、自由に動き回れるのが楽しいのか、活動的になるんだ。だから一緒にいて凄く楽しいんだよ。一緒にどこか旅行に行ったりしたら面白いと思う。トウマが飛び回れるようになったら、相田もトウマを色んな所に連れていってみなよ」
「わかった」
「よし。しておく話はこのくらいかな」
 瑠加はマットに手をつき、気を抜いた座り方をした。
「相田は何かある? 聞きたいこととか」
 ない、と私は首を振る。
 トウマのことは瑠加に任せきってしまうつもりでいた。
 たぶん私はトウマをどこかに連れていくことさえしない。
 ちゃんと世話をする瑠加は真面目だ。
 チャオが好きなのだ。
 両親や祖父母と同じように。
 まだ瑠加の家に来てから少ししか時間が経っていないのに、そんなふうに感じられる。
 それくらい彼らのチャオに対する愛情は深かった。
 お昼になると、瑠加のお母さんは私の分まで昼食を用意してくれて、四人で大葉を使った和風パスタを食べた。
 チャコも他のチャオと同じ餌をもらっていた。
 もりもりの木から成る実だった。
 瑠加のお父さんが言うには、最新の研究では普通の木の実よりもチャオの健康にいいと考えられているらしい。
 うちのチャオは父さんの研究に付き合わされているんだ、と瑠加は苦笑いした。
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第4話 お風呂
 スマッシュ  - 16/12/16(金) 22:33 -
  
 瑠加の家を知ってしまったチャコは、私の家が退屈に感じるようになってしまったみたいだった。
 チャオは飼い主に構ってほしがる生き物ではあるけれど、前以上に家の中でも遊びたがるようになってしまった。
 私の脚を滑り台代わりにさせてやるのだが、本物の滑り台と比べるとあまり楽しくないらしい。
 別の遊びをしたいとねだってくる。
 疲れてしまうので、新しい玩具と楽器を買ってやった。
 それで一応は一人遊びをしてくれるように戻った。
 瑠加の家やチャオガーデンみたいな、チャオの楽園といった環境にしてあげることはできない。
 けれどこの家や私たちの世話の仕方は、チャコにとってあんまり心地よいものではなかったのかもしれなかった。
 それが可哀想に思って、私はお母さんに頼んで朝から浴槽に水を張らせてもらった。
「今日は一日、水遊びし放題だから」
 そう言って私はチャコを浴槽に入れてやる。
 チャコはすぐに底まで潜った。
 しばらくすると、凄く楽しそうな顔をして水から顔を出した。
 気に入ってくれたみたいだった。
 私も湯桶に水を張ってそこに足を入れておき、雑誌を読む。
 チャコは潜水が好きらしく、息継ぎをする、ぷはあ、という声が何度も聞こえてくる。
 息継ぎをする声やバタ足の音を聞いているうちに、チャコが転生してくれたら嬉しいと私は思った。
 考えてみれば、私が将来の生活を想像する時に登場するチャオは必ずチャコだった。
 チャコが死んでしまって、次のチャオを。
 そんなふうに想像していたら、疲れてしまう。
 私は瑠加に電話した。
「ねえ、チャオってなんか、好きな飲み物とかってある?」と私は聞く。
 ううん、と瑠加は考えた。
「発泡酒」
「嘘だ」
「うん。アルコールはやめておいた方がいい。コーヒーとかもね」
「じゃあ、ジュースとか?」
 ジュースも好きじゃないかもしれない、と瑠加は言った。
 そもそもチャオと人間とでは好む味が全く違っていて、そのせいで人間が飲み食いする物をチャオはあまり口にしないのだと瑠加は言う。
「でもまあ、変な物を好きになるペットって、犬とか猫とかでもよくいるし、色々やっているうちに何か見つかるかもしれない。でも飲み物なら、水で薄めてやった方がチャオには飲みやすいと思う」
「そうなんだ。ありがと」
「おう」
 通話を切る。
 確かにチャオの食べる木の実って、人間にとってはおいしくない物だった。
 普通の安い木の実を試しに食べたことがあるが、酷かった。
 水っぽくて、少しも甘くなくて、青臭い感じもする。
 そんなぎこちない味だった。
 おいしくないきゅうりとか、スイカの皮の部分とかいうのに近い印象だ。
 だったら甘くない野菜ジュースなんかを水で薄めてやれば喜ぶのだろうかと思ったけれど、実際に飲ませてやろうとは思えなかった。
 私が幸せになれる、チャオの幸せ。
 それってどんなのだろう、と考える。
 瑠加の家の滑り台みたいな遊具があって、私は遊びの邪魔をするみたいにそのチャオ用の小さな遊具に腰掛けている。
 飼っているチャオは、私も遊具の一部と見なしてよじ登ろうとしたり、普通にソファに座っている瑠加の方に行ったり、それぞれの遊び方をする。
 瑠加はチャオに構ってやるけれど、私はただ遊具になっているだけで自分からは何もしないで瑠加を見ながら、とても温かいココアを飲んでいる。
 チャオと遊んでいる瑠加のすぐ傍のローテーブルにもココアの入ったマグカップが置いてあって、それを飲む時には瑠加は私の方を見る。
 そんな想像をした後に、やはり私は瑠加のことが好きだ、というふうに思う。
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第5話 農園
 スマッシュ  - 16/12/16(金) 22:33 -
  
 あまり行かないようにすると決めたけれど、瑠加から来いと言われたならば行こうという気になる。
 トウマが産まれてから三ヶ月。
 すなわち瑠加の家を初めて訪ねてからおよそ二ヶ月後のことだった。
 私は彼に呼ばれていた。
 しかも朝の七時までに来るように指示されていた。
 学校へ行く時よりも早く家を出て、私は彼の家に向かった。
 彼は門の前で待っていた。
「おはよう。いいタイミングだよ」と彼はにこにこして言った。
 もうワゴンカーに、彼の両親と彼らの飼っているチャオ四匹が乗っていた。
 私とチャコと瑠加も乗って、車が出発する。
「どこ行くの?」
「じいちゃんとばあちゃんがやってる農園」
「一時間くらいかかるから、眠かったら寝てていいよ」
 運転手である、瑠加のお父さんが言った。
「あ、大丈夫です。ちゃんと寝てきました」
 普段学校ある時なんか平気で夜更かしをするけれど、昨晩は早めに寝た。
 チャコが寝るのと同じような時間に寝たくらいだ。
「農園って、よく行くの?」
「俺はよく行くってほどじゃないけど。じいちゃんとばあちゃんは毎日行ってるからね。向こうに泊まったりもしてるし。だからこっちから会いに行かないと、同じ家に住んでるはずなのになかなか接点がないんだよ」
 それにチャオたちが喜ぶのだと瑠加は言った。
 四匹のチャオは、チャオ用のチャイルドシートみたいな物に座っていたり、瑠加や瑠加のお母さんの膝に乗っていたりしている。
 私も膝の上にチャコを乗せている。
「ガーデンより広いし、木に登れるし、食べ物はたくさんあるし。チャオにとってみれば、これ以上ない遊び場なんじゃないかな」
「あとは池さえあれば完璧なんだけどね」
 瑠加のお父さんが言った。
「チャオは水が好きで、リラックスするから」と私は言った。
「そう。大正解」
「あれから、ちゃんとお風呂に入れてあげるようにしました」
「素晴らしいね。チャオは元々森の中にいる生き物なんだけど、チャオがいる森には池や流れの緩やかな川があるんだ」
 瑠加のお父さんは、楽しそうに語り始めた。
 チャオは池や川の傍で寝て、そこから大きくは離れずに生活する。
 チャオの森と呼ばれている森があって、そこはチャオの数が他の生物と比べて圧倒的に多いという森なのだそうだ。
 そこにもやはり池や川がある。
 それも大きな池、太い川。
 その水場の大きさがそのままチャオの数に繋がっているらしい。
「僕もチャオの森に行ったことがあるんだけどね。チャオの森は敵になる動物がかなり少なくて、チャオがピラミッドの頂点っていう感じなんだ。そういう環境が作り上がっているからかな。そこに生きているチャオは、他の森のチャオに比べて長寿だっていう傾向があるみたいだね」
 転生するチャオも多いらしい。
 さらにカオスチャオも発見されていて、そのチャオが自然に育ったものなのか、カオスチャオになってから捨てられてしまったチャオなのか、研究者たちは興味を持っているのだそうだ。
「それで今は、研究者のチームがチャオの森にキャンプをして、自然にカオスチャオが育つのかということも含めて調べているんだ。もう始まってから十年は経っているかな。森の傍に研究所もあるんだ」
「この人、そのチームに入りたがってるのよ」
 困ったように瑠加のお母さんは言った。
「惹かれるけどね。でも少なくとも五年はそっちで生活になっちゃうからなあ」
「そんなにですか」
 そりゃあ瑠加のお母さんは困るだろう。
「五年いないと、チャオの一生を観察することができないからね。時間の積み重ねが大事なんだ。カオスチャオになったチャオもまだいない」
 チャオ研究にとって五年は短いが、子供を持つ親にとって五年は長い。
 そう瑠加のお父さんは言った。
 五年も瑠加から離れてしまうと、その間の成長を見守れなくなる。
 卒業式も出られないし、成人になる時に一緒にいることもできない。
 だからチャオの森に行くとしたら、瑠加が成人してからだろうと瑠加のお父さんは言った。「瑠加が自立したら、チャオの森に母さんと行って、第二の人生を歩むっていうのはいいかもしれないなあ」
「まあ、瑠加が独り立ちしてからなら」と瑠加のお母さんも少し乗り気だ。
 こんな調子で、車の中での一時間は、瑠加のお父さんがほとんど話していた。
 チャオは種を植えて、木の実の成る木を育てることがある。
 種を植えられるのなら、他の植物も育てられるはずだということで、花や野菜の世話を手伝わせてみるという研究をしている大学もある。
 そんな感じで、チャオの研究についての色んなことを教わる。
 まるで授業を聴いているみたいだったけれど、退屈はしなかった。
 途中横を向いて瑠加を見ると、瑠加は寝ていた。
 きっとこんな話はいつも聞かされているのだろう。
 瑠加のおじいさんとおばあさんの農園では、りんご農園みたいに木々が間隔を開けて整列していた。
 木には、木の実がたくさん成っていた。
 店で買うのと似たような姿になっている。
「今は、収穫の時期なの?」
「チャオの食べる木の実は通年で取れるよ。成るのも早いから、次から次へと取れる。取れすぎて、値段が安くなりすぎるなんてことがよくあるくらい」
 取れすぎるというのは、地面に落ちている木の実が見られることからもわかった。
 瑠加は底の浅いトートバッグに、ナガレ君とトウマを入れていた。
 チャコを入れるバッグはないので、私は抱えている。
「ここらへんは普通の安い木の実。ちょっと奥に行くと、三角の実とか四角の実とかの、ちょっと変わった味の実の木がある。で、一番奥が、ちょっと高めの実。高級品として出される木の実とか、ハートの実とか」
 やっぱりハートの実も作っているのだ。
 高価な実は、こちらにある実よりも成るペースが遅いらしい。
「一番高いのは、一個いくらくらいなの?」
「一個一万円っていうのがあるね」
「そんなに」
「ピュアゴールデンラブっていう品種で、早い話が品種改良したハートの実だね。そこまで高いやつは、大体がチャオじゃなくて人間用」
「一万円のやつはおいしいんだ?」
「人間にとっておいしい味なもんだから、チャオは逆に嫌いだったりするくらい、うまいよ」
「食べたことある、一万円?」
 そりゃあ孫だから、と瑠加は言った。
 たぶんお小遣いをくれるみたいに、おじいさんとおばあさんは食べさせてくれたのだろう。
「お、戻ってきた」
 瑠加はそう言って手を振った。
 車に降りてからどこかへ行ってしまっていた瑠加の両親が、大きな籠を背負ってこちらに向かっていた。
 さらに瑠加の祖父母らしき、おじいさんとおばあさんも一緒に来た。
「あれ、じいちゃんとばあちゃん」と瑠加は言う。
 瑠加のおじいさんとおばあさん、そして私は挨拶を交わす。
 例によって、私は瑠加の恋人と思われているように感じた。
 私だって、ただの友達の女子をこんな所に連れてくるとは思えていないのだ。
 こいつ結構私のこと好きだったりするんじゃないか。
 そう手応えを感じていた。
 瑠加のご両親は、木の実の収穫を手伝うそうなのだが、私たちは手伝わなくていいと言われる。
「じゃあ奥の方行ってていい? そっちも今日やる?」
「やるにしても午後だね」と瑠加のおばあさんは答えた。
「じゃあこっち行こう」
 瑠加に連れられて、木と木の間の通路を歩いて行く。
 真上にも実が成っていて、足下には木の実が落ちている。
 落ちている木の実を踏まないようにすると、なんだかダンスのステップを踏んでいるみたいになる。
 進んでいくうちに落ちている木の実の種類が変わった。
 上を見ると木にはたくさんの三角の実が成っていた。
「なんか綺麗。クリスマスツリーみたい」
 木の実が飾り付けみたいに見えた。
 すると瑠加は、
「実際クリスマスツリーに使っている所もあるらしいね。昔、テレビでやってた」と言った。
「わかった。ハートの実のやつが人気なんでしょ」
「その通り」
「人間って単純」と私は笑った。
 三角の実の次は四角の実。
「ああ、そうだ」と言って瑠加は私の方に振り向いた。
「ちょっとこれ持ってて」
 瑠加は私にトートバッグを渡す。
 そしてトートバッグの中からトウマだけを抱き上げて、出した。
「見てて」
 瑠加は右手にトウマを立たせると、ゆっくりと右手を挙げる。
 右手を突き上げたような形になると、トウマはそこから飛び降りるようにジャンプした。
 必死に羽ばたいて、トウマは飛ぶ。
 トウマは私の腰ほどの高さでなんとか飛んでいて、可愛い。
「飛んでる」と私はトウマを小走りで追いかけながら言った。
 丁度トウマが着地したところで、私はトウマを抱き上げた。
「飛んだね」と私は瑠加に言う。
 早足で歩いていた瑠加は私に追いつくと、
「最近飛べるようになったんだ」と言った。
「この調子ならたぶんヒーローヒコウチャオになると思う」
 ヒーローチャオに進化させるための、ヒーローの実もここの農園で穫れる。
 それをトウマに食べさせるために今日は来たのだと瑠加は言った。
「どこらへんにあるの」
「もうちょっと奥。ハートの実の少し手前」
 もりもりの実の成る木の次にダークの実の成る木のエリアがあった。
 この次がヒーローの実のエリアだ。
 ヒーローの実とダークの実、どっちが多く売れるのか、私は瑠加に聞いてみた。
「そりゃあ、ヒーローの実だよ」
「やっぱそうなんだ」
「ダークチャオになりかけたチャオをヒーローチャオにするために何個も買っちゃう人だっているからね。その逆をする人は少ないし」
 ダークチャオの飼い主は悪人である。
 そんな噂があるのだ。
 チャオは飼い主の影響を強く受ける生き物だからだ。
 だけど飼い主の性格と、ヒーローやダークへの進化は関係ない、と研究者の多くは主張している。
 テレビでもしばしば、深く考えることじゃない、とチャオの専門家が言っているのを聞く。
「まだダークチャオうんぬんって信じてる人、いるんだね」
 嘲笑うように私は言った。
 しかし瑠加はそういう態度にはならずに、
「ちょっと悪い人に見られたくてわざとダークチャオにする人もいるそうだし、そう簡単にはなくならないのかもね。俺も正直、ヒーローチャオ連れている人は優しい人なのかなと思っちゃうし」と言った。
 でもヒーローチャオを飼っているからと言って、優しいわけじゃない。
 チャコとナガレ君にハートの実を勝手に食べさせることもあるのだ。
「私って、優しい?」と聞いてみた。
「そういう感じは全然しない」
 全然かよ、と私は笑う。
 奥へ奥へと進んでいくと、とうとうハートの実が成っている木のエリアになった。
 木に成っている実の数はこれまっでの木よりも少なくて、想像していたよりも寂しい姿をしていた。
「なんか少ないね」
「ハートの実は、成るまでに結構時間がかかるんだよ。だから一度収穫すると、次のが出来るまではこんな感じ」
「あ、そうなんだ」
 天候のせいで不作とか、そういう話だと思ったのだがそうではなかったみたいだ。
 瑠加は手の届く高さにあるハートの実をもぎ取った。
「食べてみる?」
 そう差し出される意味がわからず、私は困惑した。
「ハートの実は、結構食べられる味をしてるんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。だからハートの実を品種改良して、一万円で売ったりするんだ」
「そういえばそうか」
 私はハートの実を受け取る。
「これこのまま食べていいの?」
 どうぞ、と瑠加は頷く。
 私はハートの実をかじった。
 食感は柿みたいだ。
 味は、ぶどうジュースの甘みを薄くして、その分しょっぱくしたような感じだった。
「なんかフルーツ感ある。でもおいしいってほどでもない」
 もっと甘い方がいい。
「好き好んで食べる味じゃないよな」
 私はもう一口食べて味を再確認し、
「うん。好き好んで食べる味じゃない」と顔をしかめて頷く。
 瑠加は手を差し出した。
 そこにハートの実を返す。
「なんでこうしょっぱいんだろうな」
 返されたハートの実をかじって、瑠加は言った。
「でもこのしょっぱさで、チャオは恋をするのかもしれない。俺たちの甘いとか甘酸っぱいみたいに」
 瑠加がそう言うと、私の口の中にハートの実のしょっぱさが蘇ってくる。
 チャオの恋の味はしょっぱい。
 しょっぱいと、チャオは幸せ。
「馬鹿舌だね。チャオって」と私は言った。
「ああ」
 瑠加はハートの実を平らげてしまうつもりのようで、どんどんかじっていく。
 そして苺ほどに小さくなった最後の一欠片を口に放り込もうとするのを、私は止めた。
「食べる」と言って、私はその一欠片をもらう。
 チャコとナガレ君の幸せそうな繁殖のダンスを思い出しながら味わう。
 そんなしょっぱさのせいで、私は瑠加に告白してしまいたくなる。
 けれどその告白は、答えを聞かないで振られたことにしてしまう類いの告白だったから、するわけにはいかなかった。
 どうしてこんな味でチャオは幸せになれるんだ、と思う。
 それにハートの実を食べて告白なんて、ガキっぽくてださかった。
 そんな自分を見せたくはない。
「まずい」と私は呟いた。
 それと同時に瑠加が、俺さ、と言っていた。
 私の呟きに邪魔されて、瑠加は続きを言えなかった。
 続きをどうぞ、と彼の目を見て促す。
「相田のこと好きだよ」と瑠加は言った。
 私は、これはとってもださい、と思った。
 チャオを物凄く好きな男がハートの実を食べて告白なんて、なんのひねりもなかった。
 私以上にださい瑠加の告白のせいなのか。
 それとも告白してもらえた嬉しさなのか。
 判別の付かない涙が出そうになって、私は困った。
 変な涙を流してしまう前に一応オッケーを出しておこうと思って、
「私も好き」と私は俯いて言った。
「よかった」と瑠加は笑う。
 これでもう泣いても大丈夫。
 そう思うと、左目の方からだけ涙が出た。
 なんで片方だけなんだと心の中でつっこみを入れたら、涙はその一筋だけで止まってしまった。
 気分も、ほんのちょっとだけではあるが、落ち着いてしまう。
 私はハンカチで涙の流れた所を拭く。
「どうした」と瑠加は聞いてくる。
「ちょっと嬉しかっただけ」といい加減なことを言っておく。
 絶対にしょっぱい味がするだろうから、今日は何があってもキスをしない。
 そう決めた私は、収穫の手伝いをしてみたいと言って、来た道を引き返した。
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第6話 チャチャチャ
 スマッシュ  - 16/12/16(金) 22:33 -
  
 週末になるとチャオガーデンや瑠加の家で遊んでいたが、一ヶ月もするとデートという感じがしなくなってきた。
 特にチャオガーデンなんて、付き合う前から頻繁に来ていたから、特別な感じがしない。
 私たちは遠出をすることにした。
 初めは二人きりで出かけるつもりだったのだが、せっかくならチャオも連れていってあげようという話になった。
 隣の県にある、チャオや小さな子供のためのアスレチックをたくさん用意したテーマパークに、私たちは行くことにした。
 この日も朝早くに瑠加の家に行った。
 開園する時間には向こうに着いていたかったのだ。
 駅まで、瑠加のお父さんとお母さんが送ってくれる。
「行ってらっしゃい。チャオが転生するには幸福感が重要と言われているからね。もっとここにいたい、と思う気持ちで転生するって、ロマンチックなことを言う人もいる。だからって言うわけじゃないけれど、チャオに楽しい経験をたくさんさせてあげることには、凄くいい意味があるんだ」
「そうじゃないでしょう」
 助手席に座っている瑠加のお母さんが呆れて言った。
「転生とかチャオとかどうでもいいから、楽しんでね」と瑠加のお母さんは私に言う。
「頑張ります」
 私は笑顔で答え、車から降りる。
 普通列車に乗って、さらにバスで三十分くらい移動すると、そのテーマパークに着いた。
 チャチャチャアスレチックパーク、という名前のテーマパークだ。
 チャオ、チャイルド、チャレンジ、でチャチャチャという名前になったらしい。
 チャオと小学生くらいの子供をターゲットにしたアスレチックではあるが、チャオや小さな子と一緒に来た客にも遊ばせたいらしく、中学生以上を対象としたルートも作られていた。
 チャレンジコースと名付けられたそのコースのスタートは、通常のスタートの真横にあって、ゴールは通常のコースと同じだ。
 たとえば縦や横の移動が激しくなるように作ってあって、基本的には通常のコースの周りを縫うように進んでいくようになっているようだった。
「なんか面白そうだな」
 瑠加はチャレンジコースに興味を持って、連れてきた三匹のチャオよりも興奮している様子だった。
 最初のアスレチックは、木の吊り橋をイメージしたアスレチックだった。
 通常のコースは揺れる橋を進んでいくというもの。
 そしてチャレンジコースは、遊具のうんていみたいな、木のはしごを曲げたり組み合わせたりして作ったようなコースだった。
「競争するか」
「じゃあ私は普通のコースで」
「そっちはチャオ用だから。お前もこっち」
 瑠加はナガレ君とトウマを通常のコースのスタートに立たせて、二匹がスタートするのを見てからチャレンジコースに入る。
 普通のはしごのように上に行き、そこからうんていの上に乗っているような感じで進んでいく。
 私も同じようにチャコをスタートさせてから、チャレンジコースに入った。
 こんな運動は小学生以来だ。
 三年程やっていないだけで、大変に感じる。
 老化したか、と思うのだが前を見ると瑠加はすいすいと進んでいっている。
 下の通常コースをゆっくり進んでいるチャオたちとも圧倒的な差を付けて、瑠加はゴールした。
 一方で最初のコースで大変な思いをしている私。
 今日は凄く疲れるぞ、と思った。
 一通り園内のアスレチックを遊んで、私たちはテーマパークを出た。
 帰り道、疲れ切っているのはチャオたちだった。
 瑠加はあの調子で、全部のアスレチックを面白がりながらクリアしていった。
 私は疲れたら、低めになっている所から外に出たり、はなから挑戦しなかったりしていたおかげで、まだ体力に余裕があった。
 だけどチャオたちは瑠加のテンションに引っ張られて全力で挑んでいたから、相当疲れたのだと思う。
 泥のように眠っているチャオたちは、ぬいぐるみのように見えるほど身動きを取らない。
「ああいうのもたまには面白いな」
 瑠加はチャオを起こさないように小さな声で、だけどテーマパークにいた時と同じように、凄く楽しそうな顔をして言った。
 この中で一番転生しそうなのは瑠加だと私は思った。
 二番目は、一応私だろう。
 チャオたちのためになったかわからないけれど、でも私は楽しかった。
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最終話 進化
 スマッシュ  - 16/12/16(金) 22:34 -
  
 トウマが産まれてから十ヶ月くらい経つと、トウマの色も形もヒーローヒコウチャオにかなり近付いてきた。
 もうすぐ進化するということだろう。
 一緒にトウマの進化を見守りたい、と瑠加は言った。
 つまりそれは、私が瑠加の家に泊まるということだった。
 そのことを話したら、私の両親は休日ならいいと言ってくれた。
 平日にトウマが進化したらどうしようもなかったけれど、トウマは待ってくれた。
 土曜日は、例のごとく早い時間に瑠加の家を訪れる。
 まだ頭の上に浮いている物の形が丸いトウマを私は撫でて、
「待ってくれてありがとう。もう進化してもいいからね」と言う。
 トウマは大きく頷く。
「これは本当に今日進化するかもね」
 頷くのを見ていた瑠加のお母さんが言った。
「まさか」と私は笑う。
「でも今、頷いてたでしょ。本当に待っててくれたんじゃない?」
「チャオってそんなに気が利きます?」
「利く利く」
 本当かなあ、と私は笑った。
 人の話していることの意味だって、本当にわかっているのか怪しいと思う。
 トウマが傍から離れてしまわないように、リビングの戸やドアは全部閉めておき、テレビを見ながら時間を潰す。
 瑠加のお父さんは三脚を付けたビデオカメラを立てていて、進化を撮影する気だ。
 そして瑠加のお母さんは昨日のうちにこの休日に食べる物をすっかり用意してしまったそうだ。
 なんて気合いの入り方だ。
「いつもこんなふうになるんですか? 進化の時は?」
「そうだよ」と瑠加は言う。
「この二人は、だけどね」
 瑠加のお母さんはそう言った。
「私は、今回は楽しそうだから張り切っちゃっただけ。でもこの二人はいつもこんな感じ」
「だって貴重な資料だよ。チャオの進化や繁殖って、まだ科学的にはわからないことだらけなんだ。正直、もっと本格的な機材で撮影したいくらいだもの。大学に連れていくなりしてさ。そうだ、今度研究用に一匹チャオを飼おう」
 そのチャオは大学にも連れていって、付かず離れずで一生を記録する。
 そうしたら貴重なデータになるかもしれない、と瑠加のお父さんは興奮して言った。
 お昼時になってもトウマは進化しない。
 進化し始めたら呼んで、と瑠加のお母さんはキッチンに行った。
 それから十分程度で昼食が運ばれてくる。
 お茶漬け、唐揚げ、サラダ、ハンバーグ、わかめの味噌汁。
「今日はお湯とレンジが大活躍」
 瑠加のお母さんは得意そうに言った。
 テーブルに食べ物が並ぶと、瑠加のお父さんもチャオたちに木の実を与える。
 トウマは勢いよく木の実を食べて、他のチャオよりも早く平らげた。
「トウマってこんなに食べるの早かったっけ?」と瑠加は両親に聞く。
「どうだっけ」と瑠加のお父さんは首を傾げた。
 こういう日でもないとあまり注意して見ないからね、と瑠加のお母さんは笑う。
「これからは記録しないといけないな」
 瑠加のお父さんがそう言っている途中で、瑠加が声を上げた。
「始まった」
 トウマが行儀よく座っていて、生まれたてのチャオの頭と同じ形状の繭が膜のように薄らと発生していた。
「大変だ」
 飛び上がるように瑠加のお父さんは立ち上がった。
 ビデオカメラの電源を入れ、カメラをトウマの方に向けて撮影を始める。
 さらにテレビの近くに置いていたデジタル一眼レフカメラを取った。
 それでも写真を撮る。
 私たちは撮影の邪魔にならないように繭から少し離れて、進化を見守る。
 まだ膜のような繭は、色の付いた液体がゆっくり浸透していくみたいに色を濃くなり、トウマを隠していく。
 瑠加は両手を堅く組んで、祈るみたいになっている。
 狙い通りにヒーローヒコウチャオになってくれ、と願っているように見えた。
 トウマの外見はかなりヒーローヒコウチャオに似てきていたから、たぶんちゃんとヒーローヒコウに進化するはずだ。
 だけどもししなかったら、その時私たちはちゃんと手放しで進化を喜んであげられるんだろうか。
 心配で、私も両手を組んだ。
 繭がすっかり出来上がってトウマを完全に隠してしまうと、膜みたいだった時とは違って繭は頑丈そうに見える。
「これ、触ってみてもいいですか?」
 私は瑠加のお父さんに聞いた。
 瑠加のお父さんは、いいよ、と言ってくれる。
 私は繭に両手で触れる。
 繭は堅くて、冷たかった。
「どう?」と瑠加のお父さんに聞かれる。
「堅いです。タマゴとかと同じに」
 私は繭を指で軽く叩きながら答える。
 進化する時、チャオは三十分くらい繭の中にいる。
 私たちはその間に、急いで昼食を済ませる。
 私たちが食べている間、チャオたちが繭の周りを囲んで観察していた。
 そして、進化が始まってから二十五分が経った。
 興味を失って遊んでいたチャオも繭の近くに連れ戻して、みんなで見守る。
「また触ってて、いいですか?」
「いいけれど、軽く触るくらいにした方がいいかもしれない」
 よくわからないけどね、と瑠加のお父さんは言った。
 言われた通りに、力をかけてしまわないように気を付けながら、私はまた両手で繭に触れた。
 進化が終わることに初めに気付いたのは瑠加のお父さんだった。
「ちょっと色が薄くなってない?」と言った。
 そう言われても、さっきまでとの違いが私にはわからなかった。
 けれどどんどん色が抜けてきて、中のトウマの影が見えるようにもなる。
 そして繭も堅さを失ってきて、しっかりしたゼリーみたくなってきていた。
 その感触の変化で、私は知らずに力をかけていたことに気が付いたけれど、変化していくのを確かめたくて、私はそのまま触れ続ける。
「よし」
 瑠加がガッツポーズをする。
 中のトウマがヒーローヒコウチャオになったことを、影の形から判断できたみたいだ。
「ヒーローヒコウだよ。羽が大きい」と瑠加は私に教える。
「うん」
 繭が透けて進化したトウマの姿がはっきりしてくるにつれて、繭の感触はどんどんぷにぷにとして、ゼリーに近付く。
 けれどゼリーのような繭は決して水のようにはならずに、ずっと形を保っている。
 チャオの触り心地にそっくりになって、私はこの繭もトウマの一部なのだと感じる。
 繭は最後に、するっとトウマの体内に吸い込まれて、消えた。
 瑠加のお母さんが拍手をして、おめでとうとトウマに声をかけた。
 それがきっかけで、お祝いムードになった。
 チャオも含めてみんなでトウマに拍手する。
 トウマは嬉しそうに笑うと、立ち上がって、その場でくるりと回った。
 進化した自分の姿をみんなに披露しているのだろう。
「トウマ、こっち」と呼ばれて、トウマは瑠加の方に歩いていく。
 瑠加はトウマを抱き上げて、そして高く持ち上げた。
「さあ、飛んでみな」
 そう言って瑠加はトウマを優しく上へ放り投げる。
 トウマは大きくなった羽を動かして飛ぶ。
 すると以前とは違って、上がったり下がったり、好きなように高度を変えてトウマは飛んだ。
 放っておくと、いつまでも飛び続けていそうだ。
「トウマ、こっち」
 私は両腕を広げる。
 するとトウマは真っ直ぐ私の方へ飛んできた。
 私はしっかりとトウマを抱き締めた。
 体が一回り大きくなっていることがわかった。
 その成長に胸を打たれて、私はトウマに何か言ってあげたくなった。
「お前、もっといい子になれよ」
 抱き締める力を強くして、言った。
 すると瑠加のお母さんが、私にも抱かせて、と近寄ってきた。
 トウマを渡してあげると、
「たくさん食べて長生きしてね」と瑠加のお母さんは言い、そしてトウマを瑠加に渡す。
 一人ずつ声をかけることになってしまったみたいだ。
「ええと、楽しくやっていこうな」と瑠加は言った。
 最後は瑠加のお父さんだ。
 トウマを渡された瑠加のお父さんは何十秒も考えた末に、
「君たちが末永く繁栄しますように」と言った。
 なんだそりゃ、と私たちはくすくす笑った。
 だけどそれが今言う台詞じゃないっていうだけで、凄く大切な祈りだっていうことは、私にもわかっていた。
 無理だけどいつまでも一緒にいようね。
 私は声には出さずに、心の中で瑠加やチャオたちにそう言った。
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感想コーナー
 スマッシュ  - 16/12/16(金) 22:50 -
  
 書き終わったのが11月だったと思うので、1ヶ月経ってからの後書きとなります。
 やっぱりチャオアパートの延長線上の作品にしかならなかったのでしょうか?
 似た路線で、しかし新しい形にしたい。
 そうずっと思っているんですけれども。
 なんだか過去のチャオ小説に呪われている気分です。

 ハートの実を掘り下げたいと思ったので、ハートの実を出しました。
 そういう点では、第1話の出来はいいのかな。

 呪われているシリーズはまだまだ続きます。
 次回は「チャオバレット」という作品になる予定です。
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感想です
 ろっど  - 16/12/22(木) 18:52 -
  
ぼくはチャオアパートよりこの作品の方が好きだなあと感じました。
チャオアパートは改めて読み直してみると、やっぱりそれほど面白くないなと思います。
停滞している作品には魅力を感じません。

今回特によかったのは、人の描写が丁寧だったところです。
スマッシュさんの今までの作品は、キャラクターが舞台装置でしかないところが何だかなあって感じでした。そこがかなり改善されていて、どの人物もストーリーの中で違和感なく個性を発揮している。
うーんでももうちょっと冒険してみてもよかった気がします。特に主人公格が毎回似てる、同じような人しか描けていない、そこがチャオアパートと印象がダブる主な理由なんじゃないかって思いますね。
脇役の方がやっぱり魅力的に見えちゃいます。
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ありがとうございました
 スマッシュ  - 16/12/23(金) 4:05 -
  
最近はストーリーで勝負しなくなってきたので、その分、登場人物たちには好きに行動してもらえているような気がします。
主人公が同じような人たちになってしまうというのは、作品の雰囲気に一番引っ張られる人だからかもしれません。
だから作品の雰囲気を変えるように努力したら、手っ取り早く主人公の性格も変わるのかな、と思います。今度試してみますね。
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